冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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素直に言えなくて

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夕飯を作り終えた。俺が任された作業は簡単なものだったけれど、何故かいつもより疲れている。

「……鳴雷一年生、普段に比べて手際が格段に悪かった。疲れているのか?」

「実感は、ないんですけど……すいません」

「謝る必要はない。夕飯の後片付けはミフユに任せて、今日は早めに休むといい」

「でも」

「皿でも割られたら困る、休ませるのは気遣いではないと思っておけ」

俺が気に病まないようにという気遣いまでさせてしまった。後片付けに不参加なのも含めて罪悪感を覚えたけれど、それを表に出せばミフユが気にしてしまうだろうから、俺は察しの悪いバカを演じて笑った。

「ありがとうございます」

俺は椅子に座らされ、配膳を任されたカンナと鍋などの調理器具を洗っているミフユを眺めた。

「……サキヒコくん、俺のご飯食べていいよ」

小さくそう呟き、彼氏達が浴場から戻ってくるのを待った。



彼氏達が集まった。シャンプーの香りや火照った肌、しっとりと艶やかな髪がたまらない。

「今日も美味しいっすね」

「こいもさんの煮っころがしええわぁ、安心する味やな」

出汁の風味を楽しむ薄い味付けの煮物なんて味がしないし、米の甘みなんてのも感じない、綿やゴムを噛んでるみたいだ。レタスは半紙かな。

(食いたくね~でそ。でもダメでそ、美味しい顔してモリモリ食べなきゃ心配されちゃう……っ!?)
「かっらぁっ!?」

「む……辛かったか?」

「どれっすか? これっすか? レンコン?」

「鳥待一年生のリクエスト、辛子蓮根だ」

「美味しいです、ありがとうございます年積さん。叫ぶほど辛くはないと思いますが……水月、辛いの苦手でしたっけ」

「みっつん辛いのと苦いのと酸っぱいの苦手じゃなかった~?」

「お子ちゃま舌やの」

好き勝手言われているが、落ち着いて味わえば叫ぶほど辛いものではない。辛子味噌と蓮根の風味がいい。多分、今まで食べた物が全てサキヒコが食べた後の味が薄まったものだったからだ、濃い味に驚いたんだ。

(サキヒコたん辛いの苦手なんでしょうか……)

何故これだけ手を付けていないのだろう。単に食べる前だったのかな? そう思って一口食べた辛子蓮根をしばらく置いてからもう一度食べたが、味は変わっていなかった。

(やっぱり辛いの苦手なんですな)

ということは、辛いものなら味が薄まらず食べられるということで──いやそれで辛いものばかり食べていてはサキヒコに何も食べさせてやれないし、そもそも俺は辛いものがそこまで好きじゃない。

「ごちそうさまでした」

「ごちそうさまっす」

「ごちそうさま~」

洗い物は任せていいとのことなので、俺は皿を流し台に運んだ後すぐ寝室に引っ込んだ。ハルとの約束のため準備をしなければと思いながらベッドに寝転がり、ため息をついた。

(なんでしょう、めちゃくちゃ眠いですな。運動しまくった後みたいでそ。今日はそんなに泳いでないのに不思議ですな)

ダメだ、このまま寝転がっていたら寝てしまう。俺は身体を気力で起こし、ローションを温めに向かった。

「後は……えっと、タオル……OK」

バスタオルをベッドに敷き、ハルを呼んで来ようかと立ち上がる。けれどなんだか腰がだるくて、部屋を出ずに腰をトントン叩いていると扉が開いた。

「水月」

「あぁ、シュカ。どうした?」

「……ヤるんですよね。はぁ……私は別のとこで寝ますね」

「あっ、あぁ、ごめんな。ハルの寝室……リュウとカンナと同じなんだけど、そっち行ってみたらどうだ?」

「…………」

「ネザメさんとミフユさんの部屋も、アキとセイカの部屋も二人で寝てるから、レイと先輩とサンさんの部屋以外ベッドの広さ的にはどこ行っても大丈夫だと思うけど」

「そこまで面倒見てくれなくて大丈夫ですよ、寝床くらい自分で見つけられます」

俺の傍でなければ眠れないなんて可愛いことを言ってくれる彼氏の面倒ならどこまででも見たくなる。

「では、確認に来ただけですのでもう戻りますね」

「うん……わざわざ確認に来るなんて、なんか珍しいな」

「ヤってる最中に入るの嫌ですからね、そのくらいの気遣い私にだって出来ますよ」

部屋から去ろうとするシュカの腰に腕を回して抱き寄せ、困惑する彼の頬を撫でる。シュカは見開いていた目を細め、彼らしくない柔らかい微笑みを浮かべた。

「…………ごめんな、毎晩一緒に眠れなくて」

キスを終え、抱き締めながらそう囁く。

「別に構いませんよ、あなたと一緒に寝たい訳じゃありませんし。一人でないと眠れないけどあなたは例外ってだけで、だからあなたくらいしか一緒に寝れる相手が居なくて、部屋数的に一人では眠れないから、あなたと寝室を同じにしているだけなんですから」

随分早口で説明してくれるじゃないか。

「ふふっ……じゃあ、そういうことにしといてやるよ」

「…………」

「……? それじゃ、また明日な、シュカ」

ハルを呼ぶためシュカを抱き締めるのをやめて階段に向かおうとするも、シュカに首根っこを掴まれて引き戻される。

「な、なんだっ? シュカ?」

「………………そういうことに、しないでください。あなたなら……あなたなら分かるでしょう、素直に物を言えないのは……私、本当に……嫌なんです、でもなかなか直せなくて……でもあなたは、私の……本音、分かりますよね……? 分かってるんですよね? 意地悪言わないでください」

「……ごめんな、シュカ。俺と一緒に寝たいって思ってくれてるんだよな? 照れ隠しって分かってたよ、照れ隠しならそういうことにしてやった方が気が楽かなって思ったんだよ」

「…………」

「また今度、一緒に寝ような。愛してるよシュカ」

「……私、こんな……面倒臭い奴じゃ、ないはずなのに」

いやシュカは割と最初っから面倒臭いヤツだったぞ? 素直じゃないし暴力的だし元ビッチのくせに恋愛面ではウブだし、とか言ったら雰囲気が台無しな上に殴られかねないので黙っておこう。

「面倒臭くないよ、可愛いよ。何回も言ってるけど俺シュカの素直じゃないとこ可愛くて好きだからな? たまに素直になってくれた時の破壊力えげつないしな……シュカは悩んでるのにときめいててごめんな? ちゃんと分かってみせるから、どんな態度取られたって愛し続けてみせるから、素直になれなくても大丈夫だよ。直したかったら少しずつでいいからな、俺はどんなシュカでも愛せる、大好きだよ」

「………………水月」

「ん?」

「……ひとつ、素直に……あなたの好きなところを、言わせてください」

「……! う、うんっ、どこだ?」

心臓が騒がしい、シュカの声が聞こえないだろ、もういっそ止まってしまえ。

「…………私の、名前を……よく、呼んでくれるところ、です。ことあるごとに呼ぶでしょうあなた……また明日とか、なんだとか……ぁ、愛してるとか……それだけでもいいところを、私の名前……その後に、呼ぶでしょう」

そうだっけ。あんまり意識してないところだな。

「……好き、です。あなたの……その癖。私のこと……ちゃんと覚えてるって、分かるから…………今は、言いたいことはこれだけです。それでは、また」

シュカは階段を駆け下りるとダイニングではなく洗面所に直行した。真っ赤な顔を冷やすつもりだろう。本当、どこまでも可愛い子だ。
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