冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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どいつもこいつも心配性

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テントを片付け終えて、夕日に輝く坂を上っていく。俺は最後尾で水着姿の彼氏達の尻を眺めてふほふほ笑っていた。

「…………?」

足音が聞こえる。俺の背後から。俺がぺたぺたと三歩歩くと、ヒタ、と四つ目の足音が聞こえる。振り向いたらまた前みたいに気付いたら波打ち際に立っているかもしれない、今度こそ海の中かもしれない。俺は唾を飲み、前を向いて歩いた。

「…………」

俺の足音に重なってもう一人の足音が聞こえる。立ち止まるとその足音は一歩俺より多く歩く。真後ろに気配を感じる。

「サキヒコくん……?」

悪寒が止まらない。声をかけてみたけれど、本当にサキヒコかどうか分からない。

「……裸足? 歩くの、辛くない? おぶってあげるよ」

そう言いながら少し身を屈めて荷物を持っていない方の手を後ろに回すと、ズンっと重さを感じた。誰かにしがみつかれている感覚も、体温も感じないのに、重さだけが増えた。四十後半……? 五十はあるか、いやないか? そのくらいの重さだ。小柄だけれどちゃんと肉が付いている、そう、ちょうどミフユくらいの重さ。

(……なーんだサキヒコたんかぁ! いやー怖がって損した)

スキップをしたくなりながらも重くて出来ず、一人ニコニコと笑いながら帰宅。彼氏達を置いて脱衣所へ向かう。

「ぁ、サキヒコくん。カンナ顔見られるの嫌がるから、一旦離れてくれる?」

スッと重さと悪寒が引く。脱衣所に入り、化粧水を塗っているカンナに帰宅を告げる。焼け爛れた肌が俺の劣情を煽る、眉も睫毛もないのに大き過ぎるくりくりの可愛い瞳が俺を見つめては照れたように目を逸らす。

「……ふふっ、可愛いなぁ、カンナは」

服を着たカンナはタオルを頭に巻き付けながら、タオル越しに俺を見つめる。

「み、くん……顔、ろ……悪……」

「…………顔色悪い? マジ?」

「ぅん……だい、じょ……ぶ?」

「あ、あぁ……別に、大丈夫だけど」

「…………むり、しな……でね」

心配そうな声を残し、カンナは脱衣所を出ていった。俺はふらふらと鏡の前に立ち、鏡の中の自分を見つめ返した。

「……確かに、ちょっと悪い……か? でも、そんなに……言うほど、だよなぁ」

歌見もカンナも心配性なのだ。そう思うことにした俺の背後に黒いモヤが現れる。慌てて振り返っても何も居ない、鏡にだけ写っている。

「サ、サキヒコくん……?」

恐る恐る呼んでみると鏡の中の黒いモヤが少しずつ人の形に寄り、おかっぱ頭の小柄な美少年がぼんやりと浮かび上がった。

「サキヒコくんっ! や、やっぱり居たんだ……身体に帰ったんじゃなかったの? 大丈夫? こんなとこに居て、海にまた捕まったりしない? 大丈夫……なんだよね? お家帰らなくていいの? 俺は……俺は嬉しいよ、俺の傍に居てくれて、すごく嬉しい」

小さな画像を無理に拡大したような、そんなボヤけた姿のサキヒコが笑ったような気がした。そして口元が何やら動いて……まさか、何か話してくれているのか?

「ご、ごめん、声聞こえないし……見えてるのもすっごいボヤけてて、唇読むのもキツい……ごめんねっ?」

サキヒコは残念そうな顔をしてすぅっと姿を消した。

「あっ……サ、サキヒコくん…………ごめん、霊感なくて……どうにかして鍛えるから、傍に居て……どうにかして、他の彼氏と同じように触れ合えるようにしてみせるから……!」

言い終えたら脱衣所を出て、彼氏達の元へ戻る。

「みっつん遅くな~い? しぐしぐ出てから結構経ったよ~。何かあったの~?」

「私達が見てはいけないものの片付けでもしているのではと、ずっと待っていたんですよ。納得のいく説明が欲しいですね」

「見たあかんもんて何やねんって話やんな、コケとるんちゃうか言うて俺は行こ言うてんけどな」

「……ごめん、みんなに顔色悪いって言われるから気になって。でも、そんなに悪くないよな」

彼氏達の視線が俺に注がれる。

「悪いのは悪いですが、気にするほどでもないのでは?」

「えー……結構悪ない?」

「……大丈夫~?」

「二日酔いの時の俺くらい悪いっす」

「悪いよなぁ」

「うん……心配だよ、水月くん」

「今日の夕飯はしっかり食べるんだぞ。それとも食べやすい物の方がいいか?」

《俺色よく分かんねぇんだよ、悪ぃの?》

《サングラス外せよ。まぁ……結構悪いな》

「顔は分かんないけど声はなんかいつもより重たいね」

それぞれ一言コメントを頂いた。自分で見た限りは気にするほどではないと思ったのだが……全員心配性なのかな。

「……まぁ、いいや。風呂行こ、みんな」

体調に問題はない。若干の居心地の悪さを感じつつ、浴場に戻った。みんなの裸を見れば勇気凛々元気百倍だ。

「ねぇ~……みっつ~ん」

身体を洗いつつ彼氏達を視姦しているとハルが寄り添ってきた。

「……大丈夫~?」

「大丈夫だって。そんなに顔色悪いのか? 体調は何ともないんだけどなぁ」

「今日の約束さぁ~……アレさぁ~…………ナシでもいいよぉ?」

「そんなぁっ……」

「うわすっごい絶望顔」

「今日はそれだけを楽しみに生きてきたのに本当に体調悪くなっちゃうよ……」

「大袈裟~、嘘つき~。んも~……で、出来るんならぁ、いいけどぉ……大丈夫だよねぇ?」

「大丈夫大丈夫! 元気いっぱい!」

「……大丈夫そう。うん、じゃあもう心配やめる! また後でね~」

ひらひらと手を振り、ハルは鏡のある方へと戻った。



代わる代わる訪れる彼氏達の相手をしたり、俺から絡みに行ったり、今日も楽しい入浴時間だった。旅行は今日で最後、こんな大人数で風呂に入ることなんて滅多にない、だからなのかいつもツンツンした態度のシュカも今日はスキンシップを多めに許してくれた。調子に乗って触りまくったから殴られたけど。

「鳴雷一年生、今日は休んでいていいぞ」

「いえ、本当に体調は悪くないんですよ。顔色は悪いのかもしれませんけど」

「うぅむ……しかし…………うむ、分かった。では貴様には──」

今晩の夕飯の役割分担は、普段よりも簡単で軽いものだった。やっぱりみんな心配性なんだ。
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