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煮るなり焼くなり……
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階段を下りながら、先程のシュカの可愛さに思いを馳せる。
(呼ばれるの好きって、覚えてるって分かるから好きって、かわゆいですなぁシュカたまは。シュカたまのこと忘れるわけないのに……)
ふと思い出し、足を止める。シュカの母親が若年性の認知症だったかでシュカのことを自分の息子だと認識出来ていないという話を。
「…………」
シュカにとって俺の癖が好きだというのは、俺が感じているよりも重いのかもしれない。きっとシュカは母親に何度も自分は息子だと言ったのだろう、でも思い出してくれない、覚えてくれない、呼んでくれない……決して表に出さない悲しみを、俺は知らず知らず癒せていたのかもしれない。
(シュカたま……何度でもお名前呼びますぞ、お義母様の分まで)
決意を固め、表情を整え、ダイニングへ。
「水月ぃ。どこ行っとったん? なんや顔色悪かったしもう寝たんかなぁ話しとってんで」
「鳥待一年生が見に行ったのだが……」
「シュカなら今顔洗ってるぞ」
「舐め回しでもしたんか」
「まぁそんなとこ。ハル、おいで」
呼びかけるとハルはビクッと身体を跳ねさせ、裏返った声でOKと返事をすると、古いロボットのような不自然な歩き方で俺の元までやってきた。
「い、行こっかぁ~」
まだ声が裏返っている。
「階段大丈夫か?」
「へっ、平気平気~」
覚束無い足取りでそんなこと言われても信用出来ない。階段を上る際は俺が背後に立ってやらねば、と考えていると犬がじゃれついてきた。
「メープルちゃん、今遊べないんだよ、ごめんな?」
わんわんと楽しげに鳴く犬の視線は俺ではなく、俺の肩辺りに注がれている。
「ん……?」
犬は何もない空間にじゃれつきながらダイニングへと戻っていった、すっと肩が軽くなり、腰などの重だるさが消えた。
「サキヒコくん……?」
そういえば、ハルは見られるのを嫌がるだろうから夜は離れてくれと言っておいたな。犬と遊ぶと決めたのか。
(……え? じゃあ今までの重だるさとか、サキヒコくんが居たから……? いやいやいや、傍に居るだけでそんな……なるんですか? 幽霊って)
幽霊の生態、生……? 死んでるのに? 文字の合わなさはともかく、幽霊の生態とでも呼ぶべきものを俺は何も知らない。幽霊が食べた後は味だけが消える、軽い味見なら味が薄くなるだけ、その他にもきっと傍に居られると体調が悪化するなんてのもあるだろう。
「ぅうぅ緊張する~……あれ、みっつん」
「ん?」
カメラや鏡越しだと見えやすいだとか、周囲の空気が冷たくなるだとかも生態だろうかと考えているうちに寝室に着いていた。
「なんか、顔色良くなってない?」
「そう? そうかな? 顔色って鏡見なきゃ自覚ないからなぁ」
「体調は~?」
「何ともないな、元気だぞ」
さっきまで少し肩や腰に重だるさを感じていたけれど、とは言わないでおこう。治ったのだからわざわざ心配をかけることはない。
「よかったぁ~。なんかさぁ~、今急に顔色良くなるとかさぁ~……なんかぁ~…………みっつんのえっち~って感じぃ~?」
「……あははっ、そっかぁ、期待で顔色戻ったのかな」
「えぇ~? もぉ~…………」
笑顔で話していたかと思えば、顔を赤らめて俯いて黙り込む。可愛い。可愛いけれど、やっぱり気まずい。
(どうしましょ……と、とりあえずベッドに寝ていただきまして)
緊張し過ぎだ。初めてなだけなのだから、前戯に力を入れる以外は普通でいい。一歩ベッドに近付くと、ハルがビクゥッと身体を大きく跳ねさせた。
「……こ、怖いか?」
「だっ、大丈夫! マジで大丈夫! 緊張してるだけなのぉ! だからそんなっ、気ぃ遣わなくていいからぁ!」
「いやでも今の怯えようは」
「怯えてなぁ~いぃ~! さぁ! 煮るなり焼くなり……好きにして!」
ハルはベッドにぼふんっと飛び込んで大の字に手足を広げた。近寄ってみると彼が力強く目を閉じているのが分かって、笑いと愛おしさが込み上げてきた。
「な、なんで笑うのぉ!」
飛び起きたハルが涙目で俺を睨みながら俺を指差す。
「いやぁ、可愛くて」
「みっつんは経験豊富で余裕あるんだろうけどぉ! 俺は初めてなんだからね! そりゃ、なんか、こう……へ、変なことも、しちゃうじゃん…………笑わないでよぉ」
「……余裕ある訳じゃないよ。ごめんな、俺も何したらいいかよく分かんなくてさ」
「んな訳ないじゃん……みっつん、いっぱいしてるんだから」
「うん、でもなんか、なんだろうな……慣れないんだよ、初めてもらうってなると特にさ」
ベッドに膝をついてハルの髪にそっと触れる。黒く美しい長髪に指を絡めて、その触れ心地に癒されながら、ゆっくりと梳いていく。
「……ハルは、怖がりだし」
「そんなことっ……! なくは、ないけど」
「…………怖がらせたり、傷付けたりはしたくないんだ。無理はしないでくれ、ダメそうだったらすぐに言ってくれ」
「大丈夫だからぁっ! 俺……みっつんなら大丈夫なの、大丈夫だから、して……?」
服をきゅっと掴んで涙目で俺を見上げる仕草はとても可愛くて、一気に股間に血が集まった。呼吸が荒くなってきた。ダメだ、理性を保って紳士に振る舞わなければハルを怯えさせてしまう。
「……俺、よく分かんないから、みっつんに全部任せるね」
「…………あぁ」
俺から手を離し、ぱたんと寝転がる。緊張している様子のハルに覆い被さると、彼は強く目を閉じた。
(呼ばれるの好きって、覚えてるって分かるから好きって、かわゆいですなぁシュカたまは。シュカたまのこと忘れるわけないのに……)
ふと思い出し、足を止める。シュカの母親が若年性の認知症だったかでシュカのことを自分の息子だと認識出来ていないという話を。
「…………」
シュカにとって俺の癖が好きだというのは、俺が感じているよりも重いのかもしれない。きっとシュカは母親に何度も自分は息子だと言ったのだろう、でも思い出してくれない、覚えてくれない、呼んでくれない……決して表に出さない悲しみを、俺は知らず知らず癒せていたのかもしれない。
(シュカたま……何度でもお名前呼びますぞ、お義母様の分まで)
決意を固め、表情を整え、ダイニングへ。
「水月ぃ。どこ行っとったん? なんや顔色悪かったしもう寝たんかなぁ話しとってんで」
「鳥待一年生が見に行ったのだが……」
「シュカなら今顔洗ってるぞ」
「舐め回しでもしたんか」
「まぁそんなとこ。ハル、おいで」
呼びかけるとハルはビクッと身体を跳ねさせ、裏返った声でOKと返事をすると、古いロボットのような不自然な歩き方で俺の元までやってきた。
「い、行こっかぁ~」
まだ声が裏返っている。
「階段大丈夫か?」
「へっ、平気平気~」
覚束無い足取りでそんなこと言われても信用出来ない。階段を上る際は俺が背後に立ってやらねば、と考えていると犬がじゃれついてきた。
「メープルちゃん、今遊べないんだよ、ごめんな?」
わんわんと楽しげに鳴く犬の視線は俺ではなく、俺の肩辺りに注がれている。
「ん……?」
犬は何もない空間にじゃれつきながらダイニングへと戻っていった、すっと肩が軽くなり、腰などの重だるさが消えた。
「サキヒコくん……?」
そういえば、ハルは見られるのを嫌がるだろうから夜は離れてくれと言っておいたな。犬と遊ぶと決めたのか。
(……え? じゃあ今までの重だるさとか、サキヒコくんが居たから……? いやいやいや、傍に居るだけでそんな……なるんですか? 幽霊って)
幽霊の生態、生……? 死んでるのに? 文字の合わなさはともかく、幽霊の生態とでも呼ぶべきものを俺は何も知らない。幽霊が食べた後は味だけが消える、軽い味見なら味が薄くなるだけ、その他にもきっと傍に居られると体調が悪化するなんてのもあるだろう。
「ぅうぅ緊張する~……あれ、みっつん」
「ん?」
カメラや鏡越しだと見えやすいだとか、周囲の空気が冷たくなるだとかも生態だろうかと考えているうちに寝室に着いていた。
「なんか、顔色良くなってない?」
「そう? そうかな? 顔色って鏡見なきゃ自覚ないからなぁ」
「体調は~?」
「何ともないな、元気だぞ」
さっきまで少し肩や腰に重だるさを感じていたけれど、とは言わないでおこう。治ったのだからわざわざ心配をかけることはない。
「よかったぁ~。なんかさぁ~、今急に顔色良くなるとかさぁ~……なんかぁ~…………みっつんのえっち~って感じぃ~?」
「……あははっ、そっかぁ、期待で顔色戻ったのかな」
「えぇ~? もぉ~…………」
笑顔で話していたかと思えば、顔を赤らめて俯いて黙り込む。可愛い。可愛いけれど、やっぱり気まずい。
(どうしましょ……と、とりあえずベッドに寝ていただきまして)
緊張し過ぎだ。初めてなだけなのだから、前戯に力を入れる以外は普通でいい。一歩ベッドに近付くと、ハルがビクゥッと身体を大きく跳ねさせた。
「……こ、怖いか?」
「だっ、大丈夫! マジで大丈夫! 緊張してるだけなのぉ! だからそんなっ、気ぃ遣わなくていいからぁ!」
「いやでも今の怯えようは」
「怯えてなぁ~いぃ~! さぁ! 煮るなり焼くなり……好きにして!」
ハルはベッドにぼふんっと飛び込んで大の字に手足を広げた。近寄ってみると彼が力強く目を閉じているのが分かって、笑いと愛おしさが込み上げてきた。
「な、なんで笑うのぉ!」
飛び起きたハルが涙目で俺を睨みながら俺を指差す。
「いやぁ、可愛くて」
「みっつんは経験豊富で余裕あるんだろうけどぉ! 俺は初めてなんだからね! そりゃ、なんか、こう……へ、変なことも、しちゃうじゃん…………笑わないでよぉ」
「……余裕ある訳じゃないよ。ごめんな、俺も何したらいいかよく分かんなくてさ」
「んな訳ないじゃん……みっつん、いっぱいしてるんだから」
「うん、でもなんか、なんだろうな……慣れないんだよ、初めてもらうってなると特にさ」
ベッドに膝をついてハルの髪にそっと触れる。黒く美しい長髪に指を絡めて、その触れ心地に癒されながら、ゆっくりと梳いていく。
「……ハルは、怖がりだし」
「そんなことっ……! なくは、ないけど」
「…………怖がらせたり、傷付けたりはしたくないんだ。無理はしないでくれ、ダメそうだったらすぐに言ってくれ」
「大丈夫だからぁっ! 俺……みっつんなら大丈夫なの、大丈夫だから、して……?」
服をきゅっと掴んで涙目で俺を見上げる仕草はとても可愛くて、一気に股間に血が集まった。呼吸が荒くなってきた。ダメだ、理性を保って紳士に振る舞わなければハルを怯えさせてしまう。
「……俺、よく分かんないから、みっつんに全部任せるね」
「…………あぁ」
俺から手を離し、ぱたんと寝転がる。緊張している様子のハルに覆い被さると、彼は強く目を閉じた。
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