上 下
1,049 / 1,942

誕生日パーティの準備

しおりを挟む
四人分の昼食をランチボックスに詰め、保冷バッグに入れ、海へと向かう四人に渡した。

「秋風くんのことは任せておくれ」

トン、と自身の胸を叩くネザメの傍らでミフユは──

「メープル、ネザメ様が溺れないようしっかりと見守るのだぞ」

──と言い付けながら犬用救命胴衣を犬に着せていた。

「水月、ちょぉいい?」

「超いいぞ~? 痛っ!?」

リュウが手を伸ばしていたので近付くと、ブチブチっと一気に髪を数本引っこ抜かれた。

「な、なにゆえ……?」

「形代の強化用や、すまんの」

「あ、あぁ……うん、そっか、びっくりした…………頼むよ」

「任せぇ」

突然俺の髪を抜いてポケットに入れたリュウの奇行には言及しようとも思えなかったようで、じゃれていたネザメとミフユは黙って目を逸らし、イチャついていたアキとセイカは一瞬硬直した後何もなかったかのようにイチャつきを続行した。

「……お前が奇行ばっかりの変人みたいになってるのが申し訳ないよ」

「誰かさんが俺の言うこと守っとったらこんなんなれへんかってんけどな」

ヒソヒソとそう話し合い、謝罪の意を示すため俺は顔の前で手を合わせた。リュウはため息をついた後、優しく微笑んでくれた。

「じゃあ、鳴雷。準備頑張って」

「うん。セイカもアキも気を付けてな」

二人の頭を撫で、順番に頬にキスをし、彼らを見送る。次にリュウを抱き締めて額にキスをし、見送る。

「水月くん、当然僕にもしてくれるよね?」

「もちろんです。さ、ネザメさん……おいで」

両手を広げるとネザメは俺の胸に飛び込んできた。しっかりと抱き留めて、前髪をかき上げるとネザメは俺の唇に唇を押し付けてきた。

「ん……ふふ、ネザメさん……」

額にキスをしようとしたのに、唇を奪われてしまった。可愛い人だと頭を撫で、見送る。四人全員を見送ると足下でワンっ! と元気な声が聞こえた。

「ん? どうしたのメープルちゃん」

わん、わんわんっ

「……ふむ。鳴雷一年生、メープルにもハグとキスをしてやれ」

「え? まさかぁ……」

大して遊んでやっていないし、面倒を見た訳でもない。俺に懐いている訳がない。半信半疑で床に膝をついて犬を抱き締め、鼻先にキスをしてやると、犬は尻尾を激しく振って俺の顔をべろべろと舐め回し、満足そうに玄関から出ていった。手を振りながら扉を閉めるリュウはヨダレまみれの俺を見てケラケラと笑っていた。

「……顔ベトベトになっちゃいました。メープルちゃん、意外と俺に懐いてくれてたんですね。いやぁ……なんか、嬉しいなぁ」

「犬は連帯感のある空間を好む、群れで生活する狼を祖先に持つからな。自分一人だけ行われない行為があるというのは不愉快なのだ」

「じゃあ俺に懐いてくれてる訳ではない……?」

「……別に、と言った感触か。ミフユはメープルの心を読める訳ではないから分からない。しかし、ミフユが貴様を呼びに行かせたりしているから、他の者よりはメープルの印象に残っているかもしれないな」

起こしてやらなければならない手のかかる存在として? 霊に襲われようとしていた時にも守ってもらったし……犬は家族に順位を付けると聞くが、俺は確実に下だろうな。弟とかそんな感じ? いや、家族ではないからお客様として世話を焼いてくれているのだろうか。

「あまり悩むな。懐いて欲しいなら餌やり、散歩、遊び、糞尿の処理等々を嫌な顔をせずにやるのだな」

「嫌な顔すると分かるものなんですか?」

「当然だ。犬は人間の感情の機微に敏感だぞ、それこそ同じ人間よりもな」

「へぇ……」

出来れば懐いて欲しいけれど、甲斐甲斐しく世話をしてまで懐いて欲しい訳じゃないんだよな。ただの犬じゃなくて、犬の獣人で俺の彼氏になってくれるのならそりゃあもう甲斐甲斐しいにも程があるくらいに世話を焼くけれど。そう、つまり俺は現金なヤツなのだ。

「フユさ~ん! 準備って何すんの?」

「ケーキは作るんすか? 買ってあるんすか? 俺バレンタインのチョコとかは手作りしたことあるっすよ、もし手作りならお力になれるっす!」

その手作りチョコはあの元カレに与えたのだろうか? ムカムカしてきた。

「俺は料理はダメだな……何か力仕事があればいってくれ。ないだろうけど、な」

「ふむ……では歌見殿、力仕事というほどではありませんが、こちらをお願い出来ますか? 膨らませるだけです」

ミフユは歌見に金色の風船らしきものを渡した。普通の風船のようなゴムっぽい伸びる素材ではなく、ほとんど伸びない素材のようだ。

「あ、これまさか、膨らませるとハッピーバースデーって書いてる感じっすか?」

「木芽は察しがいいな、その通りだ」

「褒められちゃったっすぅ~。でもアキくん英語分かるんすか?」

「いいところに気付くな、流石だ。しかし観察眼はまだ鍛える余地がありそうだ。これは英語ではなくロシア語で書かれているのだ」

膨らんでもいないぐでっとした見た目のままでは何語かどころか言語かどうかすら分からない。観察眼の問題ではないと思う。

「へぇ~……本当にはっぴーばーすでって書いてるんすか?」

歌見はくしゃっと折り畳まれていた風船を広げ、レイはそれをしげしげと眺める。

「そのはずだが……や、やめてくれ、不安になってくる」

「水月、ハッピーバースデーくらい分からないのか?」

「分かりませんよ」

何となくの音なら「おはよう」や「ありがとう」くらいは何となく分かるが、綴りなんて分からない。ロシア語におけるアルファベットがどういうものなのかもよく分からない。

「鳴雷一年生、鳥待一年生、貴様らは料理を手伝え。霞染一年生、貴様は書道を習っていると聞いたが……」

「習ってるよ~?」

「では「秋風くん誕生日おめでとう」と日本語とロシア語で書いてくれ。日本語の方は全てひらがなでな」

「OKOK」

「紙はこれを使ってくれ」

ミフユは筒状に丸めた紙をハルに渡した。

「翻訳アプリで出るよね~」

「多分……あぁ、狭雲はこっちに残すべきだったか? いや……うむ…………よし、時雨一年生、木芽、貴様らは折り紙で飾りを作れ」

そう言うとミフユはスマホを取り出した。

「作って欲しい飾りの種類と数はメッセージアプリで送信する。折り方の動画も添付するので、そちらで確認してくれ」

元気な声と消え入りそうにか細い声での肯定の返事。

「折り紙はこれを使え。よし、では鳴雷一年生、鳥待一年生、取り掛かるぞ」

子供用エプロンを着け直したミフユに萌えながら、俺は落ち着いたシュカの分まで元気に返事をした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

膀胱を虐められる男の子の話

煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ 男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話 膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)

少年野球で知り合ってやけに懐いてきた後輩のあえぎ声が頭から離れない

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
少年野球で知り合い、やたら懐いてきた後輩がいた。 ある日、彼にちょっとしたイタズラをした。何気なく出したちょっかいだった。 だがそのときに発せられたあえぎ声が頭から離れなくなり、俺の行為はどんどんエスカレートしていく。

小さい頃、近所のお兄さんに赤ちゃんみたいに甘えた事がきっかけで性癖が歪んでしまって困ってる

海野
BL
小さい頃、妹の誕生で赤ちゃん返りをした事のある雄介少年。少年も大人になり青年になった。しかし一般男性の性の興味とは外れ、幼児プレイにしかときめかなくなってしまった。あの時お世話になった「近所のお兄さん」は結婚してしまったし、彼ももう赤ちゃんになれる程可愛い背格好では無い。そんなある日、職場で「お兄さん」に似た雰囲気の人を見つける。いつしか目で追う様になった彼は次第にその人を妄想の材料に使うようになる。ある日の残業中、眠ってしまった雄介は、起こしに来た人物に寝ぼけてママと言って抱きついてしまい…?

犬用オ●ホ工場~兄アナル凌辱雌穴化計画~

雷音
BL
全12話 本編完結済み  雄っパイ●リ/モブ姦/獣姦/フィスト●ァック/スパンキング/ギ●チン/玩具責め/イ●マ/飲●ー/スカ/搾乳/雄母乳/複数/乳合わせ/リバ/NTR/♡喘ぎ/汚喘ぎ 一文無しとなったオジ兄(陸郎)が金銭目的で実家の工場に忍び込むと、レーン上で後転開脚状態の男が泣き喚きながら●姦されている姿を目撃する。工場の残酷な裏業務を知った陸郎に忍び寄る魔の手。義父や弟から容赦なく責められるR18。甚振られ続ける陸郎は、やがて快楽に溺れていき――。 ※闇堕ち、♂♂寄りとなります※ 単話ごとのプレイ内容を12本全てに記載致しました。 (登場人物は全員成人済みです)

ポチは今日から社長秘書です

ムーン
BL
御曹司に性的なペットとして飼われポチと名付けられた男は、その御曹司が会社を継ぐと同時に社長秘書の役目を任された。 十代でペットになった彼には学歴も知識も経験も何一つとしてない。彼は何年も犬として過ごしており、人間の社会生活から切り離されていた。 これはそんなポチという名の男が凄腕社長秘書になるまでの物語──などではなく、性的にもてあそばれる場所が豪邸からオフィスへと変わったペットの日常を綴ったものである。 サディスト若社長の椅子となりマットとなり昼夜を問わず性的なご奉仕! 仕事の合間を縫って一途な先代社長との甘い恋人生活を堪能! 先々代様からの無茶振り、知り合いからの恋愛相談、従弟の問題もサラッと解決! 社長のスケジュール・体調・機嫌・性欲などの管理、全てポチのお仕事です! ※「俺の名前は今日からポチです」の続編ですが、前作を知らなくても楽しめる作りになっています。 ※前作にはほぼ皆無のオカルト要素が加わっています、ホラー演出はありませんのでご安心ください。 ※主人公は社長に対しては受け、先代社長に対しては攻めになります。 ※一話目だけ三人称、それ以降は主人公の一人称となります。 ※ぷろろーぐの後は過去回想が始まり、ゆっくりとぷろろーぐの時間に戻っていきます。 ※タイトルがひらがな以外の話は主人公以外のキャラの視点です。 ※拙作「俺の名前は今日からポチです」「ストーカー気質な青年の恋は実るのか」「とある大学生の遅過ぎた初恋」「いわくつきの首塚を壊したら霊姦体質になりまして、周囲の男共の性奴隷に堕ちました」の世界の未来となっており、その作品のキャラも一部出ますが、もちろんこれ単体でお楽しみいただけます。 含まれる要素 ※主人公以外のカプ描写 ※攻めの女装、コスプレ。 ※義弟、義父との円満二股。3Pも稀に。 ※鞭、蝋燭、尿道ブジー、その他諸々の玩具を使ったSMプレイ。 ※野外、人前、見せつけ諸々の恥辱プレイ。 ※暴力的なプレイを口でしか嫌がらない真性ドM。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

変態村♂〜俺、やられます!〜

ゆきみまんじゅう
BL
地図から消えた村。 そこに肝試しに行った翔馬たち男3人。 暗闇から聞こえる不気味な足音、遠くから聞こえる笑い声。 必死に逃げる翔馬たちを救った村人に案内され、ある村へたどり着く。 その村は男しかおらず、翔馬たちが異変に気づく頃には、すでに囚われの身になってしまう。 果たして翔馬たちは、抱かれてしまう前に、村から脱出できるのだろうか?

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。 全17話、約6万文字。

処理中です...