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準備は役割分担をして

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アキの誕生日パーティの料理の献立を聞き、三人で分担を決めていく。

「サンさんも料理得意ですけど、手伝ってもらわないんですか?」

そういえばサンの姿が見えないな。朝食を食べる際には居たのに……いつの間に居なくなったんだ? 背が高くて髪が長くて目立つ人なのに気付けないなんて、気配を消すのが相当上手いんだな。

「サン殿には我々の昼食を頼んである。下拵えが終わったらキッチンを明け渡す予定だ」

「へぇー……今はどこに?」

「秋風の誕生日をイメージした絵を描いてくださるとのことだったので、別室で集中して作業していただいている」

「絵? へぇ……! すごい、贅沢ですね」

「あの人プロの画家なんでしょう? いいんですか?」

「自ら描きたいとお言いになられたのでな、遠慮も萎縮もしてしまうが……まぁ、本格的なものではないようだし、いいんじゃないか? 誕生日プレゼントだと思えば」

本来ならプロの画家に絵を描いてもらっておいて何も返さないなんてありえないけれど、本人が恋人の弟の誕生日に絵を贈りたいと言うのなら受け取らなければ失礼だ。サンの誕生日に同等の価値の贈り物をすれば、それでいい。

「貴様らはちゃんとプレゼントを用意しているんだろうな?」

「当然です、秋風さんに似合う言葉はすぐに見つかりました、十分もかかりませんでしたよ」

シュカのプレゼントはまたどうせ四文字熟語Tシャツなんだろうなぁ。全員の誕生日を祝い終えたらTシャツパーティでも開きたいものだ。

「俺はあんまり自信ない……」

「む、貴様は兄だと言うのに……一番期待度が高いかもしれないのだぞ?」

「はい……」

「まぁ今更足掻いたところでどうにもなるまい、落ち込むのは反応を見てからにするんだな」

一生懸命考えただとか、喜んでくれると確信しているだとか、そういう訳じゃない。何も思い付かない中、アキの趣味に合いそうだと選んだだけのプレゼントだからこそ、不安で仕方ない。

「あれ……? カンナせんぱい、ここどう折るんすか?」

「なか、わりおり…………見て、て」

「ふんふん……ん? も、もう一回お願いするっす。こうして……え、ゎ、な、なんかくちゃってなっちゃうっす」

料理の合間に折り紙担当のカンナとレイの様子を見る。レイは苦戦しているようだ、イラストレーターのくせに不器用なのか? カンナはゆっくりだけれども綺麗に折り筋を付けている、彼らしさを感じて笑みが零れた。

「シュカは折り紙とかってどうだ?」

「……やったことないですね」

「え、ない? 一回も? 学校でとか、しないか?」

「そんな平和な学生生活送ってませんから」

不良だからといって折り紙に触れたことがないなんてありえるのだろうか。幼稚園や小学校のどこかのタイミングでツルの折り方くらい習いそうなものだが……俺の感覚がズレているだけなのか?

「ミフユさんはどうです?」

「ネザメ様が幼い頃は共に叔父に習って色々と折ったぞ。ツルやカエルや風船や……」

ネザメが幼い頃はミフユも幼いだろうというツッコミは堪えて、小さな二人が折り紙を楽しむ平和な光景を思い描いて頬を緩める。

「そういう貴様はどうなんだ?」

「小学生の頃はよく折ってました、友達居ませんでしたから休み時間は折り紙折るか本読むかで……ウーパールーパーとか、ノコギリザメとか、ハリネズミとか、色々折ったんですよね~」

「……歌見、あなた折り紙したことあります?」

「うん? あぁ、妹にねだられて色々折ったぞ。小さい紙を使ってくす玉とかな」

風船を膨らます片手間の返事を聞いてシュカは露骨に不機嫌になった。自分だけ折り紙に触れた経験がないのが嫌なようだ。

「……アキは多分折り紙知りませんよね、いっぱい見せたら驚くかも」

「あぁ、折り紙は海外にはない文化だ、気に入るといいな」

折り紙を知らない者は他にも居るのだとそれとなく教えてみると、眉間の皺が少し浅くなったように感じた。



料理の下拵えが終わった。残っているのは食べる前に行うべき工程だけだ。

「ミフユさん、ケーキは……」

「スポンジは焼いてある。フルーツをカットしてクリームと共に盛り付けるだけだ。別荘で迎える誕生日でなければ、素人の手作りなどではなく高名なパティシエでも呼んで本格的なケーキを用意出来たのだが……ネザメ様もそうしたいと言っていたし、後日また秋風を紅葉家に招かせてくれ」

「え、いや、そんな……」

用意してくれるだけでもありがたいケーキを、高名なパティシエに作らせるだって? そんなことされたら申し訳なさでどうにかなってしまう。これだから富豪は心臓と胃に悪い。

「年積さん、私の誕生日は四月なのですが」

「四月か、よしよし。料理やケーキに希望があれば事前に言っておけ。何でも用意してやろう」

「崇めます」

「う、うむ……? ネザメ様への敬意と感謝を忘れなければそれでいい」

シュカのように遠慮なく甘えた方がミフユも楽なのかもしれないが、どうしても遠慮してしまうし申し訳なく思ってしまう。

「みんな~、そろそろご飯食べる? 食べるよね、今作るからね~」

扉を開けながらそう言って現れたのはサンだ。その手や頬をカラフルに汚している。

「サ、サン殿!」

「フユちゃん? 絵キリのいいとこまで描けたよ。完全な抽象画じゃアンタらのウケ悪そうだから、モチーフハッキリ分かるように描いてみた。アキくん喜ぶかな?」

「自分のために描かれた絵を見て喜ばない者など居ませんよ。と、それどころではありませんサン殿! 手も顔もそんなに汚して……先に洗わなければキッチンに立ち入らせる訳にはまいりません!」

「そんなに汚れてる? そっか……水月、水月居る? 洗ってくれるよね」

「もちろん! 洗面所借りますね、ミフユさん」

ミフユに一言断ってからサンを洗面所に連れていき、その手や頬を洗わせた。

「この匂い……これ、クレヨン?」

「うん。油彩じゃ時間かかり過ぎだし、水彩はボクそんなに好きじゃないからね。パッと描けていい感じになるクレヨン使ってみたよ」

「へぇ……なんか、ちっちゃい子用ってイメージあったよ。ちゃんとした画家さんもクレヨン使うんだ? 弘法筆を選ばずってヤツだね」

「クレヨン舐めちゃダメだよ水月、いい画材なんだからかなり選んでる方だよ」

「そうなの……? 絵見るの楽しみ」

卒園後に触れた覚えのないクレヨンでどれほどの絵が描けるというのか、サンの画家としての力が見れるいい機会だ。俺は期待に胸を膨らませた。
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