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準備のための組み分け

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朝食を終え、皿洗い中、ミフユに話しかけられた。必死に背伸びをし、屈んだ俺の耳元で話す姿はとても可愛らしい。

「鳴雷一年生、今日は貴様の弟である秋風の誕生日だ。日本に来て一度目の誕生日、盛大に祝ってやりたい……そうだろう?」

「はい! ぜひ協力して欲しいです」

「うむ、計画があるのだ。聞いてくれるな?」

俺達は今日は海へは行かず、アキを海で遊ばせている間にパーティの飾り付けを済ませてしまい、サプライズを演出しようとミフユは話してくれた。

「いいですね、じゃあアキを連れ出す役決めましょうか。一人でなんて行かないでしょうし」

「うむ。どう決めようか……」

「アキ日本語分かんないし、早口めでパパッと聞いちゃいましょう。おーいみんなぁー、アキの誕生日パーティの飾り付けするチームとアキを海に連れ出すチームに別れてくれ!」

早口で話すとアキは不思議そうな顔で俺を見つめた後、セイカの方を見て翻訳を待ち、他の彼氏達はそれぞれ顔を見合わせる。

「どうする~? こっちの人手多い方がいいよね~」

「俺行くわ」

リュウはポケットから「大」の形に切った紙を覗かせた。あの紙は彼が俺の身代わりとして作ってくれたものらしく、あれを海に流せば俺はもう怪奇現象に襲われることはないらしい。出来れば後日に回して欲しくない、リュウには海に行ってもらいたい。

「あぁ、リュウはコミュ力の権化だからな。俺達が居ないの上手く誤魔化してくれ」

「任しとき、口からでまかせは得意やで」

あんまりそんなイメージないけどな……

「天正一年生だけでは話せないだろう、狭雲、貴様も海に行け。秋風が離すとも思えんしな」

「あ、うん」

飾り付けも料理も手伝えないセイカは家の中で何も出来ず疎外感や情けなさを味わってしまうだろう、いつも通りアキと遊んでいるべきだ。

「僕も秋風くんと一緒に……ぁ、水月くんはここに居るのかい? うーん……悩むなぁ」

「ネザメ様は居られても邪魔ですので海に行っていただきたいですね。天正一年生、狭雲、ネザメ様をよく見ていろよ」

「…………今邪魔って言ったかい?」

「三人居れば十分だな。では天正一年生、狭雲、ネザメ様を頼んだぞ。秋風に誕生日パーティの準備をしていることは決して悟らせるな、連絡するまではここに戻るなよ」

「ねぇ、ミフユ……今邪魔って」

「鳴雷一年生、四人分の弁当を作るぞ。手伝え」

「ミフユ……僕は邪魔なのかい?」

「……時と場合によりますが、ネザメ様はかなり邪魔です」

ようやく返事をもらったネザメは「そうかい」とだけ呟くと昼食を作り始めたミフユの傍から離れ、椅子に腰を下ろして深いため息をつきながら項垂れた。

「ザ、ザメさん……そんな落ち込まないで。料理中に周りちょろちょろすんのだけやめたら多分もうあんなこと言われないから~」

「うん……」

ハルに慰められている。本人には悪いが可愛らしい光景なので、もうしばらく見ていたい。

「鳴雷一年生、これとこれを一口大に切ってくれ」

「はい」

おっと、もう目を離さなければいけなくなった。

「せーか、今のうちに全員行かへんことアキくんに説明しとかな。どう言おか……んー、せやな、普通に体力切れでええんちゃうかな」

「誕生日会の準備だと悟られてはいけないからね、頑張ってね狭雲くん」

「う、うん……」

普段の約三分の一である四人分の弁当を作るのは楽だった。時間も手間も三分の一……とまではいかないのが料理の不思議なところだ。

《秋風、連日遊んで疲れたらしいから、今日は鳴雷達は海には行かないんだってさ。天正と紅葉は行くって》

《そっか、んじゃ俺も行かない》

「え……ど、どうしよう天正、秋風海行かないって」

「えっ、どないしよ。説得出来へん?」

「説得って……行かないって言ってるの、どうやって……しかも怪しまれずにとか、そんなの俺……出来ない」

「一緒に行こうって誘っておくれよ、僕が秋風くんを誘うのは自然なことだろう?」

アキを誘い出すのは簡単だと思っていたが、意外なことにそうでもないようだ。俺がここで説得に入るのもおかしいし、どう説得すればいいかなんて分からない、彼氏達を信じて任せよう。

《あ、秋風……紅葉が、一緒に海に行こうって》

《えー? もうアザほとんど見えなくなったし、そろそろ兄貴とヤりたいんだけど。誕生日だし、ガッツリさ》

《…………鳴雷が、いいか? やっぱり……せっかくの誕生日、俺なんかと一緒は嫌?》

《え? スェカーチカ海行くのか? なんだよもぉ~言ぃえぇよぉ~! 一緒に行こうぜ~? スェカーチカが言うならタコでも何でも捕ってきてやるし、サンオイル塗って浜辺で日光浴でもしてやんよ》

《密漁になるって昨日教えただろ、日光浴ってお前……肌とんでもないことになるぞ》

《犯罪やっても火傷してもいいって言ってんだよ》

「…………天正~、説得出来た」

照れたようにふいっとアキから顔を背けたセイカが母親に描いた絵を見せる子供のようにリュウに知らせた。

「出来た? よぉやったのぉ! えらいえらい、すごいなぁせーかぁ、難しい言葉よぉ覚えて使いこなして! 到底真似出来んわ、えらいわぁ」

リュウに撫でくり回されるセイカは笑ってしまうのを堪えているのか口をきゅっと結んでいる。

「おい、鳴雷一年生。料理に集中しろ」

「あ、すいません……彼氏が可愛くて。ミフユさんに集中するならまだしも、料理にってのは難しいですね」

「……その可愛い彼氏に食わせる物なのに?」

「はっ……! 頑張ります!」

俺の手作り料理で彼氏達の身体が造られていく、そう妄想すると興奮が集中を呼び、普段以上の精度と速度で調理が進んだ。
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