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強制摂取
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セイカを抱えて一階に下り、ダイニングに入るとすぐにアキが走り寄ってきた。
《スェカーチカ! っと、あぁ悪い親父、お姫様の一大事だ。切るぜ》
一時間弱続けていた電話を躊躇なく切ったアキは俺からセイカを奪い取り、俺とは違いセイカのもがきに一切よろけずソファに向かった。
(……わたくしの彼氏なんですけどぉ!)
せめて俺に一言あるべきでは? と落ち込みつつアキの元へ歩みを進めるも、彼はセイカをソファに置いてミフユの居るキッチンに向かった。
「おはようございますミフユさん」
「おはよう。朝食の準備を手伝ってくれ。秋風は何の用だ?」
アキはスマホを構えて何かを呟き、スマホをミフユに見せた。拙い日本語では話せない翻訳が必要な事柄なのだろうかと俺もスマホを覗き込む。
『手のひらに収まるくらいの食べる物をください』
「……腹が減ったのか? 我慢出来ないのか? むぅ……その分減らすぞ?」
ミフユは朝食のフレンチトーストを昨晩から仕込んでいたようで、冷蔵庫に入れていたそれをフライパンに乗せて焼き始めた。
《…………んな手の込んだもんじゃなくてパッと食えるもんが欲しいんだけど》
「どうした? アキ」
「にーに……」
「ん?」
アキは何も言わず、フレンチトーストを焼くミフユの隣で水道水をコップに汲んだ。焼き上がったフレンチトーストを皿に乗せてミフユに渡されると、セイカの元まで早歩きで向かった。
「秋風、食事は机で取れ」
ミフユの注意など聞かず、フレンチトーストを手でちぎってセイカの口にねじ込む。
「いらない……いらないって、いらっ、んむっ、ぐ……ゔゔぅ」
「…………貴様の弟は何をやっているんだ?」
「さぁ……?」
《飲み込め》
ドンッ、と鈍い音が聞こえた。アキがセイカの背を殴ったようだ。
「お、おい! アキ!?」
アキは俺の声に耳を傾けることなくセイカに無理矢理フレンチトーストを四分の一ほど食べさせると、セイカのポケットから錠剤を取り出してセイカの口にねじ込み、水を飲ませた。
《……よし。二、三十分もすりゃあいつも通りのワガママお姫様だぜ》
「…………翻訳」
翻訳アプリを起動したスマホを差し出すとアキはくすっと笑い、俺のスマホに向かって言い直した。
『やがてセイカは元に戻ります』
「元に……?」
頭上にクエスチョンマークを浮かべたまま、セイカのことはアキに任せて俺はミフユの手伝いに勤しんだ。数十分経って、他の彼氏達もダイニングにパラパラと姿を現し始めた頃、アキが部屋から取ってきた義足を身に付けたセイカにちょんちょんと背をつつかれた。
「セイカ、何だ?」
俺はすぐに手を止めて彼の目を見つめた。少しでも邪険に扱えば命に関わる気がしていた。
「おはよっ、鳴雷」
「……あ、あぁ、おはよう、セイカ」
「痛かったからあんまりよく覚えてないんだけどさ、幻肢痛の時に俺見に来てくれたの鳴雷だよな? ありがとうな」
「あぁ、うん……」
元気そうに見える。とてもさっきまで「死にたい」なんて言っていた者と同一人物とは思えない。
「もう痛くないぞ。それとさ、昨日だっけ、デザート作れって言ったのアレ秋風じゃなくて俺なんだよ。嘘ついてごめん……お前の作ったもん食べたくて、でも俺が頼むの、なんか、おこがましいって気がして」
「そんなことないよ! セイカの頼みなら俺何でもするよ! 俺に出来る範囲でだけど」
「……うん。今日は秋風の……ほら、アレだから、また今度……作ってくれる?」
「もちろん! 何系がいいとか細かいリクエスト思い付いたら言ってくれていいからな」
頭を撫でてやると嬉しそうに微笑んで俺の手に頭を擦り寄せてきてくれた。すっかり気分が戻ったようだ。
《元通りだろ? コイツ薬飲み忘れてたんだよ》
「…………あぁそうだ、鳴雷、俺昨日薬飲み忘れてて……秋風が気付いてさっき飲ませてくれたんだ。だから、その……さっきまでのは、薬の効き目が弱くなってきてた時のことだから、気にしないで……?」
「そっ……か。そっか、なんだ、よかった……ただのヤク切れか」
「ヤクって言うな」
抱き締めて頬にキスをし、恥じらいながらも嬉しそうに愛撫を受け入れるセイカに安心する。
「…………死にたい?」
「へっ? そ、そんなこと俺言った……? ごめん……大丈夫、今んとこ死にたくない」
「よかった……俺、俺……どうしよぉって……よかったぁ、せーかぁ……」
「鳴雷? 泣いてる……? ごめんなさい……」
セイカを離しながら目元を腕で一気に拭い、セイカを見つめて笑う。
「泣いてないよ、大丈夫。もうそろそろご飯出来るから、座って待ってて」
「うん……」
《話終わったか? スェカーチカ》
「だ」
《スェカーチカは俺の隣な~》
「…………ふふ」
アキに連れられて席に着くセイカは穏やかな笑みをたたえており、俺の不安は払拭された。
(よかった……死にたいって言われた瞬間、胸がぎゅうぅって……もう、どうしようかと。よかったぁ……)
安心して脱力してへたり込む。ミフユに注意されて立ち上がり、軽い謝罪をしてから手伝いを再開した。
フレンチトーストを主とした朝食の評判は良く、今日も彼氏達の笑顔を楽しめた。幸せだ。高校を卒業して、同棲して……そうしたら毎日この光景を楽しめるのか。いや、一緒に住めない彼氏も居るだろうし、こんな大きな家は買ったり借りたり出来ないだろうけど。
「…………楽しみだなぁ」
不安も大きいけれど、期待が勝る。この時代に将来に希望を見出しているなんて、俺は客観的に見ても幸福なのだろう。
《スェカーチカ! っと、あぁ悪い親父、お姫様の一大事だ。切るぜ》
一時間弱続けていた電話を躊躇なく切ったアキは俺からセイカを奪い取り、俺とは違いセイカのもがきに一切よろけずソファに向かった。
(……わたくしの彼氏なんですけどぉ!)
せめて俺に一言あるべきでは? と落ち込みつつアキの元へ歩みを進めるも、彼はセイカをソファに置いてミフユの居るキッチンに向かった。
「おはようございますミフユさん」
「おはよう。朝食の準備を手伝ってくれ。秋風は何の用だ?」
アキはスマホを構えて何かを呟き、スマホをミフユに見せた。拙い日本語では話せない翻訳が必要な事柄なのだろうかと俺もスマホを覗き込む。
『手のひらに収まるくらいの食べる物をください』
「……腹が減ったのか? 我慢出来ないのか? むぅ……その分減らすぞ?」
ミフユは朝食のフレンチトーストを昨晩から仕込んでいたようで、冷蔵庫に入れていたそれをフライパンに乗せて焼き始めた。
《…………んな手の込んだもんじゃなくてパッと食えるもんが欲しいんだけど》
「どうした? アキ」
「にーに……」
「ん?」
アキは何も言わず、フレンチトーストを焼くミフユの隣で水道水をコップに汲んだ。焼き上がったフレンチトーストを皿に乗せてミフユに渡されると、セイカの元まで早歩きで向かった。
「秋風、食事は机で取れ」
ミフユの注意など聞かず、フレンチトーストを手でちぎってセイカの口にねじ込む。
「いらない……いらないって、いらっ、んむっ、ぐ……ゔゔぅ」
「…………貴様の弟は何をやっているんだ?」
「さぁ……?」
《飲み込め》
ドンッ、と鈍い音が聞こえた。アキがセイカの背を殴ったようだ。
「お、おい! アキ!?」
アキは俺の声に耳を傾けることなくセイカに無理矢理フレンチトーストを四分の一ほど食べさせると、セイカのポケットから錠剤を取り出してセイカの口にねじ込み、水を飲ませた。
《……よし。二、三十分もすりゃあいつも通りのワガママお姫様だぜ》
「…………翻訳」
翻訳アプリを起動したスマホを差し出すとアキはくすっと笑い、俺のスマホに向かって言い直した。
『やがてセイカは元に戻ります』
「元に……?」
頭上にクエスチョンマークを浮かべたまま、セイカのことはアキに任せて俺はミフユの手伝いに勤しんだ。数十分経って、他の彼氏達もダイニングにパラパラと姿を現し始めた頃、アキが部屋から取ってきた義足を身に付けたセイカにちょんちょんと背をつつかれた。
「セイカ、何だ?」
俺はすぐに手を止めて彼の目を見つめた。少しでも邪険に扱えば命に関わる気がしていた。
「おはよっ、鳴雷」
「……あ、あぁ、おはよう、セイカ」
「痛かったからあんまりよく覚えてないんだけどさ、幻肢痛の時に俺見に来てくれたの鳴雷だよな? ありがとうな」
「あぁ、うん……」
元気そうに見える。とてもさっきまで「死にたい」なんて言っていた者と同一人物とは思えない。
「もう痛くないぞ。それとさ、昨日だっけ、デザート作れって言ったのアレ秋風じゃなくて俺なんだよ。嘘ついてごめん……お前の作ったもん食べたくて、でも俺が頼むの、なんか、おこがましいって気がして」
「そんなことないよ! セイカの頼みなら俺何でもするよ! 俺に出来る範囲でだけど」
「……うん。今日は秋風の……ほら、アレだから、また今度……作ってくれる?」
「もちろん! 何系がいいとか細かいリクエスト思い付いたら言ってくれていいからな」
頭を撫でてやると嬉しそうに微笑んで俺の手に頭を擦り寄せてきてくれた。すっかり気分が戻ったようだ。
《元通りだろ? コイツ薬飲み忘れてたんだよ》
「…………あぁそうだ、鳴雷、俺昨日薬飲み忘れてて……秋風が気付いてさっき飲ませてくれたんだ。だから、その……さっきまでのは、薬の効き目が弱くなってきてた時のことだから、気にしないで……?」
「そっ……か。そっか、なんだ、よかった……ただのヤク切れか」
「ヤクって言うな」
抱き締めて頬にキスをし、恥じらいながらも嬉しそうに愛撫を受け入れるセイカに安心する。
「…………死にたい?」
「へっ? そ、そんなこと俺言った……? ごめん……大丈夫、今んとこ死にたくない」
「よかった……俺、俺……どうしよぉって……よかったぁ、せーかぁ……」
「鳴雷? 泣いてる……? ごめんなさい……」
セイカを離しながら目元を腕で一気に拭い、セイカを見つめて笑う。
「泣いてないよ、大丈夫。もうそろそろご飯出来るから、座って待ってて」
「うん……」
《話終わったか? スェカーチカ》
「だ」
《スェカーチカは俺の隣な~》
「…………ふふ」
アキに連れられて席に着くセイカは穏やかな笑みをたたえており、俺の不安は払拭された。
(よかった……死にたいって言われた瞬間、胸がぎゅうぅって……もう、どうしようかと。よかったぁ……)
安心して脱力してへたり込む。ミフユに注意されて立ち上がり、軽い謝罪をしてから手伝いを再開した。
フレンチトーストを主とした朝食の評判は良く、今日も彼氏達の笑顔を楽しめた。幸せだ。高校を卒業して、同棲して……そうしたら毎日この光景を楽しめるのか。いや、一緒に住めない彼氏も居るだろうし、こんな大きな家は買ったり借りたり出来ないだろうけど。
「…………楽しみだなぁ」
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