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夢の中で行った……ような
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部屋に閉じこもって何時間経っただろうか。扉の外からはリュウの声で「もう朝なったから出てきてええで」と呼びかけられているし、窓からは陽光が射し込んできている。
「これで窓開けたらまだ夜中ってのが定番なんですぞメープルたん。声はまだしも朝日を偽装するのはズルいと思いません?」
ホラーにも造詣の深いオタクである俺はそういった騙し討ちを全スルー、リュウが扉を開けるまで見事に耐え切った。
「水月! 無事か!」
「……っ、は……ぁ……イく、また中出しキメてや、る…………開ける前にノックしろよお前ぇえっ!」
「生きるか死ぬかの瀬戸際にオナニーしとるやなんて思わへんやん普通!」
「死の危険があるからこそ生存本能がなんやかんやでムラムラするんだろ! ちゃんとメープルちゃんが寝たの確認してオナってたのにお前っ……出し損ねただろ!」
犬が寝てしまいスマホも使えず暇になって自慰に励んでいたタイミングでリュウがやってきたので少し揉めたが、無事に朝を迎えられた。
「……ちなみにオカズなんやったん?」
「巫女服のお前と神社で中出しセックス」
「罰当たり過ぎやろ! せ、せやけどまぁ……オカズ俺やっちゅうんは嬉しいなぁ……」
「御神体に向かって「巫女さんやめて水月の嫁になります」宣言超よかった。寿退社だな」
そんなふうに話しながら階段を降り、既に彼氏達が全員集まったダイニングへ。昨晩偽物に話しかけられ続けたが、やはり違う、本物の彼氏の声は……なんというか、胸がキュンキュンする。
「おはよぉ~みっつん。風邪の具合はどぉ?」
「はる、くん……あんまり、近寄っちゃ、うつっちゃう」
「あぁ、もうすっかりよくなったよ。でもカンナの言う通り、まだウイルス残ってるかもだから今日一日は俺にあんまり近寄るなよ、みんな」
はーい、と可愛らしい返事がパラパラと返ってくる。
「ミフユさん、ちょっといいですか?」
早々に朝食を終えてキッチンで昼食を作っているミフユの隣に立つ。
「なんだ? さっさと朝飯を食ってしまえ」
「……お父さん、お祖父さんの兄弟とかに、ミサキって人……居ませんか?」
「ミサキ……? それは貴様が昨日夢で見た子供の名だろう?」
「あ、はい、そうなんですけど……」
「…………どういう意図で聞いているのか知らんが、ミサキなどという名の親類は居ない」
予想が外れた? いや、ミフユが知らないだけかもしれない。ミサキが死んだのが今から何年前のことかもよく分かっていないのだし。
「じゃあ、この辺りで死んだ人居ませんか?」
「……何が聞きたいんだ貴様」
「紅葉家の誰かを狙った誘拐犯に、年積の人が殺される……そんな事件、ありませんでしたか?」
「………………何故、そんなことを?」
「あったんですね?」
「……メープルはまだ部屋か! 仕方ない、ミフユが起こしに行ってやる。鳴雷一年生、貴様も着いてこい」
ミフユは声を張ってそう宣言すると俺の手を引いてダイニングから連れ出し、階段の途中で足を止めて小さな声で話し始めた。
「……この別荘が建つよりも前、この辺りの土地を買おうかと悩んでいたネザメ様のひいひいおじい様がひいじい様を連れて下見に来た際、辺りで遊んでいろと大人の話から外されたひいじい様は従者一人を連れて山に入った。そこで暴漢に襲われたが、従者によって逃がされた。従者は行方不明だ、血痕は見つかったが死体は見つかっていない」
「ひいおじいさん……ですか」
「ひいひいじい様はこんな不吉な土地は要らんと買わなかったのだが、ひいじい様は従者が眠っているかもしれない土地だからと紅葉家を継いでから買った。あまり気持ちのいい話ではないから貴様らはもちろんネザメ様にも知らせていない話だ。これで満足か?」
「……その人の弔いは」
「紅葉家の者は死んでも守るべし、と……この者を手本とすべし、と……そう年積家に伝わっているだけだからな。主人を命がけで逃がしたという部分以外ミフユに詳しく知らされることはない。だが、常識的な弔いは済ませていると思うが?」
土地を買うような真似までしておいて弔いをしていないとは考えにくい。死体が見つかっていないというのが大きいのだろうか?
「……その人の名前はミサキじゃないんですか?」
「違うと言っているだろう、そんな名の親類は居らん」
「じゃあ、なんて名前の人なんですか?」
「何故そんなに知りたがるんだ……確か、沙羅双樹の沙に季節の季、沙季彦……だったはずだが」
「……さきひこ?」
「うむ」
「としつみ、さきひこ?」
「……う、うむ。何なのだ一体」
俺がミサキに名前を聞いた時、彼はとても小さく掠れた声で名前を言った。ミサキという聞き取りには自信がなかった。しかしミサキが訂正しなかったからミサキで合っていたと思い込んでしまっていた。
「ミサキじゃなかったのか……あの、ミフユさん。もう一つ頼みたいことがあるんです」
「う、うむ……? 何だ?」
「昼、俺と一緒に来て欲しいところがあるんです」
犬に餌を与え、昼食を保冷バッグに詰め、テントを立てれば昨日一昨日と同じように彼氏達は海で遊ぶ。俺は病み上がりだからテントで待つと言い、ネザメをアキ達に押し付けて、上手くミフユと二人で抜け出した。
「何なのだ一体……貴様、昨日からおかしいぞ。熱中症にでもなったか? 一度病院で頭を検査してもらった方がいい」
散々に言われながら二人で砂浜の端まで歩いた。️消波ブロックをよじ登り、目の前にそそり立つ崖を見上げた。
「この崖の下に洞窟があるの、ミフユさん知ってました?」
「何……? いや、知らん。向こうの端には天正一年生が祠に参りに行った際に共に行ったが、こちらの端には来たことがないからな」
「その洞窟に行きましょう、肝試しみたいなもんだと思ってください」
「ミフユはそういうのは軽蔑しているのだが……仕方あるまい、貴様一人で行かせる訳にもいかないしな。しかしどうやって行くんだ? 崖の下に足場などないが」
「こっから海に飛び込んで泳いでいくんですけど……」
「…………ギリギリまで岩場を進んでいこう。消波ブロックの傍は危険だ」
深いため息をついたミフユと共に消波ブロックを滑り降り、岩場を踏み締める。フナムシやヤドカリ、小さなカニが生息していて鳥肌が立った。
「ぅうぅぅぎもぢわるいぃ……」
「貴様よくこの程度でそんな顔をするのに洞窟に入るなど言い出したな。洞窟の中はここよりもこういった生物が多いと思うぞ」
「足が多いのですか!? うわっ、嫌。あ、もう足場ありませんね……水浸かって行きましょう」
崖の真下は案外と水深が浅い、胸の辺りまでしかない。歩いて進めるのは助かる、夢の記憶を頼りに洞窟を探すのだ……と言っても波に揉まれて洞窟の入り口に打ち上げられただけだから、景色も何もないんだよなぁ。
「……この水深の浅さ、尖った岩場の多さ……この崖から落ちればまず助からないな。あの崖からの飛び込みをネザメ様が提案したら絶対に止めねば」
「はは……ネザメさんそういうタイプじゃないでしょ」
「まぁな。しかし鳴雷一年生、何故貴様はこんなところの洞窟を知っているのだ? 昨日以前にこんなところまで泳いでいたのか?」
「いや、まぁ……夢で見たと言いますか」
「………………旅行が終わるのを待たずに救急車を呼ぶべきか」
歩き始めてから何度ミフユのため息を聞いただろう。俺も自分の言動の支離滅裂さと説明不足さを俯瞰して考えてため息をつく……ズルっ、と足が滑った。
「うわっ!? わぷぷ……こ、ここから急に深くなってますね」
「大丈夫か!?」
「は、はい、ギリギリ足つきますし……ぁ」
「む?」
洞窟を見つけた。俺の指の先を見たミフユは驚いた顔で俺と洞窟を交互に見る。
「まさか本当にあるとは……どういうことだ? 貴様本当は下見をしたのか? 本当に夢で見ただけなのか?」
俺は返事をせず洞窟へとよじ登り、立っては入れない、屈んで歩くしかない暗い穴の奥へと小走りで進んで行った。
「これで窓開けたらまだ夜中ってのが定番なんですぞメープルたん。声はまだしも朝日を偽装するのはズルいと思いません?」
ホラーにも造詣の深いオタクである俺はそういった騙し討ちを全スルー、リュウが扉を開けるまで見事に耐え切った。
「水月! 無事か!」
「……っ、は……ぁ……イく、また中出しキメてや、る…………開ける前にノックしろよお前ぇえっ!」
「生きるか死ぬかの瀬戸際にオナニーしとるやなんて思わへんやん普通!」
「死の危険があるからこそ生存本能がなんやかんやでムラムラするんだろ! ちゃんとメープルちゃんが寝たの確認してオナってたのにお前っ……出し損ねただろ!」
犬が寝てしまいスマホも使えず暇になって自慰に励んでいたタイミングでリュウがやってきたので少し揉めたが、無事に朝を迎えられた。
「……ちなみにオカズなんやったん?」
「巫女服のお前と神社で中出しセックス」
「罰当たり過ぎやろ! せ、せやけどまぁ……オカズ俺やっちゅうんは嬉しいなぁ……」
「御神体に向かって「巫女さんやめて水月の嫁になります」宣言超よかった。寿退社だな」
そんなふうに話しながら階段を降り、既に彼氏達が全員集まったダイニングへ。昨晩偽物に話しかけられ続けたが、やはり違う、本物の彼氏の声は……なんというか、胸がキュンキュンする。
「おはよぉ~みっつん。風邪の具合はどぉ?」
「はる、くん……あんまり、近寄っちゃ、うつっちゃう」
「あぁ、もうすっかりよくなったよ。でもカンナの言う通り、まだウイルス残ってるかもだから今日一日は俺にあんまり近寄るなよ、みんな」
はーい、と可愛らしい返事がパラパラと返ってくる。
「ミフユさん、ちょっといいですか?」
早々に朝食を終えてキッチンで昼食を作っているミフユの隣に立つ。
「なんだ? さっさと朝飯を食ってしまえ」
「……お父さん、お祖父さんの兄弟とかに、ミサキって人……居ませんか?」
「ミサキ……? それは貴様が昨日夢で見た子供の名だろう?」
「あ、はい、そうなんですけど……」
「…………どういう意図で聞いているのか知らんが、ミサキなどという名の親類は居ない」
予想が外れた? いや、ミフユが知らないだけかもしれない。ミサキが死んだのが今から何年前のことかもよく分かっていないのだし。
「じゃあ、この辺りで死んだ人居ませんか?」
「……何が聞きたいんだ貴様」
「紅葉家の誰かを狙った誘拐犯に、年積の人が殺される……そんな事件、ありませんでしたか?」
「………………何故、そんなことを?」
「あったんですね?」
「……メープルはまだ部屋か! 仕方ない、ミフユが起こしに行ってやる。鳴雷一年生、貴様も着いてこい」
ミフユは声を張ってそう宣言すると俺の手を引いてダイニングから連れ出し、階段の途中で足を止めて小さな声で話し始めた。
「……この別荘が建つよりも前、この辺りの土地を買おうかと悩んでいたネザメ様のひいひいおじい様がひいじい様を連れて下見に来た際、辺りで遊んでいろと大人の話から外されたひいじい様は従者一人を連れて山に入った。そこで暴漢に襲われたが、従者によって逃がされた。従者は行方不明だ、血痕は見つかったが死体は見つかっていない」
「ひいおじいさん……ですか」
「ひいひいじい様はこんな不吉な土地は要らんと買わなかったのだが、ひいじい様は従者が眠っているかもしれない土地だからと紅葉家を継いでから買った。あまり気持ちのいい話ではないから貴様らはもちろんネザメ様にも知らせていない話だ。これで満足か?」
「……その人の弔いは」
「紅葉家の者は死んでも守るべし、と……この者を手本とすべし、と……そう年積家に伝わっているだけだからな。主人を命がけで逃がしたという部分以外ミフユに詳しく知らされることはない。だが、常識的な弔いは済ませていると思うが?」
土地を買うような真似までしておいて弔いをしていないとは考えにくい。死体が見つかっていないというのが大きいのだろうか?
「……その人の名前はミサキじゃないんですか?」
「違うと言っているだろう、そんな名の親類は居らん」
「じゃあ、なんて名前の人なんですか?」
「何故そんなに知りたがるんだ……確か、沙羅双樹の沙に季節の季、沙季彦……だったはずだが」
「……さきひこ?」
「うむ」
「としつみ、さきひこ?」
「……う、うむ。何なのだ一体」
俺がミサキに名前を聞いた時、彼はとても小さく掠れた声で名前を言った。ミサキという聞き取りには自信がなかった。しかしミサキが訂正しなかったからミサキで合っていたと思い込んでしまっていた。
「ミサキじゃなかったのか……あの、ミフユさん。もう一つ頼みたいことがあるんです」
「う、うむ……? 何だ?」
「昼、俺と一緒に来て欲しいところがあるんです」
犬に餌を与え、昼食を保冷バッグに詰め、テントを立てれば昨日一昨日と同じように彼氏達は海で遊ぶ。俺は病み上がりだからテントで待つと言い、ネザメをアキ達に押し付けて、上手くミフユと二人で抜け出した。
「何なのだ一体……貴様、昨日からおかしいぞ。熱中症にでもなったか? 一度病院で頭を検査してもらった方がいい」
散々に言われながら二人で砂浜の端まで歩いた。️消波ブロックをよじ登り、目の前にそそり立つ崖を見上げた。
「この崖の下に洞窟があるの、ミフユさん知ってました?」
「何……? いや、知らん。向こうの端には天正一年生が祠に参りに行った際に共に行ったが、こちらの端には来たことがないからな」
「その洞窟に行きましょう、肝試しみたいなもんだと思ってください」
「ミフユはそういうのは軽蔑しているのだが……仕方あるまい、貴様一人で行かせる訳にもいかないしな。しかしどうやって行くんだ? 崖の下に足場などないが」
「こっから海に飛び込んで泳いでいくんですけど……」
「…………ギリギリまで岩場を進んでいこう。消波ブロックの傍は危険だ」
深いため息をついたミフユと共に消波ブロックを滑り降り、岩場を踏み締める。フナムシやヤドカリ、小さなカニが生息していて鳥肌が立った。
「ぅうぅぅぎもぢわるいぃ……」
「貴様よくこの程度でそんな顔をするのに洞窟に入るなど言い出したな。洞窟の中はここよりもこういった生物が多いと思うぞ」
「足が多いのですか!? うわっ、嫌。あ、もう足場ありませんね……水浸かって行きましょう」
崖の真下は案外と水深が浅い、胸の辺りまでしかない。歩いて進めるのは助かる、夢の記憶を頼りに洞窟を探すのだ……と言っても波に揉まれて洞窟の入り口に打ち上げられただけだから、景色も何もないんだよなぁ。
「……この水深の浅さ、尖った岩場の多さ……この崖から落ちればまず助からないな。あの崖からの飛び込みをネザメ様が提案したら絶対に止めねば」
「はは……ネザメさんそういうタイプじゃないでしょ」
「まぁな。しかし鳴雷一年生、何故貴様はこんなところの洞窟を知っているのだ? 昨日以前にこんなところまで泳いでいたのか?」
「いや、まぁ……夢で見たと言いますか」
「………………旅行が終わるのを待たずに救急車を呼ぶべきか」
歩き始めてから何度ミフユのため息を聞いただろう。俺も自分の言動の支離滅裂さと説明不足さを俯瞰して考えてため息をつく……ズルっ、と足が滑った。
「うわっ!? わぷぷ……こ、ここから急に深くなってますね」
「大丈夫か!?」
「は、はい、ギリギリ足つきますし……ぁ」
「む?」
洞窟を見つけた。俺の指の先を見たミフユは驚いた顔で俺と洞窟を交互に見る。
「まさか本当にあるとは……どういうことだ? 貴様本当は下見をしたのか? 本当に夢で見ただけなのか?」
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