冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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人用ハーネス

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歌見が設営キットを、サンがクーラーボックスを、ミフユが保冷バッグを運ぶ。アキがセイカを背負い、ハルがサンの手を引いている。アキとサンと歌見のプールバッグは俺が持っている、自分のと合わせて片腕に二つずつだ。ミフユのバッグは──

「賢い犬やなぁ。かわええわぁ」

──犬のメープルが持ち手を咥えて運んでいる。健気で可愛いけれど、牙でボロボロ唾液でベトベトになりそうだな。

「りゅー犬派~? 神社って狛犬居るもんね~。俺は猫派かな~、犬も好きだけど~……猫のが二割増で好き~」

「ハルちゃん猫好きなの? ボクの兄貴猫飼ってるよ」

「マジ!? え~、見た~い。取り持ってよサンちゃん、お兄さんに俺紹介して~」

ハルは裏門から帰るから正門で起こったシュカがフタに襲われた件を知らないし、レイを元カレから取り返した時にも居なかったからフタには面識がないのか。そういえばそうだったな、ネザメ達もそうか……ネザメとかってフタに会わせていいのかな。社会的地位がある家の御曹司がヤクザと面識があるってヤバくない?

「いいよ~、帰ったらね」

「やったぁ! みっつん、みっつんも行こーよ。あ、でもあんま大勢で押しかけちゃ迷惑かな?」

「兄貴の家そんなに広くないから~……まぁ二、三人ならいいんじゃない? 兄貴も水月の彼氏だし」

「え、そだっけ。そういやなんかメッセで聞いたような……聞いてないような」

なんて話しながら坂を下り、砂浜へと辿り着いた。

「ぅ海だぁ~っ!」

「見た分かるわ」

「いいじゃんこういうのは気分気分っ。早速海入りたいけど~……まずはテント?」

「だな」

全員で協力して設営キットを砂浜に広げた。俺の想像に反し、テントは天幕と支柱だけで構成されていた。運動会の観覧席でたまに見るアレだ。

「あのー……三角のじゃないんですね」

「十二人だからな、こちらの方が都合がいいだろう」

簡易的なテントの下にシートを敷き、四隅に杭を打つ。真ん中にランチボックスとクーラーボックスを置く。これで拠点完成だ。案外と早く済んだな。

「完成だよね? 終わりだよね? もう遊んでいいよねっ」

「あぁ、昼食の時間になったら呼ぶ。気を付けて泳げよ」

「行ってきます! みっつん、みっつんも行こっ」

「あぁ、みんなで行こうな。ちょっと待ってくれ」

と返事をしながら俺は鞄を探る。

「あったあった……セイカ! セイカ、よくアキと一緒にプール入ってるし泳げるよな? ライフジャケット要るか? 一応買っておいたんだけど」

「ゃ、大丈夫だと思う……」

「そっか。おんぶ紐も一応持って来てるんだけど、俺におんぶされっぱなしじゃつまんないかな? セイカがよければ俺は大歓迎なんだけど」

「大丈夫……ほっといていいよ」

「分かった。じゃ、一応これ着けてってくれ」

「何これ」

「ハーネスだ」

高所の作業や山登りなんかで使うハーネスではない。ちょろちょろと走り回る幼児が危険な場所に行かないようにするための命綱、子供用ハーネスだ。グッズを自作して磨いた手芸スキルによって子供用ハーネスを大人も着用出来るサイズに改造した。

「継ぎ足した紐の色が微妙に違ってちょっとカッコ悪いけど、まぁ水に浸かれば分かんないし……着け方分かるか?」

紐をベストのように着用し、背中の金具にリードを取り付ける。リードの先を俺かアキの手首に巻けば完了だ。もちろんリードは遊んでいる最中に身体に絡まってしまわない程度の短さに調整してある。

「さ、着けてくれ」

「…………犬みたいだな。何……俺、そんな不安?」

錆びないか不安だからと義足を家に置いてきたセイカは一人で立つことも出来ず、今はアキにしがみつき、支えられ、たまにグラグラしながら俺をそのジト目で睨んでいる。

「……鳴雷のことは好きだし、色々感謝してるし、お前の家での俺の立場ってペットみたいなもんだけどさ……それは、ないだろ。そんな犬みたいなの……嫌だ。俺にだってまだプライドはある」

「そうか、着けろ。着けないなら海には近付かせない」

「…………おい、水月」

歌見に肩を掴まれたが、振り払ってセイカに一歩近付いた。

「水月くん……嫌がってるんだから、ね? ほら、パラリンピックには水泳もあるんだよ。ちょっと片っぽ短いだけなんだから、泳げるよ。ねぇ狭雲くん」

「パラリンピックに出てる人はその練習めちゃくちゃしてるんですよ、セイカはこないだ手足失ったばっかりですし、プールよく入ってるって言っても立ってるだけだったりヘリ掴んで浮いてるだけだったりアキに引っ張られてるだけで、泳いでるとこなんか見たことないんですよ。なぁセイカ、お前まだ泳げないだろ?」

「…………バランス、なんか……前と違って、慣れなくて……上手く進まないけど、沈みはしないし」

「沈むのを防ぐ機能なんかねぇよ、だからライフジャケットも持ってきてんだ。ハーネスは波にさらわれないように作ったんだよ」

二の腕に添えられたネザメの手から逃げるように、また一歩セイカに詰め寄る。

「ライフジャケット着せてハーネスも着けて、ぷかぷか浮いてるお前を引っ張るくらいでまずは我慢してもらおうかなって考えてたんだよ俺。海はプールと違ってどこまでも深くなるし波があるし限りがないんだよ」

「あるっちゃあるけどな」

「シッ! りゅー黙れ!」

「可能なら全員分用意したいし、リードもっと長くしてどっか木にでも括りつけたい。それくらい俺はもしもが怖い。一番危険性が高いお前にだけは必ず着けて欲しい。大事なお前が流されて二度と会えなくなるなんて絶対に嫌だ、俺より先に死ぬなんて許さない。絶対に壊れないようにこれでもかってほど頑丈に作った」

また一歩踏み出す。

「……飛び降りたお前を見た、家で飢えてるお前も見た、お前が死ぬとこだけはすごく明確にイメージ出来る……だから特に怖くて、こんなもん作っちゃったんだよ。やり過ぎだって……思う訳ないだろ命を守る対策にやり過ぎはないんだよいいから着けろっ! 何が犬みたいだそれの何が悪い犬は可愛いじゃないか何がプライドだ命とどっちが大事なんだよいいから黙って着けてくださいよ!」

手の届く距離まで来た。俺は無理矢理にでもハーネスを着けてやろうとセイカに手を伸ばしたが、その手はアキに掴まれた。

《随分ヒートアップしてるじゃねぇか兄貴、スェカーチカが怯えてんのが分からねぇのか?》

「アキ……離す、しろ」

「……にーに、何するです?」

「ハーネスを……ぁー、セイカ、これが何か説明してやってくれ。改変するなよ」

セイカは渋々ながら口を開いた。

《これはハーネス……犬とかが着けてるヤツ。俺が波に流されちまわないように着けろって言ってくるんだ、でも俺は犬みたいだから嫌だって……鳴雷が、俺がもし死んだら嫌だって言ってくれるのは……嬉しい、けど、でも……俺、ここまで》

《あぁ、ハーネス! はいはいはいなるほど、いいじゃん! ガキが着けてんのよく見たわ。セイカクソほど泳ぎ下手だし着けとけ着けとけ海はプールと違って波あるから危ねぇぞ》

「……セイカ、アキはなんて?」

「…………海、危ないから……着けとけ、的な」

「賛成派か! よかったぁ。じゃアキ、セイカ、着ける、手伝う、してくれ」

「だ!」

日光対策のせいでアキの顔はほとんど見えないが、きっと笑顔で肯定してくれたアキはセイカにハーネスを着けさせるのを手伝ってくれた。諦めたのか説得出来ていたのかセイカは抵抗せずハーネスを着けられてくれた。

「アメリカやイギリスでは子供のハーネスはずっと前から常識だと聞くね、秋風くんの方が賛成的なのは当然かもしれない」

「アキくんの出身ロシアでっせ」

「……ミフユ、ロシアではどうなんだい?」

「知りません」

「SNSとかでも日本が遅れてるって主張する人が出してくんのヨーロッパとアメリカばっかっすよね」

「そうなのかい?」

「SNSやらんから知らんわぁ」

「俺やるけどそういうのあんま見な~い。投稿ばっかしてフォロワーの返信くらいしか見ないからかな~」

好き放題話す彼氏達を尻目にセイカにハーネスを着け終えた。

「……そういえばメープルには着けなくていいのかい? 危なくないかな」

「メープルはネザメ様より泳ぎが上手く、ネザメ様よりもどこかへ行ってしまう可能性が低いです」

「なら安心だねぇ」

「……ツッコめや! ツッコんでください紅葉はん! 犬以下や言われてまっせ!」

「犬は人間より優れている部分が多いんだよ、嗅覚なんかが代表的だね」

ミフユが今言及したのは人間の方が優れているべき知能方面では? とはネザメの曇りなき微笑みを見てしまったらもう言えない。

「……そういえばカンナ、ぷぅ太は?」

「おるす、ば……うさ……小さ、て……体温……すぐ、うばわ……のに、毛、細か……から、乾き……くい。濡らさな、ほ……が……ぃ、の。ストレス……弱……から、環境、変わ……のも、あ……まり、よ……な……」

「ふぅん……? 一人でお留守番はちょっと可哀想だけど、仕方ないんだな。めいっぱい楽しんで、思い出話持って帰ってやろうな」

聞き取りにくかったのもあって何故ウサギを連れてきていないのかはよく分からなかったが、長々と話すだけの理由があるのならウサギ素人の俺は黙っておくべきだ。

「セイカ、リードで繋がるの誰がいい?」

「…………秋風」

「フラれたっ……! アキ、頼む」

他の彼氏達に気を遣ったんだろうなと思いつつ、アキの手首にリードの端を結ぶ。これでセイカが波にさらわれてもアキが取り戻してくれるだろう。
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