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海だぁーっ!
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火傷しそうなほど熱い砂の上を走り、海へと飛び込む。海水浴の経験は幼い頃にあるが、無人の海は初体験だ。あぁ素晴らしきかな紅葉家! 別荘バンザイ、プライベートビーチバンザイ!
「はぁー、冷たくて気持ちいい……」
「たったあれだけの移動とテントの設営で結構汗かいたもんな」
歌見は坂の上の別荘を見上げ、髪を海水に濡れた手でかき上げた。水滴と銀髪の輝きは美しく、つい見とれてしまう。彼の明るい性格にはやはり上半身裸が似合っているし、歌見は日焼け前と後の肌を同時に楽しめるのが一番分かりやすい魅力なのに、ラッシュガードを着てしまっているのは少し残念だ。
「そういえば水月、お前パーカーは……」
「俺のは水着じゃないんでテントに置いてきましたよ」
俺は上半身裸だ。元カレとの争いで付いた擦り傷が染みないか心配だったが、今のところ痛みはなくて一安心だ。
「鳥待くん、僕のシャチくん膨らませてくれたんだってね。ミフユに聞いたよ、ありがとう」
「いえ……」
シャチ型フロートを連れたネザメがシュカに微笑みかけている。
「……先輩って丸呑み性癖あります?」
「ないが?」
「いいですよねぇ丸呑み、力強く大きな生物に逆らうことも出来ず丸呑みにされて……全身ぬるぬるゴリゴリもみもみ……っあぁ! たまんないっ!」
「俺にはそんな特殊性癖ないんだよ、そんな話されても困る」
シャチ型フロートを改造して丸呑み疑似体験出来ないかなぁ、なんて邪な視線をフロートに向けていると、フロートに跨ろうとしたネザメがフロートごとひっくり返って海に落ちた。
「なんだっけ、日没の時に船を逆さにすると死者の国に行けるんだっけ……?」
「緑の閃光って実際にある現象らしいですね」
「マジか!? ってお前……アニメだけじゃなくて洋画もイケるんだな」
「有名どころなら何とか。お仕事系とか恋愛系は全然見てないですけど……」
なんて話しながら、ネザメは平気そうにしているのに「ネザメ様ぁあ!」と大騒ぎしているミフユを眺める。
「ネザメ様、こちらの浮き輪をお使いください! このフロートは不安定です、高さもありますし……せめてもっと平たいフロートならよいのですが」
「平たいのってカラフルなイカダみたいなのだろう? 嫌だよ、僕はこのシャチくんが好きなんだ」
シャチ型フロートはネザメのお気に入りのようだ。可愛い人だなぁ。とほっこりしていると、海水を顔に思いっきりかけられた。
「…………やったな? お返しっ!」
俺はすかさず水をかけてきたハルに水をかけ返した。
「きゃ~! あっははぁっ、あんま顔濡れてないよ~? みっつん狙い悪~い!」
水のかけ合いは海に来たら一度はやってみたいことランキングベストスリーまでには入るだろう。それも美少年相手となれば尚更。
「隙ありや!」
「わぶっ……! お前もかリュウ!」
リュウは手で水鉄砲のように少量の水を正確に飛ばしてきた。
《俺、海入んの初めてだぜ》
《俺も……》
《本当に波あるんだな、一回下ろすぜ》
視界の端でアキに抱えられていたセイカが下ろされるのが見えた。
《立てるか?》
《海は塩水だから浮力はプールより高いはずだ、だから余裕……》
《ふりょく……?》
「この幼卒が……うわっ!?」
アキの手を離れたセイカは波に負けて海の中へ転び、もがき、底に膝立ちになったのか何とか海面に顔を出した。
「ぶはっ! はぁっ、はぁ……し、死ぬかと思った」
《大丈夫かよスェカーチカ、紐ビンってなったぜ。やっぱハーネス着けててよかったな》
《………………そうだな》
アキに助け起こされている。セイカはあのままアキに任せおいていいだろう。
「み……くん」
「お、どうしたカンナウサギちゃん」
「泳ぐ……の、だ……じょぶ、思、てた、けど……やっぱ、り」
「ちょっと怖い感じ? よしよし、俺がついてるからな」
プールの授業を休んでいたカンナは泳ぎに不安があるようだ。俺はカンナの両手を掴み、後ろへ向かって立ち泳ぎをしてカンナのバタ足練習に付き合った。
「上手い上手い、全然大丈夫そうじゃないか」
しばらく泳ぎ、一旦止まってカンナを褒める。ウサミミフードの上から頭を撫でてやるとカンナは立ち泳ぎに移り、俺に抱きついた。
「泳、ぐの……ちょっと、怖……ったのは、ほんと……けど、みぃくん……と、泳ぎ……たかった、から……ちょっと、大げさ……に、言っちゃ…………ごめ、なさ……」
「……ふふっ、いいんだよカンナ。謝らなくていいし、そんな口実作らなくても俺一緒に遊ぶしさ」
「ぅん……みぃくん、だいすき」
ハッキリと伝えてくれたのが嬉しくて思わずカンナを抱き締める。
「はぁ、可愛い……泳ぎ方は思い出せたか? ちょっと競走とかしてみよっか。そうだなぁ……ここからサンのところまでとかどうだ?」
「ぅ、んっ」
元気に頷いたカンナから手を離し、一歩離れて横に並ぶ。おそらく底に足をつけたまま、波を身体で感じることを楽しんで今のところ動く気配のないサンの元へ泳いだ。
「ん……誰?」
俺の方が先にサンの背にタッチ出来た。
「また来た。何、誰?」
「ごめんごめん、俺とカンナだよ、サン。ちょっと競走してて」
「ふぅん……? ボク目印? ま、身長あるからねボク」
「び、くり……した? ごめ……なさ、ぃ」
「カンナちゃん? いいよ全然。あれ……何これ、何か付いてる」
サンはカンナのフードに触れ、ウサミミを軽く引っ張った。
「……これ、ウサギの、耳……飾り」
「飾り? ウサギの耳? ふぅん、そんなのあるんだ」
「めちゃくちゃ可愛いんだよ、カンナに似合ってて」
「へぇー……? ねぇ水月、浜ってあっちだよね?」
「え? うん」
「そっか、ありがと。波とその音でよく分かんなくなっちゃってさ、ボク海かなり久々だから」
砂浜に杭を打ってロープを結び、それをサンに持たせておくとかした方がいいのかな。そうすればサンは方向を失ってもロープを辿るだけで簡単に自力で浜に戻れる。
「泳ぎも全然……水月、ちょっと教えてくれない?」
「うん、いいよ。じゃあ俺の手掴まって」
まぁ、とりあえずは俺が傍に居るから必要ないかな。
「はぁー、冷たくて気持ちいい……」
「たったあれだけの移動とテントの設営で結構汗かいたもんな」
歌見は坂の上の別荘を見上げ、髪を海水に濡れた手でかき上げた。水滴と銀髪の輝きは美しく、つい見とれてしまう。彼の明るい性格にはやはり上半身裸が似合っているし、歌見は日焼け前と後の肌を同時に楽しめるのが一番分かりやすい魅力なのに、ラッシュガードを着てしまっているのは少し残念だ。
「そういえば水月、お前パーカーは……」
「俺のは水着じゃないんでテントに置いてきましたよ」
俺は上半身裸だ。元カレとの争いで付いた擦り傷が染みないか心配だったが、今のところ痛みはなくて一安心だ。
「鳥待くん、僕のシャチくん膨らませてくれたんだってね。ミフユに聞いたよ、ありがとう」
「いえ……」
シャチ型フロートを連れたネザメがシュカに微笑みかけている。
「……先輩って丸呑み性癖あります?」
「ないが?」
「いいですよねぇ丸呑み、力強く大きな生物に逆らうことも出来ず丸呑みにされて……全身ぬるぬるゴリゴリもみもみ……っあぁ! たまんないっ!」
「俺にはそんな特殊性癖ないんだよ、そんな話されても困る」
シャチ型フロートを改造して丸呑み疑似体験出来ないかなぁ、なんて邪な視線をフロートに向けていると、フロートに跨ろうとしたネザメがフロートごとひっくり返って海に落ちた。
「なんだっけ、日没の時に船を逆さにすると死者の国に行けるんだっけ……?」
「緑の閃光って実際にある現象らしいですね」
「マジか!? ってお前……アニメだけじゃなくて洋画もイケるんだな」
「有名どころなら何とか。お仕事系とか恋愛系は全然見てないですけど……」
なんて話しながら、ネザメは平気そうにしているのに「ネザメ様ぁあ!」と大騒ぎしているミフユを眺める。
「ネザメ様、こちらの浮き輪をお使いください! このフロートは不安定です、高さもありますし……せめてもっと平たいフロートならよいのですが」
「平たいのってカラフルなイカダみたいなのだろう? 嫌だよ、僕はこのシャチくんが好きなんだ」
シャチ型フロートはネザメのお気に入りのようだ。可愛い人だなぁ。とほっこりしていると、海水を顔に思いっきりかけられた。
「…………やったな? お返しっ!」
俺はすかさず水をかけてきたハルに水をかけ返した。
「きゃ~! あっははぁっ、あんま顔濡れてないよ~? みっつん狙い悪~い!」
水のかけ合いは海に来たら一度はやってみたいことランキングベストスリーまでには入るだろう。それも美少年相手となれば尚更。
「隙ありや!」
「わぶっ……! お前もかリュウ!」
リュウは手で水鉄砲のように少量の水を正確に飛ばしてきた。
《俺、海入んの初めてだぜ》
《俺も……》
《本当に波あるんだな、一回下ろすぜ》
視界の端でアキに抱えられていたセイカが下ろされるのが見えた。
《立てるか?》
《海は塩水だから浮力はプールより高いはずだ、だから余裕……》
《ふりょく……?》
「この幼卒が……うわっ!?」
アキの手を離れたセイカは波に負けて海の中へ転び、もがき、底に膝立ちになったのか何とか海面に顔を出した。
「ぶはっ! はぁっ、はぁ……し、死ぬかと思った」
《大丈夫かよスェカーチカ、紐ビンってなったぜ。やっぱハーネス着けててよかったな》
《………………そうだな》
アキに助け起こされている。セイカはあのままアキに任せおいていいだろう。
「み……くん」
「お、どうしたカンナウサギちゃん」
「泳ぐ……の、だ……じょぶ、思、てた、けど……やっぱ、り」
「ちょっと怖い感じ? よしよし、俺がついてるからな」
プールの授業を休んでいたカンナは泳ぎに不安があるようだ。俺はカンナの両手を掴み、後ろへ向かって立ち泳ぎをしてカンナのバタ足練習に付き合った。
「上手い上手い、全然大丈夫そうじゃないか」
しばらく泳ぎ、一旦止まってカンナを褒める。ウサミミフードの上から頭を撫でてやるとカンナは立ち泳ぎに移り、俺に抱きついた。
「泳、ぐの……ちょっと、怖……ったのは、ほんと……けど、みぃくん……と、泳ぎ……たかった、から……ちょっと、大げさ……に、言っちゃ…………ごめ、なさ……」
「……ふふっ、いいんだよカンナ。謝らなくていいし、そんな口実作らなくても俺一緒に遊ぶしさ」
「ぅん……みぃくん、だいすき」
ハッキリと伝えてくれたのが嬉しくて思わずカンナを抱き締める。
「はぁ、可愛い……泳ぎ方は思い出せたか? ちょっと競走とかしてみよっか。そうだなぁ……ここからサンのところまでとかどうだ?」
「ぅ、んっ」
元気に頷いたカンナから手を離し、一歩離れて横に並ぶ。おそらく底に足をつけたまま、波を身体で感じることを楽しんで今のところ動く気配のないサンの元へ泳いだ。
「ん……誰?」
俺の方が先にサンの背にタッチ出来た。
「また来た。何、誰?」
「ごめんごめん、俺とカンナだよ、サン。ちょっと競走してて」
「ふぅん……? ボク目印? ま、身長あるからねボク」
「び、くり……した? ごめ……なさ、ぃ」
「カンナちゃん? いいよ全然。あれ……何これ、何か付いてる」
サンはカンナのフードに触れ、ウサミミを軽く引っ張った。
「……これ、ウサギの、耳……飾り」
「飾り? ウサギの耳? ふぅん、そんなのあるんだ」
「めちゃくちゃ可愛いんだよ、カンナに似合ってて」
「へぇー……? ねぇ水月、浜ってあっちだよね?」
「え? うん」
「そっか、ありがと。波とその音でよく分かんなくなっちゃってさ、ボク海かなり久々だから」
砂浜に杭を打ってロープを結び、それをサンに持たせておくとかした方がいいのかな。そうすればサンは方向を失ってもロープを辿るだけで簡単に自力で浜に戻れる。
「泳ぎも全然……水月、ちょっと教えてくれない?」
「うん、いいよ。じゃあ俺の手掴まって」
まぁ、とりあえずは俺が傍に居るから必要ないかな。
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