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夕陽を見送る

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海で遊べず、各々の荷物を漁るという遊びも終わり、しかし風呂や睡眠を選ぶほどの時間でもない夕暮れ時。俺達は二階のベランダへ移り、夕日が沈んでいく海を眺めた。

「すっご……超綺麗~」

「都会に住んでいては地平線すら分からずビルの群れの隙間に消えていくのを見るばかりだからね、水平線に溶けていく太陽を見られる機会というのは貴重だよ」

「夕日と海もいいですけど、もっと上の方の空もすごいですよ。夜空と夕暮れの空が混ざって……」

赤色、薄紫色、紺色──グラデーションの空を見上げる。

「……流石だね、水月くん。素晴らしい……誰しもが夕日ばかりに夢中になる中、空全体の濃淡を愛でるだなんて……着眼点が違うね」

「い、いえ……そんな」

夕日に照らされる彼氏達を眺めていたから他の方角の空も同時に見られて、グラデーションが綺麗だなと思っただけなのに、そんなふうに褒めちぎられては照れてしまう。

「せめて潮風浴びたかったな~、なんで今無風なんだろ。昼間は吹いてたのにな~」

《……全然感動的な景色じゃねぇのはサングラスのせいか?》

サンとアキは退屈そうにしていたが、夕日を見られる時間はとても短いので彼らにはそのまま我慢してもらい、俺達は景色を楽しんだ。

「フユちゃ~ん、感想語って。詩的に」

「詩的に!? 詩的にっ……!? わ、分かりました……えぇと……」

「どんな感触しそうな景色だった?」

「感触っ……!?」

「机に置いた氷って感じだったよ、水平線の向こうに隠れて見えなくなるだけなのに、光の玉が水面に溶けていくみたいに見えるんだ」

ミフユが困っているようだったので助け舟を出してみたが、俺が思い付いたたとえには情緒もへったくれもなかった。なんだよ机に置いた氷って。

「なるほど~……? 太陽は熱いんだよね? 海は冷たい。けど太陽はまん丸の氷って感じなんだ」

「ついさっきの景色だけで言えば、俺はそんな感じに見えたなってことだよ」

「ふぅん……今度は夕日をモチーフに描いてみようかな。水月が教えてくれたイメージ忘れないようにしなきゃ……あ、録音させてもらっていい?」

スマホを向けられ、俺は照れながらも先程と同じ台詞を呟いた。

「……ん、ありがと」

録音を聞き直し、満足したらしいサンはスマホをポケットに戻して部屋に入った。俺達ももう帰ろう、夕暮れ時は終わった。

「夕日、綺麗だったね~。どうせなら二人きりで見たかったけど」

そう言いながらハルは俺の腕にぎゅっと抱きつく。純真な笑顔で見上げられて、思わず足を止める。不思議そうに目を丸くした彼の頬に触れると、目を細めて微笑んで俺の手のひらに顔を擦り寄せた。

「……ハル」

すべすべの頬を撫でて顎に手を下ろし、クイッと持ち上げて上を向かせるとハルは俺の求めを察して目を閉じた。夕日が沈んだばかりの空をバックに、俺達は静かに唇を重ねた。

「…………えへへっ、みっつんだぁ~いすきっ」

唇を離すとハルは真正面から俺に抱きつき直した。俺はそうっとハルの腰と背に腕を回し、少しずつ力を込めて彼を抱き返した。

「……怖くないか?」

背に腕を回した瞬間から明確にハルの身体は強ばっていたが、ハルは小さく頷いた。過去のトラウマから勝手に湧き上がってくる恐怖を無理矢理押さえ付けているのだろう、痛々しい、離してやりたくなるが、ハルはそんなこと望んでいない。恐怖を押して俺と触れ合いたがってくれているのだから、俺の勝手な罪悪感でその願いを潰してしまってはいけない。

「もう夜だし、そろそろそういうことしたいなぁ……って思ってたんだけど、ハル……いいか?」

「へっ? ぁ……う、うん、もちろん……」

「待て鳴雷一年生! この部屋ではダメだ」

この一番眺めのいい部屋はネザメの寝室として使う予定らしい。下品な言い方だがヤリ部屋として準備した部屋は別にあるそうなので、そちらに移動させてもらった。

「シーツは取り替えやすく、また下まで染み込まない物を使っている。床にも布団を敷いてあるので、ベッド外での行為も可能だ。壁はビニールを貼っているがそれは二面だけなので、残り二面や天井は汚さないでもらいたい」

「ありがとうございます……」

ベッドに加えてベッドの周りにも布団が敷かれている。小学校の頃、台上前転をする跳び箱の周りはこんなふうになっていたなぁと少し懐かしくなった。もちろん俺は丸々と太り過ぎていて跳び箱などろくに跳べなかったので、蘇るのは苦い思い出なのだが。

「床までふかふかしてキッズルームみたいだな」

「こんな部屋作って怪しまれませんでした? コイツら乱交する気ちゃうんか言うて」

「パッと見でそういう部屋と見破るのも難しいと思いますよ、妙な道具もなければ照明も普通ですし」

「布団やシーツその他は自分が一人で箱詰めし、食料等と共に送った。食料以外はこちらで開封すると言っておいたので、中身を見た者は居ない。こちらに来てすぐに自分が開封し、この部屋を作った。我々の関係が紅葉家の方、年積家の者にバレることはない」

「そもそもバレたところでそんなに問題ないよねぇ?」

「……ネザメ様の性が乱れ過ぎるとミフユがやんわり叱られます」

多少の乱れはあってもいいのか?

「おや……そうなのかい、それはすまなかったね」

「いえ、まだそのお叱りは受けていませんので……ネザメ様は優秀でいらっしゃいます」

「……ミフユが優秀だからだよ」

ぽんぽんと頭を撫でられ、ミフユは嬉しそうに頬を緩める。

「床までふかふかとは驚いたけど、ありがたい。ベッドも俺の家のより数段いいヤツだし……ハル、どうだ?」

「ど、どうって……」

「初体験、ここでいいか?」

ぽっと顔を赤らめたハルは小さく頷いた。

「おいで」

「ちょお待ってぇや水月ぃ、このめんの次俺やろ? 車から前戯しとったんやし……」

「お前途中でやめただろ、神社行くからって。レイは抜かなかったのに」

「ぅ……せ、せやけど」

「あ、俺……いいよ、全然。りゅーが先で……」

いつもと違ってしおらしいハルにリュウも調子が狂うようで、文句を付けておきながらバツが悪そうにしている。

「三人でするか?」

「えっ……みっつん、俺……初めては二人きりがいい……」

「……ハル、本番はまだ無理だぞ? お尻ほとんど拡げてないし……だから今回も拡張だけのつもりだったんだけど」

「…………さ、先言ってよぉ! 初めてはここでいいかとか聞くから俺っ、てっきり今からだって……! あぁもうっ、いいよ、本番じゃないなら何人でもいい!」

「霞染とするん初ちゃう? 初体験やな」

「うるさい!」

真っ赤になっているハルをいつまでも眺めていたいが、俺には準備という責務がある。俺は口論を続ける二人を置いてローションを温めに一階へ戻った。
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