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鞄の中身はなんだろな 終劇

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シュカの鞄をどけて、次にハルの前に置かれたのはレイの鞄だ。

「お次はこのめん!」

「俺もそんな面白いもんないっすよ」

レイの鞄の中身はノートパソコンやペンタブなどの仕事道具と、俺の私物よりも過激な大人の玩具の二ジャンルに分けられた。

「うわっ……人間に入んのかコレ」

《えっぐいバイブ……グロぉ》

流石のシュカやアキも引いてしまうような形状のバイブもあった。

「レイ……これは使わないぞ」

「わ、分かってるっすよぉ。俺だって怖くてまだ一度もまともに使えてないんすから……」

「スケッチブックある~。絵描くの?」

「はいっす、海描きたくて持ってきちゃったっす」

「分かる~、ボクも持ってきた」

デジタル以外の画材も数点見つかり、レイの鞄チェックは終了。次は歌見の鞄だ。

「…………なんか普通」

歌見の鞄を漁り終えたハルの最初の言葉はそれだった。

「悪かったな普通で」

「絆創膏とかちゃんと入っててお兄ちゃんって感じする~。入れ方もめちゃくちゃ綺麗だし~……でも面白くない! 次!」

むすっとした歌見の前で鞄をアキの物と交換する。

「さ~てアキくんのは~……? おっ、ヘッドホ~ン。いいね~。次……え?」

「ナプキンっすよ先輩」

「言わんでいい。なんだ、アキくん……痔か?」

「それはありませんよ」

「他人が即答すんのキモいよみっつ~ん」

兄弟兼恋人だというのに他人呼ばわりは酷くないか?

《どうしたんだ? アレ》

《家のトイレからパクってきた》

《入手場所じゃなくて、理由》

《止血道具。海なら岩場とかでずっこけたりするかな~って》

「……怪我した時に止血する用だってさ」

俺も含め彼氏達は全員「なるほど……」と静かに納得した。

「まぁ確かに血はよく吸うだろうが、これ足とかに貼るのか? 絵面がアレだな」

「これ使うような大怪我はしないようにしろよ」

「絆創膏レベルで抑えようね~、次……え、これ……大丈夫なヤツ?」

ハルが次に取り出したのはサバイバルナイフだ、革製のカバーを外すと銀色の鋭い刃がギラリと輝いた。

《あっヤベ》

「アキ……! お前これっ、返せって言っただろ!」

「この刃渡りは……ふむ、銃刀法違反だな」

「何、ナイフ? 見せて~」

「あ、危険ですよサン殿。自分が持っていますのでこちら側からつまむように触れてください」

「このヤバいのどったの~?」

アキはセイカを抱き上げてその影に身を隠している。セイカが抱いているテディベアのせいもあってアキの姿はほとんど見えない。

「母さんの仕事先のヤバい人がくれたんだよ、休み明けに母さんに突っ返してもらう予定だったのに……持ってきちゃったのか~、もぉ~……気に入ってたもんなぁ。ダメなんだぞ? 法律的に!」

「まぁまぁ、そんなに怒っちゃ可哀想だよ。まだ日本の法律に慣れていないんだよね?」

「寄越してきた奴はどうやって手に入れたんだこんなもん」

「これ兄貴の弟分が持ってるヤツと同じだ。品質いいよ~これ。いいのもらったねぇアキくん」

持ってきているのは一本だけのようだ。母に連絡しておこう……

「思わぬハプニングだったね~……気を取り直して次! は……ザメさん! 鞄見ていい~?」

「申し訳ないけれど、食料などを運び込んでもらった時に僕の荷物も運んでもらっていて、今日持ってきた物はほとんどないんだよ。すまないね」

「自分もそうだ」

「そうなんだ~……じゃあ次は~」

ネザメとミフユがパスとなると、その次は──

「──セイカだな」

「……パスでいいや。あんま興味ないし」

「ハル……」

「だって化粧水とかおんぶ紐とかみっつんの鞄に入ってたじゃ~ん? 着替えくらいしか入ってないっしょ」

ハルの代わりにセイカの鞄を漁ってみたが、その通りだった。そもそもセイカは私物をほとんど持っていない、俺が買い与えたりレイが買ってくれたりした物も服ばかりで、彼の趣味嗜好が分かるような物は一つもない。

「なんやこのヨレヨレのシャツ」

いや、あった。ビニール袋に詰められた洗濯していないシャツだ。

「……汗臭いですね」

「これ俺が着てたヤツ……おい、セイカ? 俺は確かにこれを洗濯機に入れたはずなんだけど?」

「…………秋風に頼んで取ってきてもらいました」

「犬みたいやの」

「メープルはそんな馬鹿な真似はせん」

ビニール袋に入れられ一晩経った物は雑菌が山ほど繁殖していそうなので、シャツは没収となった。

「おもろいもんはこんくらいやな。次はサンちゃんや」

「ど~ぞ~」

前職&兄の本職からなる不安と好奇心のままにハルがサンの鞄を開くのを見守る。

「……ヘアケア用品多いね~。サンちゃんの髪の綺麗さの秘訣はこれかぁ、商品名メモっとこ……他は~、ん~……お、スケッチブック」

「油絵はちょっと荷物とか準備とか時間的に無理っぽかったけど、鉛筆画はすぐに済むからね」

「サンちゃん弱視やのうて全盲なんやんな、油絵はまだボコボコしとるし分からんでもないんやけど、鉛筆画なんかどうやって描きはるん?」

「アンタらだって目ぇ瞑って自分の名前書くくらい出来るだろ? それだよ。自分で完成品見るのは無理だけど、旅行の思い出として写真と一緒に兄貴にでも見せようかな~と思ってね」

そう言いながらサンは体育座りをしてスケッチブックを膝に置き、左手で隣に座っているリュウの顔を撫で回しながら右手で鉛筆を走らせ、見事な似顔絵を描いた。

「出来た~、どう?」

「すっご……早……ヤバ……印刷機じゃん」

「……やっぱ水月以外の人間描いてもあんまり面白くないや」

「悪かったのぉつまらん顔しとって」

スケッチブックに描かれた絵とリュウの顔を交互に見ることに夢中のハルに変わり、サンの鞄を漁る。

「これは……?」

「ん? どれ?」

サンは俺が見つけた物に触れてから、丁寧に説明してくれた。

「葉巻カッターだよ。葉巻切るヤツ。葉巻は、えーっと……このポケットに入れたはず。あったあった、これこれ」

サンが葉巻を吸うとは知らなかったな。

「ヤクザ映画の指切るヤツやん」

「あははっ、そうらしいねぇ。でもこれで切るなら事前に切るとこで折っとかなきゃ無理だったよ、骨スパッと切れるような出来してないからさぁ」

「……人の指切ったことありますん?」

「元ヤクザジョーク! 本気にしたの? ふふ、穂張組はそんな前時代的なヤクザじゃないよ」

本当に冗談なのか? サンがずっとニコニコと笑っているのも怖くて、誰もそれ以上は突っ込めず、鞄の中身晒し大会はフェードアウトしていった。
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