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仲直り行脚
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歌見とレイに俺が混乱してしまっていた間の話を聞き、サンに押さえ付けられているアキの元へ走った。
「アキ!」
腕を背中に捻り上げられ、警察に取り押さえられた通り魔のように地面に伏しているアキの目は酷く鋭い。まるで手負いの獣だ。
「セイカ、翻訳頼む」
「…………」
「セイカ? アキを落ち着かせたいんだ、でも俺はロシア語が分からない。セイカしか翻訳出来ないんだ、やってくれ」
「……ぁ、なっ、鳴雷……ごめんなさい……俺、俺」
「後! 今はアキ! 何も考えず翻訳頼む! 頼む……」
セイカはこくこくと首を縦に振った。慰めが先だったか? いや、アキが先だ。
「アキ、落ち着け。セイカは無事だ」
俺には聞き取れない言葉がセイカの口から少しずつ零れる。彼の頬には赤い跡があるが、痛がっている様子はない。
「ごめんな、お兄ちゃんちょっと昔のこと思い出しちゃって……みんなを混乱させちゃった。お兄ちゃんが悪いんだ、お兄ちゃんに怒っていいから……ハルやサンには怒らないでくれ」
白い髪をそっと撫でる。ここが日陰になっているのはネザメのおかげだ、ネザメはアキの日傘を持って彼を日陰に入れ続けている。
「……セイカ、アキはなんて?」
「あ……その、かなり気が立ってて、文章になってないから……えっと、前に言ってたヤツと組み合わせて意図を読み解くと、アキはもう俺がどうって話じゃなくて、押さえ付けられて腹が立って……サン? に一泡吹かせたい的な……?」
「…………そうか」
「じゃあボクは接戦を演じつつやられればいい?」
「待ってサン、まだ押さえたままでお願い。セイカ、引き続き頼む」
視界の端に休憩中のシュカを捉える。
「……アキ、ちょっと冷静になって考えてくれ。お前今何やってるんだ? 何のために怒ったか思い出せ、セイカが叩かれてびっくりしたんだよな、止めに入った、それはえらいよ。でもなぁ……シュカ殴ったのは何でだ? シュカの目的はお前と同じだ、お前とハルが喧嘩になりそうだから止めに入った。お前の方が強いからハルを庇おうとしたんだな、そんないい子をなんで殴った? もうお前に正当性はないぞ?」
「…………うるさい、コイツどかせろって」
「聞いてないのかぁ……アキ、お前は強いんだから気軽に暴力振るうのやめろ。みんなだいたいお前より弱いんだよ……お前に叩かれたらお前がそんなつもりじゃなくても怪我するんだ、お前の想定より痛いんだよ。大いなる力には大いなる責任が伴うってヒーローが言ってたろ?」
なんて言ってもアキはそのヒーローを知らないか。
「反省しなさい、アキ。ハルを押したのとシュカを殴ったの、今も暴れようとしてること、この三つはお前が悪い」
「……み、みっつん……押したのは、俺が……俺が先にしたの」
「あぁ、じゃあ二人とも悪いな。ハルにも後で話がある」
「…………うん、ごめんなさい」
しゅんと落ち込んだハルは身体を小さく縮めた。
「……アキ、みんな仲良しな友達だろ? ハルと一緒に色んなことしたじゃないか、ハルはお前のこと可愛がってくれたろ? シュカもそうだ、お前はシュカによく懐いてたよな。ちゃんと反省しないと二人と仲良しに戻れないぞ? いいのか? 嫌だよな?」
アキの抵抗が弱まった気がする。
「…………一番好きなのはセイカか? 毎日飽きもせずずーっと抱きついてるもんな、アキが大好きなセイカは今、どんな顔してる? ちゃんと見ろ。セイカ、もう少し近くに……屈んで、そう」
セイカは歌見に支えられながらゆっくりと地面に腰を下ろした。ぺたんと尻をつけ、足を伸ばした呑気な座り方だ。テディベアのそれに似ている。
「セイカ、自分の気持ちと合わせて多少アレンジして伝えてくれ、ただし絶対に自分を蔑んだ言葉は使うなよ……アキ、セイカは今困ってるぞ、セイカはアキに暴れて欲しくなんてないはずだ。暴力振るって欲しがってると思うか? セイカが大事ならちゃんとセイカの気持ちも大事にしろ」
「……なんか大人しくなったし離していい?」
セイカの翻訳が終わるとサンがそう言った。俺達の気持ちが伝わったのだろうか。
「えっ……ど、どうだろ。すぐもう一回押さえられるんなら一回緩めてみてくれる?」
サンはアキの手首を掴んだまま立ち上がり、引っ張られる形でアキも立ち上がった。サンが手を離すとアキは袖を捲って手形を見て、舌打ちをして振り返り、サンに何か言った。
《痛ぇんだよクソデカブツ》
「……なんて?」
「えっと……痛かったって文句言ってる」
「割と自業自得だぞって言っといてくれ」
アキは俺の隣を通り過ぎてハルの元へと向かった。日傘を持ったネザメが慌てて後を追う。
「……ハル、痛いする、ごめんなさいです」
「え……あっ、お、俺の方こそごめんだよ! 俺が先にしたんだし……別に痛くはなかったから、大丈夫! ごめんね、アキくん」
「ハルー……ぼく、嫌いするです?」
「ううん! アキくんのことは大好き、本当にごめんね……アキくんこそ俺のこと嫌いになってない? 嫌わないで欲しいな」
ちゃんと謝れているようだ。翻訳の必要性を伺っているセイカの出番もないだろう。アキはちゃんと自分の言葉でハルと話せている。
「ぼく、ハル、好きです。仲良しする、嬉しいです」
「うん、俺も仲直り出来て嬉しいよ」
「つぎー……しゅーか、仲良しする、したいです。しゅーか、行くするです、ばいばいです」
「ん、また後でねアキくん」
ハルはアキを抱き締めた後、笑顔で手を振った。アキはシュカへと歩みを進める、ネザメとセイカが着いていく。
「……アンタには絶対謝らないし大っ嫌いだから」
アキが自分の方を向いていないのを確認し、ハルは酷く冷たい顔に変わり、低く小さな声でそう囁いた。
「…………うん」
セイカは歩みを止めることなくアキを追った。
「しゅーか、しゅーか、痛いする、ごめんなさいです。仲良しする、欲しいです。しゅーか……ぼく、嫌いするです?」
「そうですね、嫌いです」
「……! いやです、しゅーかぼく嫌いするいやです! しゅーか、ぼく、好きする欲しいです。ぼく……どうするです?」
「どうすれば好きに戻るのか、とか聞いてるんですか? そうですねぇ……私はあなたに一撃で沈められてプライドがズタズタな訳ですので、そんなあなたにご奉仕してもらえば優位に立った気がして気分が良くなりそうです。私にしばらくご奉仕してください」
「……? すぇかーちか~」
《しばらく言うこと聞けってさ》
《…………さては俺のこと嫌いになったって嘘だなコイツ。ホッとしたけど……まぁいいや、償わせてもらった方が気が楽だしな。もう少し後から開始にしてくれって言っといてくれ、まだ話したいヤツがいる》
「何でもするって。でももう少し後から始めさせてって」
「ええ、謝罪行脚の後で構いませんよ」
シュカとも仲直りを終えたアキは次にサンの元へ戻ってきた。
《悪かったな迷惑かけて。後で勝負しようぜ、もっと平和的な方法でな。ビンタし合うとか。日本の……なんだっけ、ておしずもー? ってのでもいいぜ》
「迷惑かけてごめんなさい。でもよければ後で勝負してください、手押し相撲などで……って」
「腕相撲ならいいよ、いつでも。って言っといて。あと、翻訳お疲れ様。これはアンタに」
「……ありがとう」
サンとも仲直り出来たみたいだ。
「にーに」
「俺の番か……なんだ? アキ」
「ごめんなさいです。にーに……にーに、泣くするしたです。どうするしたです?」
「反省出来てアキはえらいな。ちょっとしたフラッシュバックだよ、こないだ殴られたからお兄ちゃんの脳みそはちょっと傷んでるんだ」
「…………病院、行くするです」
「善処するよ」
頭を撫でてやるとアキは安心したように笑った、そして最後にネザメに抱きついた。
「へっ……? ア、アキくんっ……?」
《ありがとな、アンタ俺がパラソルから出てすぐに日傘持ってきてくれたろ? ずーっと追っかけて、俺日陰に入れて……そんなに俺が好きか? あーぁ真っ赤になっちまって……ふふっ、ご褒美やるよ》
話し終わるとネザメの唇を奪った。舌を入れているようでキスはかなり長い。
「傘持って日陰に入れ続けてくれてありがとう、だってさ」
おそらく、セイカの翻訳は茹でダコのような顔色でキスを受けているネザメには届いていないだろう。
「アキ!」
腕を背中に捻り上げられ、警察に取り押さえられた通り魔のように地面に伏しているアキの目は酷く鋭い。まるで手負いの獣だ。
「セイカ、翻訳頼む」
「…………」
「セイカ? アキを落ち着かせたいんだ、でも俺はロシア語が分からない。セイカしか翻訳出来ないんだ、やってくれ」
「……ぁ、なっ、鳴雷……ごめんなさい……俺、俺」
「後! 今はアキ! 何も考えず翻訳頼む! 頼む……」
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「アキ、落ち着け。セイカは無事だ」
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「…………そうか」
「じゃあボクは接戦を演じつつやられればいい?」
「待ってサン、まだ押さえたままでお願い。セイカ、引き続き頼む」
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「……アキ、ちょっと冷静になって考えてくれ。お前今何やってるんだ? 何のために怒ったか思い出せ、セイカが叩かれてびっくりしたんだよな、止めに入った、それはえらいよ。でもなぁ……シュカ殴ったのは何でだ? シュカの目的はお前と同じだ、お前とハルが喧嘩になりそうだから止めに入った。お前の方が強いからハルを庇おうとしたんだな、そんないい子をなんで殴った? もうお前に正当性はないぞ?」
「…………うるさい、コイツどかせろって」
「聞いてないのかぁ……アキ、お前は強いんだから気軽に暴力振るうのやめろ。みんなだいたいお前より弱いんだよ……お前に叩かれたらお前がそんなつもりじゃなくても怪我するんだ、お前の想定より痛いんだよ。大いなる力には大いなる責任が伴うってヒーローが言ってたろ?」
なんて言ってもアキはそのヒーローを知らないか。
「反省しなさい、アキ。ハルを押したのとシュカを殴ったの、今も暴れようとしてること、この三つはお前が悪い」
「……み、みっつん……押したのは、俺が……俺が先にしたの」
「あぁ、じゃあ二人とも悪いな。ハルにも後で話がある」
「…………うん、ごめんなさい」
しゅんと落ち込んだハルは身体を小さく縮めた。
「……アキ、みんな仲良しな友達だろ? ハルと一緒に色んなことしたじゃないか、ハルはお前のこと可愛がってくれたろ? シュカもそうだ、お前はシュカによく懐いてたよな。ちゃんと反省しないと二人と仲良しに戻れないぞ? いいのか? 嫌だよな?」
アキの抵抗が弱まった気がする。
「…………一番好きなのはセイカか? 毎日飽きもせずずーっと抱きついてるもんな、アキが大好きなセイカは今、どんな顔してる? ちゃんと見ろ。セイカ、もう少し近くに……屈んで、そう」
セイカは歌見に支えられながらゆっくりと地面に腰を下ろした。ぺたんと尻をつけ、足を伸ばした呑気な座り方だ。テディベアのそれに似ている。
「セイカ、自分の気持ちと合わせて多少アレンジして伝えてくれ、ただし絶対に自分を蔑んだ言葉は使うなよ……アキ、セイカは今困ってるぞ、セイカはアキに暴れて欲しくなんてないはずだ。暴力振るって欲しがってると思うか? セイカが大事ならちゃんとセイカの気持ちも大事にしろ」
「……なんか大人しくなったし離していい?」
セイカの翻訳が終わるとサンがそう言った。俺達の気持ちが伝わったのだろうか。
「えっ……ど、どうだろ。すぐもう一回押さえられるんなら一回緩めてみてくれる?」
サンはアキの手首を掴んだまま立ち上がり、引っ張られる形でアキも立ち上がった。サンが手を離すとアキは袖を捲って手形を見て、舌打ちをして振り返り、サンに何か言った。
《痛ぇんだよクソデカブツ》
「……なんて?」
「えっと……痛かったって文句言ってる」
「割と自業自得だぞって言っといてくれ」
アキは俺の隣を通り過ぎてハルの元へと向かった。日傘を持ったネザメが慌てて後を追う。
「……ハル、痛いする、ごめんなさいです」
「え……あっ、お、俺の方こそごめんだよ! 俺が先にしたんだし……別に痛くはなかったから、大丈夫! ごめんね、アキくん」
「ハルー……ぼく、嫌いするです?」
「ううん! アキくんのことは大好き、本当にごめんね……アキくんこそ俺のこと嫌いになってない? 嫌わないで欲しいな」
ちゃんと謝れているようだ。翻訳の必要性を伺っているセイカの出番もないだろう。アキはちゃんと自分の言葉でハルと話せている。
「ぼく、ハル、好きです。仲良しする、嬉しいです」
「うん、俺も仲直り出来て嬉しいよ」
「つぎー……しゅーか、仲良しする、したいです。しゅーか、行くするです、ばいばいです」
「ん、また後でねアキくん」
ハルはアキを抱き締めた後、笑顔で手を振った。アキはシュカへと歩みを進める、ネザメとセイカが着いていく。
「……アンタには絶対謝らないし大っ嫌いだから」
アキが自分の方を向いていないのを確認し、ハルは酷く冷たい顔に変わり、低く小さな声でそう囁いた。
「…………うん」
セイカは歩みを止めることなくアキを追った。
「しゅーか、しゅーか、痛いする、ごめんなさいです。仲良しする、欲しいです。しゅーか……ぼく、嫌いするです?」
「そうですね、嫌いです」
「……! いやです、しゅーかぼく嫌いするいやです! しゅーか、ぼく、好きする欲しいです。ぼく……どうするです?」
「どうすれば好きに戻るのか、とか聞いてるんですか? そうですねぇ……私はあなたに一撃で沈められてプライドがズタズタな訳ですので、そんなあなたにご奉仕してもらえば優位に立った気がして気分が良くなりそうです。私にしばらくご奉仕してください」
「……? すぇかーちか~」
《しばらく言うこと聞けってさ》
《…………さては俺のこと嫌いになったって嘘だなコイツ。ホッとしたけど……まぁいいや、償わせてもらった方が気が楽だしな。もう少し後から開始にしてくれって言っといてくれ、まだ話したいヤツがいる》
「何でもするって。でももう少し後から始めさせてって」
「ええ、謝罪行脚の後で構いませんよ」
シュカとも仲直りを終えたアキは次にサンの元へ戻ってきた。
《悪かったな迷惑かけて。後で勝負しようぜ、もっと平和的な方法でな。ビンタし合うとか。日本の……なんだっけ、ておしずもー? ってのでもいいぜ》
「迷惑かけてごめんなさい。でもよければ後で勝負してください、手押し相撲などで……って」
「腕相撲ならいいよ、いつでも。って言っといて。あと、翻訳お疲れ様。これはアンタに」
「……ありがとう」
サンとも仲直り出来たみたいだ。
「にーに」
「俺の番か……なんだ? アキ」
「ごめんなさいです。にーに……にーに、泣くするしたです。どうするしたです?」
「反省出来てアキはえらいな。ちょっとしたフラッシュバックだよ、こないだ殴られたからお兄ちゃんの脳みそはちょっと傷んでるんだ」
「…………病院、行くするです」
「善処するよ」
頭を撫でてやるとアキは安心したように笑った、そして最後にネザメに抱きついた。
「へっ……? ア、アキくんっ……?」
《ありがとな、アンタ俺がパラソルから出てすぐに日傘持ってきてくれたろ? ずーっと追っかけて、俺日陰に入れて……そんなに俺が好きか? あーぁ真っ赤になっちまって……ふふっ、ご褒美やるよ》
話し終わるとネザメの唇を奪った。舌を入れているようでキスはかなり長い。
「傘持って日陰に入れ続けてくれてありがとう、だってさ」
おそらく、セイカの翻訳は茹でダコのような顔色でキスを受けているネザメには届いていないだろう。
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