冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

文字の大きさ
上 下
880 / 2,034

旅行初日から大喧嘩

しおりを挟む
背中が温かい。長い腕に包まれている。ストローが咥えさせられて、少し吸うとサッパリとしたオレンジの味が俺を潤した。口に硬いものが押し込まれ、噛むと砂糖の甘みが舌の上に広がった。

「……落ち着いたっすかね?」

「ぽいな。びっくりしたぞ……なんで急に?」

「ギャルの話は地雷だったっぽいっすねー……不覚っす」

「えぇ? いや……本屋でバイト中、倉庫整理の時とかにギャルものの漫画の話何回かしたぞ? そん時は何ともなかった」

「じゃあ確定地雷じゃあないんすね。ブツブツ言い出した時点で止めてりゃよかったっす……」

生温い濡れたものが顔を撫で回している。

「…………犬臭い」

顔を犬に舐められていたらしい。周囲を見回すと数人の彼氏達が居た。背後には俺を抱き締めている歌見、真正面にはリュウの金平糖の瓶を持ったレイ、右隣にはジュースが入ったコップを持ったカンナ、左隣にはたった今俺が押しのけた犬がハッハッと舌を垂らしている。

「せんぱい、指何本っすか?」

「え……? 二本……えっ何俺そんななんかおかしかったの?」

「今まで二回ほど聞いたっすけど返事すらしてくれなかったっすよ、調子戻ったっぽいっすね。よかったっすぅ……金平糖食べるっすか? 四つまでならOKってリュウせんぱい言ってたっす」

「甘いもの食べると少し落ち着くだろ?」

「……うん、じゃあ……二個目もらおうかな」

「あっこれ三個目っす」

一個目を食べた記憶がない、本格的にヤバいな俺……なんでこんなことになってるんだ? 頭を打ったり顔や腹を殴られたりしたのが悪かったのかな。セイカが髪を染めたのも理由の一つかもな、彼は昔も髪を赤く染めていた。昔はグラデーションで、今は根元から毛先まで小豆色だから、雰囲気は似ていないのだが。

「ごめんなさいっすせんぱい、俺が変な話しちゃったから何か嫌なこと思い出しちゃったんすよね?」

「……いや、妄想勝手に広げたのは俺だからレイのせいじゃないよ」

確か、レイが日焼けしたらギャルっぽくなるかもなんて話していて、その流れで派手めの女の子には過去の経験からの苦手意識があるなんて話して、俺の脳はそのままイジメを受けた記憶を蘇らせて──いい加減にしろよ、もう半年以上前のことなんだ、幸せな記憶もたくさん出来たんだから早く忘れろよ。

「ごめんな、その気になってくれてたのに雰囲気壊しちゃって……気分じゃなくなってないなら、良ければ」

「水月、調子が戻ったんならセックスより先に別に出来た問題を解決して欲しいんだが」

「歌見せんぱい、でも……アレは」

「まぁまだ本調子じゃないだろう水月に任せるのも酷だが、あっちも早く落ち着かせないとまずいだろ。アキくん締め落とさなきゃならなくなるぞ」

「ファッ!? な、何!? 何、うちの弟が何を!?」

歌見の腕を振りほどいて立ち上がるとサンに関節技をキメられているアキの姿が数メートル先にあった。急いで向かおうとするとまだ立ち上がれていない歌見に腕を掴まれた。

「待て待て待て待て! 何があったかを聞いてから行ってくれ、これ以上拗れたらどうしようもない!」

「で、でもアキが!」

「サンだって手加減はしてるはずだ、動きを止めてるだけで痛みはそんなにないはず……いいから話を聞け!」

俺がアキを解放させてはアキが何かをやらかすのかもしれない。弟には無条件で味方をしたいが、正直アキにはそういった方面でのよくない信用がある。

「……分かりました、出来るだけ短く教えてください」

「分かった。霞染が狭雲を引っ叩いてアキがキレた、サンが今頑張って押さえ込んでる」

「…………もう少し詳しく」

「サンの前に鳥待が頑張ったが、負けた。今は休憩兼拗ねてる」

詳しく話して欲しかったのはそこじゃない。

「……せんぱいが嫌なこと思い出してああなっちゃった原因は、狭雲くんっすよね? 霞染せんぱい……泣きながら土下座してるせんぱい見て我慢出来なかったみたいなんす、狭雲くん叩いてお前のせいだって、それで……アキくんは日本語よく分かってないじゃないっすか? 事態把握出来てなかったみたいで、とりあえず狭雲くん助けようとしたみたいなんすよね。最初は単に割って入っただけなんすけど、ハルせんぱいかなりヒートアップしててアキくんの肩押して……それで、えっと」

レイはカンナが持っている俺のジュースを少し飲み、口を湿らせて説明を続けた。

「ハルせんぱいが狭雲くんの胸ぐら掴んで、アキくんがハルせんぱいの腕捻って……? その辺りっしたっけ、シュカせんぱいが入ったの」

「あぁ、霞染は華奢だしアキくんはめちゃくちゃ強いから、ヤバいと思ったんだろうな。でも顎に掌底食らって沈んだ」

「それで、リュウせんぱいがサンさんに言って、アキくん押さえてもらったんす。イマココっす」

俺が馬鹿みたいに妄想を膨らませてトラウマを勝手に掘り起こしたせいで、とんでもないことになってしまった。これは楽しい旅行じゃなかったのか? あぁ、時間を巻き戻したい。レイとイチャラブセックスしたい……

「分かった。まずアキを落ち着かせて、その後ハルとセイカのケア。余裕が出来たらシュカの慰め、サンさんにお礼、みんなにお礼と謝罪、ネザメさん達には特に強めにな……で、レイとセックスだな」

「最後のは余計だ」

「よっ、余計じゃないっすよ!」

「ご褒美があると頑張れる。じゃ、行ってくるよ……っていうかみんな着いてきてくれ」

四人と一匹で他の彼氏達の元へと向かう。詳しく聞いたとはいえ、聞いただけの話を元にアキを説得……アキの説得ってどうすればいいんだ? セイカは今翻訳出来るのか?

《秋風! やめてくれ、俺なんかのために怒らなくていいから! 当然のことされただけなんだから!》

《るっせぇぞ黙ってろ! コイツっ、このデケェのぶっ倒さなきゃ気が済まねぇ!》

翻訳は出来そうだ、説得には失敗しているみたいだから俺の作文力次第だな。出来るのか? 俺に。いや、やらなくてはならない。兄弟の絆とかが発動するよう祈っていよう。
しおりを挟む
感想 458

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。

白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。 最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。 (同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!) (勘違いだよな? そうに決まってる!) 気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

催眠アプリ(???)

あずき
BL
俺の性癖を詰め込んだバカみたいな小説です() 暖かい目で見てね☆(((殴殴殴

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

処理中です...