冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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命名 ヨン

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サンのマイペースな可愛らしさに俺はもう夢中だ。しかし今はレイが離れていると不安だ。俺は衝動に身を任せてサンに触れるのではなく、不安を薄めるために隣に座っているレイの腰を抱いた。

「……えへへっ」

レイは嬉しそうに笑って俺の肩に頭を預けた。

「ボクの名付け親ことセイくん、アキくんはなんて? 痛みマシになった?」

「あっ、はい、元気ないし不機嫌ですけど、飯食いに行くなら行くって」

「そう……やっぱり元気ないんだねぇ、水月が普通に過ごしてるのが逆にすごいのかな?」

「全身の鈍痛を態度に出さないのは特技なんです」

中学時代、セイカにイジメられていることを母に悟らせないように気を付けていたら自然と身に付けていた特技だ。まぁ、あの時とは比べ物にならない痛みなのだが……160センチ代細身優等生の蹴りと二メートル超え筋骨隆々不良の蹴りはやっぱり違うなぁ。

「何それ~、ふふっ、兄貴みたい。兄貴もね、痛いって言わないんだよ」

「へぇ……やっぱり弱音吐かない方が頼れる兄って感じなのかな。俺もそうしようかなぁ……」

「今好かれてるなら今のままでいいと思うけどなぁ」

のそのそと起き上がったアキが日焼け止めを塗り直している間、彼氏達と楽しく話した。

「帽子とかサングラスとか投げちゃったもんな、外歩く時は目瞑っとくか? お兄ちゃんが引っ張ってあげるぞ 腕は……どうしようなぁ、日焼け止め信じていいのかな?」

「どうしたの? 水月」

「あ……サンにはまだ言ってなかったっけ。アキはアルビノで、眩しいのとか苦手で……肌も弱いから太陽光あんまり浴びるのはまずいんだ」

「ふぅん……? サングラスあるよ、使う?」

「本当っ? ありがとう、貸して貸して」

アキが普段使っている物ほどではないが、そこそこ色の濃いサングラスだ。長時間晴天の下を歩くのでなければ十分だろう。

「紫外線カットとかはないけど上着もいる?」

「うん、直接当たるよりは……」

アキとサンの身長差は二十センチ以上、サンの上着をアキが着れば袖から手は出ず、本来尻は隠さない丈だろうにシャツワンピースのような丈になり、肩がずり落ちた。

「…………大きい、です」

「フード付きだよ」

フードを被せるとアキの顔は口すら隠れた。

「可愛いぃい……!」

「お兄ちゃん喜んでるよ、よかったね」

フード越しにサンに頭を撫でられてもアキはフードを捲ることも彼に視線を向けることもせずじっとしている、元気がない。やはり殴られた箇所が痛むのだろう。

「……この間はごめんね、アンタのお兄ちゃん独り占めしちゃって……でも、たまに貸してね」

《アンタもデケぇなぁ……親父が日本人はチビばっかだっつってたんだが、嘘つきやがったなあの野郎》

「何語?」

「ロシア語だよ、翻訳出来るのは今のところセイカだけ。セイカ、頼られるの嬉しいみたいだから遠慮せず頼んでね」

「ロシアかぁ……寒いとこだよね? アルビノなら真っ白なんだろうし、雪積もってたら見失っちゃいそうだ。でもボクならアキくんが音を出してくれたら見つけられるよ、きっとお兄ちゃんより早くね。ふふ……仲良くして欲しいな」

フードの中にサンの大きな手が入っていく、アキの顔を見ているようだ。サンにそんな意図はないと分かっているのに、布の下でごそごそと手が動いている様子はとてもいやらしく、俺は悶々としてしまう。

「あ、顔は水月にちょっと似てるね、でも鼻の高さとか……全体的に彫りがちょっと深め? 外国人っぽいけど、外国人と比べると薄い顔なんだろうね。日本人が可愛がりやすいハーフの子って感じだ」

《顔は殴られてねぇから別にベタベタ触ってもいいけどさぁ》

「……サン、サンは俺の彼氏でアキは俺の弟なんだから、アキはサンの弟みたいなもんだって思えないか? そうやって可愛がってやってくれよ、無邪気で好奇心旺盛で、素直ないい子なんだ」

「そっか、ボクの弟……ふふふっ、かーわいぃ。今日からアキくんはヨンだよ、よろしくヨン」

「穂張家に入れていいとは言ってないよ!」

「冗談じゃないか。お兄ちゃんはジョークが通じないねぇ、ヨン?」

「染み付ける気満々じゃん……!」

「あははっ、冗談冗談。よろしくね、アキくん」

《撫でられ過ぎて顔減りそう》

アキの準備はすっかり整ったし、母国語でボヤく程度の元気も出てきたようだ。出発してもいいだろう。

「くーちゃっ……か、形州居ないっすかね?」

「待ち伏せしてるって? うーん、ないとは思うけどなぁ……追いかけてきてなかったんだろ?」

「ええ、しかし念のため顔が割れていない者がいいかと」

「今回車から出んかったんはせーかやけど、前に本屋か何かでおうた言うてたなぁ。水月のツレやバレとるやろ」

「……私が一番可能性が低いですかね」

「ボクじゃない?」

「あなたは一度見たら忘れられない見た目をしているので」

確かに長身の長髪で白メッシュ入りなんて、二次元のような特徴の濃さだよな。

「とりりんも頭に残る見た目しとんで?」

「あの距離じゃ傷までは見えていないでしょうし、大丈夫ですよ。私が先行しますね」

シュカが扉を開けて外へ出る。ドキドキしながら待って数十秒後、シュカが戻ってきた。

「見える範囲には居ません。サンさん、道案内をお願いします」

「連続になって変だからサンだけでいいよ。出て右に曲がって真っ直ぐ行って右行って、しばらく進んで左で」

「いくつめの曲がり角とか言ってくださいよ」

「……だいたい二百歩ちょい」

「そこでレポートっすね」

「感覚でしか覚えてないなら一緒に来てください」

シュカとサンの二人が先を歩き、俺達は数メートル後ろを行く。警戒にやり過ぎはない。

《秋風、大丈夫か?》

《んー……足も痛い》

《歩くのアレだったら俺が肩貸してやるからな》

《スェカーチカチビじゃん》

《お前らがデカ過ぎるんだよ!》

最後尾はアキとセイカだ、アキは普段なら俺に抱きついてきたりするのに……やっぱり元気がないんだな。

「あ、あのせんぱい、歩きにくいんすけど」

寝室からずっとレイの腰を抱いているのだが、とうとうレイが文句を言い始めた。

「……俺と離れたいってことか?」

「そんな、めちゃくちゃ嬉しいっすよ。でも歩きにくいんで、いつもの俺がせんぱいの腕を抱く方式にしないっすか?」

「それじゃレイが掴まってるだけで、俺が捕まえておけないじゃん」

「捕まえておきたいんすか? えへへ……じゃあ手繋ぎでどうっすか?」

「ちょっと不安だけど……まぁ、いいよ」

指を絡めて手を繋ぎ、突然レイが後ろから来たバイクだとかに攫われても離さずにいられるように力を込めた。痛みを感じていないかと気遣うことすら出来なかったのに、レイは嬉しそうに笑って俺を見上げ続けていた。
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