冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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愛称が欲しい

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フタが去った後、扉に鍵をかけたサンの表情はとても幸せそうに緩んでいた。

「……サン、お兄さんのこと大好きなんだね」

「分かる?」

照れたように微笑む彼もまた可愛らしい。俺の傍へと戻った彼の美しい顔を見上げ、俺も微笑んだ。

「顔見てれば分かるよ」

「……ずっと二人だったんだよね、感覚的にはさ」

「三兄弟なのに?」

「フタ兄貴はお店に連れてってくれたり、この家に来て晩ご飯一緒に食べてくれたりするけど、ヒト兄貴はそんなことしないからね」

「そっか……忙しいのかな」

経営者の上既婚者だそうだし兄弟に構う時間が減るのは仕方ないが、たまには兄弟水入らずの食事会くらいすればいいのにな。

「……そうかもね」

声に心がこもっていない。仲が悪いだとか、そんな言葉では言い表せない関係なのだろう。

「水月……ふふ、フタ兄貴以外で失いたくないものが出来たのは初めて。大好き。水月のためならボクすごく頑張れるから、もう二度と勝手なことしちゃダメだよ?」

「…………ごめん」

「確かにボクは穂張組を協力させることは難しいって言ったけれど、包丁よりもずっといい武器を貸してあげたりすることは出来るし、バレないようにやっちゃう方法だって考えられるからね?」

「う、うん……」

「……ちなみにボクは山を持ってるよ」

「へぇ……ちょ、ちょっと前、キャンプとかで山の一角買うの流行ったよね」

「…………都合の悪いモノは誰も来ないところに埋めちゃえばいいんだよ、難しく考えないでね、マイダーリンっ」

怖過ぎる。

「あ、そうだ……ねぇねぇみんなー! ボク山持ってるんだけどさ、夏休みならキャンプとか行かない?」

サンは小走りで寝室に戻った。キャンプの提案に乗り気なリュウの声も聞こえてくる。

「……肝試し出来そうですね」

「やっぱりぃ? シュカも色々埋まってると思う? そうだよなぁ……! どうしようめっちゃ怖い……」

「…………あの人ヤクザか何かですか?」

「サンさん自体は画家なんだけど、兄弟がやってて関わりは深い感じかな……」

「なるほど。元カレさんの処理方法分かってよかったじゃないですか、後は仕留め方……木芽さんを一回渡して一服盛らせるとかどうです?」

解決策が見えてきてしまったが、仄暗い秘密を抱えたハーレムなんて湿度の高そうなものの主になりたかった訳じゃない。俺はただ可愛い男の子に囲まれてチヤホヤされてイチャコラしたいだけなんだ。

「はぁあ……」

「殺す覚悟出来ました?」

「したくねぇ……」

「包丁持ってった方が何を言ってるんですか」

「どうかしてたんだよ……」

「……じゃあ、木芽さんが取られた時のことを思い出して……どうです? 殺意湧きました?」

シュカは俺の顔を覗き込んでニマニマと笑っていたが、不意に目を見開き、それからとても扇情的な蕩けた笑顔を浮かべた。

「イイ……」

「へっ?」

「やっぱりあなた、ちょっと頭おかしいんですね。覚悟決めた顔すごく格好いいです、ゾクゾクします……」

「…………褒められて嬉しいが勝った! ありがとうシュカぁ、ゾクゾクしちゃうかぁ可愛いなぁお尻モミモミしちゃゔっ!?」

頭がおかしいと言われた悲しさよりも、格好いいと言われた嬉しさが勝ち、はしゃいでしまって尻を揉んだら腹を殴られた。

「……あっ、やば。水月が元カレさんにボコられてたの忘れてました、すいません」

「だ、だい……じょぶ…………だけど、俺の分の肉は、シュカにやるからな……」

「本当にすいません……でも急にお尻触る方が悪いです、反省してください。恋人だからって無遠慮に触っていい訳じゃないんですよ」

カンナやレイなどいつどこを触っても照れるだけで嫌がりはしない彼氏を狙ってお触りをするのは簡単だしそれも好きだが、絶対に怒られ殴られるタイミングでシュカに触るのも好きなのだ。

「好きな子に、ちょっかいかけたい、男心……字余り」

「…………」

小学生男子並だとバカにすることも、何故俳句風なんだとツッコむこともなく、シュカは俺に蛆の沸いた生ゴミでも見るような目を向け、寝室へと去っていった。

「そこまで……!? ごっ、ごめんシュカ、ごめん……二度と勝手に触らないからぁ!」

すぐに追い、縋り付いて謝る。

「…………お願いしますよ? ヤれない時にムラムラしちゃうの嫌なんですから」

「えっ何その可愛い理由やっぱり揉みたい」

「腹死にますよあなた」

そう言いつつもボディブローは控えて手を払う程度で許してくれるシュカは優しい。

「水月と弟くんの痛みがある程度引いたら出発しようと思ってるんだけど、どう? 水月、アキくん……は、セイくんに聞いた方がいいのかな?」

「俺はいつでも行けるよ」

「そっか…………セイくん? 寝ちゃった?」

「……あっ、お、俺ですか? ごめんなさいっ、その呼ばれ方初めてで、えっと、秋風、秋風の調子ですね、すぐ聞きます!」

アキの腕の中でうとうととしていた様子のセイカは慌てて翻訳を始めた。

「…………あの子名前セイカだよね? セイくんって定番だと思うんだけどなぁ」

「せーかはあだ名よぉ付けよるもんとまだあんまり話してへんもんで」

「リュウも割とあだ名付ける方だろ」

「俺このめんっすからね、可愛くってお気に入りっす」

「……おかしくないですか?」

和気あいあいと話していたと思っていたのに、突然シュカが真剣な表情と声色でそう言った。

「……何がだ?」

思わず俺もシリアスに乗ってしまう。

「天正さん……時雨さんのことはしぐ、小六さんはころ、霞染さんはハル……秋風さんはアキ、会長や歌見など歳上以外にはあだ名を付けているんですよ」

「お前はなんで歌見先輩だけ呼び捨てなんだよ」

「なのに私だけ鳥待、苗字呼びなんですよ」

「……! そういえば」

大したことのない内容なのに、シリアスに乗ったままミステリー作品の山場で探偵の推理を聞いているモブのような反応をしてしまった。

「なんなんですか、私のこと嫌いなんですか?」

「…………敬語やし天正さん呼んでくるから距離取った方がええんかな思て、鳥待呼んでたら染み付いてもうただけやで。そんなん気にしてたん? かわええとこあるやん」

「シュカはギャップ萌えの塊、実はめちゃくちゃ可愛いぞ!」

「……何も言わなきゃよかった」

「照れなや~、なんか考えたるって。と~りりんっ」

「それは嫌です! っていうか別にあだ名付けて欲しい訳じゃないですよ、ただ私だけ法則から外れてるのが気になっていただけで……!」

リュウに無理矢理肩を組まれ、彼を引き剥がそうとたシュカは頬を赤らめている。嫌われていないか不安だったのだろうか? 可愛いなぁ。

「……ボク友達居なかったからあだ名とか付けられたことないんだよね、いいなぁ」

「サンは二文字だから付けにくいよ……」

「もじってよ。漢字は蚕だから~」

「……富岡製糸場くん」

「蚕からの連想一発目それなの? 絹ちゃんとかシルクちゃんが来ると思ってたよ」

サンとセイカも結構仲良くなれそうだな、そうなったらセイカはまた過去を話そうか悩むのかな? アキは気にしなかったけれど、サンはどうだろう、俺を監禁するくらい好きだから少し不安だな。

「世界遺産なのに……不満か?」

「世界遺産なの? じゃあいいかも」

「いいの!?」

「富岡製糸場くんって呼んで」

「長いよ……!」

「トミーでいいよ」

「原型がないよ! サンはサンでいいじゃん、綺麗な名前だよ」

「えーだって、ヒトフタサンだよ? 雑過ぎるよ、愛情を感じない。じゃあ世界遺産でありセイくんが考えてくれたトミーがいいよ」

「……ほ、本当にそうならトミーって呼ぶよ」

「…………サンでお願い。こうやってバカ話してる時ならまだしも、いい雰囲気になってきた時にトミーとか呼ばれたら吹き出しちゃう……んふふふっ」

歌見は名前に嫌な思い出があるらしく名前を呼ばれるのを好まないから、サンもそんな感じなのかと対応しようとしたのに……サンと話していると肩の力が抜けるなぁ。今のように悩みがある時は最適な彼氏だ、今後もたくさん甘えさせてもらおう。
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