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やっぱり関連店舗
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あまり目立たない見た目をした焼肉屋の扉をくぐり、にこにこと笑っている店員に出迎えられる。いや、店長だ、名札にそう書いてある。
「いらっしゃいませ!」
「久しぶり~。最近家で食べてばっかりだったからなぁ……あ、この子達ボクの友達。えっとね……水月どれ?」
サンは足音などで俺達の大体の場所は把握しているようだが、どれが誰かは分からないようで振り返って首を傾げた。
「ここだよ、サン」
レイと手を繋いだままもう片方の手を軽く上げる。
「あれが水月、ボクの恋人」
「へぇ! 恋人さん! へぇー……男の方なんですね」
店長はジロジロと俺を眺める、値踏みされているような気分だ。
「……男前ですねぇ」
ニヤリと笑い、自身の頬をつつく。男前というのは顔の造形の話ではなさそうだ、喧嘩の傷は男の勲章だとでも?
「昔女の子相手になっかなか勃たなかった訳が分かったよ、ボクはインポじゃなかった」
「人間に興味ないのかと思ってやした。ささ、どうぞ奥に」
四人用のテーブル席ではなく奥の宴会場のような席へ通された。段差を越えて畳に乗り、座布団の上に腰を下ろすと、テーブルの下が深く掘られていることに気付いた。掘りごたつのような構造だ。胡座をかいてもよし、椅子に座るように座ってもよし、なかなか快適だ。
「座敷は久しぶりだね、だいたいフタ兄貴としか来ないから二人席だもん」
「こちらの方がよろしければお二人でもこちらに通させていただきますが……」
「スカスカで寂しいじゃん、風の流れとか温度で人の密度は見えるんだよボク」
「へぇ、これは失礼」
サンは店長と相当仲がいいようだ、常連なのだろう。
「お肉じゃんじゃん持ってきて。みんないっぱい食べたいよね?」
「はい!」
元気よく返事をしたのはシュカだ。
「へい。お前ぇらぁ! じゃんじゃか切って持ってこい!」
店長が厨房に向かって叫ぶと大勢の雄々しい返事が聞こえてきた。あぁ……やっぱりここもヤクザ関連店舗……
「タンが最初とかなんか色々オススメの順番あるんだよね? 何から持ってくるかは任せるよ。でもみんな欲しいのそれぞれ違うだろうし、それはメニューで……メニューは?」
「こちらでごぜぇやす。どうぞ。こちらは皆様用……」
サンには漫画本サイズの小さなメニューを、俺達にはA4サイズの大きなメニューが渡された。机の真ん中に置いたそれを全員で眺める様子を尻目にサンのメニュー表をチラッと覗くと、写真も文字もなく点が大量に並んでいるのが分かった。
(点字ですかな? 対応しているとは……よきお店ですな)
今まで盲目の者と共に過ごした経験がないから実際のところは分からないが、点字のメニュー表が用意してある店なんてそうそうないのではないだろうか。
「……自分はあなたこそがオヤジの跡を継ぐべきだと今でも思ってます」
「アンタ毎回それ言うねぇ、鬱陶しいよ?」
「すいやせん。しかし……姐さんの子はあなたなのに、昔ちょっと遊んだだけの女の子が組長なんて……あの薄汚ぇ女、手切れ金貰っといて堕ろしもしねぇでウチに押しかけて……」
「なぁにまた昼間からお酒飲んだの?」
「ヒトの野郎が大人になれたのは姐さんの寛大さあってこそ! だってのにアイツは……っ!?」
店長とボソボソ喋っていたサンは突然彼の胸ぐらを掴んで引っ張り、机の角に彼の顔を叩き付けた。
「へっ……? サっ、サン? なな、な、何して……」
「不平不満はあって当然、昔のよしみで愚痴も聞いてあげる。でもねぇ、それはダメだよ。その呼び方はダメだ、分かるね?」
「すっ、すいやせん……」
「ボクしか聞いてなくてよかったねぇ、罰はこれで終わりだ」
「……やはり姐さんに似てお優しい」
結構な量の鼻血が出ているのに優しい? いや、フタがヒトから受けた仕打ちを考えれば、サンは優しい方なのか?
「ヒト兄貴が継ぐのは仕方ないだろ? 三兄弟唯一の健常者なんだからさぁ。アンタらだって報告書とか読み上げたり点字に打ち直したりすんの大変そうだったじゃん」
「しかし……百歩譲って組長があの方なのはいいとしても、あなたが組に一切関わらないというのは……」
「絵描いてる方が儲かるし楽しいもーん。ボクは現状に満足してる。アンタらも生活は一応成り立ってるんだし、ボクを思って不満溜めるのはやめなよ」
「お待たせしました~」
誰も雑談なんて出来ずサンと店長のやり取りを見守る中、何も知らない店員が肉を盛った大きな皿を持ってやってきた。
「ごゆっくり……どうしたんですオヤジぃ!?」
「うるせぇ、仕事に戻れ。あぁ……てめぇが火ぃ入れろ、俺ぁ血で汚しちまう。洗ってくる……」
血まみれの手で鼻をつまみ、店長は店の奥へと引っ込んで行った。残された店員は俺達の顔を見回し、気まずそうにしながらテーブルの下側にあるツマミを弄った。
「火ぃ入れさせていただきます……」
ボッ、と音がしてテーブルの中心にある網の下で火がゆらゆらと揺らめき始める。
「焼きを店の者に任せるか、ご自分達で……えー、セルフサービス……がありますが、どちらにいたしましょう」
「どうする? 水月。ボクはフタ兄貴と来た時は頼んでるんだけど、自分で焼く? 肉のプロが一番いいタイミング分かってるとしても、焼き加減の好みはあるもんねぇ」
「そ、う……だね。自分で焼きます……」
普通の店員でも嫌なのに、ヤクザに席に居座られるなんて絶対に嫌だ。焼き加減の質が多少下がったとしても、過ごしやすさの方が一番だ。
「ぁい、ではごゆっくり」
「待ってください、注文していいですか? その盛りに鳥ありませんよね、この鶏もも塩ダレ四人前ください」
「へい! 他にご注文は……」
「キャベツ欲しいっす」
「白飯もください」
「あ、俺も飯欲しいわ。水月は?」
「米食うと肉食う胃の隙間が減るから……」
「えー、焼肉は米と一緒に食うてこそやろ」
みんな普通に振る舞っている。サンと店長のやり取りが気にならなかったのだろうか、それとも抑えているだけだろうか。
《スェカーチカ、俺牛の赤身が食いてぇ》
「鳴雷、牛の赤身ってどれかな」
十中八九みんな気にしていつつも態度に出さないようにしているだけだと思うが、アキだけは本当に気にしていなさそうだ。
「いらっしゃいませ!」
「久しぶり~。最近家で食べてばっかりだったからなぁ……あ、この子達ボクの友達。えっとね……水月どれ?」
サンは足音などで俺達の大体の場所は把握しているようだが、どれが誰かは分からないようで振り返って首を傾げた。
「ここだよ、サン」
レイと手を繋いだままもう片方の手を軽く上げる。
「あれが水月、ボクの恋人」
「へぇ! 恋人さん! へぇー……男の方なんですね」
店長はジロジロと俺を眺める、値踏みされているような気分だ。
「……男前ですねぇ」
ニヤリと笑い、自身の頬をつつく。男前というのは顔の造形の話ではなさそうだ、喧嘩の傷は男の勲章だとでも?
「昔女の子相手になっかなか勃たなかった訳が分かったよ、ボクはインポじゃなかった」
「人間に興味ないのかと思ってやした。ささ、どうぞ奥に」
四人用のテーブル席ではなく奥の宴会場のような席へ通された。段差を越えて畳に乗り、座布団の上に腰を下ろすと、テーブルの下が深く掘られていることに気付いた。掘りごたつのような構造だ。胡座をかいてもよし、椅子に座るように座ってもよし、なかなか快適だ。
「座敷は久しぶりだね、だいたいフタ兄貴としか来ないから二人席だもん」
「こちらの方がよろしければお二人でもこちらに通させていただきますが……」
「スカスカで寂しいじゃん、風の流れとか温度で人の密度は見えるんだよボク」
「へぇ、これは失礼」
サンは店長と相当仲がいいようだ、常連なのだろう。
「お肉じゃんじゃん持ってきて。みんないっぱい食べたいよね?」
「はい!」
元気よく返事をしたのはシュカだ。
「へい。お前ぇらぁ! じゃんじゃか切って持ってこい!」
店長が厨房に向かって叫ぶと大勢の雄々しい返事が聞こえてきた。あぁ……やっぱりここもヤクザ関連店舗……
「タンが最初とかなんか色々オススメの順番あるんだよね? 何から持ってくるかは任せるよ。でもみんな欲しいのそれぞれ違うだろうし、それはメニューで……メニューは?」
「こちらでごぜぇやす。どうぞ。こちらは皆様用……」
サンには漫画本サイズの小さなメニューを、俺達にはA4サイズの大きなメニューが渡された。机の真ん中に置いたそれを全員で眺める様子を尻目にサンのメニュー表をチラッと覗くと、写真も文字もなく点が大量に並んでいるのが分かった。
(点字ですかな? 対応しているとは……よきお店ですな)
今まで盲目の者と共に過ごした経験がないから実際のところは分からないが、点字のメニュー表が用意してある店なんてそうそうないのではないだろうか。
「……自分はあなたこそがオヤジの跡を継ぐべきだと今でも思ってます」
「アンタ毎回それ言うねぇ、鬱陶しいよ?」
「すいやせん。しかし……姐さんの子はあなたなのに、昔ちょっと遊んだだけの女の子が組長なんて……あの薄汚ぇ女、手切れ金貰っといて堕ろしもしねぇでウチに押しかけて……」
「なぁにまた昼間からお酒飲んだの?」
「ヒトの野郎が大人になれたのは姐さんの寛大さあってこそ! だってのにアイツは……っ!?」
店長とボソボソ喋っていたサンは突然彼の胸ぐらを掴んで引っ張り、机の角に彼の顔を叩き付けた。
「へっ……? サっ、サン? なな、な、何して……」
「不平不満はあって当然、昔のよしみで愚痴も聞いてあげる。でもねぇ、それはダメだよ。その呼び方はダメだ、分かるね?」
「すっ、すいやせん……」
「ボクしか聞いてなくてよかったねぇ、罰はこれで終わりだ」
「……やはり姐さんに似てお優しい」
結構な量の鼻血が出ているのに優しい? いや、フタがヒトから受けた仕打ちを考えれば、サンは優しい方なのか?
「ヒト兄貴が継ぐのは仕方ないだろ? 三兄弟唯一の健常者なんだからさぁ。アンタらだって報告書とか読み上げたり点字に打ち直したりすんの大変そうだったじゃん」
「しかし……百歩譲って組長があの方なのはいいとしても、あなたが組に一切関わらないというのは……」
「絵描いてる方が儲かるし楽しいもーん。ボクは現状に満足してる。アンタらも生活は一応成り立ってるんだし、ボクを思って不満溜めるのはやめなよ」
「お待たせしました~」
誰も雑談なんて出来ずサンと店長のやり取りを見守る中、何も知らない店員が肉を盛った大きな皿を持ってやってきた。
「ごゆっくり……どうしたんですオヤジぃ!?」
「うるせぇ、仕事に戻れ。あぁ……てめぇが火ぃ入れろ、俺ぁ血で汚しちまう。洗ってくる……」
血まみれの手で鼻をつまみ、店長は店の奥へと引っ込んで行った。残された店員は俺達の顔を見回し、気まずそうにしながらテーブルの下側にあるツマミを弄った。
「火ぃ入れさせていただきます……」
ボッ、と音がしてテーブルの中心にある網の下で火がゆらゆらと揺らめき始める。
「焼きを店の者に任せるか、ご自分達で……えー、セルフサービス……がありますが、どちらにいたしましょう」
「どうする? 水月。ボクはフタ兄貴と来た時は頼んでるんだけど、自分で焼く? 肉のプロが一番いいタイミング分かってるとしても、焼き加減の好みはあるもんねぇ」
「そ、う……だね。自分で焼きます……」
普通の店員でも嫌なのに、ヤクザに席に居座られるなんて絶対に嫌だ。焼き加減の質が多少下がったとしても、過ごしやすさの方が一番だ。
「ぁい、ではごゆっくり」
「待ってください、注文していいですか? その盛りに鳥ありませんよね、この鶏もも塩ダレ四人前ください」
「へい! 他にご注文は……」
「キャベツ欲しいっす」
「白飯もください」
「あ、俺も飯欲しいわ。水月は?」
「米食うと肉食う胃の隙間が減るから……」
「えー、焼肉は米と一緒に食うてこそやろ」
みんな普通に振る舞っている。サンと店長のやり取りが気にならなかったのだろうか、それとも抑えているだけだろうか。
《スェカーチカ、俺牛の赤身が食いてぇ》
「鳴雷、牛の赤身ってどれかな」
十中八九みんな気にしていつつも態度に出さないようにしているだけだと思うが、アキだけは本当に気にしていなさそうだ。
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