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久しぶりのおうちごはん

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サンから住所らしき漢字と数字の羅列が送られてきて少し戸惑ったものの、すぐにシュカの家の捜索を彼の知人に頼んだことを思い出した。

(何か一言添えて欲しいですな)

この住所がシュカのものだという確証が欲しくてメッセージを送った。以前サンに言われた通りひらがなだけで文章を作ったが、目が滑る、誤字をしている気がしてしまう。

(……まぁそんなすぐ返信来ませんわな。支部の巡回でもやりますか)

返信を待つうちに俺も眠ってしまったけれど、昼頃に母に全員叩き起こされたため俺の睡眠時間はかなり短かった。

「全く昼飯の時間まで寝腐って……夏休みのガキってのはムカつくもんね」

「夏休みなのは俺だけです……ご飯を作ってくださりありがとうございますお母様……」

《ユノなんか怒ってね?》

《俺達が昼まで寝てたから……》

《兄貴が無責任にほっつき歩くせいで睡眠時間が減ったんだ、クソ眠ぃのは俺の責任じゃねぇ》

《水月が数日家空けた程度で眠れなくなったりピーピー喚いたりすんなってぇのよ、アンタ最初はセフレ以上恋人未満くらいのカラッとした付き合いで行くとか言ってなかった?》

《ベタベタ引っ付いて一人の嫌さをしこたま教え込んだ上でちょっと放置して泣かすとかヤク中の作り方と全く一緒だぜ、どういう育て方してきたんだユノ》

異国の言葉ながらに分かる、喧嘩腰の口調だと。

「ア、アキ! ほらご飯食べよっ? 冷めちゃう。なっ?」

《兄貴が全部悪ぃんだ!》

「わぁなんか分かんないけど矛先こっちに向いた気がするぅ!」

《二度と放ったらかしにすんなバカ兄貴ぃ……》

「えっ、アキ? アキ泣いてない? どうしたの?」

「……放っておかれるの、もう二度と嫌だってさ」

過程と言うべきか、母との会話の内容の方も気になるが、セイカがわざわざ説明しなかったということは大した内容じゃなかったのだろう。

「よしよし……もう何日も家空けたりしないからなぁ~」

「夏休みなんだから小旅行でも行きなさいよ。自由が利くのは学生のうちだけよ?」

「あぁ、彼氏の別荘に連れてってもらう予定で……その時はアキも連れてこうかと思って。大丈夫だよね?」

「どこでも連れてってやって。しかし別荘持ちってアンタ、いいの捕まえたわね。アンタは私と違って見る目が……ぁー……いや……なんでもないわ」

セイカをチラッと見て最後まで言うのをやめたのは何故なのかは考えないでおこう。

「まぁ使いようよ使いよう、頭はいいみたいだし……」

《兄貴、さっきは兄貴が全部悪ぃとか言ってごめんな。兄貴はそんなに悪くねぇよ》

アキがきゅっと俺の腕に腕を絡めた、互いの利き手が違うからこそ出来るスキンシップだ。すっかり泣き止んで彼は落ち着いた声で何かを話してくれているが、残念ながら俺は日本語以外の言語は分からない、セイカに翻訳を頼もうか──

「…………!」

──と彼に視線をやると、彼は膨らんだ頬をもごもご動かしながら左手で口元を隠し、首を横に振った。

「ンッガワイイ! なんでまだ左手での食器の扱いに慣れてないのにそんなに詰め込めちゃうんですかな!?」

「水月、それ心の声にすべきヤツじゃない?」

「あっ……じゃあ、皆さま聞かなかったことに……」

聞かなかったことにするのは、少なくともセイカには不可能だろう。彼は真っ赤になった顔を背けてぷるぷる震えている、よほど恥ずかしかったのだろう……声に出したのは無意識とはいえ食事の癖を指摘するなんて、酷いことをしてしまったな。

「あー……ごめんな? セイカ……気にせず食べていいからなっ」

「にーに、にーにぃ」

「アキ、どうした?」

「にーに、あげる、するです」

差し出されているのはウィンナーだ。皮が厚くてパリッとしていてジューシーな、俺の好物。多分アキも好物だ、アキは三日に一度くらいの頻度で俺のオカズを少し奪っていくのだが、その中にウィンナーがあれば必ずそれを選ぶ。

「……ありがとう!」

取られた分は大抵セイカや母が補填してくれたので俺の被害は実質ゼロ、イタズラっ子な可愛い弟の姿が見られてむしろプラスだったのだが、今日はどういう訳か譲ってきた。これは断らない方がいいだろうと、俺は差し出されたウィンナーを頬張った。

「おいしい。ありがとうな、アキ」

「……ぼく、いい子です?」

「もちろん、アキはいつだってすごくいい子だよ」

「にーに、ぼく、寂しいする、しないです? ぼく、いい子です」

もしかして、今までオカズを取っていたことはちゃんと悪いことだと認識していて、いい子じゃなかったから俺が帰ってこなくなったんだとか考えているのか?

「……いい子だよ。アキは……そんなことしなくたって……ごめんな、アキ。ごめん……帰ってこなくて、ごめんなぁ」

帰ってこられなかったのは俺の責任じゃないと心の中では開き直ったが、アキが感じた寂しさは俺が居ない理由が何であろうと変わることはない。

「ありがとうな、アキ。お兄ちゃんからのも食べてくれ、あーん」

《……意味ねぇじゃん》

俺からもウィンナーを差し出すとアキはくすっと笑ってからそれを食べてくれた。

「はぅん可愛い……天使っ……お兄ちゃんのお膝で食べるぅ?」

「……?」

「ここお座りする?」

椅子を引いてぽんぽんと膝を叩くとアキは花が開くように笑顔になり、頷き、俺の膝に乗ってきた。

「にーにぃ、ぼく、にーにだいすき! です」

「……っ! 午後一時三十六分、キュン死を確認……」

俺の弟はあまりにも可愛い。
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