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鳴雷家の家庭教師
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食事中、俺はあることに気が付いた。セイカの左手が目に見えて器用になっている。
「…………!」
俺は箸を使っているが、セイカはスプーンとフォークを渡されている。そのスプーンとフォークですら今まで 上手く扱えていなかったが、今日も手が震えてはいるけれど、ゆっくりとではあるけれど、正しい持ち方でちゃんと食べられている。
「セイカ、左手上達してきたな! さっすが、何でもすぐ上手くなるなぁ」
じっと俺を見つめたままセイカは無言でいる。また言葉を間違えたのかと戸惑っていると、セイカがフォークを置いて自身の口の前で手を広げた。
「……?」
自身の頬を指して何を伝えたいのか……あぁ、なるほど。
「食べてるから待って?」
「……!」
こくこくと頷き、もぐもぐ口を動かしているセイカを笑顔で眺める。行儀良くて可愛い、慌ててるの可愛い、可愛い……
「……っ、はぁ……ごめん、肉……筋あって、なかなか飲めなくて」
硬い肉は俺が噛んで柔らかくして口移しで食べさせてあげようか? なんて口に出したら義母にどんな顔をされるか分からない。俺は何も言わず頷いた。
「えっと……左、その、秋風が教えてくれて。手重ねてシャーペンとか握ってもらったんだけど、あれ結構効いた。感覚よく分かって……」
「アキが? へぇ……そっか、アキ左利きだもんな」
「あぁ……アキにお箸の持ち方教えるの大変だったのよね、左右反対になるだけで途端に持ち方分からなくなって……私しばらく左右盲っぽいのなったもの」
「片利きは大変ね」
ぶつぶつと子育ての苦労を思い出した義母に、母は両利きらしい煽りをかました。両手使って別々の文章書けるようなの、両利きなんて範疇に収まらない気もするけど。
(チートにも程がありますぞ……わたくしが継げたのは顔だけ。悲しいですな)
人生に置いて「負け」などほぼ経験したことがないだろう母にはもはや、劣等感や嫉妬すらない。差があり過ぎる。湧くのはただ一つ、虚無感だ。
「鳴雷……?」
「ん?」
表情が暗くなってしまったかな? 笑顔笑顔。
「…………秋風、に……勉強、教えてるんだ。日本語だけじゃなくて、理科とか……そういうの、全般。俺も復習出来るし一石二鳥だって、転入試験近いし……」
俺の機嫌を探るような話し方だ、作り笑いだとバレてしまったのかな。
「そっか、ありがとうな」
「歴史とか現社とか色々壊滅的なんだけどなアイツ……」
「まぁ、社会科は日本に居なかったし仕方ないんじゃないか?」
「世界地図見せてロシアどこだって聞いても首傾げるんだぞアイツ……今が西暦何年かも分かってないし」
小学校にすらろくに通えていないのだから仕方ない、と言ってもいいのだろうか。
「なのに三角関数の理解完璧で逆に教えられたのちょっとムカつくし……」
アキも理数系なのか、リュウと一緒だな。懐いているし今度二人で数学の話でもさせてみたら楽しんでくれるかもしれない、俺はその傍らで脳が沸騰して死ぬ。
「俺にも今度勉強教えてくれよ、訳の分からない課題がいっぱいあってさぁ」
「復習が基本の課題で分からないとこいっぱいはお前ヤバいんじゃ……」
「正論は時に致命傷~」
なんて会話を楽しみつつ、いつも通り美味しい夕飯を食べ終えた。皿を洗っている間にアキは一人で部屋に戻ってしまい、セミなどのことを怒るタイミングを逃してしまった。
「ほむらくん、今日はセイカと寝るのか?」
「はい、最後の一晩は絶対兄様を独り占めしたくて……構いませんか?」
「もちろん、俺にダメって言う権利はないよ。じゃあいつも通り俺の部屋二人で使ってくれ。その前に着替え取っとくよ」
俺と歌見の二人分の着替えを予め脱衣所に置き、同時に取ってきたノートパソコンを持ってソファに腰を下ろした。ソファには既にセイカと歌見が座っている。
「先輩、十二薔薇の夏休み課題に興味ありませんか?」
「あるある、一体どんな難問が…………難問だな!? 改めてお前がエリートコース歩んでることを思い知らされたぞ……俺のような平民が同じ位置に座ってていいのか? 俺床に座るか?」
「なんか……歌見って、ちょくちょく鳴雷と似てる……似てます、ね」
今の歌見のリアクションから連想されるような、そんな奇怪な言動をした覚えは全くない。
「三角関数の問題もあるな、アキに解かせてみようか。脳筋感あるアキの頭いいとこ見てみたい」
ということで、ノートパソコンを持って三人でアキの部屋に向かった。
「アキー……? 寝ちゃってるのか?」
また筋トレでもしているのだろうと思っていたが、アキは部屋を暗くしてベッドに潜り込んでいた。
「……夕飯の時ちょっと拗ねてる感あったが」
「あー、でもセイカ突き飛ばしたのは酷いし、セミもダメだし……ちゃんと怒ってもないのに拗ねられても」
「拗ねたから突き飛ばした、って感じじゃなかったか?」
「…………その手前何話してました?」
「話してたのは狭雲だったよな」
義足を外してテディベアをクッション代わりにしてくつろいでいたセイカが慌てて身体を起こす。ゴロゴロしながら返事してもいいのに。
「えっと、鳴雷と話してたら泣くだろって、俺と話してろよ的なことを言われて……俺、鳴雷と話したいって、鳴雷が……その、だ……ぃ、好きって」
「セイカぁ! 俺も大好き!」
「後にしろ話は途中だ! で? 狭雲、他には?」
「俺が泣くと、秋風俺を鳴雷から取り上げるんだ。だから……取り上げるのやめてって、言った……ら、鳴雷に返してくれたけど、アレ拗ねてたのか……」
取り上げるだとか返しただとか、自分を物として扱った言い方には引っかかるが……まぁ、今言うべきことでもないだろう。
「それで終わりか? じゃあアキくんが拗ねてるっぽい理由としては……」
泣いてしまうセイカを守ろうとしたら、余計なお世話扱いされて拗ねた。と言ったところかな。
「…………!」
俺は箸を使っているが、セイカはスプーンとフォークを渡されている。そのスプーンとフォークですら今まで 上手く扱えていなかったが、今日も手が震えてはいるけれど、ゆっくりとではあるけれど、正しい持ち方でちゃんと食べられている。
「セイカ、左手上達してきたな! さっすが、何でもすぐ上手くなるなぁ」
じっと俺を見つめたままセイカは無言でいる。また言葉を間違えたのかと戸惑っていると、セイカがフォークを置いて自身の口の前で手を広げた。
「……?」
自身の頬を指して何を伝えたいのか……あぁ、なるほど。
「食べてるから待って?」
「……!」
こくこくと頷き、もぐもぐ口を動かしているセイカを笑顔で眺める。行儀良くて可愛い、慌ててるの可愛い、可愛い……
「……っ、はぁ……ごめん、肉……筋あって、なかなか飲めなくて」
硬い肉は俺が噛んで柔らかくして口移しで食べさせてあげようか? なんて口に出したら義母にどんな顔をされるか分からない。俺は何も言わず頷いた。
「えっと……左、その、秋風が教えてくれて。手重ねてシャーペンとか握ってもらったんだけど、あれ結構効いた。感覚よく分かって……」
「アキが? へぇ……そっか、アキ左利きだもんな」
「あぁ……アキにお箸の持ち方教えるの大変だったのよね、左右反対になるだけで途端に持ち方分からなくなって……私しばらく左右盲っぽいのなったもの」
「片利きは大変ね」
ぶつぶつと子育ての苦労を思い出した義母に、母は両利きらしい煽りをかました。両手使って別々の文章書けるようなの、両利きなんて範疇に収まらない気もするけど。
(チートにも程がありますぞ……わたくしが継げたのは顔だけ。悲しいですな)
人生に置いて「負け」などほぼ経験したことがないだろう母にはもはや、劣等感や嫉妬すらない。差があり過ぎる。湧くのはただ一つ、虚無感だ。
「鳴雷……?」
「ん?」
表情が暗くなってしまったかな? 笑顔笑顔。
「…………秋風、に……勉強、教えてるんだ。日本語だけじゃなくて、理科とか……そういうの、全般。俺も復習出来るし一石二鳥だって、転入試験近いし……」
俺の機嫌を探るような話し方だ、作り笑いだとバレてしまったのかな。
「そっか、ありがとうな」
「歴史とか現社とか色々壊滅的なんだけどなアイツ……」
「まぁ、社会科は日本に居なかったし仕方ないんじゃないか?」
「世界地図見せてロシアどこだって聞いても首傾げるんだぞアイツ……今が西暦何年かも分かってないし」
小学校にすらろくに通えていないのだから仕方ない、と言ってもいいのだろうか。
「なのに三角関数の理解完璧で逆に教えられたのちょっとムカつくし……」
アキも理数系なのか、リュウと一緒だな。懐いているし今度二人で数学の話でもさせてみたら楽しんでくれるかもしれない、俺はその傍らで脳が沸騰して死ぬ。
「俺にも今度勉強教えてくれよ、訳の分からない課題がいっぱいあってさぁ」
「復習が基本の課題で分からないとこいっぱいはお前ヤバいんじゃ……」
「正論は時に致命傷~」
なんて会話を楽しみつつ、いつも通り美味しい夕飯を食べ終えた。皿を洗っている間にアキは一人で部屋に戻ってしまい、セミなどのことを怒るタイミングを逃してしまった。
「ほむらくん、今日はセイカと寝るのか?」
「はい、最後の一晩は絶対兄様を独り占めしたくて……構いませんか?」
「もちろん、俺にダメって言う権利はないよ。じゃあいつも通り俺の部屋二人で使ってくれ。その前に着替え取っとくよ」
俺と歌見の二人分の着替えを予め脱衣所に置き、同時に取ってきたノートパソコンを持ってソファに腰を下ろした。ソファには既にセイカと歌見が座っている。
「先輩、十二薔薇の夏休み課題に興味ありませんか?」
「あるある、一体どんな難問が…………難問だな!? 改めてお前がエリートコース歩んでることを思い知らされたぞ……俺のような平民が同じ位置に座ってていいのか? 俺床に座るか?」
「なんか……歌見って、ちょくちょく鳴雷と似てる……似てます、ね」
今の歌見のリアクションから連想されるような、そんな奇怪な言動をした覚えは全くない。
「三角関数の問題もあるな、アキに解かせてみようか。脳筋感あるアキの頭いいとこ見てみたい」
ということで、ノートパソコンを持って三人でアキの部屋に向かった。
「アキー……? 寝ちゃってるのか?」
また筋トレでもしているのだろうと思っていたが、アキは部屋を暗くしてベッドに潜り込んでいた。
「……夕飯の時ちょっと拗ねてる感あったが」
「あー、でもセイカ突き飛ばしたのは酷いし、セミもダメだし……ちゃんと怒ってもないのに拗ねられても」
「拗ねたから突き飛ばした、って感じじゃなかったか?」
「…………その手前何話してました?」
「話してたのは狭雲だったよな」
義足を外してテディベアをクッション代わりにしてくつろいでいたセイカが慌てて身体を起こす。ゴロゴロしながら返事してもいいのに。
「えっと、鳴雷と話してたら泣くだろって、俺と話してろよ的なことを言われて……俺、鳴雷と話したいって、鳴雷が……その、だ……ぃ、好きって」
「セイカぁ! 俺も大好き!」
「後にしろ話は途中だ! で? 狭雲、他には?」
「俺が泣くと、秋風俺を鳴雷から取り上げるんだ。だから……取り上げるのやめてって、言った……ら、鳴雷に返してくれたけど、アレ拗ねてたのか……」
取り上げるだとか返しただとか、自分を物として扱った言い方には引っかかるが……まぁ、今言うべきことでもないだろう。
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