冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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退屈な緊張の待ち時間

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その後も母と紳士は作戦会議を続け、俺達は置いてけぼりになった。青年も俺達側だったのは意外だったような、順当なような、どちらの気もする。

「最近の高校生って何流行ってんの?」

「何……うーん、俺流行りとかに疎いんですよね」

「……メッセ見せて。ほら、何年か前におじさん構文って流行ったじゃん。俺の打つ文ああなってないかな」

「あなたまだ二十前半ですよね?」

と言いながらスマホを見せる。俺は若者のメッセージアプリの使い方としては珍しく、句読点を入れるタイプだ。彼氏達は句読点を入れるべきところで区切って送ってくるから、長い文だと何度も通知音が鳴る。みんな確定や改行の感覚で送信しているのだろう。

「……まだ大丈夫そう。よかったぁ」

「二十歳ちょいならまだそんな悩まなくても」

「…………子供とは言えないだろ」

恋人が子供好きなのがそんなに不安なのだろうか、傍から見ていれば紳士の本当の愛を受けているのは青年だけだとすぐに分かるのだが。

「不安なんですね。ハラハラさせてくれる人が好きって方たまに居ますけど、俺恋人に大切なのは安心感だと思うんです。俺ならあなたにそんな不安そうな顔させたりしません」

青年が自分の想いを思い出すように、恋人からの想いに気付くように、口説き文句を並べてみる。戸惑っている様子の青年の手に手を伸ばすと、紳士に優しく払われた。

「こーら、ダメだよ他人の恋人を取ろうとしちゃ」

紳士はそのまま青年の腰に腕を回して抱き寄せ、ぴったりと引っ付いたまま母との会話に戻った。

「……よかったですね」

「…………ご協力どーも」

悔しそうな嬉しそうな複雑な表情を見せた青年は会話に参加することなく紳士の顔を見上げ続けていた。



昼前、母は一度私室に戻って出社時に着用しているスーツに着替えた。

「水月、私もう出るから悪いけど昼は出前でも取って」

「……はい」

「そんな不安そうな顔しないで、必ず成功させてみせるわ」

「はい……」

母は昼食代として数枚の紙幣を俺に渡し、紳士と青年と共に家を出ていった。セイカの母親と話を付けてきてくれるらしい、上手くいくのだろうか。もし失敗したら──

「何? 鳴雷」

「……なんでもない」

──セイカは、セイカとホムラはどうなるのだろう。

「それ一ヶ月分の飯代?」

「昼飯の出前代、何食べたい?」

「……俺は何でもいいけど」

「決定権はお譲りします」

狭雲兄弟は主体性がなくて困る。アキなら何か意見を聞かせてくれるだろう。

「アキ、お昼……何、食べる、したい?」

「おひるー……魚、食べるする欲しいです」

「魚がいいのか? 魚なぁ……暑くなってきたし穴子丼にしようか。セイカとほむらくんも穴子丼でいいよな?」

「いいけど……何それ」

「そのまんま、穴子をご飯に乗せたヤツだよ。うなぎタレが美味しいんだよな~」

「おいしーです?」

「美味しいぞ」

「それ、食べるするです!」

「よし、ぁ、葉子さんにも聞いてこなきゃ」

三人をダイニングで待たせ、スマホ片手に母の部屋へ。扉を叩くと入れと言われたのでその通りにすると、落ち込みながらも母のパソコンを使って職を探している義母が居た。

「……私って頭いいだけで鈍臭くてコミュ力低くて不器用だからなーんにも出来ないのよね」

「はぁ……あの、お昼ご飯、母さん居なくて出前にするんですけど、穴子丼でいいですか? これなんですけど……」

注文サイトに載った商品の写真を見せると義母は興味なさげな目で一瞥した。

「いいよー。悪いけど部屋持ってきてくれる? あなた達も子供だけのが色々やりやすいでしょ」

「はい、いえそんなことはありませんけど」

嘘だ、大いにある。

「じゃあ注文するんで二十分くらい待っててください」

「はーい」

部屋を出て扉を閉め、ふぅとため息をつく。軽く顔を揉んでからいつもの微笑みを作り、ダイニングに戻った。



穴子丼を食べ終えてもまだ母は帰ってこない。プラスチック製の皿を捨て、冷蔵庫に貼られたゴミの回収予定のカレンダーをボーッと眺める。

「暇だな……」

いつもなら俺の部屋で勉強を始めるホムラが何をするでもなくダイニングに居るから、あまり彼氏達とイチャつけない。彼も不安なのだろう。

「にーに、にーにっ」

「わ……どうした? アキ」

「遊ぶするです! にーに」

リビングのソファの少し広いところまでぐいぐいと引っ張られ、大型犬の散歩はこんな感じなのだろうかと何となく思った。

「何して遊ぶんだ?」

「押すー、です。んー……こくぎです!」

「……多分手押し相撲だ、鳴雷」

「すもう……! すもうです」

相撲が日本の国技であることは覚えていたが、相撲という言葉はド忘れしていたのだろうか……と思いつつアキの前に立ち、両手を軽く広げて構える。

「セイカ、開始の合図してくれよ」

「おー……じゃ、始め!」

手押し相撲には腕力だけでなくバランス感覚や柔よく剛を制す精神が必要なのだ。これなら俺も工夫次第でアキに勝てる、そう考えてアキの手を押したが、アキは簡単に俺の力を逃がし、意識が攻撃に回っていた俺の手をぽんと押し、一歩下がらせた。

「鳴雷の負け」

「くっ……! も、もう一回!」

「……前に調べたんだけど、秋風が習ってた格闘術は日本じゃロシアの合気道なんて言われてるらしいぞ」

「合気道……あまり詳しくはありませんが、効率的な力の利用をすると聞いたことがあります。子供でも大人を制すことが出来るのだとか」

四度目の負けの時、俺はとうとう尻もちをついた。

「あぁ、だから多分秋風には勝てないぞ」

「秋風さんは普段からしなやかに動かれると思っていましたが、あれは格闘技を習っていらっしゃったからこそなのですね」

「いや、格闘術」

「……術と技で何か変わるのですか?」

「競技化してねぇ方って拘りが秋風の親父にはあったらしいぞ」

狭雲兄弟は麦茶片手に観戦を楽しんでいる様子だ。

「軍隊式の本物の殺人術……派手な動きで魅せることも、相手の今後の選手生命ってヤツを気にすることもない、速やかに敵を排除、破壊するための動きが身に付いてるって訳だ。あんなふうに真っ正面から遊ぶなら秋風も加減出来るだろうけど、ついやっちまうかもしれねぇから……ホムラ、お前秋風を背後から驚かせたりするなよ?」

「し、しません……」

「…………あ、俺まだ腕相撲くらいは出来るんだよな。ほむら、やろうぜ。暇だし」

「はい、兄様が望むのでしたら全力で御相手致します」

俺が負け続けるのを尻目に狭雲兄弟は腕相撲を始めた。俺もあんなふうに互角の勝負がしたい。アキは力んでいるようには見えない、むしろ脱力しているように見える、なのに何故こんなにも勝てないんだ。

「にーに弱いですー……」

つまらなさそうに呟かれ、俺の心に火が点った。母が帰ってくるまでに何としてでもアキに勝ち、分からせてやる。
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