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穂張流のお詫び

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しまった。サンはまだ初心者なのに、腹にでもかけてやろうと思っていたのに、快楽に耐え切れず口内射精をしてしまった。

「んっ、くぅ……」

サンは両手で口を押さえて嘔吐き、咳き込みながらも決して俺の精液を零さず、咳き込みが落ち込むと咀嚼し始めた。かと思えば──

「……ぅええ、まっず」

──手を受け皿として口からどろどろと精液と唾液が混じった白濁液を吐き出した。

「まっじいぃ……口洗いたい」

「ご、ごめん……我慢出来なくて出しちゃって。洗面所こっち。掴まって」

射精の余韻に浸る暇もない。サンを洗面所に案内し、彼がうがいと手洗いを済ませるのを隣で待った。

「ふぅ……さっき言ってたことだけどね、味見はしたかったから出すタイミングは結構よかったんだよね。あんまり不味くて吐いちゃったけど」

「そっか、ごめんね不味くて。チョコあるから口直しにどう?」

「くれる? ありがと」

母がちびちび食べている徳用チョコを一口サンに与えた。多分バレないだろう。

「ん……控えめな甘さと風味のバランスがいいね、いいチョコだ」

「口直しになった?」

「うん。すっきりしたし、アンタにもらったアイディア早く形にしたい。もう帰るよ」

俺はまだまだ満足出来ていないのだが、無理に付き合わせては嫌われてしまうかもしれない。サンはまだ正式に俺の彼氏になると言ってくれた訳ではないことを忘れず、機嫌を取らなければ。

「着てきた服着る? アレなら俺の服貸すけど……」

「帰ったらすぐ着替えるし、自分の着るよ」

落ちている服を拾って渡してやり、着替えるサンをじっと眺める。いくら勘がよくても視線には気付かないだろう、他の彼氏達は俺の視姦に照れてしまうから、時々空気になって彼氏を眺めたい俺としてはサンの盲目はある意味ありがたくも──

「……こっち見てる?」

──勘良過ぎない? 本当に見えてないの?

「えっ、な、なんで?」

「動いてる気配しなかったから」

「……美人が目の前で着替えてたら息を殺して見ちゃうじゃん!」

「ふぅん……? 見たいなら別にいくらでも見ていいから、気配消すのはやめて欲しいね。そこに居るって分かってても消えたみたいでなんか……うん、常にボクに居場所教えてて」

タイトなタートルネックからすぽんっと頭を出し、髪を後から服の中から引っ張り出す。

「つ、常に……?」

パン、パン、と手拍子を始めるとサンはくすくすと笑いながら両手を広げて俺の方に倒れ込んできた。

(おわっ……! かわゆいですが重たいんですからこれはキツいでそ!)

まだちゃんと服を着ていない俺の首に腕を回し、頬に頬を擦り付ける。挟まった髪がくしゃくしゃになっていく。サンがこれほど髪に無頓着なのに長く伸ばしてしかもこんなにも美しいということは、この髪は兄弟が育てたものなのかもしれない。

「アンタ天然ってヤツ? 可愛い。そういう意味じゃないって。さっきみたいに息も殺して気配消すのはやめてって話、普通にしてたら位置分かるから」

「そ、そっか……ごめん、なんか……」

「可愛かったし面白かったってば。それとね、アンタに見られるのは平気だからこっそりしなくていいよ。アンタはボクが綺麗だって見てるだけだろ? それならいい、むしろ見てて」

「……ありがとう。次からはちゃんと言うし、地球に対する月みたいな感じでサンを360度からぐるぐる眺める……」

「やっぱ可愛くて面白いねアンタ、次はアトリエに呼ぶつもりだから多少汚れるの覚悟してね」

油絵具を使うと言っていたな。洗いやすい服か安いジャージを着ていこうかな。

「あ、それと、ボクにメール送ってくれる時は出来ればひらがなで頼める? 自動読み上げ機能って意外とバカで音訓めちゃくちゃなんだよね。まぁ間違えられても分かるからいいっちゃいいんだけど、読み間違われちゃ雰囲気出ないよね? アンタはボクが好きなんだから、メールでも雰囲気出してくれるもんね」

「プレッシャーかけるなぁ……分かったよ」

ひらがなで文章を作る方が雰囲気が崩れると思うのだが、見えないからいいのか……俺側の雰囲気はどうしようもないな。

「悪いね、じゃあお願い。またね~」

「家の前に停まってるんだろ? 送ってくよ」

玄関に立て掛けてあった白杖を手に取り、サンは暴力的なまでの陽射しの下へ出ていく。家の前には真っ黒い高級車が停まっており、中ではヒトがノートパソコンを叩いていた。

「兄貴~」

サンは車を杖の頭でガンガン叩く。

「……っ!? それやめてくださいって前にも言いましたよねサンっ! 車に傷が……!」

慌てて降りてきたヒトはサンが叩いた位置を手で恐る恐るなぞっている。艶消しの黒色の美しい車体に傷は付いていたのだろうか?

「…………修理代、あなたの稼ぎから取りますからね」

「車代も八割ボクが出したじゃん」

「あなたが車を欲しがったんでしょう」

「ボクが欲しかったのは乗り心地が良くて遠出できる乗り物、半分以下の金で済んだところをアンタがこのクソダサ高い車を欲しがった」

「私が運転するのですから私の趣味に合わせていただいていいでしょう、見えてないくせにダサいとか言わないでいただきたい。それと、私は車を叩いたり蹴ったりぺたぺた触るのをやめて欲しいと言っているだけなんです、それくらい気を付けていただいてもいいでしょう?」

「水月! ダサいよねこの車」

「えっ」

正直な感想は「ヤクザが乗ってそう」なのだが、それは流石に言えない。

「い、いやぁ……カッコイイと思いますよ。威圧感あって」

「センスないね。フタ兄貴も言ってたよ、地味でダサいって」

「フタの理想はデコトラですよ?」

「別の嫌さがあるなぁ」

「もうお話は済んだのですか? なら乗ってください。帰りましょう……あ、鳴雷さん、こちらをお納めください。フタの件はどうかこれでお許しを……」

ヒトは俺に封筒を押し付け、サンを乗せるため後部座席の扉を開けた。

「え……こ、こんなの受け取れないです」

「足りませんか?」

「そ、そうじゃなくて……」

「物足りなければまた後日ご連絡ください。今日のところは失礼します。では」

「えっちょ、あっ」

サンが座ったのを確認するとヒトは後部座席の扉を閉め、さっさと運転席に戻ってしまった。住宅地に似合わない厳つい車が走り去り、俺の手元には封筒が残った。

(えぇぇ……これお金ですよな。今度会った時に返しますか……いやこれでチャラとしてシュカたまに何か……)

返すにしろ受け取るにしろ金額を確認しておくか……と封筒の中身を取り出す。中身は予想に反して紙幣ではなく一枚の写真だった。

「ひっ……!?」

椅子に縛られ目隠しをされ、血みどろになるまで殴られた痛々しい男が──フタという名らしいあの刺青男が写されていた。
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