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彼氏達が待つ小屋へ
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新たな彼氏候補を見つけると同時に、彼氏達を傷付けた男がズタボロにされた写真を手に入れた。
(うわぁ……シュカたまよりえぐいことされてますなこれ)
主に顔を殴られたのだろう、サンともヒトとも似ていなかったが整った顔立ちをしていたのだが、もう見る影もない。紫っぽいアザや目鼻口から吹き出した血が痛々しい。
(……シュカたまに見せたら機嫌良くなってくれますかな?)
もしも殴られたのが俺の方で、詫びとしてこの写真を見せられても俺はスッとしないだろう。しかしこういった文化に馴染みがありそうなシュカなら喜ぶかもしれない。
(とりあえず取っておきまそ)
写真を封筒に戻してポケットに詰め、家に戻った。
家はがらんとしていて静かだ。ダイニングの空調を止め、アキの部屋に向かった。
「お待たせ~……ごめんなみんな……」
勉強中なのに追い出してしまったホムラ、俺と居たかったろうに叶えられなかったセイカ、急に二人がやってきて戸惑っただろうアキに謝罪を投げかけながら小屋の扉を開けた。
「にーに、いらっしゃいませするです」
一瞬お店屋さんごっこでもしたいのかと思ってしまったが、アキはそこまで幼くない。単に俺を出迎えてくれただけだ。
「ふふ、お邪魔します。セイカは……」
義足を外して右足だけで立ち、壁に手を付いているセイカが気になってそちらに視線を移す──
「……! 邪魔するー、なら……帰るするです」
──と、アキに出ていけと言われた。歓迎してくれたんじゃないのかと困惑していると、アキは首を傾げた。
「ぼく……間違えるする、したです?」
「あ、あぁ……お兄ちゃんに出ていって欲しい訳じゃないよな? 多分間違いかなー……?」
「てんしょー、教えるする、したですのに、ぼく、覚えるする、上手いしないするです」
リュウがアキに人を出迎える言葉を教えてくれたのか? アキはそれを上手く覚えられず、間違えたのか。
「そっか。ゆっくり覚えていけばいいよ。セイカ、何してたんだ?」
もう一度視線を移すとセイカはベッドに腰を下ろしていた。その表情は疲れたもので、落ち込んでいるようにも見えた。
「筋トレ……」
「えっ」
「……何だよ、そんなに意外か?」
「いや、まぁ……結構。ホムラくんは?」
「プール」
「そっか。で、なんでまた筋トレなんかしてたんだ?」
「…………秋風見てたら片手片足でも生きていける気がしてきたんだよ」
アキは天井から生えた鉄棒のような物に片手でぶら下がって懸垂をしている。確かにあの様子なら片手を失くしても平気でどこかによじ登ったり出来るだろう。
「……でもよく考えたら秋風みたいになれる訳なくてさ、ちょっとへこんでる」
「うーん……まぁあそこまで鍛えるのは難しいかもな。でもセイカはもう少し鍛えた方が良さそうだし、トレーニングは続けた方が……あ、水の中なら上手くリハビリ出来るかもだぞ」
「…………いつでも一人で立ち上がれるくらいになるまでは筋トレ頑張るよ」
セイカは義足を付けて一人で歩き回ることは出来るけれど、椅子だとかに深く腰かけた状態で立ち上がるのは苦手で、たまに俺を頼る。
「その前にたくさん食べて肉付けないとな。硬い椅子にずっと座ってもお尻痛くならないように、自分の骨で身体痛くしないようにな」
「……この家飯の量多いからすぐに太ると思う」
母は栄養士だかフードコーディネーターだか、プロスポーツ選手に依頼されそうな資格を持っている。俺が太ったのは母の恋人達に餌付けされたせいで、母は一旦諦めたから俺の肥満を放置していただけで、つまりこの家の食事量は適正だと思うのだが……
「晩飯なんか普通茹でジャガイモ一個だろ」
なんだ量が適正でないのは狭雲家の方か。やはり母は正しい。
「鳴雷は……どんな体型が一番好き?」
「セイカが健康ならそれが一番だよ」
「そういうのいいから」
「え、いや、本心なんだけど……」
「じゃあ一番抱きたくなる体型」
健気なのは可愛く思うが、無理をさせるのは……いや、目標があった方がリハビリやトレーニングはやりやすいのか。なら何か提示してやらないと、と考える俺の視線は懸垂用の棒に片足を引っ掛けて腹筋を鍛えているアキに向く。
「……アレは無理」
「いやあんなエクストリーム腹筋出来るのは一人でいいよ。そうだなぁ……リュウくらいがいいかな?」
リュウとカンナとネザメ以外はみんな痩せすぎか筋肉質、カンナの子供っぽいぷにぷに感は唯一無二で真似し難く、ネザメの裸はあまり見られない。となればセイカに嫌悪感を抱いておらず割と気軽に脱いでくれそうなリュウを目標にするのが一番だ。
(……なんかわたくしリュウどのをこういう扱いすること多くないですか?)
数学が得意で論理的思考が出来る上に共感能力も高い、平日も休日も基本暇なコミュ強、しかも平均的な体型……リュウは便利過ぎる、頼ってしまうのも仕方のないことだ。
「リュウ……」
「関西弁の金髪」
「分かってる。天正だよな。アイツか、アイツくらい…………今アイツくらいじゃないか? 俺。アイツ結構痩せてるし」
「リュウは痩せ型だけど肋骨浮いてないし膝に座らせても太腿に骨食い込まないんだよ」
「……そっか」
「昔のセイカなら同じくらいかもな」
「俺そんな変わってないと思ってた……軽くなったのは手足の分だって……」
「鏡見るか?」
「触っても自覚なかったんだぞ、昨日風呂上がりにちょっと見たし」
なら鏡を見たところで意味はないな。
「普通体型ってのは骨の形がハッキリ分からない体型のことを言うんだよ」
「そっか…………それになるまで俺抱かないのか?」
「えっ無理。元気になったら抱く」
「……俺今元気じゃないのか?」
「うーん……なんか入院してた時の方が顔色良かったと思うんだよな」
明日母がセイカの母親と話を付けてくれるそうなので、正式にセイカを引き取って心配事がなくなってから抱きたいという思いがある。実際顔色も悪かったから全くの方便という訳でもないが──ばちん、とセイカが自分の頬を叩いた。
「なっ、何、どしたの……蚊?」
「……顔色良くなったぞ」
「なってないなってない片っぽ赤くなっただけ。あっ違うもう片方もやれじゃなくて……何、セイカ……そんなバカになるほど俺に抱かれたいの?」
「鳴雷が喜ぶこと……それしか思い付かなくて。お前勉強嫌いみたいだし」
「…………そういうのは後でまとめてでいいよ。今は体調良くすることだけ考えてろ」
「……うん」
居るだけでいいのだといくら言葉を尽くしたところでセイカの心は納得しない。恩返しを受ける約束をしておく方がセイカの心は穏やかになるだろう。
「にーにぃ、ばーにゃ入るするです」
「サウナ行くのか? あぁ、ならお兄ちゃんも一緒に……セイカはどうする? サウナ身体に良さそうだけど、色々辛いし……」
「寝てる。疲れた。服置いてけ」
着ている服を脱いでテディベアに着せてやり、拗ねて寝転がったセイカにそれを手渡す。アキにぐいぐい手を引っ張られ、二度目のサウナ体験をしに行った。
(うわぁ……シュカたまよりえぐいことされてますなこれ)
主に顔を殴られたのだろう、サンともヒトとも似ていなかったが整った顔立ちをしていたのだが、もう見る影もない。紫っぽいアザや目鼻口から吹き出した血が痛々しい。
(……シュカたまに見せたら機嫌良くなってくれますかな?)
もしも殴られたのが俺の方で、詫びとしてこの写真を見せられても俺はスッとしないだろう。しかしこういった文化に馴染みがありそうなシュカなら喜ぶかもしれない。
(とりあえず取っておきまそ)
写真を封筒に戻してポケットに詰め、家に戻った。
家はがらんとしていて静かだ。ダイニングの空調を止め、アキの部屋に向かった。
「お待たせ~……ごめんなみんな……」
勉強中なのに追い出してしまったホムラ、俺と居たかったろうに叶えられなかったセイカ、急に二人がやってきて戸惑っただろうアキに謝罪を投げかけながら小屋の扉を開けた。
「にーに、いらっしゃいませするです」
一瞬お店屋さんごっこでもしたいのかと思ってしまったが、アキはそこまで幼くない。単に俺を出迎えてくれただけだ。
「ふふ、お邪魔します。セイカは……」
義足を外して右足だけで立ち、壁に手を付いているセイカが気になってそちらに視線を移す──
「……! 邪魔するー、なら……帰るするです」
──と、アキに出ていけと言われた。歓迎してくれたんじゃないのかと困惑していると、アキは首を傾げた。
「ぼく……間違えるする、したです?」
「あ、あぁ……お兄ちゃんに出ていって欲しい訳じゃないよな? 多分間違いかなー……?」
「てんしょー、教えるする、したですのに、ぼく、覚えるする、上手いしないするです」
リュウがアキに人を出迎える言葉を教えてくれたのか? アキはそれを上手く覚えられず、間違えたのか。
「そっか。ゆっくり覚えていけばいいよ。セイカ、何してたんだ?」
もう一度視線を移すとセイカはベッドに腰を下ろしていた。その表情は疲れたもので、落ち込んでいるようにも見えた。
「筋トレ……」
「えっ」
「……何だよ、そんなに意外か?」
「いや、まぁ……結構。ホムラくんは?」
「プール」
「そっか。で、なんでまた筋トレなんかしてたんだ?」
「…………秋風見てたら片手片足でも生きていける気がしてきたんだよ」
アキは天井から生えた鉄棒のような物に片手でぶら下がって懸垂をしている。確かにあの様子なら片手を失くしても平気でどこかによじ登ったり出来るだろう。
「……でもよく考えたら秋風みたいになれる訳なくてさ、ちょっとへこんでる」
「うーん……まぁあそこまで鍛えるのは難しいかもな。でもセイカはもう少し鍛えた方が良さそうだし、トレーニングは続けた方が……あ、水の中なら上手くリハビリ出来るかもだぞ」
「…………いつでも一人で立ち上がれるくらいになるまでは筋トレ頑張るよ」
セイカは義足を付けて一人で歩き回ることは出来るけれど、椅子だとかに深く腰かけた状態で立ち上がるのは苦手で、たまに俺を頼る。
「その前にたくさん食べて肉付けないとな。硬い椅子にずっと座ってもお尻痛くならないように、自分の骨で身体痛くしないようにな」
「……この家飯の量多いからすぐに太ると思う」
母は栄養士だかフードコーディネーターだか、プロスポーツ選手に依頼されそうな資格を持っている。俺が太ったのは母の恋人達に餌付けされたせいで、母は一旦諦めたから俺の肥満を放置していただけで、つまりこの家の食事量は適正だと思うのだが……
「晩飯なんか普通茹でジャガイモ一個だろ」
なんだ量が適正でないのは狭雲家の方か。やはり母は正しい。
「鳴雷は……どんな体型が一番好き?」
「セイカが健康ならそれが一番だよ」
「そういうのいいから」
「え、いや、本心なんだけど……」
「じゃあ一番抱きたくなる体型」
健気なのは可愛く思うが、無理をさせるのは……いや、目標があった方がリハビリやトレーニングはやりやすいのか。なら何か提示してやらないと、と考える俺の視線は懸垂用の棒に片足を引っ掛けて腹筋を鍛えているアキに向く。
「……アレは無理」
「いやあんなエクストリーム腹筋出来るのは一人でいいよ。そうだなぁ……リュウくらいがいいかな?」
リュウとカンナとネザメ以外はみんな痩せすぎか筋肉質、カンナの子供っぽいぷにぷに感は唯一無二で真似し難く、ネザメの裸はあまり見られない。となればセイカに嫌悪感を抱いておらず割と気軽に脱いでくれそうなリュウを目標にするのが一番だ。
(……なんかわたくしリュウどのをこういう扱いすること多くないですか?)
数学が得意で論理的思考が出来る上に共感能力も高い、平日も休日も基本暇なコミュ強、しかも平均的な体型……リュウは便利過ぎる、頼ってしまうのも仕方のないことだ。
「リュウ……」
「関西弁の金髪」
「分かってる。天正だよな。アイツか、アイツくらい…………今アイツくらいじゃないか? 俺。アイツ結構痩せてるし」
「リュウは痩せ型だけど肋骨浮いてないし膝に座らせても太腿に骨食い込まないんだよ」
「……そっか」
「昔のセイカなら同じくらいかもな」
「俺そんな変わってないと思ってた……軽くなったのは手足の分だって……」
「鏡見るか?」
「触っても自覚なかったんだぞ、昨日風呂上がりにちょっと見たし」
なら鏡を見たところで意味はないな。
「普通体型ってのは骨の形がハッキリ分からない体型のことを言うんだよ」
「そっか…………それになるまで俺抱かないのか?」
「えっ無理。元気になったら抱く」
「……俺今元気じゃないのか?」
「うーん……なんか入院してた時の方が顔色良かったと思うんだよな」
明日母がセイカの母親と話を付けてくれるそうなので、正式にセイカを引き取って心配事がなくなってから抱きたいという思いがある。実際顔色も悪かったから全くの方便という訳でもないが──ばちん、とセイカが自分の頬を叩いた。
「なっ、何、どしたの……蚊?」
「……顔色良くなったぞ」
「なってないなってない片っぽ赤くなっただけ。あっ違うもう片方もやれじゃなくて……何、セイカ……そんなバカになるほど俺に抱かれたいの?」
「鳴雷が喜ぶこと……それしか思い付かなくて。お前勉強嫌いみたいだし」
「…………そういうのは後でまとめてでいいよ。今は体調良くすることだけ考えてろ」
「……うん」
居るだけでいいのだといくら言葉を尽くしたところでセイカの心は納得しない。恩返しを受ける約束をしておく方がセイカの心は穏やかになるだろう。
「にーにぃ、ばーにゃ入るするです」
「サウナ行くのか? あぁ、ならお兄ちゃんも一緒に……セイカはどうする? サウナ身体に良さそうだけど、色々辛いし……」
「寝てる。疲れた。服置いてけ」
着ている服を脱いでテディベアに着せてやり、拗ねて寝転がったセイカにそれを手渡す。アキにぐいぐい手を引っ張られ、二度目のサウナ体験をしに行った。
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