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全員集合コスプレはそこそこ
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ネザメ達が買ってきてくれた食材をキッチンでミフユと共に切る。
「シイタケは通常半分に切ればいいが、三つほどは管の部分を切り取り、傘を四つに切ってもらいたい」
「分かりました。ちなみに理由は?」
「……ネザメ様が苦手なのだ」
薄々そんなところだろうと思っていた。俺がシイタケを切る傍ら、ミフユがキャベツを一口大に切る。包丁の子気味いい音が響く中、キッチンに来客が現れる。
「アキ? お兄ちゃん達今刃物持ってるからあんまり近寄るなよ」
《野菜も買ったのか? 義務感で焼いて誰も食わずに炭になるのがオチなんだから肉だけでいいのによ》
「……ごめんお兄ちゃん分かんない」
テストも終わったことだし、セイカにロシア語を習うべきだろうか。いや、俺は先に英語を習うべきだろうか。
「鳴雷一年生、キャベツは焼くのか?」
「塩ダレかけて揉んで食べる直前まで冷蔵庫で冷やす予定ですけど、焼きたいです?」
「いや、確認だ。塩ダレ……これだな、やっておくぞ」
「ありがとうございます」
またしばらく沈黙の時間が流れる。キッチンから見えるダイニングでは俺の彼氏達が楽しそうに騒いでいる。少し気まずく思っていると、不意にミフユが話し始めた。
「…………コスプレ? の件だが」
「あっ、はい」
「打ち上げで皆コスプレをするという話だったな、ネザメ様は衣装を持ってきている。しかし自分は貴様が今回のテストで五教科以上平均点を超えたら……という条件付きだったことを覚えているか?」
今ダイニングで優雅な時を過ごしているネザメは普段着に見える。後で着替えてくれるのだろう、楽しみだ。
「はい、もちろん。頑張りましたよ、絶対超えてます」
「うむ、ミフユが原動力になったのは、その……嬉しい。しかし、結果を見るまでは報酬は与えられない。我々二年生のテスト返しは明日の月曜日なのだが、貴様らもそうか?」
「はい、その予定です」
「そうか……ならば月曜日の放課後、テストの点数表を撮って自分に送るのだ。五教科以上平均点を上回っていたら貴様の望む服を着てやろう。改めて日程を調整しよう」
「ありがとうございますっ!」
包丁を置き、腰を直角よりも曲げて礼をする。ミフユは頬を赤らめて照れながらもツンとした態度を崩さなかった。
「水月くん、ちょっといいかい?」
ミフユに礼をしてからまた沈黙が続いてしばらく、ネザメがキッチンに顔を覗かせた。
「コスプレパーティにしようと約束していたじゃないか、だから衣装を持ってきているんだけれど……もう着てもいいのかな? 霞染くんや時雨くんはもう着ているようだし」
「お昼に焼肉するので衣装に匂いとか染みちゃうと思うんですよね、それでも構わないのならどうぞ着てください」
「ありがとう、部屋を借りるよ」
ネザメは高級感漂う紙袋を持って俺の部屋へ向かった。
「……まだ来ていないのは木芽と歌見殿か。小六は来ないんだな?」
「はい、カミアはやっぱりスケジュールとかがちょっと……」
カンナと一緒にセーラー服やスクール水着を着て俺をもみくちゃにして欲しいのにな、なんて願望は隠したまま「残念です」と眉尻を下げて微笑んでみせた。
「戻ったよ、水月くん。見てくれるかい?」
「はいっ!」
衣装に着替え終えたネザメが帰ってきた。一体どんな可愛らしい姿を見せてくれるのかと期待しつつ振り向くと、大きな黒い物体が見えた。
「おっと、ふふふ……このポーズじゃ服が分からないよね」
ネザメは右手を下げてマントを離し、俺に衣装を見せてくれた。一見どこかの国の貴族のようなその格好に、裏側が赤いマントと来れば、もうアレ以外ありえない。
「吸血鬼ですか」
「正解。去年のハロウィンで使った衣装なんだ、どうだい?」
「とってもよくお似合いです!」
目元まで垂れたウェーブがかった亜麻色の髪、胡散臭い微笑み、耽美な雰囲気、全てが吸血鬼のコスプレに似合っている。
「ネザメさんの浮世離れした雰囲気が人外コスに合ってて……本当にすごいです、うっとりしちゃいますよ。この、なんです? ヒラヒラしたの。首んとこのヒラヒラしたのがいい味出してます」
「ジャボのことかな? ありがとう。この襟付きのケープコートのおかげか気分が出てね、吸血鬼のように振る舞いたくなってしまうんだよ」
(……ケープコート? ほーん、マントじゃないんですな。生贄みたいな名前ですなぁ)
ネザメはケープコートの端を掴んで口元を隠す。吸血鬼らしい仕草が微笑ましく見える日が来るとは思わなかった。
「あぁ……水月くん、美しい君の視線を奪ってしまえるだなんて、僕はなんて罪深い……いや、人の道を外れた怪物に堕ちてしまっているのだから、悪辣な独占行為ももはや道理か」
すっかり吸血鬼になりきっているな。俺がして欲しかったコスプレはもっと俗っぽいセクシーなもののことだったのだが、まぁ、こんな本格的なコスプレもいいだろう。
「さぁ麗しの君、この夜の支配者に清らかなる処女の血を棒げたまえ」
「俺は確かに処女ですけど童貞じゃないですよ?」
「ネザメ様、今我々は調理中です! 邪魔をしないで頂きたいのですが! 鳴雷一年生も鳴雷一年生だ、いちいちしっかり相手をするな!」
酷い言いようだ。
「おやおや、とんだ番犬が居たものだ。退散するとしよう」
「全く…………ん? 鳴雷一年生、チャイムが鳴ったようだぞ」
「見に行ってきます」
キッチンはミフユに任せ、俺は手をサッと洗って玄関へ走った。扉を開くと予想通り、食材を持った歌見とレイが立っていた。
「よ、水月」
「せんぱーい! お久しぶりっす」
「歌見先輩、レイ、いらっしゃい! もうだいたい準備出来てるから入っちゃってくれ」
いつも通りの格好の二人をダイニングに通す。彼らが買ってきてくれたのはほとんどが肉だ。
「はぁ……涼しい。いやぁ外は暑いな。今から焼肉か……」
エアコンからの風がよく当たる位置に陣取った歌見は俺が渡したタオルで汗を拭きながらため息をついている。薄着の彼よりも今日もしっかりパーカーのフードを被っていたレイが心配だ。
「顔あっつ! レイ~……大丈夫か? 熱中症なっちゃうぞ」
「へへへ……大丈夫っすよ」
濡れタオルを首にかけ、タオルの両端で頬を冷やしてやると、レイは火照った顔を更に赤くして喜んだ。生活力の低い彼を一人で過ごさせるのはやはり不安だ。
「シイタケは通常半分に切ればいいが、三つほどは管の部分を切り取り、傘を四つに切ってもらいたい」
「分かりました。ちなみに理由は?」
「……ネザメ様が苦手なのだ」
薄々そんなところだろうと思っていた。俺がシイタケを切る傍ら、ミフユがキャベツを一口大に切る。包丁の子気味いい音が響く中、キッチンに来客が現れる。
「アキ? お兄ちゃん達今刃物持ってるからあんまり近寄るなよ」
《野菜も買ったのか? 義務感で焼いて誰も食わずに炭になるのがオチなんだから肉だけでいいのによ》
「……ごめんお兄ちゃん分かんない」
テストも終わったことだし、セイカにロシア語を習うべきだろうか。いや、俺は先に英語を習うべきだろうか。
「鳴雷一年生、キャベツは焼くのか?」
「塩ダレかけて揉んで食べる直前まで冷蔵庫で冷やす予定ですけど、焼きたいです?」
「いや、確認だ。塩ダレ……これだな、やっておくぞ」
「ありがとうございます」
またしばらく沈黙の時間が流れる。キッチンから見えるダイニングでは俺の彼氏達が楽しそうに騒いでいる。少し気まずく思っていると、不意にミフユが話し始めた。
「…………コスプレ? の件だが」
「あっ、はい」
「打ち上げで皆コスプレをするという話だったな、ネザメ様は衣装を持ってきている。しかし自分は貴様が今回のテストで五教科以上平均点を超えたら……という条件付きだったことを覚えているか?」
今ダイニングで優雅な時を過ごしているネザメは普段着に見える。後で着替えてくれるのだろう、楽しみだ。
「はい、もちろん。頑張りましたよ、絶対超えてます」
「うむ、ミフユが原動力になったのは、その……嬉しい。しかし、結果を見るまでは報酬は与えられない。我々二年生のテスト返しは明日の月曜日なのだが、貴様らもそうか?」
「はい、その予定です」
「そうか……ならば月曜日の放課後、テストの点数表を撮って自分に送るのだ。五教科以上平均点を上回っていたら貴様の望む服を着てやろう。改めて日程を調整しよう」
「ありがとうございますっ!」
包丁を置き、腰を直角よりも曲げて礼をする。ミフユは頬を赤らめて照れながらもツンとした態度を崩さなかった。
「水月くん、ちょっといいかい?」
ミフユに礼をしてからまた沈黙が続いてしばらく、ネザメがキッチンに顔を覗かせた。
「コスプレパーティにしようと約束していたじゃないか、だから衣装を持ってきているんだけれど……もう着てもいいのかな? 霞染くんや時雨くんはもう着ているようだし」
「お昼に焼肉するので衣装に匂いとか染みちゃうと思うんですよね、それでも構わないのならどうぞ着てください」
「ありがとう、部屋を借りるよ」
ネザメは高級感漂う紙袋を持って俺の部屋へ向かった。
「……まだ来ていないのは木芽と歌見殿か。小六は来ないんだな?」
「はい、カミアはやっぱりスケジュールとかがちょっと……」
カンナと一緒にセーラー服やスクール水着を着て俺をもみくちゃにして欲しいのにな、なんて願望は隠したまま「残念です」と眉尻を下げて微笑んでみせた。
「戻ったよ、水月くん。見てくれるかい?」
「はいっ!」
衣装に着替え終えたネザメが帰ってきた。一体どんな可愛らしい姿を見せてくれるのかと期待しつつ振り向くと、大きな黒い物体が見えた。
「おっと、ふふふ……このポーズじゃ服が分からないよね」
ネザメは右手を下げてマントを離し、俺に衣装を見せてくれた。一見どこかの国の貴族のようなその格好に、裏側が赤いマントと来れば、もうアレ以外ありえない。
「吸血鬼ですか」
「正解。去年のハロウィンで使った衣装なんだ、どうだい?」
「とってもよくお似合いです!」
目元まで垂れたウェーブがかった亜麻色の髪、胡散臭い微笑み、耽美な雰囲気、全てが吸血鬼のコスプレに似合っている。
「ネザメさんの浮世離れした雰囲気が人外コスに合ってて……本当にすごいです、うっとりしちゃいますよ。この、なんです? ヒラヒラしたの。首んとこのヒラヒラしたのがいい味出してます」
「ジャボのことかな? ありがとう。この襟付きのケープコートのおかげか気分が出てね、吸血鬼のように振る舞いたくなってしまうんだよ」
(……ケープコート? ほーん、マントじゃないんですな。生贄みたいな名前ですなぁ)
ネザメはケープコートの端を掴んで口元を隠す。吸血鬼らしい仕草が微笑ましく見える日が来るとは思わなかった。
「あぁ……水月くん、美しい君の視線を奪ってしまえるだなんて、僕はなんて罪深い……いや、人の道を外れた怪物に堕ちてしまっているのだから、悪辣な独占行為ももはや道理か」
すっかり吸血鬼になりきっているな。俺がして欲しかったコスプレはもっと俗っぽいセクシーなもののことだったのだが、まぁ、こんな本格的なコスプレもいいだろう。
「さぁ麗しの君、この夜の支配者に清らかなる処女の血を棒げたまえ」
「俺は確かに処女ですけど童貞じゃないですよ?」
「ネザメ様、今我々は調理中です! 邪魔をしないで頂きたいのですが! 鳴雷一年生も鳴雷一年生だ、いちいちしっかり相手をするな!」
酷い言いようだ。
「おやおや、とんだ番犬が居たものだ。退散するとしよう」
「全く…………ん? 鳴雷一年生、チャイムが鳴ったようだぞ」
「見に行ってきます」
キッチンはミフユに任せ、俺は手をサッと洗って玄関へ走った。扉を開くと予想通り、食材を持った歌見とレイが立っていた。
「よ、水月」
「せんぱーい! お久しぶりっす」
「歌見先輩、レイ、いらっしゃい! もうだいたい準備出来てるから入っちゃってくれ」
いつも通りの格好の二人をダイニングに通す。彼らが買ってきてくれたのはほとんどが肉だ。
「はぁ……涼しい。いやぁ外は暑いな。今から焼肉か……」
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