冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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情報共有は焼肉と共に

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ようやく彼氏達が全員揃った、カミア以外は。母も義母も居ない、俺の天国だ。いや、ホムラが居るな。あまり下品な真似は控えた方がいいか。

「お肉焼きますから、その間短冊でも書いててください」

まだ願い事を書いていない者達に短冊と鉛筆を配り、俺は牛タンを鉄板に並べた。

「久遠を生きる我にもはや望むことなど……いや、美味なる処女の血ならばいつ何時でも……」

「ネザメ様に次期当主としての自覚を持ってもらいたい……と。どこかに吊るすのか? 鳴雷一年生」

「庭に笹を用意してますよ。こんなに暑くなかったら笹見ながらバーベキューみたいにしたかったんですけどね」

「本当だ、笹がある」

歌見は窓から庭を見ている。その手に握られた短冊には「妹が俺を頼らなくなりますように」と書いている。

「レイは~……?」

レイが書き終えたようなので覗きに行くと「もっと名前が売れますように」と書かれていた。

「……結構売れてる方だと思ってたけど」

「そうでもないっすよ。三年もしたら結婚っすからね。結婚となったら色々と物入りっす、もっとたくさん稼がなきゃっす」

卒業したら同棲しようという話をちゃんと考えてくれているようで嬉しい。俺もバイト代は適度に貯めておかないとな。

「カンナは何書いたんだ?」

「も……ハ、キリ……な、せる、よー……なり、た……」

短冊には小さな字で「もっとハッキリ話せるようになりたい」と書かれていた。

「……頑張れ! 俺は今のままのカンナでも愛おしいけど、向上を目指すカンナは誇らしいぞ。発声練習とかならいくらでも付き合ってやるからな~。可愛い声、たっくさん上げさせてやるぞ」

「みぃくん……えっち」

「俺は明言はしてないぞ? そう受け取っちゃったカンナの方がえっちだ」

「……! み……く、のがっ……えっち、だもんっ……!」

可愛らしいカンナを撫で回しているうちに牛タンが焼けた。二枚ずつ配り、鉄板の端にウインナーを十本ほど転がす。

「俺短冊吊るしてくる……っと、ネザメさんのまだ受け取ってませんでしたね。処女の血でもご所望ですか? なーんて……」

今短冊に願い事を書いた者達の短冊を集め、庭に出る。最後に受け取ったネザメの短冊には「水月くんと秋風くんともっと仲良くなりたい」と書いていた、ミステリアスで人外コスが似合う雰囲気と美貌に反した可愛さのギャップがもう、俺を殺しに来ていると言っても過言ではない。

「うおぅ……不整脈……」

心臓の高鳴りをなだめつつ笹に短冊を吊るし、ダイニングに戻る。焼肉はまだ始まったばかりだ。



ソファで眠っていたセイカを起こし、椅子が余っていないのでその場で食べてもらうことにして肉の乗った皿と箸をサイドテーブルに乗せた。

「ありがと。何、これ……肉?」

「そ、焼肉。焼肉が嫌いな男子高校生なんてそうそう居ないからな、集まるとこういうのになりがちなんだよ。セイカは牛と豚と鳥ならどれが好きだ?」

「……さっき食べたサンドイッチに入ってたのは豚だよな。これは何肉?」

「ハムと牛タンを参考にするのはよくないな……カルビとロースとモモ肉焼いてきてやるから待ってろ」

肉もろくに食べさせてもらえなかったのかとセイカに気付かれない位置でため息をつき、鉄板に肉を並べる。換気扇を回しているのに位置が悪いのか煙っぽい。

「水月座らへんの?」

「椅子がないからなー。食べる時はソファにでも座るよ、気にしてくれてありがとな」

立って上から彼氏達を眺めてみると、それぞれ肉の取り方食べ方に個性があると分かる。自分達で買ってきた高い肉だけをネザメに与えているミフユ、脂身のない肉をより分けているハル、値段も種類も気にせずに食いまくっているシュカ、焦げ目がつくまで焼こうとして傍に寄せた肉をシュカに掠め取られて静かにショックを受けているカンナ……みんな可愛い。

「カンナはウェルダン派か?」

「……ぅ、ん」

「シュカ、カンナよく焼きたいらしいからカンナの前にある肉は取らないでやって……ちょっと待てそれまだ生焼けだろ! 食中毒とか危ないんだからちゃんと焼きなさい! ハル、ちぎった脂身シュカの皿にこっそり入れない! ピーマンを俺の皿に入れるなレイ! みんなちゃんと火が通った肉を食え野菜とバランスよく食え!」

「おかんみたいやな」

二人分の肉と野菜を皿に乗せてソファに帰還。セイカの皿に半分分け、セイカの隣に座る。

「……美味しい。すごい……唾液で溺れる」

「蜂蜜食べた時もよだれ凄かったよな、セイカ。体質か? キスしてる時はそんなに多く感じないんだけど」

「ろくなもん食ってねぇからじゃねぇかな、急にこんな美味いもん食ったら唾液腺が壊れる」

「……絶食後に焼肉って大丈夫かな?」

「…………まだ大丈夫みたいだぞ」

「怖い言い方……胃疲れてるなって感じしたら言ってくれ、お茶漬けでも作ってくるよ」

「……うん」

小さく頷いたセイカは箸を置き、俺の肩に頭を寄せた。



真昼間からの焼肉、レイ以外の彼氏達が飲んでいるのはジュースだ。レイは同じ色のチューハイを飲んでいる、キッチンでコップに移しているようなので他の彼氏にバレることはないだろう。アルコールの匂いに気付かれそうなものだが、レイの隣は幸いにも実年齢を知っている歌見と何かあっても遠慮して言及しないホムラだ。

「……そうそう水月、どうして狭雲さんの弟さんを連れてきているのか、全員揃ったら説明すると言いましたよね。いつ話すんです?」

「あー……そうだな、ちょっと長くなるけどいいか?」

彼氏達は皆バラバラに頷いた。

「じゃあ、ほむらくん。手伝ってくれよ。えーっと、どこから話そうかな……」

まずは退院時に俺が迎えに行き損ねたところから、今日彼らが家に来るまでの出来事をホムラと共に話した。みんな黙って聞いてくれていて、焼肉を貪る手は誰も止めなかった。

「なんやえらい大変やったんやなぁ」

「せんぱいに電話したの偉いっすよほむらくん」

皆が狭雲兄弟に同情的になったり、今までの苦労を労ったりする中、歌見は難しい顔をしていた。

「……一切連絡なしはまずいぞ。早めに居場所を知らせておかないと警察沙汰になりかねない」

「中学生と高校生なんか家出扱いで何もせぇへんやろ警察。もし誘拐や言うて動いても、見つかったら高校生の家に居るんやったらやっぱ家出や友達の家泊まっとっただけやんなるんちゃう?」

「抱えて連れて帰ってきたんだろ? それが駅の監視カメラにでも映ってたらまずいと思うが……」

「弟の方は大人しゅう着いてきてんねんからそんななれへんて」

俺の不安を話し合ってくれるのは助かる、一人では上手く悩めない。明日から動き始めないとまずい。

「……家に戻るのは、避けられないのでしょうか」

「それは……まぁ、避けられないだろうな」

「でもご飯くれない家だよ~? 児相どころか警察案件じゃな~い?」

「うーん…………あ」

箸を止めて悩んでいた歌見は何か思い付いたようだ。

「どうしたんですかせんぱい」

「弁護士の知り合いが居る知り合いが大学に居る」

「弁護士……! なんか、出来ますかね?」

「さぁ……月曜日に会えたら聞いてみようか」

「お願いします!」

セイカ達を家に返して証拠が集まるのを待ったり、俺が個人的にセイカを脅し取ったりしてよくなるかもしれない。その希望は大きく、セイカと同じく虚ろだったホムラの目には僅かに光が戻った。

(……セイカ様はレイプ目のままなんですな)

相変わらず光のない目をしているセイカは豚肉がお気に召したようだった。
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