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自宅への道は重く……

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金曜日、ネザメ達が修学旅行から帰ってくる日であり、俺がリフォームを終えた自宅へと帰る日でもある。

「またみっつんち行けるんだ~」

「リフォーム気になるわぁ、はよ見ぃたい」

学校で彼氏達に自宅について話すと予想通り「行きたい」という反応が返ってきた。

「会長がお土産渡したいって言ってますし、近いうちに集まりませんか? お土産にリフォーム祝いも兼ねて、何かいいものもらえるかもしれませんよ」

「たかる気満々やな」

「金持ちにたからず何にたかるんです?」

「集まりか……アキが治ったら、だな。ネザメさんに失礼するなよ? シュカ」

「可愛げのある後輩枠から逸脱しない程度に抑えますよ、それが一番得ですから」

「もう逸脱しとるわ、自分全く可愛ないで」

リュウをシメるシュカを眺めながら、彼の言うようにネザメに色々とねだれば得をするんだろうなと考える。しかし、俺は大富豪のネザメ相手でも食事を奢り、アクセサリーを贈る彼氏でありたい。

(カッコつけてたいんですよなぁ……)

つん、と二の腕をつつかれて視線をやれば、小首を傾げて俺を見上げるカンナが居た。

「どうした? カンナ」

「だ……じょ、ぶ?」

「えっ……? あぁ、アキか? うーん……なかなか熱が下がらなくて心配だけど、まぁ病院行ったし……」

「ち、が…………みぃくん。みー、く……今日、じゅ……ちゅ、ため……き、多……し、眠……そ…………疲れて、る?」

授業中ため息が多いし眠そうだった? しまったな、彼氏達と接する時は意識して元気に振る舞っていたが、授業中は気を抜いてしまっていた。

「赤点回避が絶望的だってため息ついてただけだよ、眠いのなんて皆そうだろ? 遅くまで勉強してるんだから。特別疲れてる訳じゃないよ、ありがとうなカンナ」

「……そ、ぉ?」

危なかった。何とか誤魔化せたかな。弟の看病に疲れているなんてカッコ悪いところは見せられない、もう少し可愛い弱みなら見せた方が好感度が稼げるが……今回は正直にはなれないな。

「勉強し過ぎて疲れてテスト当日に潰れたら世話ないで」

「分かってるよ、ちゃんと休みもする。今日からは馴染みのある自宅だしな」

「せっかく自分の部屋作ってもらったのに風邪引いちゃってるとかアキくん可哀想だね~……ってか長くない?」

「四日目ですよね、確か」

「心配やなぁ。まぁ死にゃせぇへんやろ」

「お気楽ですね……」

俺も風邪自体は「そのうち治るだろう」と気楽に構えている。俺を悩ませているのはアキが不眠症であり、強いストレスをずっと受けてきたということだ。あの天使のような可愛い弟を苦しめるのは一体何なのか、それすら分からない自分がどんどん嫌いになっていくのだ。



彼氏達との会話や接触で癒されはしたものの、根本的解決には当然至らない。レイの家の扉を開け、昨晩のうちにまとめた荷物が玄関に置かれているのを見て寂しさが溢れた。

「おかえりなさいっすせんぱい」

「……ただいま」

寝室からひょこっと顔を出したレイを思わず抱き締めた。彼に出迎えられるのもこれで最後なのだと思うと腕の力は強くなっていった。

「せんぱいっ……? ど、どうしたんすか?」

「…………寂しくなっちゃった」

「せんぱい……もう、いつでも会えるって言ったのはせんぱいじゃないすか。ほら、荷物玄関に運んでおいたんすよ俺。アキくんも着替えさせましたし、日焼け止めも塗ったっす! 褒めて欲しいっすよ」

「ありがとう、レイ。すごく助かるよ。でもこの家に居座る口実がなくなっちゃったのはちょっと残念だな~……なんて」

「もぉー……えへへ」

照れくさそうに笑うレイの頬を撫で、顎を支え、唇を重ねる。

「んっ……」

舌を入れ、上顎をじっくりと舐めた後で舌を絡め合う。舌ピアスの硬い感触が柔らかく弾力のある舌の間で強い存在感を放つ。

「…………っ、はぁ……レイ、レイ……なぁ、卒業するまで待っててくれるか? ずっと付き合っててくれるか? 卒業したら同棲してくれるか?」

「せんぱい……! えへへへっ、当たり前っす! 大好きっすよせーんぱいっ、俺せんぱいと正式に同棲する日を待ってるっす!」

「あぁ……あぁ、毎日三食作ってやる。それまで不摂生するなよ」

将来を誓い合うプロポーズ紛いの言葉を交わし合い、啄むようなキスを楽しみ、寝室で待つアキの元へと向かった。

「アキ、大丈夫か?」

「さっき測ったら37.8だったっす」

「ちょっと下がってきてるな……よしよし、立てるか?」

「……にーに」

アキは俺を見てほんの少しだけ明るい表情に変わり、傍に寄ると両手を広げた。首に抱きつかせて腰に腕を回して抱き上げると、彼の足は俺の腰に絡んだ。

「今から家、帰るからな。お母さん、会えるするぞ」

「……おかーさん、会うする……嬉しい、しないです。にーに……にーにぃ、にーに……嬉しいするです、すきです、にーに」

「そんなこと言うなよ。しっかり掴まったか? 行くぞ」

腕にアキを座らせるイメージで彼の尻の下で腕を組み、レイにその腕に荷物をかけてもらった。

「よし。ありがとうな、レイ。重かっただろ」

「俺はいいんすけど、大丈夫っすかせんぱい、腕……色変わってきてるっすよ」

ボストンバッグを二つずつ下げた俺の腕は確かに圧迫により変色しているが、まだ気にする段階ではない。

「大丈夫大丈夫。じゃあなレイ、ばいばい……またな」

「また! っす。いつでも泊まりに来てくれていいんすからね」

手を振るレイに手を振り返すことは出来なかったので、とりあえず頷いて笑顔を返した。

「お気を付けて、っす」

レイの住むマンションを後にし、まずは駅に向かう。さて、とても暑い街を、治安の悪いこの街を、ボストンバッグを四つとアキを抱えて駅まで歩くことは出来るのだろうか。
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