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特に何も変わらない我が家
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出来た。半分は気合い、もう半分は根性で何とか駅まで辿り着いた。電車に揺られながら休憩し、久しぶりに自宅の最寄り駅に降りた。
「テスト近いからってバイトも休んでたからなぁ……いやー、この駅久しぶりだ」
自宅の前に到着。まずは真正面から眺めてみたが、特に何かが変わった様子はない。玄関前で一旦アキを下ろし、鍵を開けて中に入った。ボストンバッグを玄関に置いて中からタオルを引っ張りだし、アキの頭を軽く拭いた。
「暑い、だったな」
「…………あついです」
「母さんのとこ行こうな」
何も変わっていない廊下を抜けてリビングへ。ここも何も変わっていない、母と義母が椅子に座っているだけだ。
「ただいま。久しぶり、母さん」
「おかえり水月、とアキ……アキ大丈夫?」
母は席を立ってアキの額に触れた。渋い顔をしながら冷蔵庫を開け、冷感ジェル入りのタオルをアキの首に巻いた。
《うぉぉ……ゾクゾクした》
「汗かいてるわね。お風呂は……うーん、熱あるならやめとこっか。水月、タオルで汗拭いたげて。お昼はその後ね」
「はい」
「ちょっ、ちょっと待って唯乃。それ……私がやる。水月くんて、その……」
義母はチラリと俺を見て、すぐに母に視線を戻して「ねっ」と機嫌を伺うように首を傾げている。彼女が言わんとしていることは嫌でも伝わってくる。
母は腕を組んでため息をつき、不愉快そうに眉を顰めた。
「……葉子は人間の裸なら何でも興奮する?」
「…………まさか」
「ね? 誰にでもって訳じゃないわよ」
「でも……アキ、あなたに似て可愛いし……水月くんの彼氏、確か……小柄で可愛い子でしょ。ストライクゾーンに入ってると思うの」
俺の彼氏は色々居てアキもそのうちの一人ですとか言ったら卒倒するんだろうな、この人。
「はぁ……葉子ぉ、家族にはそんな感情持てない。四六時中一緒に居るのよ? 屁こいて鼻ほじってケツ搔いてるところ見てるの、無理よ。カップルだって同棲始めたらときめきが死んでくの。義兄弟との恋愛なんて少女漫画の世界じゃなきゃ無理」
「………………分かった。もう二度と水月くんにケチつけない、それでいいでしょ。でもアキの身体拭くのは私がやる。アキ、おいで」
義母がアキの腕を掴むも、アキはすぐにそれを振り払った。
「……アキ?」
《触んな》
《なっ、何よその態度! 汗かいたでしょ、拭かなきゃ風邪悪化しちゃう!》
《じゃあそう言えよ急に触んな! 後なぁ、そのくらい自分で出来る!》
俺には分からない言葉での短い言い争いの後、アキは一人で脱衣所に向かった。義母はぽかんとしている。
「案外元気そうね。水月、着替え持っていってあげて」
「はい。あのー……なんか喧嘩してた感じでしたけど」
「反抗期ね」
「はぁ……なるほど……?」
天使のように可愛いアキだが、性格まで天使じみている訳ではない。普通の十四歳だ、反抗期で当然だ、頭では分かっているのにアキの義母への態度にショックを受けてしまった。
「アキー……?」
母の言う通りに着替えを持っていくと、脱衣所でアキは裸になり濡れたタオルで身体を拭いていた。
「にーに。にーに、背中する欲しいです」
「ん、分かった」
タオルを受け取って背中を拭き、乾いたタオルで再度全身を拭かせた。持ってきた部屋着に着替えさせると、アキは俺に抱きついてきた。
「……なぁ、アキ……お母さん……あー、怒るする、ダメだぞ?」
反抗期のない人生を送ったせいか反抗期真っ只中の気持ちが分からない。ただ、あんな態度はいけないと注意をしたかった。
「…………お母さん、ぼく……お母さん、違うです」
「……そ、そんなこと言っちゃダメだ!」
一瞬意味が分からなかったが、彼女が自分の母親じゃないと言っていると気付いた。反抗期だろうとその発言だけは許せない、特に卵子提供などの事情を抱えた親子間でそれだけはダメだ。
「葉子さんはちゃんとアキを産んでくれただろ!? アキは葉子さんのお腹の中に入ってた! あっ……ごめん、えっと、つまりな」
怒りに任せて早口で普通に話してしまった。もっとゆっくりと単語ごとに区切って話さなければ、アキはただ怒られていることだけを感じて落ち込むだけだ。
「……お母さんっ、言ったです! ぼく、お母さん子供ちがうっ、ちがう、だから、ぼく、お母さん好き違うです、お母さん言ったです!」
「ちょ、ちょっ……ちょっと待って、よく分かんない……えっと、葉子さん、お母さんが何言ったって?」
「ちょっと水月ホントに盛ってんの?」
ガラガラっと脱衣所の引き戸が開き、母が顔を覗かせた。
「何グダグダしてんのよ、葉子が怪しんじゃうじゃない。葉子のああいうとこはあんまり好きじゃないのよねぇ、好きな人の好きじゃないとこ見るのってすっごい嫌なのよ」
「あー……ママ上、アキくんが何か言ってくれたんですが、よく分からなくて……翻訳お願い出来ません?」
《……アキ、さっきお兄ちゃんに何言ったの? お兄ちゃんよく分かんなかったって》
アキは母に話すのを躊躇っているようだったが、じっと見つめてみると俺の気持ちに応えようとしてくれたのか、それは俺のうぬぼれなのか、母に何かを話してくれた。
「あー……」
「ママ上? 分かりました?」
「……葉子がねぇ、向こうで……アキがちょっとやらかしちゃう度に「私の本物の子供じゃないから私のこと好きじゃない」って言ってたみたい。私のこと好きじゃないから私の言うこと聞かないんでしょとか、そういうことね。それ言われちゃどうしようもないわよねぇ」
子供にとっては脅し文句そのものだ。
「葉子そういうとこあるのよー……用事があってデート断ったりするとねー、そういうこと言うのよぉ……まぁそういうとこも可愛いんだけどぉ」
「惚気ないでくださいましママ上」
「だけど、子供に言っちゃダメよね」
可愛こぶった、息子の立場からでは気持ち悪いとしか思えない声と話し方が、一瞬にして冷めたものへと変わり、ゾクッと背筋に寒気が走った。
「お昼ご飯、出来たからおいで」
にっこりと母親らしい笑顔と優しい声でそう言われ、寒気が消え温かな気分が戻った。
「テスト近いからってバイトも休んでたからなぁ……いやー、この駅久しぶりだ」
自宅の前に到着。まずは真正面から眺めてみたが、特に何かが変わった様子はない。玄関前で一旦アキを下ろし、鍵を開けて中に入った。ボストンバッグを玄関に置いて中からタオルを引っ張りだし、アキの頭を軽く拭いた。
「暑い、だったな」
「…………あついです」
「母さんのとこ行こうな」
何も変わっていない廊下を抜けてリビングへ。ここも何も変わっていない、母と義母が椅子に座っているだけだ。
「ただいま。久しぶり、母さん」
「おかえり水月、とアキ……アキ大丈夫?」
母は席を立ってアキの額に触れた。渋い顔をしながら冷蔵庫を開け、冷感ジェル入りのタオルをアキの首に巻いた。
《うぉぉ……ゾクゾクした》
「汗かいてるわね。お風呂は……うーん、熱あるならやめとこっか。水月、タオルで汗拭いたげて。お昼はその後ね」
「はい」
「ちょっ、ちょっと待って唯乃。それ……私がやる。水月くんて、その……」
義母はチラリと俺を見て、すぐに母に視線を戻して「ねっ」と機嫌を伺うように首を傾げている。彼女が言わんとしていることは嫌でも伝わってくる。
母は腕を組んでため息をつき、不愉快そうに眉を顰めた。
「……葉子は人間の裸なら何でも興奮する?」
「…………まさか」
「ね? 誰にでもって訳じゃないわよ」
「でも……アキ、あなたに似て可愛いし……水月くんの彼氏、確か……小柄で可愛い子でしょ。ストライクゾーンに入ってると思うの」
俺の彼氏は色々居てアキもそのうちの一人ですとか言ったら卒倒するんだろうな、この人。
「はぁ……葉子ぉ、家族にはそんな感情持てない。四六時中一緒に居るのよ? 屁こいて鼻ほじってケツ搔いてるところ見てるの、無理よ。カップルだって同棲始めたらときめきが死んでくの。義兄弟との恋愛なんて少女漫画の世界じゃなきゃ無理」
「………………分かった。もう二度と水月くんにケチつけない、それでいいでしょ。でもアキの身体拭くのは私がやる。アキ、おいで」
義母がアキの腕を掴むも、アキはすぐにそれを振り払った。
「……アキ?」
《触んな》
《なっ、何よその態度! 汗かいたでしょ、拭かなきゃ風邪悪化しちゃう!》
《じゃあそう言えよ急に触んな! 後なぁ、そのくらい自分で出来る!》
俺には分からない言葉での短い言い争いの後、アキは一人で脱衣所に向かった。義母はぽかんとしている。
「案外元気そうね。水月、着替え持っていってあげて」
「はい。あのー……なんか喧嘩してた感じでしたけど」
「反抗期ね」
「はぁ……なるほど……?」
天使のように可愛いアキだが、性格まで天使じみている訳ではない。普通の十四歳だ、反抗期で当然だ、頭では分かっているのにアキの義母への態度にショックを受けてしまった。
「アキー……?」
母の言う通りに着替えを持っていくと、脱衣所でアキは裸になり濡れたタオルで身体を拭いていた。
「にーに。にーに、背中する欲しいです」
「ん、分かった」
タオルを受け取って背中を拭き、乾いたタオルで再度全身を拭かせた。持ってきた部屋着に着替えさせると、アキは俺に抱きついてきた。
「……なぁ、アキ……お母さん……あー、怒るする、ダメだぞ?」
反抗期のない人生を送ったせいか反抗期真っ只中の気持ちが分からない。ただ、あんな態度はいけないと注意をしたかった。
「…………お母さん、ぼく……お母さん、違うです」
「……そ、そんなこと言っちゃダメだ!」
一瞬意味が分からなかったが、彼女が自分の母親じゃないと言っていると気付いた。反抗期だろうとその発言だけは許せない、特に卵子提供などの事情を抱えた親子間でそれだけはダメだ。
「葉子さんはちゃんとアキを産んでくれただろ!? アキは葉子さんのお腹の中に入ってた! あっ……ごめん、えっと、つまりな」
怒りに任せて早口で普通に話してしまった。もっとゆっくりと単語ごとに区切って話さなければ、アキはただ怒られていることだけを感じて落ち込むだけだ。
「……お母さんっ、言ったです! ぼく、お母さん子供ちがうっ、ちがう、だから、ぼく、お母さん好き違うです、お母さん言ったです!」
「ちょ、ちょっ……ちょっと待って、よく分かんない……えっと、葉子さん、お母さんが何言ったって?」
「ちょっと水月ホントに盛ってんの?」
ガラガラっと脱衣所の引き戸が開き、母が顔を覗かせた。
「何グダグダしてんのよ、葉子が怪しんじゃうじゃない。葉子のああいうとこはあんまり好きじゃないのよねぇ、好きな人の好きじゃないとこ見るのってすっごい嫌なのよ」
「あー……ママ上、アキくんが何か言ってくれたんですが、よく分からなくて……翻訳お願い出来ません?」
《……アキ、さっきお兄ちゃんに何言ったの? お兄ちゃんよく分かんなかったって》
アキは母に話すのを躊躇っているようだったが、じっと見つめてみると俺の気持ちに応えようとしてくれたのか、それは俺のうぬぼれなのか、母に何かを話してくれた。
「あー……」
「ママ上? 分かりました?」
「……葉子がねぇ、向こうで……アキがちょっとやらかしちゃう度に「私の本物の子供じゃないから私のこと好きじゃない」って言ってたみたい。私のこと好きじゃないから私の言うこと聞かないんでしょとか、そういうことね。それ言われちゃどうしようもないわよねぇ」
子供にとっては脅し文句そのものだ。
「葉子そういうとこあるのよー……用事があってデート断ったりするとねー、そういうこと言うのよぉ……まぁそういうとこも可愛いんだけどぉ」
「惚気ないでくださいましママ上」
「だけど、子供に言っちゃダメよね」
可愛こぶった、息子の立場からでは気持ち悪いとしか思えない声と話し方が、一瞬にして冷めたものへと変わり、ゾクッと背筋に寒気が走った。
「お昼ご飯、出来たからおいで」
にっこりと母親らしい笑顔と優しい声でそう言われ、寒気が消え温かな気分が戻った。
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