冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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おまけ

おまけ デートの裏側

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※セイカ視点。476話「土曜日デート」にて水月がハルとデートをしている間のセイカの様子。



今日は土曜日だけど、鳴雷は来ない。バイトのシフトが急に代わったらしい、高校生バイトが土曜日に八時間以上の急な仕事を……嫌な職場だなと思うことにした。

「ぅ……ひっく、ぅ、うぅ……」

鳴雷はバイトなんだ、仕方ないんだ、そう何度自分に言い聞かせても涙が止まらない。テディベアから手を離して朝食を食べなければいけないのに、鳴雷がくれたぬいぐるみを離したくない。けれど同時に、クマを模していたと分からないくらいズタズタに引き裂いてやりたくもなる。

「い、たっ……痛い…………ぅう……ごめんなさい、ごめんなさい、大事なもんなのに傷付けてごめんなさいぃ……」

人の爪で破れるような生地ではないと分かってはいたけれど、鳴雷からもらったぬいぐるみを引っ掻くなんて嫌で、壊したい衝動が出たら自分の身体を引っ掻いた。ミミズ脹れが増える度、鳴雷が大切にしている俺を俺ごときが傷付けてしまったことに酷い罪悪感を覚えた。



看護師や医師に構われるのは嫌だったので朝食は何とか食器の回収までに食べ終え、吐き気を覚えながらもベッドに横になった。

「秋風……まだかな」

この間アキが持ってきたトランプを枕の下から引っ張り出し、握り締める。

「来るなら早く来いよぉ……」

目がぎゅうっと痛く、熱くなる。こんなに泣いたら目が腫れてしまう、ただでさえみすぼらしい見た目なのにこれ以上ブサイクになったら鳴雷が可愛がってくれなくなるかもしれない。そう考えて必死に涙を堪えているうち、二度寝をした。

「せーか! せーか? 寝るするです? 起きるするです! せーか、せーか、すぇかーちか」

「んんん……何…………あっ、秋風、来てたのか、ごめん、寝てた」

肩を乱雑に揺さぶられて目を開けると、サングラスをかけた白い美少年が居た。服は真っ黒中身は真っ白、おはぎみたいなヤツだ。

「おねぼーさんです」

「それ鳴雷が言ってて覚えたのか? アイツの語彙可愛いな……」

秋風は靴を脱ぐと俺に断りもせずベッドに乗り、俺の太腿を跨いで膝立ちになると両手を広げた。彼は病室に来るとまずハグを求める、文化の違いを感じつつそれに応えると嬉しそうに笑う。

「お前ほんと鳴雷そっくり。くだらねぇことでニッコニコしてさぁ……ふふ」

少し話しかけてやっただけで今の秋風のように笑顔を見せてくれた中学時代の鳴雷を思い出し、その笑顔を失わせた俺の蛮行を思い出し、罪悪感で息が出来なくなった。

「すぇかーちか、遊ぶするです」

「……せーかって呼べせーかって、いつも通りに」

《んだよ、頑張って考えたんだぜ、日本の名前ってあだ名作りにくいのによ》

「ぶつぶつ言うな。で? トランプしかねぇけど何するよ」

それから数十分トランプで遊んだ。秋風はずっと拙い日本語で可愛く話していたが、ゲームで劣勢になるとロシア語で何か言っていた。多分スラングだ、英語で言うところのファックみたいな。

「にーにはバイト頑張ってるって言うのに、俺らは暇を持て余してトランプゲーム……なーんか胸がチクッとするよな」

「ばいと? きょー、にーに、ばいと行くするしないです。おやふみー? です」

「おやふみ……お休みか? あぁ、休みの予定だったけど急にシフト変わったって聞いたんだけど……まさか、違う、のか…………秋風っ、にーに、どこ行く?」

鳴雷の言葉を信じると決めたのに、俺は僅かな疑念の芽を摘み切れずに秋風に詳しく尋ねてしまった。

「どこ、知るするしないです」

「……一人、だったか?」

「нет……はる、一緒するです」

「ハル? 人の名前か。ゃ、同僚かも……ほ、他には? 何か……言う、してなかったか?」

きっと信じたままの方が楽だったのに、俺は真実を聞いてしまった。

「でーと、言うするしたです。あくしぇー? 買うする、言うする……ぅー、覚えるする、少しです」

「………………ありがとう」

「どーい、たしまし! せーか嬉しいするです? ぼく、嬉しいするです!」

「どういたしまして、な」

バイトだなんて嘘だ、ハルとやらとデートに行ったんだ。あくしぇー……多分、アクセとでも言ったのだろう。ショッピングデートか?

「……そっか、鳴雷はデートか。今頃楽しんでるんだろうな」

俺ごときに鳴雷が縛られてくれる訳がない、むしろ土日を潰させて申し訳ないと思っていたから安心した、今日たっぷり楽しんだ鳴雷は明日いつもより機嫌よく接してくれるだろうし……俺も、そのハルとやらも、鳴雷も、みんな幸せになる。鳴雷はいい選択をした。

「…………ぅ、あ…………ぅあぁあああっ! ふざけんなっ、ふざけんなぁっ! ぁあああっ! ぁあっ……ぅ、ぅう……うっ、ぅ……」

「せーか!? せーか、どうするしたです? せーか、泣くする……止めるする、ぼく何するです?」

俺なんかを抱くためだけに休日を潰すよりも、心身ともに健康な彼氏と外へ出かけた方が有意義に決まっている。デートに行きたがるのも、俺の見舞いをやめてデートに行くのも、当然のことだ。それ自体はいい、ただ嘘をつかれたのがショックだった。

「嘘つきっ、鳴雷の嘘つきぃっ……! ひどいっ、なんでぇ……俺、おれっ……デート行けばって言ったじゃんっ、鳴雷……アウトドア嫌いって言ったくせにっ、俺と居るの楽しいって、幸せって言ってたくせに……嘘、ついた、嘘ついてたぁっ……なんでっ」

俺が先日に「デートなんて行かずに休日は俺だけに使って」と言っていたなら仕事と誤魔化してデートに行くのも分かる。けれど、俺はその真逆を言った、他の彼氏とデートにでも行けばと提案した。

なのになんで?

デートに行きたかったのならあの時「そうだな」って言えばよかったじゃないか、デートに行きたくなったのならこの前の電話で「デートに行きたいから土曜日に見舞いを休んでいいかな」とでも言えばよかったじゃないか。

なんで嘘ついたの?

俺が嫉妬すると思った? 退院後ハルとやらに危害を加えるとでも思った? 日曜日に鳴雷を罵るとでも思った? 俺は嘘っぽいと思いながらもバイトだって嘘を信じてやったのに、鳴雷は俺を信じてくれなかった。

当たり前だ、だって俺は友達ヅラしたくせに虐めたんだから。そんなヤツ信用出来る訳がない。嘘をつかれていたのは自業自得だ。

「………………ハハッ」

あぁ、そうか。これが罰か。三年弱もの間虐め続けた俺への罰か。完璧だな、肺の内側を掻き毟られたような苦痛と、今すぐに死にたい気持ちが生き返った。

「……………………なぁ、秋風」

「せーか……泣くする、終わるするです? せーか、ぼく何するです?」

何をして欲しいか聞いているのだろう。いい子だ。

「なぁ、秋風……嘘だってネタばらしすんの、頼まれてたのか? ぁー……えっとな、にーに、他……何か、言う、してなかったか?」

「他です? んー、ぅー…………! でーと、行くする、せーか、ないしょーする、言うするしたです! 思い出すする、出来るしたです。せーか、嬉しいするです?」

内緒にしろとは言っていたのか。故意に俺を傷付けた訳じゃないんだな、ただ俺が真実を伝えるに値しなかっただけだ。

「…………お前はなんで、内緒、しなかったんだ? 俺がそんなに哀れだったのか?」

「……? ないしょーする、何です? 分かるする、しないです」

「あぁ……なんだ、そっか、まぁ……習うとしたら秘密って言い方だよな。内緒って一番に出る訳じゃねぇもんな」

分からない言葉を使われても意味を聞かないものなんだな。分からなかったからスルーしていて、思い出すのに時間がかかったのか?

「ないしょー、する。何です? ぼく……ないしょー、する。出来るする、しないです?」

「ん……いいんだよ。ありがとう。俺はそっちの方がいい」

「……安心する、するです」

ホッと息をついている秋風の首に腕を絡めた。意味がないのに右腕もつい動いてしまった。

「なぁ、秋風……俺さぁ、どうしよう……鳴雷、俺のことホントに好きなのかなぁ……ホントに大事にしてんのかな……してるよな? 嘘ついただけだよなぁ、信じてないだけでちゃんと好きだよなぁ?」

「せーか、ゆっくり言うする、お願いするです」

「くまさん……買ってくれた……高いの、くれた……好きじゃなきゃ、こんな高いの……くれないよな。好きだよな」

ただ面倒事を避けたくて嘘をついただけで俺に語った愛の言葉は真実なのか、俺に語った愛の言葉すら嘘なのか、混乱してしまう。
後者だったとしたらこれまで休日を消費していたことやテディベアを贈ってくれたことに説明がつかないから、前者の可能性の方が高いのに、俺の心はよくない方にばかり目が向いてしまう。

「……! せーか、好きです!」

「え……ぁ、違うっ、好きだよなってのは、鳴雷が俺をってことだ! お前に好かれてたって……鳴雷に好かれてなきゃ意味ないんだよ。いや、まぁ嬉しいけどさ……俺は、鳴雷……鳴雷が、いいんだ。鳴雷じゃなきゃダメなのに……俺には鳴雷しか居ないのに……鳴雷、だけなのに」

もう鳴雷の言葉は信用出来ない。日曜日に彼を問い詰めても、俺のことが好きかどうか聞いても、嘘をつくのなら意味がない。

「……せーか?」

「俺が来て欲しかったのはお前じゃないんだよぉっ……」

どうせ聞き取れないだろうからと酷い言葉を吐いた。俺の想定通り、秋風は首を傾げている。

「もう、死にたい……でも、明日……来てくれる、はず。明日まで……明日、までは」

俺のことが少しでも好きなら来てくれるだろう、明日鳴雷が来なかったら死のう。来てくれるならそれでいい、嘘をついていても信じてくれていなくても、笑顔で俺に触れてくれるのなら、それだけで俺は救われる。
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