冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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おまけ

おまけ 口は災いの元

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※セイカ視点。503話「君が居れば平和になる」の少し前、アキがお見舞いに来たセイカの話。



平日は毎日来てくれていた秋風が昨日は来なかった。鳴雷は「天気が良いから」なんて雑な予想をしていたけれど、先週にだって昨日のような快晴の日はあったし、その日は来ていた。

「今日は…………やめよう、期待なんか、するな……」

昨日はずっとバカみたいにソワソワして、ドキドキして、ハラハラしていた。見舞い一つでこんなにも心を乱されるなんて情けない、惨めだ。

「…………ぐすっ……ぅ、ふ……うぅぅ……」

独りぼっちで惨めに泣いてしばらくした頃、ガリガリと妙な音が聞こえてくるのに気が付いた。ほとんど無意識のうちに二の腕を引っ掻いていて、左手の爪の間が赤くなっていた。

「……また」

鳴雷に悲しそうな顔をさせてしまう。看護師に変な顔をされてしまう。

「したく……ないのに」

自傷して気を引こうなんて思っていない、俺はそんなことをするヤツを軽蔑している。鳴雷にそう思われているかもしれないと考えるだけで死にたくなる。落ち込むと勝手に手が動く、痛みを感じると気持ちが落ち着く、クズな自分には罰が必要だと思っているからだろうか。

「…………」

それにしても、どうして秋風は昨日来なかったのだろう。やっぱり「俺に飽きた」が有力かな、鳴雷の言っていた「快晴だったから」は大穴予想と言ったところか。

「今日は……曇りか」

窓の外の景色はどんよりと薄暗い、今にも雨が降り出しそうだ。今日来なかったら「俺に飽きた」で確定だな、なんで鳴雷は「快晴だったから」なんて言ったんだ、鳴雷がそんなこと言わなかったら今日来なくても「俺に飽きた訳じゃなくて何か別の用事があった」とかの逃げ道があったのに。
飽きられて嫌われたに決まっているのになんで鳴雷を責めているんだ、そんなだから秋風に見放されるんだ、きっとそのうち鳴雷にも捨てられる。

「なる、かみ……にも?」

嫌だ。でも、そうするべきだ。秋風も、一度だけ見た紅葉と年積という彼氏達も、俺なんかとは比べ物にならないほど美しい男だった。俺とは違って肌にも髪にも艶があった。目なんてキラキラしていて、性格も良さそうで、鳴雷に酷い言葉なんて使いそうもなかった。
鳴雷はあの素晴らしい人間達に構っているべきだ、俺なんかに関わっていたら鳴雷の価値が下がる。

「い、やだ……やだ……いやだぁ……」

鳴雷がバイトと嘘をついてデートに行った時も似たようなことを考えた。俺なんてさっさと捨てればいいのに……捨てられたくない、構って欲しい……はやく見捨てて……堂々巡りが終わらない。
日曜日は捨てられたくないあまりに身体を使った、ほとんど何も話さずにずっと喘いでやった。壊れた中古品でもあの性欲異常者は嬉しそうにするから、一日中抱かれてやった。オナホなら彼氏と比べられることもないし、ずっと捨てられずに済むかな?



なんて考えていると病室の扉が勢いよく開いた。

「доброе утро! Я пришел, гребаный ублюдок!」

「……っ!? あ、秋風……? えっと、おはよう……の後は……来たぞ、かな。その後…………えっ、クソ野郎って言った?」

何とか聞き取ったロシア語を頭の中でゆっくり翻訳していくと、罵倒されたことに気付いた。

「にーに、から、おてがみです」

「あ、あぁ……鳴雷から? どーも……」

ロシア語をマスターした訳でもないし、聞き間違いか翻訳ミスかもしれないと思いつつ手紙とやらを受け取る。

「鳴雷の字だ……」

ノートを一ページちぎって四つ折りにしただけの手紙を開く……片手では上手く開けない。ため息をついていると秋風が手紙を広げてくれた。俺は存在しているだけで迷惑なんだなと改めて実感しつつ、恐る恐る鳴雷からの手紙を読んだ。絶縁の言葉であることも覚悟していた、読んでいるうちに秋風が居なくなるかもとも考えていた。




セイカへ

電話で伝えたかったけれど、こちらからは掛けられないし時間が合わないしで、手紙という方法を取りました。

早速本題に入ります。
アキが昨日お見舞いに行かなかったのは、アキいわく「セイカに来て欲しくないと言われたから」だそうです。アキ自身は行きたかったようで「セイカと一緒に遊びたい、でもセイカ嫌って言う」と落ち込んでいました。

セイカが心配していたこと、寂しがっていたことを伝え、もう一度お見舞いに行くように説得しました。
アキは今、先週のセイカの発言が聞き間違いであることを願ってそこに居ます。どうかゆっくりと気持ちを伝えてあげてください。アキはセイカにとても懐いています。


PS もうすぐテストなので今度勉強教えてください。




手紙を読みながら土曜日のことを思い返し、そういえば「俺が来て欲しかったのはお前じゃない」とか言ったなぁと深い深いため息をついた。
何が飽きられただ、何が嫌われただ、何が好きって言ったくせにだ、先に裏切ったのはやっぱり俺じゃないか。

「…………せーか」

秋風は窓を背にして立つとサングラスを外し、不安げな赤い瞳で俺を見つめた。

「……聞き間違いじゃないよ、秋風」

いくら昼間暇だからと言っても、俺なんかと関わっているよりは一人で居た方が秋風のためだ。手紙の文面から察するに鳴雷は俺達の仲直りを願っているが、その期待も裏切ることになってしまうけれど、俺はそういう生き物だ。

「ぼく、聞く、間違うする、違うです?」

「違う。俺はお前に来て欲しくないって言った」

「……せーか、ぼく、会うする、嫌です?」

嫌な訳がない。来て欲しくないと言ってしまったのだって、鳴雷の方がよかったってだけで、秋風が来てくれたこと自体は嬉しかった。
秋風と過ごして俺は確かに癒されていた、でも俺はクズだから、酷い言葉しか使えないから、秋風を傷付けてしまう。これ以上傷付けないように、秋風のために嘘をつこう。

「嫌だ。俺は、秋風と、会うの、嫌だ」

パン、と軽い音と共に頬に小さな痛みを覚えた。秋風に平手打ちをされたようだ、呆然としていると胸ぐらを掴まれた。

《嘘ついてんじゃねぇぞクソ野郎。アンタが昨日俺が来なかったって兄貴に女々しく泣きついたことは聞いてんだよ。会いたかったって正直に言いやがれ、土曜日の発言は撤回しますって謝れ》

「う、嘘じゃないっ……」

また叩かれた。一発目より少し力が強かった。

《謝れ》

「…………ご、ごめんなさい」

《言葉が足りない》

「……来て欲しくないとか言って、ごめんなさい」

《よし》

ぽんぽんと頭を撫でられたが、胸ぐらは掴まれたままだ。

《俺に会いたかったよな?》

「……会いたくない。もう来なくていっ……喋ってる途中に叩くなよっ! 舌噛みそうになっただろっ!」

《ホントは会いたいよな、毎日お見舞い来て欲しいって言えよ、スェカーチカ》

「だからっ、来なくていいっ……ったい! マ、マジで痛かったぞ今の……」

だんだん平手打ちの威力が上がっている。左右順番に叩くから両頬ともヒリヒリする。なんで秋風のために孤独になってやろうとしてるのに痛い目に遭わなきゃならないんだ? 秋風に会えなくなって辛くなるのは俺の方なんだぞ?

「俺なんかに会いに来て何が楽しいんだよクソったれ! 趣味悪ぃんだよてめぇら兄弟二人とも!」

《ゆっくり喋れ何言ってんのか分かんねぇんだよ!》

「痛っ、い、いちいち叩くな! いい加減日本語覚えやがれバカ! 俺はお前の言ってることそこそこ分かるんだぞ!? お前より勉強時間短いのに!」

なんで叩いてくるんだ? イジメっ子連中のように反応を面白がってる訳でも、母のように俺を支配しようとしている訳でもない。

「……どうして、叩くんだよ」

《アンタが嘘ついてるから》

「から、何。俺が嘘ついたからって、何だよ……」

《嘘つかれると、心が痛い。可愛い可愛いスェカーチカに「もう来んな」なんて、嘘だって分かってても傷付くんだよ。だからその痛みをスェカーチカの身体に与えて、イーブンにしてる。で、改めて聞いてる。嘘ばっかついて俺のこと傷付けるから何回も引っ叩かれてるんだよ。お分かり?》

「……………………ごめんなさい」

《俺に会うの、本当に嫌?》

俺の目を真っ直ぐに見つめる赤い瞳は微かに潤んでいる。俺が傷付けてしまった。傷付けることしか出来ない俺からは離さないといけない、もっと傷付けて逃げ出させて──

《俺はスェカーチカに毎日会いたい。優しいアンタが大好きだ》

──もっと、傷付けて、俺が悪いヤツだって、分からせないと──

《日傘持ってくれた。ロシア語勉強してくれた。アンタは優しい。本当の言葉で話せるのはアンタだけだ、最高のダチだと思ってる》

──あぁ、無理だ。

《……会いたい、毎日来て欲しい。俺も大好き。秋風は俺の最高の友達……酷いことたくさん言ってごめんなさい》

《その分引っ叩いたからイーブン》

《…………許してくれる?》

《もう怒っても恨んでもないってば、叩いたもん》

サッパリした子だ。俺には全く理解出来ない思考で生きているらしい。

《大好きだぞ、スェカーチカ。さ、遊ぼっ》

《……その呼び方やめろ》

許されないことをしたとは分かっているけれど、鳴雷にもいつかこんなふうに赦されたい。対等に笑い合いたい、幸せになりたい……俺は俺がそう願うことが許せない。
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