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そういう一族

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心の中で血の涙を流しながらネザメをフり、シュカと二人きりになれる場所を目指して歩いていると年積が追いかけてきた。話があるとのことだ。

「息、落ち着きました? それで話って……」

「ネザメ様と……その、ちゃんと話して欲しい。自分はネザメ様の恋人でもなんでもない、自分のことは気にせずネザメ様の願いを叶えて差し上げろ」

「えっ……?」

机の下に潜ってネザメの陰茎をしゃぶっていたというのは事実なんだろう? じゃあ恋人じゃないのか?

「どういうことですか?」

「貴様がネザメ様の害になると思って排除しようとしていたが、自分への対応で貴様が十股していながらも誠実という不気味な存在だと分かった。ネザメ様を十一人のうちの一人にするなどという不敬行為は許されざるが、他ならぬネザメ様が貴様と恋人になりたいと願うのならば仕方ない。鳴雷一年生、ネザメ様の願いを願いを叶えよ」

「ちょ、ちょっと待ってください。あなたは一体……ネザメさんの何なんですか?」

ネザメを諦めた理由である年積がそう言っているなら再びネザメを口説くのもやぶさかでない。しかしネザメに命令を受けて俺を止めに来たという可能性も捨てられない。

「自分はネザメ様の近侍……分かりやすく言うと補佐だ」

「補佐……そりゃ副会長ってのはそういうものかもしれませんけど、フェラはやり過ぎ……」

「違う。年積家は一族で紅葉家に仕えているということだ、自分の父も母も祖父母も……まぁ、性処理までさせられた者は居ないと思うが、紅葉の者の命令はその者の命に危険が及ばず、次に自分の命に危険が及ばない限り、断るのは禁じられているからな」

「ロボット三原則みたいですね」

「誰がロボットだ無礼者!」

ネザメは名家の出なのだろうか。それにしても家に仕える一族が居るなんて、そんなこと現実でもあるんだな。

「……年積先輩のお家って昔は忍者だったりしたんですか?」

「は……? はぁ……ロボットだの忍者だのと幼子のようなことばかり言う貴様らの何をネザメ様が気に入ったのか理解し難い。自分の立場は今説明した通りだ。鳴雷一年生、貴様はネザメ様に害を与える人間ではないと判断した。ネザメ様の恋人として励むがいい。鳥待副会長、貴様はネザメ様が選んだ訳ではないが、ネザメ様は貴様のことをそれなりに気に入っているようだ、ネザメ様の期待を裏切らぬよう副会長として精進することだ」

「はいはい、わざわざ言われなくても副会長の仕事はちゃんとやりますよ」

「ネザメさんがフリーだってことは分かったんですけど、あなたはそれでいいんですか? 補佐だから、命令だからって、それだけで……ネザメさんに対して恋愛感情はないんですか?」

「……紅葉の者に対して邪な感情を抱くことは禁じられている」

俺をじっと見上げていた視線を外しての返事、嘘だと丸分かりだ。嘘をつくのが下手過ぎる、可愛い。

「禁止とかそんなので止められるものじゃないですよ、恋心なんて。正直になってください、あなたは自分よりもネザメさんが大切かもしれませんが、俺にとっては同じです。あなたの気持ちも尊重したい」

「貴様に尊重されて何が変わる? 貴様がネザメ様に手を出さなければ、ただネザメ様が悲しむだけだ。自分は性処理は出来ても恋愛は出来ない。自分では貴様の代理にはならない」

「……分かりました」

好きな人を手に入れるより幸せになって欲しい気持ちが強いから、自ら身を引く。ありがちだし、その気持ちも分かる。

「ごめんシュカ、もっかい行っていいかな」

「はいはい、どこへでもどうぞ」

ネザメを手に入れられるのなら嬉しいし、ワンチャン傷心の年積も食えるかもしれない。滾る。

「戻りました、ネザメ様」

「おかえりミフユ、鳴雷くんに鳥待くん」

ネザメは年積の横をするりと通り過ぎ、俺の前に立って俺の腕を撫で、腰に手を添える。

「戻ってきてくれたということは、気が変わったということかな?」

「はい、コロコロ変わって申し訳ありません。ネザメさん、俺の彼氏になってください」

「ふふっ、もちろん。やぁ嬉しいね、君みたいな美しい人を手に入れられるなんて……ふふふ」

無遠慮に俺を抱き締めるネザメの頬はほんのりと赤い。

「……あの、年積先輩に謝ってください。叩いたこと」

「え? あぁ……そうだね。ミフユ、やり過ぎたよ、悪かった」

意外にもネザメはあっさりと謝った。心を込めた謝罪ではなさそうだが、それを注意したとして心を込めた謝罪が出来るのかと言えばそうではない、形式的なものでも認めておくしかないだろう。

「今日の放課後は空いているかい?」

「すいません、平日はバイトがあって……休日も七時までは病院に……」

「随分多忙なんだねぇ、七時って午後七時かい? ふぅん……それ以降なら空いているんだね?」

「まぁ、はい。そうですね」

積極的なのは分かっていたが、こうもすぐにプライベートで会いたがられると戸惑ってしまう。ネザメは特に感情が読み取りにくいからだろうか。

「今日は空いてませんよ。水月、この昼休みの埋め合わせは今日の夜にお願いします。家に行きますからね」

「あ、あぁ、分かった」

「先約なら仕方ないね。明日は僕の番ということでいいかな?」

「はい、えっと……具体的にはどうします? 会う場所とか……って言うか、ネザメさんって夜中に出歩いたりとか大丈夫なんですか?」

年積一族を代々仕えさせているような名家の御曹司なのだろうネザメが自由な外出を許されているとは思いにくい。

「外出外泊は近侍が居れば自由だ。自分がネザメ様の食事、睡眠等を管理しつつネザメ様の身を守る」

「僕の家に呼ぶのはダメかな?」

「ネザメ様、それは難しいかと」

「やっぱりそうかい。なら僕が鳴雷くんのところへ行くしかないね、家に呼んでくれるかい?」

「はい、でも……俺の家リフォーム中で、今は彼氏の家に泊めてもらってるんです。その家に呼ぶことになりますけど……構いませんか?」

「君の彼氏の家に? 僕は構わないけれど、その彼氏くんはいいのかい?」

「はい、先日も呼びましたし、自宅のように使ってくれて構わないと言ってくれていますから」

義母の目を気にせず男を連れ込める素晴らしい環境だ。

「常軌を逸していると言わざるを得ないな、貴様らは」

「ミフユはお堅いね。あぁそうだ、ミフユ、君も鳴雷くんと連絡先を交換しておきなさい。明日どこを訪ねるのか住所を送ってもらっておいて」

「はい! 鳴雷一年生、聞いたな? スマートフォンを出せ」

「は、はい」

言われるがままにスマホを出し、年積と連絡先を交換した。付き合っていない年積の名前がメッセージアプリのフレンド一覧にあるのは妙な気分だ。
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