冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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諦めも肝心

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きっと俺が痩せる前から、この学校に入ってすぐから──ぃ、もしかしたら高校生以前から、年積はネザメを慕っていたのかもしれない。浮世離れした雰囲気と美しさを持つネザメに魅了される気持ちも、彼が穢されないよう守りたい気持ちも分かる。

「……っ、ごめん。ちょっと待ってくれ」

自身のベルトを外していたシュカから離れ、ネザメの横を過ぎ、年積の前に立った。彼からネザメの関心を奪ったのは俺だ、彼が一番憎いのは俺だ、俺を睨み上げる潤んだ瞳から彼の怒りが伝わってくる。

「年積先輩、大丈夫ですか?」

ネザメに叩かれて赤くなった頬に触れると、年積は俺の手首を掴み、すぐに離した。俺の手を払ったらネザメに怒られるとでも思ったのだろう、彼の視線はいつの間にかネザメに向いていて、その目には怯えが宿っていた。痛みや恫喝への恐怖ではなく、自分に関心がなくなることへの恐怖なのだろうと俺には分かった。

「……年積先輩が俺達を無礼に思うのは当然のことです、彼の怒りはもっともです! 注意すべきはせいぜい感情的過ぎるところくらいで、黙れって叩くなんて酷過ぎる! アンタを慕ってんだぞこの人は!」

「はぁ…………いつ終わります? それ。私準備万端なんですけど。全く……でも私、水月のそういうとこ好きですよ」

俺は目先のセックスや付き合いたての恋人の好感度より、美少年の涙を優先してしまう人間らしい。だが仕方ないだろう、涙だぞ!? それも今なおネザメの命令を守って黙っているような健気な子の!

「年積先輩、唇噛まないで……そんなに強く噛んだら血が出ます。すいませんでした、ショックだったんですよね。あなたにとってここは神聖な場所なんでしょう? ネザメさんのことも神格化でもしてるんでしょう。下卑た行為で穢そうとして本当にごめんなさい」

「……ん? 水月、ちょっと」

「俺はただ美少年が好きなんです、どうしようもなく、綺麗な男が好きなんです。キスやセックスしたいって気持ちより、幸せになって欲しい、笑って欲しいって気持ちの方が強い。俺はあなたのことも好きです! 傷付けてしまって本当に後悔しているんです、ごめんなさい」

「水月! ちょっと!」

「シュカ、ちょっと待っててくれ。埋め合わせは必ずするから」

「違いますよ! 私そこまで空気読めなくはないです、ちょっと気になることがあるんですよ。その人にさっき怒鳴られた時のことなんですけどね」

シュカが指しているのは年積だ。ベルトを直したシュカは年積の隣に移動する。

「あなた、今日の昼食はイカ飯か何かですか? 口が臭いんですよ。私達がここに来た時、あなた一体何をしていたんです?」

「……っ!」

「シュカ、本当に失礼過ぎるぞ!」

「水月が気付かないのがおかしいんですよ、鼻詰まってるんですか?」

俺は何も気付いていないし、そもそも何に気が付いたとしても口が臭いなんて絶対に言ってはならない。ましてや先輩になんて。

「はぁ……単刀直入に言いますね。副会長、あなた会長のをしゃぶってらっしゃったでしょう」

マジで!? 俺の妄想ではなく!?

「……だんまりですか。会長、あなたに聞いても?」

「構わないよ、隠すようなことでもない。鳥待くんの言う通り僕はミフユを机の下に潜らせて……そうだね、オーラルセックスを行っていたよ」

オーラル、意味は「口の」だったかな。つまりフェラチオなど口で行う性行為のことだ。俺の妄想は真実だった。

「だからミフユは僕に夢を見ている訳でも、ここを神聖な場所だと思っている訳でもないよ」

「そ、そう……ですか。すいません……早とちりして」

「いや、君の鳥待くんや僕を放ってミフユを心配した姿は美しかった。君はルックスだけでない本物の美を持っているんだね」

俺の本性はイジメられっ子のキモオタだ、美なんて欠片も持っていない。母譲りのルックスで本物の美少年達を騙しているに過ぎない。

「……俺は偽物ですよ。本物は俺の彼氏達の方です」

「僕の審美眼はかなり優れているはずだよ。君の顔は整形などで作られた美ではない……本物だ。心も、あの優しさに打算は感じられなかった。美少年が好き……だっけ? あれも本心だろう? 君の心は本当に綺麗なんだね」

キモいオタクの心を超絶美形に似合う攻め様ムーヴで塗り固めている俺の心が綺麗だなんて、ネザメの審美眼は当てにならない。年積への心配が本心なのは当たっているけれど。

「……あの、ネザメさんは年積先輩と恋人関係にあるんでしょうか。もしそうなら俺を口説くのはよくないと思うんです」

「誰が言ってるんですか十股男さん」

「俺は同意の上だから。でも、ネザメさんは年積先輩には話していませんよね? だからこんなに怒って、傷付いてる。俺はネザメさんのこと好きです、恋人になりたいと思っています……でも、今居る恋人を大事に出来ない人と、それも暴力を振るうような人とは、付き合えません」

「…………僕をフると?」

ネザメの顔から笑みが消える。常に愉悦の光を宿していた瞳が冷たく変わり、俺を見つめている。意外そうな顔をしているだけのシュカが今は癒しだ。

「はい、申し訳ありません」

「私、副会長なんですけど……あなたがフると気まずいんですけど」

「…………シュカ、行こう。どこか場所見つけるよ」

もったいないと俺の心が喚いている。けれど、ネザメにベタ惚れの年積の心を奪うのは流石に無理だろうし、二人一気にでなくネザメだけ恋人にするのは年積が可哀想だ。

「いいんですか? 会長だけならイケそうでしたよ」

「年積先輩を泣かせてまではちょっと……そりゃ付き合いたいけどさぁー」

「まぁ、私はあなたとヤれればいいです」

言いながらシュカは俺の腕に腕を絡める。珍しい行動に思わず目を見開くと、シュカはむっとした顔になった。

「……私だって二人きりならこれくらいしますよ?」

「シュカぁ……! 可愛いよぉ、目移りしてごめんなぁ」

「目移りってあなた……水月はそういうものでしょう」

それはそうだがその言い草は傷付く──ん?

「待て! 待っ……待って、待って……鳴雷一年生、鳥待副会長……待て、話が、ある」

年積が追いかけてきた。

「先輩、ゆっくりで大丈夫です。息を整えてからで……話って何ですか?」

昼休みのセックスの約束は守られないと察したのか、シュカが深いため息をついて思い切り壁を蹴った。
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