冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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新しい家族が来た

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※《》内は外国語等、水月に聞き取り理解出来なかった言葉


勉強中はもちろんのこと、食事中や睡眠中まで歌見は隣に居た。なのに手を出さなかったのは褒められてもいいはずだ。
木、金曜日は水曜日と同じように勉強会を開いた。勉強に集中するためイチャイチャは抑えたものの、有り余る性欲解消のためシュカとは必ず一日二回以上は行為に及んだ。
そして土曜日、今日も歌見に勉強を教えてもらう約束をしていたのだが、朝食中に聞いた母からの話で一日の予定が崩された。

「今日、元カノと息子が日本に来るから迎えに行くんだけど、一緒に来ない?」

「えっ! 今日ですか? 随分急ですな……来月以降だと思ってましたぞ」

「そんな予めにアンタに話すわけないじゃない」

「同居家族には予めに色々話しといて欲しいもんですな」

弟には早く会いたかったから嬉しいのだが、テスト期間が終わるまでは来ないで欲しかったのが本音だ。弟に手を出すか出さないかは別として新しい家族として馴染むためには共に過ごす時間を長くするしかない、勉強の時間が取れないのは困る。

「全くもうママ上は……ぁ、もしもしパイセン? ひっじょーに申し訳ないのですが、今日の勉強会は中止で……はい、実は新しい家族が今日増えるのでそ。ええホント、まさか当日に教えてくるなんて……実母ながらやべぇと思いまそ」

俺に対しては色々と急だったり勝手だったり、説明が面倒くさいと雑な物言いをしたりする母が、仕事においてはとても有能だなんてイマイチ納得がいかない。

「どこまで迎えに行きますん?」

「すぐそこの駅よ」

「マジすか。二、三時間かけて空港にでも行くんだと思ってましたぞ」

「息子くんはともかくあの子は元々日本に住んでたんだから、電車くらい乗れるわよ」

「ま、そうですが……荷物とかは」

「自分で運ぶ分なんて知れてるわよ。後は配送業者任せ。ほら行くわよ」

空港に迎えに行くのだと思い込んでいたから共に行くと決めたが、最寄り駅まで自力で来るのなら俺は家で待っていてもよかったかもしれない。なんて考えながらも身嗜みを軽く整えて母に続いた。

「高い車を持ってると女の子にモテるのよ」

「うちの車は車庫ですやすやですな、結構いいヤツなのにもったいないでそ」

「四人になれば何かと使うわよ」

母は徒歩と電車を使って仕事に行き、仕事帰りにスーパーに寄って来るから車をほとんど使わない。車庫でずっと眠っていたそこそこの高級車は前日にホコリを払われて見た目は綺麗になっていたものの、座り慣れていないシートは俺を受け入れていないように感じた。

「えっと、アクセルが右……? お、動いた動いた。行くわよ~」

「下ろしてくだされ! 右? とか言ってる人の車乗りたくないでそ!」

「アクセルブレーキとハンドルさえ分かってりゃ余裕よこんなもん」

不安な言動に反して母の運転は上手く、流石のスペックだなと静かに安堵した。駅前のロータリーに車を停め、駅から出てくる人並みを眺める。

(どっちの顔も知らない私が見ててもしょうがなくないですかね)

歓迎の旗でも作ってくればよかったという母の呟きを無視し、欠伸をする。二人の顔を知らない俺が彼女らを見つけられるとは思えなかった、けれど、すぐにその考えは間違いだったと悟った。

(おや……おやおやおや? おんやぁ~? めっちゃくちゃ美人っぽいの来ましたぞ、顔よく見えませんけど)

別格の美形というのは目立つものだ。俺よりも少し背が低い少年に俺は目を奪われた。色の濃いサングラスと大きな日除け帽子のせいで顔はよく分からないが、帽子の影が落ちた顔の下半分だけでも並外れた美形だと分かった。
俺が気付いたのに一拍遅れて母が手を挙げ、高い声で女の名前を呼ぶ。すると俺が目を奪われていた少年の一歩前を歩いていた女が応える。

「久しぶり~! 大学卒業以来だったかしら」

母と母の元カノなのだろう女が互いに走り寄り、両手を握り合って互いを懐かしみ、息子が居る必要のない空間を一瞬で作り出した。

(えぇえ……? どうしましょ。えと、やっぱり彼が弟なんですよな? 第一声どうしましょ)

放置された彼女らの息子達、つまり俺と──おそらく弟だろう少年は見つめ合う。いや、サングラスの色が濃すぎて目線は分からない。

「……Очень приятно」

「…………へっ? おー……ぷりや? 何?」

少年が何かを言ったようだが、外国語……おそらくロシア語だったようで理解はおろか聞き取ることもままならなかった。

「君……水月くん?」

「あ、はい」

母の元カノだ、俺とは何の関係もない人だがこれから同居するらしいので愛想よくしておかなければ。

「ごめんなさいね急に、私本当に他に頼れる人が居なくて」

「いえいえ、二人きりでは寂しいので賑やかになりそうで嬉しいです」

「……ありがとう。アキ、もう自己紹介した?」

「あ、すいません。何か言ってくれたんですけど、言葉が分からなくて……ロシア語? ですよね」

「ええ、簡単な日本語は教えておいたんだけど……」

現行法では同性婚は不可能だが、母は結婚する気満々なので彼女のことは義母とでも呼んでおこうか──義母は少年の顔を覗き込むと聞き慣れない発音の言語で話した。

《日本語でどう自己紹介するかは教えたはずよ、自己紹介なさい。今日からあなたのお兄ちゃんになる人よ。この子と唯乃の前では大人しく礼儀正しくしなさい。あなたは黙ってれば可愛いんだからきっとよくしてくれるから、ね?》

説得された様子の少年はサングラスをかけたまま俺を見上げる。

「はじめまして……? 秋風 マールト……です」

カタコトで日本語を話した少年は義母の方を振り返る。

「よろしくお願いします」

「よろ、しく……おねがい、します」

拙い敬語がとても可愛らしい。声変わりがまだなのも相俟って年齢よりも幼く感じる。

「はじめまして。鳴雷 水月です。よろしくお願いします」

下手に「俺は」とか入れたり「ですます」を抜いたりしたら分からなくなるだろうと考え、彼が行った自己紹介に合わせた。
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