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日本語出力は拙くて

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助手席に義母が座り、俺の隣に弟が……秋風が座る。車に乗っても彼は帽子とサングラスを外さない。

「水月くん、アキのこと先に説明しておきたいんだけど今でいいかな?」

「はい」

「アキは生まれつき色素がかなり少なくて、陽の光にすごく弱いの。まぁ、紫外線対策とかは自分で出来るだろうからいいんだけど、眩しいのも苦手で視力もあまりよくないから……えっと、とりあえずそれだけ覚えておいて?」

「はぁ……分かりました」

改めて見ると秋風もといアキは肌の露出を極限まで減らした服装をしている上に、窓から目を逸らすためなのか俯いている。

(いわゆるアルビノですよな? 騒いでしまうオタク心は抑えておきませんと……)

見えている部分の肌は確かに白いが、薄紅色が透けているようで色白と呼べるような印象ではない。しかしもちろん俺にとっては綺麗で美しい肌だ、是非とも舐めさせていただきたい。

「……брат」

「ん?」

「アキ、お兄ちゃんって言いなさい。あ、兄さんとかの方がいいかな? 水月くん、どっちがいい?」

呼び方を選べるのか? そりゃもちろんお兄ちゃん……いや、兄さんも捨て難いな。言いづらいが兄様とかも欲しいところだ。日替わりがいい。

「あー……呼びやすいように呼んでもらえれば。あだ名とかでも構いませんし」

「そう? ありがとうね」

義母はその後、アキと二、三言ロシア語でやり取りし、前に向き直った。アキは俺の方を向く。さて、何に決まったのかな? やっぱり一番自然な兄さんかな?

「にーに」

「……っ!?」

そりゃ一番呼びやすいだろうけども、けども! あまりにも萌え……じゃなくて、幼過ぎやしないか?

《…………オイ、反応おかしいぞ。本当に兄貴って意味なんだろうな、にーにって。変な言葉教えてやがったら承知しねぇぞクソが》

《唯乃はロシア語分かるのよ! 汚い言葉はやめて! ちゃんと兄って意味よ、向こうも急に弟が出来てびっくりしてるだけよ、きっと》

何言ってるか全然分かんないなぁ。でも、アキは義母に少しだけ日本語を習っているようだから、簡単な会話なら出来るかな?

「えーっと、アキくん?」

《ほら、呼んでる。あ、くんとかちゃんは日本語の……英語で言うミスターみたいな、何?》

《敬称かしら? かわい子ちゃん》

《そうそれ! 敬称! って、唯乃……もう、そういうことサラッと言わないで》

母が何ヶ国語かをマスターしているのは知っていたが、ロシア語がそうだとは知らなかった。この場でロシア語が全く分からないのは俺だけだ、疎外感がある。

「……にーに?」

「あ、うん。あの……好きな食べ物、何だ?」

「……? ねこ、です」

《アキ! 生き物じゃなくて食べ物よ食べ物!》

「……っ!? にーに、前の、ちがう……です」

アキは焦っているように見える。さっきのは違うと言いたいのだろう、猫を食べるとは思えないし、猫は好きな動物とかなのかな?

「猫は好きな動物だな?」

「……? ブルヌィ」

「へぇー……?」

「水月くん、ブルヌィって言うのは、日本で言うと……えっと…………唯乃ぉ」

「パンケーキ……ゃ、クレープかしら。今度作ってあげるわ」

一度くらい俺達だけで会話を成立させてみたい。チャレンジあるのみだ、今度はもっと簡単な単語を使おう──と考えているうちに家に着いてしまった。

「悪いけど空き部屋はないのよね。葉子は私の部屋でいいけど、アキくんは部屋欲しいわよね? 近いうちに改築するからもう少し待ってくれる?」

「唯乃、そんな……いいのよ、近くで家探してすぐに出ていくつもりだし」

「何言ってるのよ、そんな水臭いこと言わないで。夫婦でしょ?」

「唯乃……ん? 待って、なんて?」

さて、母が女を口説くところは見たくないし、アキも母親が口説かれるところは見たくないだろう。さっさと家を案内しよう。

《スリッパは?》

「ん? 何? あぁ、えっと……日本では土足厳禁で……これ履いてくれ」

客用スリッパを置くとアキは靴を脱いでスリッパを履いてくれた。

《サイズが合わない。今度俺のを買いに付き合ってくれよ》

「うん……? えっと、ここがトイレだ。それで、こっちがお風呂。ここがキッチン……ダイニング、ご飯食べるところ。リビングはテレビ見るとこで、ここから庭に出られて……で、ここが和室」

《畳だ! 知ってるぞ、これ畳だろ。端っこ踏むと怒られるんだろ? 日本人は気難しいな》

和室にはしゃいでいる……のかな? 畳とか言っているように聞こえる。

「ここは母さんの部屋だ、立ち入り禁止。ここは俺の部屋、入る前にはノックしてくれ」

「あ、水月。アキくんの部屋作るまでしばらくアンタの部屋に泊めてあげてね、襲っちゃダメよ」

「んなこと言われなくても襲いませんぞ」

しかし、俺と部屋を共有するのはまずい。美少年と四六時中一緒じゃ自慰が出来ないし、レイが仕掛けたカメラと盗聴器がある。

《兄貴としばらく同じ部屋? えー……まぁ、仕方ねぇか。間抜けそうだけど性悪っぽくはねぇし、よろしくな》

テディベアを別の部屋に移し、レイにメッセージを送って──と考えながら部屋に入るとアキも着いてきた。今後しばらく過ごすことになる部屋だ、気になるのだろう、キョロキョロと見回している。

《遮光カーテンつけさせてくれ》

扉の脇に鞄を置いたアキは黒い布を取り出した。分厚いそれはカーテンのようだ、学校の理科室だとかにあるような……あぁ、遮光カーテンか。紫外線が苦手だとか、眩しい光が苦手だとか、義母が言っていたな。

「これつけて欲しいのか? ちょっと待っててくれ」

窓よりも布が長くて不格好だが、足りないよりはマシだ。フックを端からつけていく共同作業も楽しめた。少しでも絆が深まっただろうかと考えていると、アキが部屋の電灯のリモコンを勝手に操作し始めた。

《……よし。これくらいならいいかな》

オレンジ色の光に変わる寸前の薄暗さにするとリモコンを置き、帽子を脱いでサングラスを外し、ようやく顔を見せてくれた。

(おぉ……! これは間違いなくわたくしの弟ですな)

帽子のせいかぺったりとしてしまっているプラチナブロンド……いや、もっと薄い、透き通るような美しい髪だ。アキはその神秘的な髪を乱雑にかき混ぜ、ふんわりとしたクセっ毛らしさを取り戻した。

《そういや顔見えてなかったよな。どうだ? 顔には自信あるんだぜ? まぁ兄貴は美形なんか毎日鏡で見慣れてるか。正真正銘兄弟だよな俺達って》

何か話してくれているが、全く分からない。

(お目目もウサギさんのように真っ赤ですな。アニメキャラみたいに瞳孔は黒かったりしないんですな……全部赤色。わ、睫毛も白いでそ。睫毛長いですな、可愛いでそ~)

虹彩と瞳孔は共に赤色だが、見つめると境目が分かる。

「にーに」

「あ、あぁ、ごめんな、じっと見ちゃって」

「……? にーに」

アキは不安そうな顔はしていない、まっすぐ俺を見つめている。右も左も言葉も分からない異国に突然住むことになって、その上母と兄が増えるなんて、十四歳の身には辛く混乱することだろうに健気な子だ。いじらしい。

(わたくしが支えてあげますからな! 兄として……恋人として!)

俺はアキに微笑み返しながら、彼を八人目の恋人にしてみせるぞと覚悟を決めた。
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