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神無ハウス (〃)

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土曜日、今日のコーデは歳相応に爽やかさを意識してみた。リュウやシュカなら危険な男を演出してもいいし、ハルなら攻めたファッションでも大丈夫。
しかし、今日会いに行くのはカンナだ。無害さが一番大切。

「……ちょっとダサくない?」

「このくらいの方が印象いいと思いますが」

「中坊っぽいわよ」

「服だけでなく顔も一緒に見てくだされ、モデルっぽいですぞ」

白抜きのウサギのロゴが目立つ黒いパーカーに、特に飾り気のないジーンズ。

「ダメージ加工くらいあった方がいいんじゃない?」

「いえ……カンナたんはそういうファッション嫌いだと思いますぞ。そういうイケイケな感じを怖がるタイプと見ましたぞ!」

「話し方! まぁ、相手に合わせるのは大事ね。いってらっしゃい」

ハリセンを一発頭にいただき、いざ出発。メッセージで送ってもらった位置情報を地図アプリに入力し、道案内を頼む。

「おぉ……わたくしを示す矢印が車並みの速度で吹っ飛んでいきますぞ……」

バグに翻弄されつつも無事にカンナの家に辿り着き、こじんまりとした一軒家のインターホンを鳴らす。

「みぃくんっ……いら、しゃいっ」

「おはようカンナ、お邪魔します」

磨りガラスがはめられた引き戸をガラガラ音を立てて閉め、靴を脱ぎながらカンナを眺める。俺の予想に反して楽そうなスウェットだ、上はオレンジ一色で、下はボーダー。落ち着いたオレンジと白のボーダーは彼によく似合っている。

「部屋着、やっぱり可愛いな」

よれっとしてないし、白い部分も真っ白なままだし、どうにも新品っぽい。昨日急いで買ったな? そういうところも可愛い。

「……っ! ぁ、り……がとっ……」

「触っていいか? お、フードもついてる。耳付きだな、クマか? 可愛い可愛い」

触った感触も新品っぽい。クマ耳フード付きのスウェットなんて普通の男子高校生は買わない。自惚れではなく彼氏である俺に見せる用だ。

「ぼくの……部屋、こっち」

足取りが軽い、部屋着を褒めたことで上機嫌になってくれたようだ。

「はい、て」

無愛想な木の引き戸を開けると綺麗に整頓された部屋が現れた。ベッドはなく押し入れがあり、本棚や勉強机があり……まぁ、普通の部屋だ。

(ひみつ道具出すロボが住んでそうな感じですな。外観ボロいし廊下ギシギシ鳴りましたし、結構な築年数なんでしょうか)

ガタガタと物音が聞こえて下を向くとケージがあった。中に白いウサギが見える。

「この子がカンナの飼ってるウサギか」

「うん……ぷぅ太」

「由来とかあるのか?」

「……鳴き、声」

ウサギって鳴くのか、知らなかった。

「カンナはネーミングセンスまで可愛いんだな」

「……ぼく、けて……な……」

「あ、カンナが付けたんじゃないのか? そ、そうか……」

失敗したな。カンナのご両親のどちらかか? まぁ過ぎたことはいい、二人きりなのを利用してどんどん距離を縮めてやる。

「ぷぅ、太に……はん……ぁ、る? みぃくん……どーぶつ、き……から、まだ……はん……げて、ない」

何故動物好きと思われているのかは分からないが、エサやりをさせてくれるならしてみたい。

「ご飯あげさせてくれるのか? 嬉しいな、何やるんだ? キャベツとかか?」

「……ふーど、ある」

ドッグフードやキャットフードのような物がウサギにあるとは知らなかった。いや、渡された粒状のエサは魚のエサの方に似ている。指で潰せそうなほど脆そうなそれからは草の匂いがする。

「うさ……目と、鼻……わる、から……指、噛ま……ない……よう……」

「目と鼻が悪い? 厄介だな……あぁ、噛まれないよう気を付けるよ」

草食動物に噛まれたところで大したことはないだろうとタカをくくって手のひらに一食分のエサを乗せた。カンナがケージの扉を開けると白いウサギがぴょんと飛び出てくる。

「結構動くんだな、大人しいイメージあったんだけど……えっと、口元持ってけばいいのか?」

左手に乗せたエサを一粒右手でつまみ、ウサギの口元に突き出す。ウサギは鼻をヒクヒクと動かし、小さな口でポリポリと食べ進め、俺の指を噛んだ。

「痛っ!? ち、小さいくせに強いな……」

「言った、のにぃっ……! みぃくんっ、だいじょ、ぶ……?」

「あ、あぁ……平気だよ、びっくりしただけだ」

俺を噛んだウサギは呑気に欠伸をしている。チラリと前歯が見えて、俺は痛みの強さに納得した。

「これ全部あげていいんだよな?」

「ぅ、ん」

ウサギは犬のように芸をしたりしない。エサやりはどこか作業的だ。

「みぃ、くん。ど……? うれ、し……?」

カンナは何故か俺がとても動物好きな男だと思っているらしく、わくわくしている様子で俺の感情を伺ってくる。

「あぁ、嬉しいよ。こんなに近くでウサギ見たの初めてなんだ、想像してたよりずっと可愛い」

エサを乗せた左手をウサギに差し出したまま、カンナの腰に右手を回す。

「……可愛いクマさんも居ることだしな、俺は幸せ者だよ」

「ぁ……! ぅ……」

カンナは下半分しか見えていない顔をフードを引っ張って更に隠し、その上俯いた。

「なぁカンナ、昼飯用意してくれてるんだよな」

「ぅ、ん……」

「俺はクマのエサやりも体験してみたいな、いいか?」

「…………ぅん」

触れ合った箇所からカンナの体温が伝わってくるのだが、どんどん熱くなっていくのが分かる。照れているのだろう、本当に可愛い子だ。俺はフード越しなら大丈夫だろうと信じてカンナの頭にキスをした。
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