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俺ってば超絶美形 (水月+リュウ・カンナ)

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学生証用の写真撮影は多目的室で行う。出席番号順に廊下に並ぶ。窓ガラスに映った自分を見てため息をつく。

(見れば見るほど綺麗なツラしてますなぁ……未だに自分だと信じられませんぞ。ま、実感がないからこそイケメンキャラでロールプレイしてる感覚で上手く出来てるのですが)

艶のある黒髪。切れ長のツリ目には透き通るような灰色の瞳。細く形のいい眉に、陶器のようなすべすべ美肌。美しく通った鼻筋に、蠱惑的な唇。

(国宝級イケメンとはこのことですぞ! いや、世界遺産級ですぞぉ! こりゃ時雨しぐれくんが即落ちしたのも頷けますな、決して彼がチョロいわけではない、俺が美しすぎただけなのです……)

窓ガラスに映る自分を眺めて心の中で騒いでいるが、表情は影のあるイケメンを演じているので、他者には窓の外を眺めて何かを憂いているように見えるはずだ。

「離せやクソ教師っ!」

「写真撮影でくらいシャツのボタン留めなさい!」

「触んなや変態!」

「あとピアスも……!」

また不良くんが騒いでいる。ここで何もしないのが普通だが、あの不良くんは可愛い顔をしていて好みなのでそろそろ印象付けたい。鳴雷なるかみ、動きます!

「先生! 無理にピアスを引っ張ったら怪我になりますよ!」

俺が声を上げたのは意外だったのか教師も不良も動きが止まった。歩み寄りながら彼の制服に付いた名札を見る。

「……天正てんしょうくん、写真を撮る一瞬だけボタンを留めればいいんだ。ここで騒いだ方が時間がかかるよ」

教師の手を離させてシャツのボタンを留めながら改めて可愛い顔を確認する。染めたのだろう金髪はふわりと柔らかそうで、俺を見つめる黒い瞳の間には皺が寄っている。

「ほら、ピアスも今だけ外せばいいから」

そっと耳に触れる。

「んっ……!」

彼がぴくっと身体を跳ねさせて声を漏らしたことに興奮しつつ、ピアスの外し方を知らないことに焦る──ん? これピアスじゃなくね? 挟むやつ、なんだっけ、イヤーカフ?

「取れたよ。ピアスじゃなかったんだな」

「死ねっ!」

「……っ!?」

膝蹴りまでは予想していなかった。腹筋もしっかり鍛えていたが、それでも痛い。

「天正! お前なんてことをっ……!」

「嫌いなんや自分みたいないい子ちゃんは! 死ね!」

えーっと……彼の言う「自分」は二人称だよな? 俺のことなんだよな? 方言属性持ちかぁ、ちゃんと勉強しておかないとな。
走り去るかと思っていたが、天正は大人しく多目的室に入っていった。

「……鳴雷、平気か?」

「ぁ、はい」

「ありがとうな、助かったよ」

よしよし、教師からのポイントも順調に稼げているな。ハーレム作りだけでなく学校生活も充実させたいから、教師からの恋愛的な意味ではない好意は必須だ。

「…………!」

教師が離れると時雨が列から離れて俺の方へやってくる。

「時雨? 心配してくれてるのか? ありがとう、平気だよ」

列から外れた時雨を見て教師が戻ってくる。

「言い忘れてたけどな、眉が見えるようにしないとダメだぞ。学生証用の写真なんだからな。特に時雨、お前……毛刈り前のアルパカみたいな髪型して。前見えてるのか? それ」

時雨は顔を真っ赤にして俯く。ケラケラと笑うクラスメイトの視線も気になるだろう。

「時雨、前髪整えてやろうか?」

「ゃ……! 髪、さ…………る、ゃ……」

「髪触られるのやだ? 痛くしないつもりだけど……そういうのじゃないよな」

何か理由がありそうだな。顔を見られたくないから髪に触られたくないのか、髪に触られること自体が嫌なのか、そのニュアンスも気になるところだ。

「時雨…………みんな! 時雨が撮る間は部屋覗かないでやってくれ!」

「……!? な……み、くん……!」

「誰にも見せない、俺も見ないよ。撮る人は仕方ないけどな……ほら、これ貸してやるから。自分で出来るな?」

スナック菓子の袋を挟む用に使っていた大きめのヘアクリップを渡す。

「頑張れ、時雨」

「…………」

時雨はまだ嫌がっている。俺はクラスメイトに怪しまれない程度に時雨の耳に口を寄せた。

「……後で好きなところにキスしてやるよ」

「…………!?」

「やる気出たか? 頑張れそうか?」

「…………!」

時雨は何度も首を縦に振り、多目的室に入っていった。再びみんなに部屋を覗かないように呼びかけるとあっさり従ってくれる、これが超絶美形の力か。

「……お前、クラス委員長な」

「へっ? いや先生、そういうのは多数決とかで決めるものじゃないんですか?」

「まぁ一応投票はやるけど、多分お前だぞ」

「えぇ……?」

困ったな、雑用が増えるとイケメン漁りの時間が減る。いや、内申点が増えれば勉強時間をイケメン漁りに費やせるか?

「他にも前髪長い奴いるだろー! ほらお前も、お前もだ、眉出せー!」

教師は列の方へ向かう。見計らったかのように天正が多目的室から出てきた。彼は教師の様子を伺いながら素早く俺の方へ来る。

「ピアス返せやダボ」

スネを軽く蹴られた。持っているイヤーカフを渡そうとして、不意にイタズラを思い付く。

「つけてやるよ。なんか不快にさせちゃったみたいだし、お詫びとして」

「はぁ?」

やはり断られるか、今度はどこを蹴られるだろう。身構えていたが蹴りはなく、天正は頭を傾けて耳を突き出した。

「何ボサっとしとんねん、はよつけろや」

「あ、あぁ……」

「……んっ」

耳たぶをつまみ、イヤーカフをパチンと閉じる。

「ぅっ……!」

天正はピクンと身体を跳ねさせて声を漏らす。股間とイタズラ心が膨らんだ俺は天正の耳のふちを指先でつぅっとなぞってやった。

「ひゃぅんっ!? なっ、何すんねん死ね変態っ!」

膝を蹴られた。痛い。

「あっ……またか天正! お、おい廊下を走るな! 全く……鳴雷? お前アイツと相性悪いんだな……あんまり関わらないようにしろよ」

それが教師のセリフかよ。

「はは、いや……今のは俺が悪いんで」

ちょっと調子に乗り過ぎた。好感度が下がったかもしれないな、また後で上げておかないと。
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