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時雨くん陥落かも? (水月+カンナ)
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入学式の翌日、今日も授業はほとんどなく、体操服や教科書の配布、学生証用の写真撮影などだけ。
「どう? 彼氏できそう?」
「イイ子は見つけましたぞ、この顔さえあれば落とすのも楽勝でしょうなァ痛ぁっ!?」
「……そのクソダサい喋り方何とかしなさい」
朝からハリセンで叩かれたりしつつ、いざ登校。何事もなく学校に──と、駅から出てしばらく歩いた電柱の影に見覚えのあるメカクレボーイ。
「時雨?」
「…………!」
寄ってきた時雨の名前を呼ぶと口元を緩ませて頷いた。
(嫌われてない、昨日の頭ポンの暴発とクソ恥ずかしい別れの挨拶はセェーッフ!)
俺も内心ニヤニヤと笑いつつ、外面は爽やかな微笑みを意識した。
「待っててくれたのか? ありがとな、一緒に行こうか」
「…………!」
時雨は遠慮なく俺の手を握る。これはもう落ちたのでは? 暗がりに連れ込んでOKなのでは?
「ぁ…………な、み、くん……」
聞き取れない。
「……は、よっ……の……さっ、な……の……?」
本当に何言ってるか分からない。
「えっと、ごめん……もう少しはっきり話してくれないか? 聞き取れないよ」
「だ、からぁっ……ぉ、はよ……の、挨拶っ、ない……の?」
「あぁ、ごめんごめん、おはよう時雨」
挨拶して欲しかったのか。見た目通り可愛いじゃないか。
「ち、が……」
「え? 違うのか? じゃあ……何だ?」
「き、の……さよ、なら……のっ…………ぉはよ、は、ないの?」
擦り切れたテープレコーダーの音を聞いている気分だ。ちょっと腹が立ってきたが、ここは根気よく行かなければ。
「ごめん、もっとちゃんと言ってくれ」
時雨は俺の手を離し、俺の前に回り込んだ。前髪で半分以上隠れた顔は紅潮している。
「だ、からぁっ……! き、のぉのっ……さ、よならっ……みたいなのっ! おはよっ、は……ない、のっ?」
「え……?」
裏返った声を聞いて昨日の記憶が鮮明に蘇る、さよならの挨拶だなんてカッコつけて手にキスをした黒歴史フォルダに放り込みたい記憶が。
「あ、あぁ……おはようの挨拶な」
同じ場所じゃ芸がない。毎朝ではなくとも頻繁に要求されるだろうし、しやすい場所に……そうだ、昨日は確か右手の甲にしたよな。
「……これがおはようの挨拶だ」
俺は時雨の左手を持ち上げ、指先に唇を一瞬だけ触れさせた。
「…………!」
時雨は口元を緩ませて俺の手を両手で握った。また歩き出し、心の中でガッツポーズを決める。
(自分からキスをねだるとは……これは完堕ち確定でわ!? ふぉぉ……顔って大事ですな)
恐る恐るというのは悟られないよう、形だけは大胆に時雨の手を握り返す。時雨は俺を見上げ、俺が見下げていたのに気付いて慌てて俯いた。
(これはもうイベ条件満たしてますな、時が満ちればスチルゲットですぞ……! 食える、食えますぞ、不良くんが一号とか決めてましたが臨機応変こそ神……! 一号は時雨くん、君に決めた!)
心の中で何度もガッツポーズをかまし、校舎に入ったところで時雨の耳元で囁く。
「……ちょっと二人きりになれるとこ行かないか?」
弱々しく頷いた時雨を見て再び心の中でガッツポーズ、俺の脳内イメージでは手のひらから血が出るくらいに硬く拳を握っている。
「な……に……?」
一階の階段裏はデッドスペースだ。中学ではここに倉庫があったが、この高校には何もない。つまりちょっとした逢い引きに最適、流石は名門男子校。
「時雨」
時雨を壁際に追いつめ、彼の顔の横に右肘をつく。昨日の電車内での壁ドンが有効そうだったので試してみたが、やはりみるみるうちに顔が赤くなっていく。
「な、るっ……かみ……くんっ……!?」
左手で彼の顎を撫で上げる。素直に上を向いた彼に更に顔を近付ける。
「時雨、本当にキスが欲しいのは手じゃないだろ? どこに欲しいか言ってみろよ」
少々演技がかった口調になってしまったが、時雨はそれを気にしていられる精神状態じゃない。
(何今のセリフ! 本当にわたくしが言ったんですか!? 俺様過ぎますぞ、ちょっといくらなんでも急ぎすぎかつカッコつけ過ぎでわ!? これじゃ落ちるもんも落ちませんぞ、時雨くん逃げちゃったらどうしよぉ!)
心中は穏やかではない、大騒ぎだ。しかし表情は決して崩さない。キリッとしたキメ顔のまま時雨の唇を親指でなぞる。
「……その可愛い唇に欲しいんだろ?」
いつかやったゲームに登場した俺様キャラのエミュレートをしつつ、脳内では恥ずかしさのあまり枕に顔をうずめて足をバタバタさせる。
「ぁ……! ぅ……ぁ、ぅ……」
「…………俺の勘違いか?」
押し過ぎたのでここで少し引いてみる──すると時雨の方から来てくれた。俺の服を掴み、唇を震わせる。
「ほ、しい……」
蚊の鳴くような声でそう言った後、唇をそぅっと突き出してきた。
(キターーーッ!? えっ、え、キス? していいの? え……どうすればいいの?)
壁についていた右手で時雨の頭を抱き、左手を顎に添えたまま唇を重ねた。やり方がよく分からなかったから唇を押し付けあっただけだ。
(お口同士が触れましたぞ! おっと、離れて……どうするんでしょう、キスの後って何言えばいいんですか? 感想聞く?)
メカクレに対してありえないことだが、目を出して欲しい。目を見れたらもっと表情が分かると思う。
「……どうだった?」
「ぅ…………れっ……し……か、た」
「嬉しかった? よかった……! 俺もめちゃくちゃ嬉しかったよ、ありがとうな時雨……受け入れてくれて」
第一村人ならぬ第一恋人獲得だ。焦らずにゆっくりとスキンシップを深めて、家に呼んで、童貞を捧げて処女をいただく!
「……そろそろ教室行こうか」
「ぅん……!」
甘えるように擦り寄ってきた時雨と手を繋いで教室へ向かった。
「どう? 彼氏できそう?」
「イイ子は見つけましたぞ、この顔さえあれば落とすのも楽勝でしょうなァ痛ぁっ!?」
「……そのクソダサい喋り方何とかしなさい」
朝からハリセンで叩かれたりしつつ、いざ登校。何事もなく学校に──と、駅から出てしばらく歩いた電柱の影に見覚えのあるメカクレボーイ。
「時雨?」
「…………!」
寄ってきた時雨の名前を呼ぶと口元を緩ませて頷いた。
(嫌われてない、昨日の頭ポンの暴発とクソ恥ずかしい別れの挨拶はセェーッフ!)
俺も内心ニヤニヤと笑いつつ、外面は爽やかな微笑みを意識した。
「待っててくれたのか? ありがとな、一緒に行こうか」
「…………!」
時雨は遠慮なく俺の手を握る。これはもう落ちたのでは? 暗がりに連れ込んでOKなのでは?
「ぁ…………な、み、くん……」
聞き取れない。
「……は、よっ……の……さっ、な……の……?」
本当に何言ってるか分からない。
「えっと、ごめん……もう少しはっきり話してくれないか? 聞き取れないよ」
「だ、からぁっ……ぉ、はよ……の、挨拶っ、ない……の?」
「あぁ、ごめんごめん、おはよう時雨」
挨拶して欲しかったのか。見た目通り可愛いじゃないか。
「ち、が……」
「え? 違うのか? じゃあ……何だ?」
「き、の……さよ、なら……のっ…………ぉはよ、は、ないの?」
擦り切れたテープレコーダーの音を聞いている気分だ。ちょっと腹が立ってきたが、ここは根気よく行かなければ。
「ごめん、もっとちゃんと言ってくれ」
時雨は俺の手を離し、俺の前に回り込んだ。前髪で半分以上隠れた顔は紅潮している。
「だ、からぁっ……! き、のぉのっ……さ、よならっ……みたいなのっ! おはよっ、は……ない、のっ?」
「え……?」
裏返った声を聞いて昨日の記憶が鮮明に蘇る、さよならの挨拶だなんてカッコつけて手にキスをした黒歴史フォルダに放り込みたい記憶が。
「あ、あぁ……おはようの挨拶な」
同じ場所じゃ芸がない。毎朝ではなくとも頻繁に要求されるだろうし、しやすい場所に……そうだ、昨日は確か右手の甲にしたよな。
「……これがおはようの挨拶だ」
俺は時雨の左手を持ち上げ、指先に唇を一瞬だけ触れさせた。
「…………!」
時雨は口元を緩ませて俺の手を両手で握った。また歩き出し、心の中でガッツポーズを決める。
(自分からキスをねだるとは……これは完堕ち確定でわ!? ふぉぉ……顔って大事ですな)
恐る恐るというのは悟られないよう、形だけは大胆に時雨の手を握り返す。時雨は俺を見上げ、俺が見下げていたのに気付いて慌てて俯いた。
(これはもうイベ条件満たしてますな、時が満ちればスチルゲットですぞ……! 食える、食えますぞ、不良くんが一号とか決めてましたが臨機応変こそ神……! 一号は時雨くん、君に決めた!)
心の中で何度もガッツポーズをかまし、校舎に入ったところで時雨の耳元で囁く。
「……ちょっと二人きりになれるとこ行かないか?」
弱々しく頷いた時雨を見て再び心の中でガッツポーズ、俺の脳内イメージでは手のひらから血が出るくらいに硬く拳を握っている。
「な……に……?」
一階の階段裏はデッドスペースだ。中学ではここに倉庫があったが、この高校には何もない。つまりちょっとした逢い引きに最適、流石は名門男子校。
「時雨」
時雨を壁際に追いつめ、彼の顔の横に右肘をつく。昨日の電車内での壁ドンが有効そうだったので試してみたが、やはりみるみるうちに顔が赤くなっていく。
「な、るっ……かみ……くんっ……!?」
左手で彼の顎を撫で上げる。素直に上を向いた彼に更に顔を近付ける。
「時雨、本当にキスが欲しいのは手じゃないだろ? どこに欲しいか言ってみろよ」
少々演技がかった口調になってしまったが、時雨はそれを気にしていられる精神状態じゃない。
(何今のセリフ! 本当にわたくしが言ったんですか!? 俺様過ぎますぞ、ちょっといくらなんでも急ぎすぎかつカッコつけ過ぎでわ!? これじゃ落ちるもんも落ちませんぞ、時雨くん逃げちゃったらどうしよぉ!)
心中は穏やかではない、大騒ぎだ。しかし表情は決して崩さない。キリッとしたキメ顔のまま時雨の唇を親指でなぞる。
「……その可愛い唇に欲しいんだろ?」
いつかやったゲームに登場した俺様キャラのエミュレートをしつつ、脳内では恥ずかしさのあまり枕に顔をうずめて足をバタバタさせる。
「ぁ……! ぅ……ぁ、ぅ……」
「…………俺の勘違いか?」
押し過ぎたのでここで少し引いてみる──すると時雨の方から来てくれた。俺の服を掴み、唇を震わせる。
「ほ、しい……」
蚊の鳴くような声でそう言った後、唇をそぅっと突き出してきた。
(キターーーッ!? えっ、え、キス? していいの? え……どうすればいいの?)
壁についていた右手で時雨の頭を抱き、左手を顎に添えたまま唇を重ねた。やり方がよく分からなかったから唇を押し付けあっただけだ。
(お口同士が触れましたぞ! おっと、離れて……どうするんでしょう、キスの後って何言えばいいんですか? 感想聞く?)
メカクレに対してありえないことだが、目を出して欲しい。目を見れたらもっと表情が分かると思う。
「……どうだった?」
「ぅ…………れっ……し……か、た」
「嬉しかった? よかった……! 俺もめちゃくちゃ嬉しかったよ、ありがとうな時雨……受け入れてくれて」
第一村人ならぬ第一恋人獲得だ。焦らずにゆっくりとスキンシップを深めて、家に呼んで、童貞を捧げて処女をいただく!
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