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出産には激痛が伴う
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学校の設立は成功だ。若いオーガを中心に狩りや闘い以外に関心を持つ者が増え、文化の足音が遠くに聞こえ始めたように思える。
「数学と言語学だけじゃなぁ……おじさん、他何が必要かな? 理科?」
ある日の朝食中、この先のことを全員で話し合おうと決めた。有力な意見を持つくせに放っておいたら静観している査定士に話を聞くのは大切だ。
「うーん、私もあまり詳しくはないんだけれど、君がこの先嫌でも交流を持つだろう他の島々のことを知っておくのは大切じゃないかな?」
「社会かぁ」
「オーガは魔術使えんのか? 旦那」
「俺は他のオーガとあまり交流がないし、幼い頃に群れを離れてしまったから種族のことにも詳しくない。少なくとも俺は使えない」
「真面目なご回答どーも、今度お姉さんにでも聞いといてくれ」
茶化しているような返事だが、からかっている訳ではない。アルマも苛立ったりはしていない。これがカタラの話し方だと理解しているか……心が広くて気にしていないかだ。どちらにせよ俺の旦那様は素晴らしい人だな。
「魔術が使えたら何なんですか?」
「教える。使えたら何かと便利だしな、着火とか……」
「危ないですよ、出来たばかりの街でそこらじゅうで火をつけるなんて。オーガは肉の生食が基本ですし、火を必要としていませんよね」
「旅してた頃は一番便利だったんだよな、光源になるし肉焼けるし……そっか、要らねぇか……」
「そもそもオーガに魔術を使うのは不可能ですよ、彼らはインキュバスとは違い肉体に魔力リソースを注いでいる魔物です。喰った生物の魔力を即座に消費して筋肉の維持に使っているんですから、魔術に使う余裕なんてありませんよ。魔力の流れを見ていれば分かるでしょう?」
「俺ぁ魔物のお前ほど魔力の流れスケスケに見えてねぇの! そりゃ目に集中すりゃ見えるけどよ、旦那が飯食ってるとこなんざそんなジロジロ見ねぇからな」
魔力だの魔術だのという話はやはり俺には難しい、魔力の流れ? なんか見えたことないし……
「魔術の授業はいらない、他の国のことを習うってのはまず俺が知らないから……やっぱりまた外部講師になるのかな?」
「下手に探ると争いになる可能性がある、気を付けろ」
「えっ……そ、そんなピリピリしてるの? みんな魔神王の部下なんだから……一つみたいなもんだろ?」
前世の世界のように国と国で主義主張が違い、時には争いが起こるような世界ではないと思っていた。土地が別れているだけで、星一つで国家一つみたいな……なんか、そういう感じだと思ってた。
「魔神王……叔父上がこの世界の魔力と繋がっているから逆らえないだけで、魔王同士は普通に仲が悪いし魔王によっては魔神王に敵対的な態度を取る者も居る、らしい。この間ネメシスから聞いた話ではな」
「えぇぇ……魔神王のこと慕ってて優しい人とまず仲良くなりたい」
「……今度ネメシスから聞いておこう」
兄弟に聞くヤツ多いなぁ。
「他の島と貿易が出来るように何か欲しいんだけど、それをオーガのみんなの仕事にもして欲しいんだよね。狩りだけじゃ森の奥に居た頃と変わんないし、もっと文化的社会的に……でも程よく田舎がいいなぁ」
あまり文明を発展させると俺が居たような世界になって、みんな過労死するかもしれない。程々にしよう。
「あ、そうそう、子供達にも授業してもらいたいんだけどさ、学校には誰も入らないだろ? だからあの猫と虫の先生をあの子達の家に入れようかな~と思うんだけど、どう?」
「…………いい案だが、目隠しでもして場所と入り方は隠すべきだ。悪意がなくともヤツらは外の者だ、ここから出た後に悪意ある者に情報を漏らさないとも限らない」
「黙ってろって言ったって、無理矢理喋らせる術も記憶を覗く術もあるしな……」
「……二人? 二匹? とも小さいし、なんか黒い布でも被せればいいかな?」
「透視だとかが出来なければいいが」
「透視出来るんなら城に近付かれただけでアウトだろ」
「そっか……今度透視出来るか聞いとくよ」
今度聞く案件を俺も抱えてしまった。
朝食の時間が終わり、みんなそれぞれの用事のため各地に散らばった。腹が大きく重くなりまともに動けなくなったから仕方ないのだが、魔王の俺が何もしないというのも……なんだか申し訳ない。
子供達の様子を見に行きたいけれど、あの大きな部屋を歩き回るのは今の腹では難しい。飛ぶのも覚束ない今は彼らと遊んでやれない。
「……そうだ、シャルのおやつ作ろう」
シャルのおやつは魔樹の樹液、ちなみに主食は俺。査定士はいつも小瓶に採集した樹液を入れて持ち歩いている、俺もやってみたい。シャルを「僕のためにわざわざ……? あぁ兄さん、兄さん、なんて……! 兄さん、兄さん兄さん兄さんっ……!」と感激させたい、高まったシャルに襲われるように抱かれるのもいい。
「手とかお腹に垂らして舐めさせるとか……うわぁえっちぃ、こんなこと思い付くなんて俺インキュバスっぽーい」
妄想に花を咲かせながら魔樹の元へと向かう途中、俺は腹に痛みを感じた。卵がとうとう外へ出ようという時の痛み……では、ない。何か鋭い物が腹の中に刺さっている。
「い、痛いっ、痛いっ……! や、やだ何っ、何っ!?」
外側には何もない、体内に突然刃物がテレポートしたような……そういったこともこの世界では可能なのでは? 誰かが俺に攻撃を? 何故? 誰が? いやそれよりも、何よりも、子供は無事か?
「い、だいっ……ぁ、あか、ちゃん……俺の赤ちゃん……だ、大丈夫? 刺さって、ない? 赤ちゃん……」
今までとは違い異様に大きく育った卵が俺の腹を丸く膨らませていた。妊婦のようではなく、地獄の餓鬼のように。しかし今は丸くない、歪な膨らみはあるが丸くはない。卵が割れたんだ。体内に突然現れた刃物か何かに卵が割られた、俺の赤ちゃんが危ない。
「い、嫌っ! 赤ちゃんっ、ダメ、やだ、誰か、アルマっ、シャル、カタラぁっ、ねめしぃ! 助けてっ、赤ちゃん助けて……!」
過剰に膨れた母性本能に突き動かされ、俺はアルマが居るはずの解体室に急いだ。まだ形が出来ていないかもしれない赤ちゃんが、卵の中身が俺の身体の外へは漏れないように……ネメスィかカタラなら零れていても戻せるかもしれないから、消して床などには垂らさないように、慎重に急いだ。
「痛っ、痛いっ……いた、ぃい……アルマっ、あるまぁ……」
腹の中に何かが刺さっている痛みに泣きながら、解体室の扉を開けた。
「ある、まっ」
「……っ! サク!? こ、ここへは入るなと…………サ、ク? ど、どうしたんだ、なんだその血は!」
大きな刃物を持ち、他のオーガは爪で行っているだろう皮剥ぎの作業をしていたアルマは俺を見て大きく目を見開いた。
「血……?」
「血! ズボンに血が……ど、どうしたんだこれは、どこを怪我したんだ? 脱がしていいな? いや、待て、とりあえず……座るか寝るか出来る場所じゃないと、それも明るいところがいいな。抱えるぞ、サク」
赤ちゃんは卵の中でまだ液状だったかもしれない、零れてしまうかもしれない、体勢を変えたくない。
「ま、待ってアルマっ……あぁあああっ!?」
言うのは遅く、アルマは俺をお姫様抱っこで抱えた。その瞬間腹部に激痛を感じて叫び、アルマを更に驚かせた。叫び終え、激しく呼吸しながら自身の腹部に目を移すと、薄い何かが腹から飛び出していた。
「な、何か刺さってる……? なんで、いつの間に、さっきまで……どうする、サク、抜くべきか? いや、いや……刺さった物を抜くと出血が酷くなるからそのままに……いや待て、サクはインキュバスなんだ、すぐに治る。多少出血を増やしてでも再生を阻害する異物を抜去すべき……だよ、な? サク。ぬ、抜くぞ? 抜いていいよな、すぐに樹液をかけてやるから……気張れよ」
アルマが平たく鋭いそれを掴み、一気に引っこ抜く。曲線を描いたそれは三角形に近い形をしており、更に腹が裂けたが、異物が消えたことにより俺の腹は元通りに再生した。
「よし……!」
俺を片腕で抱えたアルマは安堵の表情を浮かべ、掴んだ何かをしげしげと見た。
「何だこれは、薄い……軽い、だが頑丈そうだな。これは………………卵の殻、か?」
「え。ま、待って! 嘘っ、戻してアルマ! もう一回俺の腹の中に! おかしいの、急に何か刺さって卵が割れてぇ! 赤ちゃん零れちゃうかもっ!」
「ま、待て、落ち着け、何だって? 何か刺さったって?」
「歩いてたら急にお腹痛くなったんだよ! 腹の中に何か刺さったみたいで、い、今も……なんか刺さってる、何個か刺さってる、すごく痛いっ……でもそれどころじゃないんだ、痛いどころじゃない! 赤ちゃんが死んじゃうかもぉ! 腹の中に刃物とかテレポートさせられたんだよ! 赤ちゃんに刺さっちゃったかも……!」
「…………サク、落ち着いて聞け。俺の憶測だが……卵は出産前に割れたんじゃないか? 今までとは違って大きくなり過ぎた卵が、出せないまま役目を終えて割れ……刺さったのはそれじゃないか? 腹の中に刃物が出現するなんてありえない」
「えっ、えっ? ど、どういうこと? 赤ちゃん無事なのっ?」
「……俺では役に立てない。みんなを呼ぶ、少し待ってくれ」
アルマは俺を抱えたまま窓を開け、俺の耳を胸板と手のひらで塞いで大声を上げた。しかしアルマの腹から響く雄叫びは耳を塞いだ程度では無意味で、俺の身体にしっかり響いた。
「すぐに来てくれるはずだ……もう少しの辛抱だぞ、サク」
俺の腹の中で赤ちゃんが無事に生きているのなら、アルマの大声にはとても驚いただろう。腹の中で暴れ回る何かは赤ちゃんなのだろう、俺の内臓を破り、俺を内側から壊していくコレは、俺とネメスィの子供なのだろう。
「……っ!?」
「ぁ……あか、ちゃん? 俺の……赤ちゃん……」
腹が破れて真っ赤に染まったトカゲのようなモノが顔を出した。アルマは驚いてへたり込み、俺はとうとう会えた愛しい我が子に手を伸ばした。
「数学と言語学だけじゃなぁ……おじさん、他何が必要かな? 理科?」
ある日の朝食中、この先のことを全員で話し合おうと決めた。有力な意見を持つくせに放っておいたら静観している査定士に話を聞くのは大切だ。
「うーん、私もあまり詳しくはないんだけれど、君がこの先嫌でも交流を持つだろう他の島々のことを知っておくのは大切じゃないかな?」
「社会かぁ」
「オーガは魔術使えんのか? 旦那」
「俺は他のオーガとあまり交流がないし、幼い頃に群れを離れてしまったから種族のことにも詳しくない。少なくとも俺は使えない」
「真面目なご回答どーも、今度お姉さんにでも聞いといてくれ」
茶化しているような返事だが、からかっている訳ではない。アルマも苛立ったりはしていない。これがカタラの話し方だと理解しているか……心が広くて気にしていないかだ。どちらにせよ俺の旦那様は素晴らしい人だな。
「魔術が使えたら何なんですか?」
「教える。使えたら何かと便利だしな、着火とか……」
「危ないですよ、出来たばかりの街でそこらじゅうで火をつけるなんて。オーガは肉の生食が基本ですし、火を必要としていませんよね」
「旅してた頃は一番便利だったんだよな、光源になるし肉焼けるし……そっか、要らねぇか……」
「そもそもオーガに魔術を使うのは不可能ですよ、彼らはインキュバスとは違い肉体に魔力リソースを注いでいる魔物です。喰った生物の魔力を即座に消費して筋肉の維持に使っているんですから、魔術に使う余裕なんてありませんよ。魔力の流れを見ていれば分かるでしょう?」
「俺ぁ魔物のお前ほど魔力の流れスケスケに見えてねぇの! そりゃ目に集中すりゃ見えるけどよ、旦那が飯食ってるとこなんざそんなジロジロ見ねぇからな」
魔力だの魔術だのという話はやはり俺には難しい、魔力の流れ? なんか見えたことないし……
「魔術の授業はいらない、他の国のことを習うってのはまず俺が知らないから……やっぱりまた外部講師になるのかな?」
「下手に探ると争いになる可能性がある、気を付けろ」
「えっ……そ、そんなピリピリしてるの? みんな魔神王の部下なんだから……一つみたいなもんだろ?」
前世の世界のように国と国で主義主張が違い、時には争いが起こるような世界ではないと思っていた。土地が別れているだけで、星一つで国家一つみたいな……なんか、そういう感じだと思ってた。
「魔神王……叔父上がこの世界の魔力と繋がっているから逆らえないだけで、魔王同士は普通に仲が悪いし魔王によっては魔神王に敵対的な態度を取る者も居る、らしい。この間ネメシスから聞いた話ではな」
「えぇぇ……魔神王のこと慕ってて優しい人とまず仲良くなりたい」
「……今度ネメシスから聞いておこう」
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「他の島と貿易が出来るように何か欲しいんだけど、それをオーガのみんなの仕事にもして欲しいんだよね。狩りだけじゃ森の奥に居た頃と変わんないし、もっと文化的社会的に……でも程よく田舎がいいなぁ」
あまり文明を発展させると俺が居たような世界になって、みんな過労死するかもしれない。程々にしよう。
「あ、そうそう、子供達にも授業してもらいたいんだけどさ、学校には誰も入らないだろ? だからあの猫と虫の先生をあの子達の家に入れようかな~と思うんだけど、どう?」
「…………いい案だが、目隠しでもして場所と入り方は隠すべきだ。悪意がなくともヤツらは外の者だ、ここから出た後に悪意ある者に情報を漏らさないとも限らない」
「黙ってろって言ったって、無理矢理喋らせる術も記憶を覗く術もあるしな……」
「……二人? 二匹? とも小さいし、なんか黒い布でも被せればいいかな?」
「透視だとかが出来なければいいが」
「透視出来るんなら城に近付かれただけでアウトだろ」
「そっか……今度透視出来るか聞いとくよ」
今度聞く案件を俺も抱えてしまった。
朝食の時間が終わり、みんなそれぞれの用事のため各地に散らばった。腹が大きく重くなりまともに動けなくなったから仕方ないのだが、魔王の俺が何もしないというのも……なんだか申し訳ない。
子供達の様子を見に行きたいけれど、あの大きな部屋を歩き回るのは今の腹では難しい。飛ぶのも覚束ない今は彼らと遊んでやれない。
「……そうだ、シャルのおやつ作ろう」
シャルのおやつは魔樹の樹液、ちなみに主食は俺。査定士はいつも小瓶に採集した樹液を入れて持ち歩いている、俺もやってみたい。シャルを「僕のためにわざわざ……? あぁ兄さん、兄さん、なんて……! 兄さん、兄さん兄さん兄さんっ……!」と感激させたい、高まったシャルに襲われるように抱かれるのもいい。
「手とかお腹に垂らして舐めさせるとか……うわぁえっちぃ、こんなこと思い付くなんて俺インキュバスっぽーい」
妄想に花を咲かせながら魔樹の元へと向かう途中、俺は腹に痛みを感じた。卵がとうとう外へ出ようという時の痛み……では、ない。何か鋭い物が腹の中に刺さっている。
「い、痛いっ、痛いっ……! や、やだ何っ、何っ!?」
外側には何もない、体内に突然刃物がテレポートしたような……そういったこともこの世界では可能なのでは? 誰かが俺に攻撃を? 何故? 誰が? いやそれよりも、何よりも、子供は無事か?
「い、だいっ……ぁ、あか、ちゃん……俺の赤ちゃん……だ、大丈夫? 刺さって、ない? 赤ちゃん……」
今までとは違い異様に大きく育った卵が俺の腹を丸く膨らませていた。妊婦のようではなく、地獄の餓鬼のように。しかし今は丸くない、歪な膨らみはあるが丸くはない。卵が割れたんだ。体内に突然現れた刃物か何かに卵が割られた、俺の赤ちゃんが危ない。
「い、嫌っ! 赤ちゃんっ、ダメ、やだ、誰か、アルマっ、シャル、カタラぁっ、ねめしぃ! 助けてっ、赤ちゃん助けて……!」
過剰に膨れた母性本能に突き動かされ、俺はアルマが居るはずの解体室に急いだ。まだ形が出来ていないかもしれない赤ちゃんが、卵の中身が俺の身体の外へは漏れないように……ネメスィかカタラなら零れていても戻せるかもしれないから、消して床などには垂らさないように、慎重に急いだ。
「痛っ、痛いっ……いた、ぃい……アルマっ、あるまぁ……」
腹の中に何かが刺さっている痛みに泣きながら、解体室の扉を開けた。
「ある、まっ」
「……っ! サク!? こ、ここへは入るなと…………サ、ク? ど、どうしたんだ、なんだその血は!」
大きな刃物を持ち、他のオーガは爪で行っているだろう皮剥ぎの作業をしていたアルマは俺を見て大きく目を見開いた。
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言うのは遅く、アルマは俺をお姫様抱っこで抱えた。その瞬間腹部に激痛を感じて叫び、アルマを更に驚かせた。叫び終え、激しく呼吸しながら自身の腹部に目を移すと、薄い何かが腹から飛び出していた。
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アルマが平たく鋭いそれを掴み、一気に引っこ抜く。曲線を描いたそれは三角形に近い形をしており、更に腹が裂けたが、異物が消えたことにより俺の腹は元通りに再生した。
「よし……!」
俺を片腕で抱えたアルマは安堵の表情を浮かべ、掴んだ何かをしげしげと見た。
「何だこれは、薄い……軽い、だが頑丈そうだな。これは………………卵の殻、か?」
「え。ま、待って! 嘘っ、戻してアルマ! もう一回俺の腹の中に! おかしいの、急に何か刺さって卵が割れてぇ! 赤ちゃん零れちゃうかもっ!」
「ま、待て、落ち着け、何だって? 何か刺さったって?」
「歩いてたら急にお腹痛くなったんだよ! 腹の中に何か刺さったみたいで、い、今も……なんか刺さってる、何個か刺さってる、すごく痛いっ……でもそれどころじゃないんだ、痛いどころじゃない! 赤ちゃんが死んじゃうかもぉ! 腹の中に刃物とかテレポートさせられたんだよ! 赤ちゃんに刺さっちゃったかも……!」
「…………サク、落ち着いて聞け。俺の憶測だが……卵は出産前に割れたんじゃないか? 今までとは違って大きくなり過ぎた卵が、出せないまま役目を終えて割れ……刺さったのはそれじゃないか? 腹の中に刃物が出現するなんてありえない」
「えっ、えっ? ど、どういうこと? 赤ちゃん無事なのっ?」
「……俺では役に立てない。みんなを呼ぶ、少し待ってくれ」
アルマは俺を抱えたまま窓を開け、俺の耳を胸板と手のひらで塞いで大声を上げた。しかしアルマの腹から響く雄叫びは耳を塞いだ程度では無意味で、俺の身体にしっかり響いた。
「すぐに来てくれるはずだ……もう少しの辛抱だぞ、サク」
俺の腹の中で赤ちゃんが無事に生きているのなら、アルマの大声にはとても驚いただろう。腹の中で暴れ回る何かは赤ちゃんなのだろう、俺の内臓を破り、俺を内側から壊していくコレは、俺とネメスィの子供なのだろう。
「……っ!?」
「ぁ……あか、ちゃん? 俺の……赤ちゃん……」
腹が破れて真っ赤に染まったトカゲのようなモノが顔を出した。アルマは驚いてへたり込み、俺はとうとう会えた愛しい我が子に手を伸ばした。
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