過労死で異世界転生したのですがサキュバス好きを神様に勘違いされ総受けインキュバスにされてしまいました

ムーン

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教師を輸入

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ネメシスに頼んで彼とネメスィの父親の住む島から、学校教師を二人都合してもらった。それとは別で建築業者を呼び建ててもらった学校は一階建ての長屋のような造りで、俺が前世で通っていた三から四階建ての建物とは全く違う、どちらかと言えば歴史で習った寺子屋のようだった。まぁ、建築様式は洋風なのだが。

「どうですか兄さん、マタニティドレスの着心地は」

今日は教師達を迎える日なのだが、今回の卵は何故か腹の中でどんどんと大きくなり、ぽっこりと腹が膨れてしまった。女性のように腹が膨らむのならまだしも、細いままの腹に卵型の膨らみが出来て自分で見ても少々気持ち悪いため、いつもの臍出しファッションを控えて腹の膨らみが見えない服をシャルに頼んだ。

「お腹の中で卵がごろごろ動いてしまって気になるとのことでしたので、支えも作りました。苦しくありませんか?」

「うん、すごくフィットしてる」

腹の中の卵が動き過ぎないよう、怪我をした時にするサポーターのような物も作ってもらった。見た目はほとんど腹巻きだ。

「ありがとう。流石シャル、センスいいよ。シャルは服飾関係の指導者になれるかもな。今度どこかの島で勉強してみるか?」

裁縫も好きなようだしそう提案してみたが、シャルは「兄さんのお傍に居たいです」と可愛らしい断り方をした。

「しかし……初対面の人と会うのに女装ってどうなんだろ」

「兄さんの美しさ愛らしさは性別の枠にはまりません」

「うーんお兄ちゃん全肯定マシーンに相談する時はメンタル弱ってる時のみにすべきかな。シャルぅ……人間は特に性別に拘る種族だぞ? このドレスは確かに可愛いけど……俺男だからさぁ……」

兄さんの清純な魅力を表現します! と純白の生地を白い糸による刺繍や白いレースで飾り立て、ふんわりと広がってシルエットを誤魔化しつつ、足首まで隠す長いスカート……初対面の人間にコレかぁ。

「そもそも俺の清純な魅力って何!? 俺インキュバスだぞ? 清純とは対極の存在じゃん……!」

「いつまでも清純さを保ち、恥じらいを忘れないからこそ、兄さんは僕の心を掴んで離さないんです」

「そ、そぉ? シャルと話してるとメンタル回復するなぁ……えへへっ」

「本当によくお似合いです、美しいですよ兄さん。欲を言うのなら、このベールも被せたいのですが……」

「結婚式じゃないんだから」

シャルが持っていた半透明の布が煌びやかな銀色のティアラへと変わる。

「これで我慢します。あぁ、お可愛らしいです兄さん……」

「まぁ王様だしこれくらいはいいか。やけに軽いな、ティアラなのに」

「インキュバスに金属製のアクセサリーは厳禁です、重さで身体を痛めてしまいますから。それは僕の魔力で作り出した物なので、見た目と重さは通常の物質とは違うんですよ」

「金属っぽい見た目の軽いヤツってことか。そういやいつも履いてるブーツもサイズと質感の割に軽いもんな。ありがとうなぁシャルぅ、兄思いの弟を持って俺は幸せだぞ! じゃ、お迎えに行こうか」

シャルと査定士を連れてネメシスに聞かされた城の裏手のまだ手を付けられていない庭に出た。そこでしばらく待つと帽子とネクタイを身に付けた巨大な鳥が現れた。

「……っ!?」

「おぉ……島間配達の大鳥か、この目で見たのは初めてだよ」

翼を広げれば六メートルはあるだろうその鳥は羽毛の中に埋まっていたポシェットをほじくり出すと、嘴で器用に留め具を外し、中に入っていた猫を地面に落とした。一緒に落ちてきた紙を咥え、俺に突き出す。

「えっ、な、何これ……」

「受け取り印だね。名前を書くか、親指に塗料をつけて押し付けるんだよ」

「ペンです、兄さん」

「ありがとう……サ、ク……と。これでいい?」

名前を書いた紙を返すと鳥はそれをポシェットに入れ、再びポシェットを羽毛の中に押し込み、ピャアーともケァアーともつかない鳴き声を上げて飛び立った。俺とシャルは風圧で吹っ飛びそうになり、査定士に支えられた。

「おっ、と……ふぅ、老体には辛いよ。旦那様に来てもらった方がよかったんじゃないかな?」

「おじさんまだそんな歳じゃないでしょ。アルマはちょっと見た目怖いから……ところでさ、あの……何、この猫」

「三毛猫だね」

それは見れば分かる。白黒茶の三色の毛と緑色の瞳の可愛らしい猫だ。何故猫が配達されたんだ? 誰かペットの配送を頼んだのか? 生き物を配送するな。

「にゃんだ無礼者共め」

「猫が喋った……!?」

四本の足で立ち上がった猫の尻からは三本の尻尾が生えている。

「ふん、未開の地の野蛮人共に礼儀などはにゃから期待してはいにゃかったが、仮にも魔王にゃらばそれにゃりの対応を見せて欲しいものだにゃ」

「可愛い……なが全部にゃだ、典型的な喋る猫だ……」

「典型的にゃだと! 無礼者め! ワシは雄の三毛猫狩りの魔の手から逃れ続け世紀をにゃんども超えた伝説的にゃ猫又にゃるぞ!」

「……ひょっとしてあなたが教師ですか?」

地面に膝をついた査定士がそう尋ねると、猫は機嫌良さげににゃあんと鳴いた。

「その通り! ワシこそ数学教師にゃ! ゼロの概念も知らぬ貴様らに数の全てを教えてやるのにゃ。感謝するがよい愚かなる野蛮人共め!」

「態度がデカくて可愛い……あ、ゼロの概念は知ってますよ俺は」

ネメシスとネメスィの父が治める島では確か、ショッピングモールの店員に猫又が居たな。あの猫の尻尾は二本だったと思う、三本になると喋れるようになるのだろうか、それともあの猫は無口だったのだろうか。

「猫って金にがめついのかな?」

「兄さん……お客人に会う際の服装は気になさるのに、どうして口は慎めないのですか。そんなところもお可愛らしいです……」

「数学と国語の人が来るって聞いてたんだけど」

「我だ」

「……どこにいらっしゃるのでしょう」

草原から声が聞こえたが、どこにも何も居ない。

「我はここだ」

ぴょん、ぴょんと跳んだバッタが猫の頭に乗る。

「我は一万冊の本の一言一句をこの脳に収めし本の虫……ふぎゅっ!?」

頭を振ってバッタを振り落とした猫が前足でバッタを踏んだ。

「……ハッ! 本能が疼いて同僚を殺してしまったにゃ」

「我、が……死せ、ども……書は、永遠……なり」

「名言を遺そうとしてる! どうしよう手当てっ、あぁヤダヤダ虫触りたくないおじさぁんっ!」

「私も虫はちょっと……」

シャルはバッタをひょいとつまみ上げ、査定士のポケットから小瓶を取り出してその中身をバッタにかけた。

「……助かったぞ。巨きな者よ」

「高濃度の魔力を感じます。あなた達はお二人とも魔樹の影響を強く受けた動物のようですね」

「いかにも。我々は元から魔物だった訳ではない」

「魔力の影響を受け自我を強く持つ動物や物品のことを、暴飲の魔王の島では妖怪と呼ぶとか……」

「うむ、我々はそこの生まれだ。あの島の独特な土壌以外では妖怪は生まれない」

シャルはバッタを手のひらに乗せて会話している。

「学校まで運ばせていただきますね」

「助かる」

「ワシも運べ! 貴様らの一歩はワシの五歩にゃのだぞ」

「にゃんこは俺が運ぶ~……わぁふわっふわ、一緒に寝たい」

猫は俺が、バッタはシャルが学校へと運んだ。オーガにしては珍しく勉強に興味がある十人足らずの住民達は、小さな教師に驚いていた。

「猫と虫が喋ってる……」

「食ったら腹壊しそう」

猫はまた無礼者めと喚いていたが、バッタは落ち着いて自己紹介をしていた。しかし同じ机に乗せたのが悪かったのか、バッタは再び猫に叩き潰されてしまった。

「樹液を常備しておいた方がよさそうですね」

シャルは査定士の先程とは反対側のポケットを漁り、小瓶から樹液垂らしてバッタを回復させた。

「潰されない対策しようよ……ハムスターの散歩みたいに何かに入るとか。ガシャポンのカプセルとかサイズ丁度よさそうだけど、この世界にそんなもんないしなぁ……他の島にはあるのかな。ガチャとかいう邪悪な文明……」

「隣で跳ねられると弄り殺したくにゃっちゃうから、部屋分けを要望するにゃ。同僚殺しにはにゃりたくにゃい」

「弄り殺すって怖……部屋分けは考えてるよ、教科違う訳だし。じゃあバッタさんの授業は隣の部屋で……あ、数の勉強は猫さんで、言葉の勉強はバッタさんだから、皆さんまずはお好きな方を体験してみてくださいね~」

住民達に声をかけて教室を出て、隣の教室に入る。

「言葉の勉強はうちの子達にも受けさせたいなぁ」

「我の授業を受ければたとえ赤子だろうと詩を読めるようになるぞ」

「あははっ、すごーい。俺も受けようかなぁ」

「……君は我と目が合わないな?」

「直視はちょっと無理……」

蜘蛛に犯されてしまったこともあるし、森で暮らしていたこともあるのだが、どうにも虫は嫌いだ。足がいっぱいあるところとか、急に素早く動くところとか。

「おや、生徒さんが来たようだよ」

数人のオーガがこちらの教室に移ってきた。

「……俺ちょっと疲れたからお城戻るね。ネメシスのお父さんとかにお礼状書かなきゃだし……シャル、おじさん、ここお願いしていい?」

初日だし、教師は想像以上に小さい。監督が必要だ。

「…………私ではオーガ達が突然猫を食べてみたくなった時の対応が難しいよ」

「だ、大丈夫だと思うけどなぁ……じゃあお城戻ったらネメスィかアルマに行ってもらうよう頼むよ」

それまではシャル一人に監視を頼むことになる。彼は廊下に出て教室と教室の境目辺りに立ち、左右を同時に警戒し始めた。

「ごめんね、よろしくねシャル」

シャルと別れ、査定士と共に城へと戻る。

「やはり旦那様に来てもらった方がよかっただろう?」

「ぅ……で、でも、おじさんが樹液持ってなかったら危なかった訳で……あの樹液何? 何で持ってたの?」

「シャルのおやつだよ」

「へぇー、やっぱりおじさんに来てもらってよかったよ」

「そうかい? サクがそう言うのなら……」

腹に大きな卵を抱えているから性欲が薄まっているのか、照れくさそうに微笑んだ査定士にきゅんとときめいたのは胸だけで、下腹は静かなものだった。
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