過労死で異世界転生したのですがサキュバス好きを神様に勘違いされ総受けインキュバスにされてしまいました

ムーン

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今までとは違う形

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その後到着したシャルとカタラによりまず痛覚が奪われ、ネメスィの触手によって腹の裂け目を開かれ、子供が取り上げられた。

「抱いてろ」

ネメスィは子供をシャルに預けると俺の腹の中を細かく探り、卵の破片を丁寧に取り除いた。

「再生した内臓に埋まっているのまであったぞ、酷いな……どれほどの痛みだったか」

「全部集めましたか?」

「あぁ。サク、触手を抜くぞ。腹を再生させろ。カタラ、再生が終わったら術を解け」

触手が抜けて、腹が治って、痛覚が戻された……のかな? 痛くないのは怪我をしていないからなのかまだ痛覚が戻っていないからなのか、判断がつかない。

「赤ちゃんっ、俺の赤ちゃん」

「こちらですよ、兄さん」

「抱かせて。わぉ、血まみれ」

シャルから受け取った赤子は血まみれで、何が何だかよく分からない。身体を丸めるとアルマの頭ほどあるだろうこのサイズは、過去最高記録だ。生まれた瞬間からこのサイズなら、アルマとの子以上に大きくなるかもしれない。

「咆哮に気付いてくれてありがとう……もう、本当……パニクってた。サクが血まみれになって……はぁ、もう……もう嫌だ、あんなこと二度と……」

トラウマになってしまったかな? いや、トラウマを刺激したのか、アルマの故郷で俺が強姦され死にかけた時のトラウマを。

「鬼の咆哮……オーガ族の技、だったよな。これは立派な魔術だぜ。声に魔力を乗せ、その魔力によっても空気を震わせる……つまり声を大きくする魔術、そして感情をダイレクトに伝える声だったのも魔力の影響だ。他の魔術も習得すれば使えるかもしれねぇ。旦那、後でいいからちょっと付き合えよな」

「……別にいいが、今話すことか?」

「まぁとりあえず今は無傷になったからな。子供も元気そうだし……しっかしデカくなり過ぎだとは思ったが、まさか体内で孵っちまうとはな」

「…………サク」

小さく丸まろうとする赤子を抱き締める腕から鮮血が滴る。ドラゴン特有の硬い鱗や鬣のような背の棘などが皮膚を裂いたようだ。

「なぁ……サク」

「ネメスィ! 見て、赤ちゃん。お前の子だぞ。丸まっちゃって顔よく見えないけど」

笑顔で見上げたネメスィは酷く辛そうな顔をしていた、子供が無事に生まれためでたい時にする顔ではない。

「ネメスィ……?」

「…………すまない、サク……すまなかった」

「何が?」

「そんな大怪我をさせてしまって……」

「大丈夫だよ、もう治ったし。ネメスィが殻取ってくれたおかげだよ。確かに今回の子は大きくなり過ぎだけどさ、ネメスィがそうさせた訳じゃないんだし……そんな顔しないでよ、赤ちゃん生まれたんだから」

ネメスィは眉尻を下げたまま俺の頬を撫でた。過剰な母性本能はまだ生きていて、身体が勝手にネメスィから赤子を離そうと背を向けさせた。

「あ……ご、ごめんっ、赤ちゃん守らなきゃってなんか、なって……ネメスィにちゃんと見せたいのに」

「お前のそれにはもういい加減に慣れた」

「ごめんね……?」

「兄さん、早く身体を清めた方がいいのでは? 血が乾くと厄介ですよ」

「あ、そうだな。早く綺麗にしてあげなきゃ」

俺のバグった母性本能は大柄で筋肉質なアルマやネメスィばかり警戒させて、中性的な顔をしていて細身のシャルやカタラには反応しにくい。

「転ばないように気を付けてくださいね」

両腕で子供を抱いているから階段の手すりを掴めない俺を気遣って、シャルは俺の腕に尻尾を巻いてくれている。シャルは俺と違って強い、俺が足を滑らせても尻尾一本で支えられるだろう。

「さ、どうぞこちらへ……服は預かっておきますね」

地下の沐浴場に着くとシャルは俺の背後に回り、肩に触れ、その瞬間俺が今まで着ていた服が消えた。俺の服はシャルが魔力を実体化させて作った物で、シャルはいつでもそれを魔力に戻して回収出来る。シャル次第でいつどんな時でも自由に裸にされてしまうと思うと、恐ろしい話だな。

「桶は必要ですか? 長男達の生まれたて……孵りたて、よりもずっと大きいですね」

子供達が卵から孵ったばかりの頃、風呂に入れる際は洗面器などに湯を汲んで小さな風呂桶として使っていた。俺と同じように湯船に入れては溺れてしまうからだ。この子もそうした方がいいだろう。

「でもちょっと桶からはみ出るよなぁ、桶の縁が首とかにくい込んで痛いかも……」

「ではこうしてはどうでしょう」

シャルは手拭いを桶の縁にかけ、即席の枕もどきを作った。俺は桶に樹液が溶け出した水を少し汲み、子供をそっと入れてみた。

「この子……ドラゴンですか? 今までの子と形がかなり違うような……」

「……ふ、ぇ……ふにゃあ……ほにゃ、ぅにゃあぁ」

「あ、泣いちゃった……よしよし、ごめんなー……よしよし」

「ふに……ぅにぃ……」

弱々しく泣き出したが、抱き上げるとすぐに泣き止んだ。可愛い、俺に抱かれて安心するのだから今までの子と少し形が違ったって俺の子に間違いない。

「長男達はもっとぴゃーぴゃー鳴いていましたよ、なんだか……人間の赤子の声に少し似ている気がします」

「そうかぁ?」

「少し、ですよ」

「んー……まぁ、ちょっと似てるかな」

「形も少し人間っぽくないですか?」

抱いている子供の身体にはびっしりと鱗が生えていて、翼もトゲも尻尾もあるけれど、手足の長さやつき方は確かに人間っぽい。頭と胴体の割合も人間の赤子に近い。今までの子達はもっとトカゲっぽいシルエットだった、恐竜や怪獣っぽい形の子も居た、けれどこんな人間っぽい子は今まで居なかった。

「……別にいいじゃん、どんな形しててもどんな鳴き声してても俺の可愛い子供だよ」

「そういうことではなく……形や声が違うということは、内臓……消化器官などに差異があるかもしれません。長男達と同じ食事を与えてもよいのか、という心配をしてるんですよ、僕は。僕が兄さんから出てきたものに否定的な見方をするとでも……?」

「あ……あぁ、そういう心配……いやいや、シャルが俺の子をそんな、変って言うはずはないって思ってたよ? うん……」

「…………兄さんに信頼していただけて嬉しいです!」

ほんの少しだけシャルを疑って子供を抱く力を強めてしまったのは、過剰な母性本能のせいだと言い訳しておこう。

「しばらくは樹液などを飲ませておけばいいと思いますが、ある程度育ったら硬いものを食べさせないと顎の発達が遅れてしまいます」

「俺は生態とかには詳しくないからなぁ、ネメスィとかおじさんに頼ろう」

「手に入りやすい食材が好きだといいですね」

「ふふ、そうだなぁ。あんまり珍しいのじゃ好物食べさせる頻度下がっちゃって可哀想だもんな」

樹液が溶け出した水をそっと子供にかけ、鱗の隙間にまで入り込んでしまった血をゆっくりと洗い流す。

「あぁ……赤ちゃんの皮膜は薄いなぁ、破れそうで怖い」

羽根を広げさせ、薄い皮膜を丁寧に洗う。

「……僕達インキュバスの皮膜の方が薄くて破れやすいんですよ、兄さん」

「俺らは脆いけどその分再生力高めじゃん」

「兄さんは治るから怪我をしてもいいと考えている節がありますよね……僕は兄さんには痛い思いをして欲しくありません、可能な限り僕が守りますけれど、兄さん自身にも傷を負うのは避けて欲しいです……」

頭羽と腰羽と眉尻を下げ、しゅんとした表情と声色でそう言われ、胸が痛む。俺は俺だけが傷付くのならもう平気になってしまったけれど、現実はそんなに単純じゃない。俺が傷付けば俺の大切な人達は心を痛めるのだ。

「そうだな、心配かけたくないし……そうするよ、ごめんな。でもシャル、お前もそうだろ? 治るからって割と無茶なことするよな?」

「……だって治るんですもん」

「さっきお前が俺に言ったことそのまま返すぞ」

「………………気を付けます」

「……ふふ、お互い気を付けような。脆いと大変だな~」

「僕は魔力で強化しているので、兄さんのように日常生活の中で羽根を折ったり皮膚が裂けたりしません。兄さんは僕よりも気を付けるべきです」

紫色の真剣な眼差しに少し気圧され、誤魔化すように微笑む。

「分かった分かった気を付けますよ。もう上がろう、赤ちゃん綺麗になった……服頼むよ、シャル」

「はい、いつものでいいですか?」

「そうだな、腹引っ込んだしマタニティドレスはお役御免だ。あ、ついでにおくるみ……この子包む布も作ってくれるか? この子も例に漏れずトゲトゲだからな、気を付けてりゃ刺さらないけどもっと何にも考えずにぎゅーってしてやりたいんだ」

「はい」

目に見えない優しく温かい何かにふんわりと包まれたような感覚の一瞬後には、俺はいつもの露出度の高い服を着ていて、子供は可愛らしいハート柄のおくるみに包まれていた。

「どうでしょう」

「完璧、ありがとうな」

袖に腕を通す手間のかからない着替え、前世風に言うなら女児アニメの変身シーン?

「シャル」

「はい、兄さん」

「……本当にいつもありがとう、愛してるよ」

「兄さん……! あぁ、そんな、心の準備が出来ていませんでした、あぁ……あぁ! 兄さんっ、兄さん兄さん兄さん……! 僕も愛しています! 兄さんを! 心の底から!」

大好きな人達に囲まれて、可愛い子供もたくさん居て、これ以上ないほどに幸せだ。時折思い出す空虚な前世には何の未練もない。
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