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第一次移住開始

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アルマの故郷である森の奥深くのオーガの集落から城下町へ移住してくれる者達の名簿を眺め、俺はニマニマと頬を緩めていた。

「喜んでくれたみたいだな、嬉しいよ」

「そりゃ喜ぶよ! 不安もいっぱいだけど、これ見てると俺は本当に魔王になったんだなって実感出来るんだ」

俺なんかに魔王が務まるのか、そんな質問をされたら俺はきっと首を横に振る。けれど、努力は惜しまない。俺は今ここに載っている名前を全て覚える気で眺めている。

「ネメシスと相談して、みんなどこに住むかどんな家が欲しいか聞いて、家建ててもらわなきゃね」

「そうだな」

「アルマのお姉さんには近くに住んで欲しいなぁ。あ、そういえばアルマのお姉さんの名前ってどれ?」

アルマに子供が考えたような都市計画を話していると、そのうち気持ちが高まった抑えきれなくなりら俺はアルマと二人でネメシスの元へ多相談へ言った。

「ネメシスっ、アルマが移住者の名簿作ってきたよ」

「本当? それ助かる……ぁー……これは、ボツだね」

「何か不備があったか?」

「名前だけ書かれてもね。最低でも顔写真と性別、年齢くらいは分かんないと誰が誰だか分かんないから。あと……血縁関係が分かるようにして欲しいかな」

「……それは、そうだな。すまない、少し考えれば分かったことだった」

「移住なら家の準備が必要だね。色々と話を聞きたいから明日あたり空間転移の魔法陣を用意するよ。サクはいつも通り演説の練習してていいよ」

ネメシスが建国の中枢を担っている。このまま住民を集め、人間との共存が出来たとしても、俺に魔王としての資格があるかは怪しいな。

「ありがとう、色々と参考になったよ」

アルマと共にネメシスの部屋を後にする。俺は普通に歩いて自室に戻ろうとしていたのに、後ろからアルマに抱き上げられてしまった。

「サク、浮かない顔をしているように見えるぞ。大丈夫だ、移住の方は俺達で進めておく。心配する必要はない」

「うん……いいのかな、任せっきりで。俺が魔王なのに」

「協力してやると決めただろう? サクはサクにしか出来ないことをするんだ、人間と共存なんてサクの力がなければどうしようもないからな……」

「……そう、だね。シャルは魅了あんまり得意じゃないみたいだし……うん、自分のことに集中するよ。ごめんね、気弱になってた」

「謝る必要はない。気負う必要もな。人間との共存が辛ければやめたっていい」

数百人、いや、数千人は居るかもしれない人間の生命を俺の気分で左右することなんて出来やしない。

「やるって決めたんだ、やりきるよ」

「……そうか。俺はサクの味方だ、やるなら応援する。頑張ってくれ、無理はするなよ」

「してないよ、特訓楽しいし。それよりアルマ、今日はアルマの部屋で寝ていい?」

「え……あ、あぁ! もちろん、もちろんいいぞ、部屋に来てくれ、愛しい妻よ……!」

その日はアルマの部屋で一晩を過ごし、翌朝ネメシスの手伝いに向かうアルマを見送った。俺はシャルが起きるのを待って今日も特訓に精を出した。



来る日も来る日も特訓し続け、城の中に籠りきりになっていたせいか日にちの感覚が薄くなった。いつの間にか移住を決めたオーガ達の居住区が完成し、明日越してくるから挨拶を──と急に言われた。

「もう家とか出来たの? すごいなー……」

今は一日一度、みんなが集まる夕飯の時だ。俺とシャルは食事の必要がないもののあまり動き回っては埃が立つので、大人しく席に座ってみんなの食事風景を眺める。

「就寝前に進捗は報告していたはずだぞ、魔王様」

「アルマ……だからサクでいいってば。報告はされてたけど、特訓でなんか時間の感覚が狂ってさぁ」

「兄さん、いい機会ですから魅了の試し打ちをしてみてはどうです? 集団に向けた挨拶なら演説の予行演習になると思うんです」

「そうかなぁ……でも、普通に移住してきてくれたみんなに変な術かけるのはダメだろ」

シャルは「そうですかね?」と首を傾げている。最初に比べれば丸くなったが、まだ倫理観は育っていないようだ。

「挨拶はどこでするんだい?」

納得いっていなさそうな顔のままシャルは査定士のグラスにワインを注ぎ、礼を言った査定士はグラスを持ったまま俺に尋ねた。

「俺さっき聞いたばっかりなんだから知らないよ。どこでやんの? ネメシス」

「噴水広場でやってくれよ。いい感じになってるんだぜ」

「そういえば水周りはお前がやっていたな」

「ネメスィ、お前明日までに台作っておけよ。サクの身長じゃオーガ連中の最前列しかサクの顔を拝めねぇからな」

小学校の運動場にある朝礼台のようなものだろうか? なんて言っても誰にも通じないだろうな。

「サクを見てはしゃいだオーガにサクが襲われないよう、柵も頼む」

「檻に入るのは二度とごめんだぞ。同郷なんだからもうちょっとオーガを信用しろよ」

「前回城下町を案内した時、ヤツらはサクに何をした?」

「ちょっと食べられかけたけどさぁ……触らせないで怪我しないよう気を付けてれば大丈夫だよ、台だけでいい。俺からも頼むなネメスィ」

一晩で台を作るよう頼むなんて流石に酷い。ネメスィが力仕事を得意としているとはいえ徹夜になるだろう。段取りが悪くならないよう、今後は報連相を徹底させなければ──あぁ、社畜だった前世を思い出してしまった、気が重くなる。

「……城にある椅子とかじゃダメ?」

「カッコ付かないよ、仲間内のパーティじゃあるまいし。魔王なんだからそういうところにも気を遣って」

「体裁大事なのは分かるけどネメスィに無理させたくないよ……」

「心配するなサク、ちゃんとしたものを用意してやる」

「……そう? じゃあやっぱ頼んどく、任せたぞネメスィ」

微かな罪悪感と不安を胸に残したまま夕飯の時間は終わり、俺は夜遅くまでネメシスと共に挨拶の文章作成と練習に取り組んだ。

「そろそろ眠らないとお肌荒れちゃうよ、サク」

「人間じゃないんだから平気だよ。でもま……そろそろ寝るかな。ごめんな遅くまで居座って」

「えっ? ぁ、うん……ばいばい」

「おやすみ~」

何故か残念そうな顔をしているネメシスの部屋を去り、アルマの部屋へ。既に部屋は暗く寝息が聞こえていたが、俺は構わずベッドに潜り込んだ。

「腕おっも……」

アルマがちょうどよく横向きに寝転がっていたので、抱き締められようとしたのだがアルマの腕は一本だけでもとても重い。前世、子供の頃に無理矢理参加させられた子供神輿を思い出した。

「よっ……こら…………痛っ!?」

猫のように潜り込むスペースもないので持ち上げるしかなく、頭が通るだけの隙間を気合いでこじ開けて頭を突っ込んだのだが、手が滑ってアルマの腕が落ちてきたことで頭羽が折れてしまった。

「んっ……? サク? 今日はネメシスの部屋で寝ると思っていたが……俺のところに来たのか」

「ぅ、うん……」

羽の骨部分を覆う黒い皮は分厚いため、中の骨が折れても皮は破れなかったようで出血はない。手で支えてやればすぐに再生するだろう。

「おいで」

「……うん」

大きく広げられた腕の中に飛び込む。アルマの体温を感じ、触れられる幸せの形を確かめる。俺を優しく抱き締めたアルマは寝返りを打って仰向けになり、俺を自身の上に乗せた。

「おやすみ、サク」

今まで何の疑問もなくアルマの上で眠ってきたけれど、彼が俺を自分の上に乗せるのは俺を誤って踏んでしまわないようにだったりするのだろうか。

「…………愛してる」

だとしたら、ますます好きになってしまう。
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