過労死で異世界転生したのですがサキュバス好きを神様に勘違いされ総受けインキュバスにされてしまいました

ムーン

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特訓の方向性

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沐浴場での特訓を終えた俺はアルマを探して城を歩き回り、食事中だった彼を見つけて膝に飛び乗った。

「アルマっ」

「サク……! 急に来たら危ないだろう、俺がちゃんと乗せてやるから声をかけろ。腰や尻、足の骨を折ったり……皮膚が剥けたりするかもしれない」

「もー……毎度毎度そんなに壊れ物扱いしないでよ、自分の身体の強度くらい分かってる。でもありがと」

椅子に腰掛けているアルマの右太腿に跨り、太い首に腕を絡める。利き手でない方の腕がそっと俺の背を支えた。

「…………えへへ」

全身でアルマの体温を味わう。たくましい身体に眠気にも似た安心感を覚える。

「アルマ……アルマ、アルマ」

「なんだ? そんなに呼ばなくても聞こえてるよ、サク」

微笑むアルマを見ていると自己肯定感が湧いてくる。優しいこの人は俺が牢獄から救ったのだと。俺に巻き込まれて死んでしまったり迷惑を被った人はたくさん居たけれど、彼だけは俺が居なければならなかったのだと。

「…………大好きだよ、旦那様」

「……特訓、辛いのか?」

「へ? あははっ、そんなんじゃないよ、全然そんなのじゃない……ただ、好きだなーって」

「…………俺も、サクを愛しているよ」

そんなこと、食事なのに俺に牙を見せないよう口を小さく開いていることから察せられる。
俺が落ちないように支える腕からも、バランスを保とうと緊張している太腿の筋肉からも、俺を見つめる優しい金色の瞳からも、伝わってくる。

「……人間と共存出来そうなんだ。俺の……魅了の力を使って、話を聞いてもらう。魔物は害獣じゃないんだって、隣人なんだって……分かってもらう」

俺を慈しむ気持ちだけを孕んでいた金色の瞳が揺れる。

「人間に酷い目に遭わされたアルマには、共存なんて辛いかな……?」

アルマは幼い頃に人間に捕まって十余年の月日を牢獄の中で過ごした。人間を見境なく殺戮し始めても納得出来る過去だ

「……俺よりもサクだよ。サク……痛めつけられて、慰みものにされて……それでも人間と共存したいと、出来そうだと嬉しそうに語って…………なんて、いじらしい」

「そんな……俺は所詮何ヶ月かだし、十何年も閉じ込められてたアルマの方が辛かったはずだよ」

「俺に苦痛の記憶や人間への恨みはない。サク……可愛い妻への気持ちで胸がいっぱいだ。俺はとっくに救われている。サクが人間を赦し共存したいのなら、そうするといい。俺はサクがしたいことに付き合うよ」

「…………ありがとう」

最高の夫の首筋に顔を押し付け、感動の涙を誤魔化す。演説文の推敲と特訓へのやる気が湧いた。



後日、俺はまた沐浴場で特訓をした。今日もシャルは俺の特訓に付き合ってくれている。

「……なぁシャル、シャルは……人間に、その、実験動物みたいに扱われたことあるだろ。身体……ぐちゃぐちゃにされたりしてさ。恨んでないのか? 人間と共存……本当にいいのか?」

「兄さんはおかしなことを聞きますね。兄さんが人間との共存を目指しているんです、反対する理由なんて何一つありません。恨むだなんてバカバカしい、僕に苦痛しか与えなかった人間達に割く思考や心なんてありません。僕の全ては兄さんのために、僕は常に兄さんのことだけを考えています」

「…………アルマと似たようなこと言うんだな」

要するにアルマもシャルも、俺を愛するので忙しいから人間に憎悪を向ける暇がない……ということだろう? なんて嬉しい、なんて可愛らしい夫と弟だろう。

「僕個人としては人間に復讐しようとなんて思っていません。共存予定の方々は僕を弄んだ人間達とは違う個体ですし……しかし、彼らが兄さんに牙を剥くようであれば、僕は兄さんがどれだけ人間達のために頑張っていようと、その後でどんなに兄さんになじられようと、殺しますよ」

「……過激だな。お前みたいなボディガードが居てくれるなら安心だよ」

「兄さんが健やかに生きるためでしたら僕は何だって消してみせますよ」

沐浴場の真ん中に設置された俺にそっくりな像を見上げ、石工職人のオーガは俺に手を出したことがバレなくて本当によかったなと鼻で笑った。

「ありがとう……なぁ、ところでさ、今日は我慢できる感じか?」

「……我慢?」

「素股とかなら特訓しながらでも大丈夫だから……さ? しても、いいけど」

今日はまだ沐浴を始めていないシャルの手を握り、樹液が溶け出した水のぬるぬる感を利用しつつ彼の指を愛撫した。シャルの指と指の間に指を入れ、ぬるぬる擦って艶やかさを意識した顔をして──

「……兄さんから言ってくださるなんて嬉しいです」

──誘惑成功!

「うん、じゃあ……昨日みたいに」

昨日の素股中、奇妙なことが起こっていた。内腿や股間が擦れる快感で集中力が下がっていたはずなのに、シャルに「集中出来ている」だの「魔力が高まっている」だの言われたのだ。

「挟んで……ぁ、硬い……あはっ、入れられたくなっちゃう……」

俺は考えた。淫らな行為専門の魔物であるインキュバスの俺は、快感を感じながらの方が魅了などの術を使いやすいのではないかと。
もちろん演説しながら公開セックスなんて出来ないしやりたくもないから、あくまでも術のコツを覚える手段として素股しながら特訓するつもりだ。補助輪みたいなものだな。

「あ、んっ……んっ……なぁ、シャル……俺の魔力っ、どうだ?」

「ちゃんと声に魔力を乗せられていますね、すごいですよ。上達がとても早いです」

俺の考えは正しかった。俺の特訓法はインキュバスらしいものが一番似合うのだ。そう悟った俺はシャル以外の者達にも協力してもらい、毎日特訓中の俺に快感を与えてもらった。
その結果、挿入までしては快楽が強過ぎて集中が乱れ、焦らされ過ぎてもやはり集中が乱れることが分かった。強過ぎず弱過ぎず、焦らされているとも感じない行為──

「──ってなるとやっぱり素股なんだよな、立って出来るから楽だし……搾り取れるからインキュバスとしての本能とか自尊心とか満たされていい感じだし」

「僕を付き添わせてくださって嬉しいです」

カタラとネメスィ兄弟は城下町の整備などで多忙。二メートル半を超えるアルマとの素股はお手軽さがない。査定士は魔力を感知出来ないので上達具合を見てもらえない。
という消去法的な選び方だったが、まぁ、知らぬが仏だ。

「んんっ……! なんか、内腿敏感になってきた気がする」

「では兄さん、演説の練習を」

「……あぁ」

シャルが腰振りを始める。腰に腰がトントンとぶつけられ、陰嚢や内腿が揺らされる。快感を受けることだけが思考回路を埋め尽くす。だが、練習を繰り返したことにより演説は何も考えずとも自然と口が動くようになっていた。

「すごいですよ兄さん、素晴らしい集中力です。流石です」

褒め言葉ばかり囁く声に脳が蕩ける。気持ちいいし褒められるし、俺はいつの間にか特訓の時間が大好きになっていた。



ネメスィが人間の集落を見て回り、ネメシスと査定士が城下町を整備し、アルマが魔物の集落を回って新たな魔物の王都を喧伝し──俺の王国はゆっくりとだが確かに完成に近付いていた。

「サク、いや、魔王様? 報告がある」

そんなある日のことだ、日課の特訓を終えてネメシスが他の大陸で買ってきてくれた料理本を部屋で読んでいると、開けた後から扉を叩いたアルマが気取って言った。

「アルマ……魔王のお仕事関係の何か? だとしてもサクのままでいいよ、何?」

「俺の故郷の集落からこっちに移り住みたいオーガが一定数集まった。ネメシスが言うには住民としての名簿を作った方がいいということで……とりあえず名前をまとめてきた」

「え……移住者決まったの!? わぁ……! 来てくれるんだ、嬉しいなぁ、整備頑張らなきゃ。ネメシスに相談して、家以外にも色々……あっ、お姉さんは? 来る?」

一番移住して欲しいのはアルマの姉だ、彼女が移住してくれるのかどうか、アルマの顔を見ればすぐに分かった。
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