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幼馴染の彼氏集めてシフト組んでみた

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数人のスケジュールを共有し、管理できる便利なアプリ。まずレンとセンパイと同期させる。八月の日曜日の欄に「根野」という予定が入力されていた。

「レン……」

「何だよ、毎週日曜は根野んとこ行くんだろ?」

「行くけどさぁ」

浮気に寛容なのも、浮気相手と仲良くしてくれるのも、俺にとっては幸運なことだ。しかし割り切れるほど俺はクズではない、半端な善性が邪魔だ。

「如月、君のスケジュールには僕も口を出したい」

「あ、じゃあししょーもアプリ入れてください。えっとですねー……」

レンが社長にアプリについて教え始めると、センパイはそっと俺の後ろに下がり、屈んで耳元で囁いた。

「…………誰だ?」

まさか人見知りしているのか? 何それ可愛い。

「霊能力者の方ですよ、俺を助けてくれた人です。センパイのお兄さんの上司さんですよ」

「……あぁ、そういえば見覚えがある。兄ちゃんを養子に引き取った家の人だ。小さい頃に会ったような……だが、彼はもう少し大きかった気が……」

従兄の上司なら会ったことがあっても不思議ではないな、俺は何故かその可能性を全く考えていなかった。

「小さい頃ならセンパイがちっちゃかっただけじゃないですか?」

「や、國行が会ったのは社長の親父だな。先代社長は俺より背ぇ高い、今の國行よりは小さいけど。つーか國行よりデカいの見たことねぇな」

「……兄ちゃん、居たのか」

センパイの表情がパァッと明るくなる。まぁ、俺以外の者には分からない微々たる変化だが……なんて心の中で周囲にマウントを取ってみる。

「社長とは初対面のはずだぜ、挨拶しときな」

「……あぁ」

アプリのダウンロードと同期が終わったタイミングを見計らい、センパイが社長の前へ行く。

「頭が高い」

「……っ!? すまない……」

センパイはその場に跪いて社長を見上げた。

「……はじめまして。兄ちゃんが世話になってます……それと、ノゾムを助けてくれたこと、感謝します」

「あぁ……従弟の、國行……だっけ? ふふふっ、いいよお礼なんて、仕事だからね。気にしないで」

俺への冷たい態度とは一変し、にこやかに対応している。俺は嫌われているのだろうか、思い当たる節はありすぎる。

「月乃宮様……社長は目つきが悪くて色黒でムキムキな男が好きなんです、ちゃっちゃと國行回収してください、狙われてますよ」

「えっ!? セ、センパイっ、あの……えっと、お、俺にもっと構ってください!」

従兄に耳打ちされた俺は作戦が思い付かなかったため、センパイに抱きつくという原始的な手に出た。

「……ノゾム、何だ急に……すいません、社長さん」

「いいよ、恋人に構ってあげて」

「……ありがとうございます」

社長が従兄の方へ行くとセンパイは立ち上がって振り返り、俺を抱き寄せた。まだ湿っている髪の匂いを嗅ぎ、ふっと微笑む。

「……風呂上がりか?」

「あ、はい……シャワー浴びたばっかりです」

「……そうか。肌も違うな、しっとりして……吸い付くようだ。このタイミングのお前に会えるなんて、俺は運がいい」

頬を撫でられ、反対側の頬にキスをされ、幸福感と共に羞恥心も溢れて思わず視線を外す──

「君の差し金だろ、何? 嫉妬? 男の嫉妬は見苦しいよ」

「社長こそ男子高校生に色目使わないでくださいよ、いくつだと思ってんですか」

「君とよりは歳近いよ。不機嫌になるな、色目なんて使ってない。あんな幸せそうなガキには興味ないよ、男は目が死んでないとダメだ」

「はいはーい、俺は不本意ながら目が死んでるって評判でーす」

──なんかイチャついてたので視線をセンパイに戻した。と言っても頬にキスをしてくれている今では、後頭部の端っこくらいしか見えないけれど。

「形州ー、お前なんか予定ある? 俺は稽古つけてもらう日くらいだけどさ、三年なら忙しいんじゃねぇの?」

「……体験入学に行く日がある」

「そういうの相談しよってば。もちに構うのは後」

「………………ノゾムが構って欲しがってる」

「あ、いえ……もう大丈夫です」

「……そうか?」

イマイチ納得がいっていなさそうな顔をし、センパイはレンと向かい合って話しながら予定表を埋めていく。

「……ところでこれはノゾムの意思は無視なのか?」

「あー? もちは別に文句言わねぇだろ、元から予定空いてるヤツに抱かれに行ってるだけなんだから。効率よくなりゃ喜ぶだろ」

「レン、俺のことそんなふうに思ってたの……?」

「何だよ、違うのか? スケジュール管理しても何も変わらねぇだろ、手間が減るだけだ。お前がなんで乗り気じゃねぇのか分かんねぇんだけど」

俺自身にだって今の感情を言語化出来ない。ただ、何故か、とてもショックを受けている。

「た、たた、ただいまー……ささ、さっぱりしたよぉ。ありがとう如月くん……かかっ、形州が増えてるぅっ!」

ミチがシャワーから戻った。レンは彼にもアプリのダウンロードを命令し、同期させた。

「なな、なんかこれ……やだなぁ。つつ、月乃宮くん……物みたい」

「えー? 効率よくていいアイディアだと思ったんだけど。平等だし」

「ここっ、効率よくとか、平等にとかぁっ、それがやだ! ぼ、ぼ、僕達ライバルなんだよ! 月乃宮くん取り合ってるの! 自分の予定ない日は月乃宮くんには家でじっとしてて欲しい、ほほ、他の男に抱かれてるのが分かるなんてやだっ!」

「ミチ……!」

俺が感じていた妙な嫌悪感を違う立場からではあるが言語化してくれた。喧嘩はして欲しくないけれど、嫉妬はし合って欲しい。自分でも面倒なことを言っているのは分かっているが、効率化の寂しさは理性ではどうにも出来ない。

「じゃあミチはアンインストールしていいぜ、毎日もちに電話して空いてるかどうか聞くんだな。形州、お前はどうする?」

「……活用させてもらう。人間味の薄さは不愉快だが、いちいち電話して断らせて、何度もノゾムに心労をかける方が嫌だからな」

「ぼ、ぼ、僕そんなに電話かけたりしないもんっ! ここ、断られるのやだから……月乃宮くんから誘ってくれるのずっと待ってる! 僕は今まで通りそれでいい!」

ミチはレンにアンインストールを見せつけ、それが終わるとレンに背を向けて椅子に座った。

「ふん……形州、だいたい交互でいいか?」

「……俺は空いている日を仮として入れておく、俺に会うかどうか……判断はノゾムに任せる。こんなふうに予定をキッチリと立てても、予定通り動きたくない日もあるだろう」

「ま、そうだな。誘い断って他の男のとこ行くのももちの自由だ。俺の予定はししょーとの稽古以外ねぇし、俺が入れるもんはねぇな。形州、受験生のお忙しいスケジュール入れとけよ」

「……あぁ」

俺の嫌悪感がそれなりに解消された着地点になってよかった。大きな手でスマホをちまちま操作しているセンパイを横目に安堵のため息をつくと、レンに肩を組むように抱き寄せられた。

「わっ……レン? 何?」

「俺の誘い断るのもお前の自由だ、って言ったけどさぁ……言っておいてちょっと不安になったんだよなぁ。もち、お前……俺の誘い断ったりしないよな? お前は俺の言うこと聞くもんな?」

「う、うん……レンの誘いは多分断らない、レンだもん」

「だよな! よかった。えっと……日曜根野で、その後形州が回収ついでにお前抱いて、その後俺で、次はミチ…………じゃあ今日は形州だな! もちよろしくな形州ぅ。ミチぃー、着せ替え人形になれよ、可愛い服買ったしメイク道具も増やしたからさぁ」

「へっ? ちょ、ちょちょ……ひひ、引っ張らないで……!」

レンはミチを引きずって自室に戻った。微笑ましい、と言っていいのかな?

「…………ノゾム。今日……いいか?」

「あっ、はい! レンに言われたからとかじゃなくて、その……今日はセンパイにして欲しいことがあって、いつお願いしようかなって……ずっと」

「……何でも言え」

頭を撫でてくれるセンパイを見上げ、微笑み合う。しかし不意に不安になる、彼は俺のために屈んでばかりだが、首や背を痛めたりしないのだろうか──と。

「如月、今日稽古だって忘れてるな……呼んできて」

「仰せのままに~」

従兄は社長と話す時、彼の傍に跪いて彼を見上げている。流石にそこまでさせるのは申し訳ないけれど、俺が高いところに登るとかそういう工夫はしてみようかな。

「…………ノゾム? 何してる、椅子の上に立つな、危ないだろ」

あっさりと下ろされてしまった。
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