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第三十三章 神々の全面戦争
番外編 帝王誕生秘話
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古来、創造神が一対の人間を創り、それを人界に追放した頃。バアル・ゼブルはまだ順当なる神性だった。
創造神の子ではあったが決して協力関係にはなく、仕事を任されることもなく、バアルは暇潰しに増えていく人間を眺めていた。人間の世話は天使が行っていて、バアルに仕事は無いはずだった。
だが彼は気紛れに嵐を起こしては収め、人間の信仰を得た。その行動が創造神との折り合いを更に悪くし、創造神の信徒は彼を嘲って呼び名を変えた。
崇高なる男神だったバアル・ゼブルは蝿の意味を込めてバアル・ゼブブと呼ばれ、豊穣神は不浄の神へ性質を変えた。
だが、豊穣神としての信仰も根強く、彼は神性を分かたれてしまった。嵐の神性は砂漠に渡り、太陽神に拾われた。一党に入ることによって半分になった神性も一柱の神として活動出来るまでに回復し、土地柄か豊穣神としての信仰も深く広まった。
彼はそこに定住し、その島の人間だけの願いを聞き入れるようになった。
一方、分かたれたもう一つの神性は人間に畏怖はされても敬愛はなく、創造神以外の神々の一党にも下れなかった。
不浄という性質上人間からは悪神や邪神として扱われ、元々は正当な神だったが為にその扱いに不満が募り、不機嫌なままに暴れてはまた畏れられる悪循環に嵌っていた。
信仰が足りず神力を失っていく一方の蝿は空腹に襲われて人間やその家畜を喰い漁った。天使との諍いも絶えず、その悪名だけが広まった。
生物を喰って手に入る神力はほんの僅かて、それ以上に手に入る魔力は性質を更に穢し空腹を煽った。四六時中喰い続けても弱っていき、思考もままならずただ貪るだけの蝿と化した蝿の元にある日執事風の男が現れた。
『……お久しぶりです、バアル・ゼブブ様』
蝿は彼に見覚えがなかった。当然だ、何度も争った天使の群れの中の一人など、ましてやその天使が堕ちた姿など、分かるはずもない。
『不肖アスタロト、サタン様の命により貴方をお迎えに上がりました』
彼の言葉を理解するだけの知能は既に消えていたが、悪魔を喰っても魔力によって腹が減るだけだとは本能的に理解していた。だが、異常な飢えは蝿に口を開かせた。
『……っと、危ない。どうぞこちらへ、バアル・ゼブブ様…………さぁ、魔界の底に!』
弱り切って動きの鈍った巨大な蝿の動きを見切ることなど朝飯前。アスタロトは人界に開けた穴に──サタンの元へと堕とす穴に蝿を誘導した。
神性が高濃度の魔力に曝されてまともに動ける訳もなく、その巨体は赤黒い地面に横たわり、脚や触角はだらりと垂れた。
『御苦労、アスタロト。下がってよい』
『は……失礼します』
アスタロトは魔界の層を一段上り、自らの邸宅に戻った。
『蝿のバアル、不浄の神性、邪悪な神……貴様に相応しいのは神性ではなく魔性だ、そうは思わんか』
竜の尾が脚に触れても、竜の翼が身体に触れても、蝿は翅を震わすことも出来なかった。竜の角と翼と尾を持った浅黒い肌の男──サタンは蝿の後脚を二本掴み、引き摺って城に持ち帰った。
『……やだだーりん何それ気持ち悪い!』
玉座の前に置いて観察していると起きてきた妻リリスに捨ててこいと怒鳴られた。
『バアル・ゼブルを知っているか?』
『知らなーい。名前からして神性? 覚えたくもないわ』
『……そうか』
リリスは創造神に最初の女性として創られた、当然バアルとの面識もあるだろうと思っての質問だったが、彼女は興味のないものに脳の容量を割いていなかった。
『それが何なのよ、この気持ち悪い虫さっさと捨ててきて!』
『そう言うな、これは使える。悪魔に転生させればアスタロトに匹敵する強さになるぞ』
『……それが居れば上でふんぞり返ってる神、殺せるのね?』
リリスも創造神に恨みがあった。だが──
『でもダメ! 気持ち悪い!』
──それ以上に巨大な蝿の姿が気に入らなかった。
『蛇の魔女が虫を嫌うな』
『……その虫捨ててくるまでだーりんとは口聞かない! その虫に触ったとこは全部切り落として、手も、尻尾も、全部! そのまま触ったら離婚よ!』
『口を聞かない!? 離婚!? ま、待てリリス! 待ってくれ……ぁ……』
苛立ちに任せて強く閉められた扉が轟音を響かせる。寝室に戻る足音を聞きながら、サタンは落ち着きなく尻尾を振る。
『アスタロトに次ぐ悪魔……いやでも離婚……いや強力な悪魔…………離婚……』
その場でウロウロと回り、蝿の赤い眼に映った情けない姿に気が付き、サタンは蝿の前に屈んでため息をついた。革靴に刺々しい舌が弱々しく絡み、サタンは笑みを零す。
『余を喰らいたいと? ふん……やはり、惜しいな。欲しい人材だ。少し待て、その魂を悪魔に加工してやる。何、元々邪悪な神性だ、直ぐに終わる……』
サタンは眼の集合体である赤い球体に触れ、魔力を流し込んだ。彼はは堕天使や悪神なら簡単に悪魔に変えられた。
神性や天使のままでは魔力は毒になるのだ。信仰を失った神性や神に見放された天使は神力を手に入れられない、それでも生き長らえたければ魔力を消化できる悪魔に変わるしかない。
『……どうだ、気分は』
薄緑色の翅に黒い髑髏の模様が浮かぶ。
『腹が減っただろう、好きなだけ喰うといい』
サタンは自らの魔力を蝿に喰わせ続けた。しばらくすると蝿は横たわっていた身体を起こし、翅を震わせた。
『悪いが、妻はその姿が嫌いなようでな。人間に化けることは出来ないか?』
知能も戻った蝿はサタンの手に甘えるように舌を絡めている。
『バアル・ゼブルは豊穣神か……よし、ならばそれから分かたれた貴様は暴食の悪魔だ』
蝿の姿が歪み、翠の長い髪を持つ少年になる。それはバアルと全く同じ姿ではあったが、二対の翅と触角、それに複眼があった。
『ふむ、そうだな……バアル・ゼブルは男神だったな? ならば貴様は女だ』
サタンが頬と腰をひと撫ですると少年の身体が丸みを帯び、腰がくびれ、少女らしい身体になる。
『性器は……無いか。まぁ、必要無いだろう。貴様にある欲は食欲のみだ』
元は男神で悪魔は本来無性別。サタンが女体として作り替えたとしても、そう簡単に完全な女の身体にはならなかった。
『鬱陶しい髪だ、肩まであればいいな? 服は……そうだな、その翠髪に合わせて……だが邪魔はしないように、薄緑のドレスだ。よしよし可愛らしいぞ』
髪が肩の辺りの長さでぱつんと切れて落ち、飾り気のない薄緑色のワンピースが身体を包んだ。少女は困惑したように裾を持ち、不安そうに触角を揺らす。
『靴とコルセットは髪と同じ翠、レースは……白でいいだろう。紐と石は……瞳に合わせて赤だな』
少女の困惑など露ほども気に留めず、サタンは飾り気のないドレスを豪奢な物に変えていく。
『よし、ではバアル・ゼブル……ふむ、呼びにくいな。神性から魔性に変わったことだし、これからはベルゼブブと名乗るがいい。そう変えていないから違和感も差程ないだろう。ベルゼブブ、おいベルゼブブ、こちらを向け』
首元のレースとそこに飾られた赤い宝石を眺めていた少女はサタンの苛立った声に慌てて顔を上げ、その金眼を見つめて首を傾げた。
『愛称は……ブブ、でいいな』
『…………ぶぶ?』
『翅を鳴らすな、五月蝿いぞ』
ベルゼブブは翅を一瞬止めるが、再び震えさせて不快な音を鳴らす。
『……まぁいい、ほら鏡を見てみろ、可愛らしくなっただろう』
『…………可愛い?』
『あぁ、可愛い可愛い余の娘だ』
サタンは玉座に深く腰掛け、片方の足にもう片方の足の踝を乗せる足組みをする。その足の上にベルゼブブを呼び、横抱きにするように座らせると髪を撫でた。
『腹が減ったら魔獣を創ってやる。服や装身具もな。家も、従者も、好きなように創ってやる』
『……ありがとう、ございます。サタン? 様』
『礼は言うな。貴様はベルゼブブ、帝王だ。他者からの施しは献上と受け取るんだ、例えそうでなくてもな。偉ぶって労いひたすらに貪れ』
サタンはベルゼブブの髪を梳きながらもう片方の手の上に魔力を溜め、真っ赤な林檎を創り出した。ベルゼブブの目はそれに釘付けになる。
『サタン様、それを……下さいませんか』
『違うな。もっと偉そうに振る舞うんだ、自惚れを持ちそれに足る力を付けてこそ、貴様は名実ともに帝王になる』
『…………サタン、それを私に寄越しなさい』
『そうだ』
サタンはベルゼブブに林檎を渡し、くしゃくしゃと頭を撫でる。それによって整えられていた髪が乱れる。
『髪が乱れました。梳きなさい』
『そう……そうだ、ブブ……可愛い可愛い余の娘』
『もっと褒めなさい、もっと撫でなさい、もっと食い物を寄越しなさい』
『ふふ……悪魔らしい、素晴らしいぞブブ』
こうやってバアル・ゼブブはベルゼブブと名を僅かに変え、分かたれたバアル・ゼブルよりも長く素晴らしい暮らしを続け、サタンに並ぶ力を付けた。
こうやって地獄の帝王は完成した。
創造神の子ではあったが決して協力関係にはなく、仕事を任されることもなく、バアルは暇潰しに増えていく人間を眺めていた。人間の世話は天使が行っていて、バアルに仕事は無いはずだった。
だが彼は気紛れに嵐を起こしては収め、人間の信仰を得た。その行動が創造神との折り合いを更に悪くし、創造神の信徒は彼を嘲って呼び名を変えた。
崇高なる男神だったバアル・ゼブルは蝿の意味を込めてバアル・ゼブブと呼ばれ、豊穣神は不浄の神へ性質を変えた。
だが、豊穣神としての信仰も根強く、彼は神性を分かたれてしまった。嵐の神性は砂漠に渡り、太陽神に拾われた。一党に入ることによって半分になった神性も一柱の神として活動出来るまでに回復し、土地柄か豊穣神としての信仰も深く広まった。
彼はそこに定住し、その島の人間だけの願いを聞き入れるようになった。
一方、分かたれたもう一つの神性は人間に畏怖はされても敬愛はなく、創造神以外の神々の一党にも下れなかった。
不浄という性質上人間からは悪神や邪神として扱われ、元々は正当な神だったが為にその扱いに不満が募り、不機嫌なままに暴れてはまた畏れられる悪循環に嵌っていた。
信仰が足りず神力を失っていく一方の蝿は空腹に襲われて人間やその家畜を喰い漁った。天使との諍いも絶えず、その悪名だけが広まった。
生物を喰って手に入る神力はほんの僅かて、それ以上に手に入る魔力は性質を更に穢し空腹を煽った。四六時中喰い続けても弱っていき、思考もままならずただ貪るだけの蝿と化した蝿の元にある日執事風の男が現れた。
『……お久しぶりです、バアル・ゼブブ様』
蝿は彼に見覚えがなかった。当然だ、何度も争った天使の群れの中の一人など、ましてやその天使が堕ちた姿など、分かるはずもない。
『不肖アスタロト、サタン様の命により貴方をお迎えに上がりました』
彼の言葉を理解するだけの知能は既に消えていたが、悪魔を喰っても魔力によって腹が減るだけだとは本能的に理解していた。だが、異常な飢えは蝿に口を開かせた。
『……っと、危ない。どうぞこちらへ、バアル・ゼブブ様…………さぁ、魔界の底に!』
弱り切って動きの鈍った巨大な蝿の動きを見切ることなど朝飯前。アスタロトは人界に開けた穴に──サタンの元へと堕とす穴に蝿を誘導した。
神性が高濃度の魔力に曝されてまともに動ける訳もなく、その巨体は赤黒い地面に横たわり、脚や触角はだらりと垂れた。
『御苦労、アスタロト。下がってよい』
『は……失礼します』
アスタロトは魔界の層を一段上り、自らの邸宅に戻った。
『蝿のバアル、不浄の神性、邪悪な神……貴様に相応しいのは神性ではなく魔性だ、そうは思わんか』
竜の尾が脚に触れても、竜の翼が身体に触れても、蝿は翅を震わすことも出来なかった。竜の角と翼と尾を持った浅黒い肌の男──サタンは蝿の後脚を二本掴み、引き摺って城に持ち帰った。
『……やだだーりん何それ気持ち悪い!』
玉座の前に置いて観察していると起きてきた妻リリスに捨ててこいと怒鳴られた。
『バアル・ゼブルを知っているか?』
『知らなーい。名前からして神性? 覚えたくもないわ』
『……そうか』
リリスは創造神に最初の女性として創られた、当然バアルとの面識もあるだろうと思っての質問だったが、彼女は興味のないものに脳の容量を割いていなかった。
『それが何なのよ、この気持ち悪い虫さっさと捨ててきて!』
『そう言うな、これは使える。悪魔に転生させればアスタロトに匹敵する強さになるぞ』
『……それが居れば上でふんぞり返ってる神、殺せるのね?』
リリスも創造神に恨みがあった。だが──
『でもダメ! 気持ち悪い!』
──それ以上に巨大な蝿の姿が気に入らなかった。
『蛇の魔女が虫を嫌うな』
『……その虫捨ててくるまでだーりんとは口聞かない! その虫に触ったとこは全部切り落として、手も、尻尾も、全部! そのまま触ったら離婚よ!』
『口を聞かない!? 離婚!? ま、待てリリス! 待ってくれ……ぁ……』
苛立ちに任せて強く閉められた扉が轟音を響かせる。寝室に戻る足音を聞きながら、サタンは落ち着きなく尻尾を振る。
『アスタロトに次ぐ悪魔……いやでも離婚……いや強力な悪魔…………離婚……』
その場でウロウロと回り、蝿の赤い眼に映った情けない姿に気が付き、サタンは蝿の前に屈んでため息をついた。革靴に刺々しい舌が弱々しく絡み、サタンは笑みを零す。
『余を喰らいたいと? ふん……やはり、惜しいな。欲しい人材だ。少し待て、その魂を悪魔に加工してやる。何、元々邪悪な神性だ、直ぐに終わる……』
サタンは眼の集合体である赤い球体に触れ、魔力を流し込んだ。彼はは堕天使や悪神なら簡単に悪魔に変えられた。
神性や天使のままでは魔力は毒になるのだ。信仰を失った神性や神に見放された天使は神力を手に入れられない、それでも生き長らえたければ魔力を消化できる悪魔に変わるしかない。
『……どうだ、気分は』
薄緑色の翅に黒い髑髏の模様が浮かぶ。
『腹が減っただろう、好きなだけ喰うといい』
サタンは自らの魔力を蝿に喰わせ続けた。しばらくすると蝿は横たわっていた身体を起こし、翅を震わせた。
『悪いが、妻はその姿が嫌いなようでな。人間に化けることは出来ないか?』
知能も戻った蝿はサタンの手に甘えるように舌を絡めている。
『バアル・ゼブルは豊穣神か……よし、ならばそれから分かたれた貴様は暴食の悪魔だ』
蝿の姿が歪み、翠の長い髪を持つ少年になる。それはバアルと全く同じ姿ではあったが、二対の翅と触角、それに複眼があった。
『ふむ、そうだな……バアル・ゼブルは男神だったな? ならば貴様は女だ』
サタンが頬と腰をひと撫ですると少年の身体が丸みを帯び、腰がくびれ、少女らしい身体になる。
『性器は……無いか。まぁ、必要無いだろう。貴様にある欲は食欲のみだ』
元は男神で悪魔は本来無性別。サタンが女体として作り替えたとしても、そう簡単に完全な女の身体にはならなかった。
『鬱陶しい髪だ、肩まであればいいな? 服は……そうだな、その翠髪に合わせて……だが邪魔はしないように、薄緑のドレスだ。よしよし可愛らしいぞ』
髪が肩の辺りの長さでぱつんと切れて落ち、飾り気のない薄緑色のワンピースが身体を包んだ。少女は困惑したように裾を持ち、不安そうに触角を揺らす。
『靴とコルセットは髪と同じ翠、レースは……白でいいだろう。紐と石は……瞳に合わせて赤だな』
少女の困惑など露ほども気に留めず、サタンは飾り気のないドレスを豪奢な物に変えていく。
『よし、ではバアル・ゼブル……ふむ、呼びにくいな。神性から魔性に変わったことだし、これからはベルゼブブと名乗るがいい。そう変えていないから違和感も差程ないだろう。ベルゼブブ、おいベルゼブブ、こちらを向け』
首元のレースとそこに飾られた赤い宝石を眺めていた少女はサタンの苛立った声に慌てて顔を上げ、その金眼を見つめて首を傾げた。
『愛称は……ブブ、でいいな』
『…………ぶぶ?』
『翅を鳴らすな、五月蝿いぞ』
ベルゼブブは翅を一瞬止めるが、再び震えさせて不快な音を鳴らす。
『……まぁいい、ほら鏡を見てみろ、可愛らしくなっただろう』
『…………可愛い?』
『あぁ、可愛い可愛い余の娘だ』
サタンは玉座に深く腰掛け、片方の足にもう片方の足の踝を乗せる足組みをする。その足の上にベルゼブブを呼び、横抱きにするように座らせると髪を撫でた。
『腹が減ったら魔獣を創ってやる。服や装身具もな。家も、従者も、好きなように創ってやる』
『……ありがとう、ございます。サタン? 様』
『礼は言うな。貴様はベルゼブブ、帝王だ。他者からの施しは献上と受け取るんだ、例えそうでなくてもな。偉ぶって労いひたすらに貪れ』
サタンはベルゼブブの髪を梳きながらもう片方の手の上に魔力を溜め、真っ赤な林檎を創り出した。ベルゼブブの目はそれに釘付けになる。
『サタン様、それを……下さいませんか』
『違うな。もっと偉そうに振る舞うんだ、自惚れを持ちそれに足る力を付けてこそ、貴様は名実ともに帝王になる』
『…………サタン、それを私に寄越しなさい』
『そうだ』
サタンはベルゼブブに林檎を渡し、くしゃくしゃと頭を撫でる。それによって整えられていた髪が乱れる。
『髪が乱れました。梳きなさい』
『そう……そうだ、ブブ……可愛い可愛い余の娘』
『もっと褒めなさい、もっと撫でなさい、もっと食い物を寄越しなさい』
『ふふ……悪魔らしい、素晴らしいぞブブ』
こうやってバアル・ゼブブはベルゼブブと名を僅かに変え、分かたれたバアル・ゼブルよりも長く素晴らしい暮らしを続け、サタンに並ぶ力を付けた。
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