魔法使いの国で無能だった少年は、魔物使いとして世界を救う旅に出る

ムーン

文字の大きさ
上 下
310 / 909
第二十章 偽の理想郷にて嘘を兄に

嘘を兄に

しおりを挟む
 
 そもそも、ドックに収容されて乾電池になっている俺がどうしてエアーフリートを操作できるんだろう。
 これがギア・フィーネ、ギア3から使える『ハッキング』。
 ギア4になっていることで、精度と効果範囲が広がっている。
 俺如きの知識でもここまでのことが容易くできるのだから、ギア4の恐ろしさと危険性は相当だ。
 万能感とはこういうことを言うんだろう。

「ぐっ」

 でも、あまりもたない——!
 鼻と目と耳から、血が止まらなくなってきた。
 毛細血管がぶちぶちいっているのがわかる。
 神経が敏感になり続けて、熱い。
 これ以上続ければ、本当に人間辞めそう。

『あれぇ? もう人間辞めちゃうの? 早くない?』
「! デュレオ……?」
『レナの歌をもっとよく聴きなよ。それとも俺の歌の方がいい? どっちでもいいから、歌い手の歌をよく聴きな。確かに歌い手はブースターではあるけど、それだけじゃない。ちゃんと聴くことができれば、脳波の同調を整える力もある』
「……!」
『ちゃんと深呼吸して、口で。肺に酸素入れて、心臓で血を全身に行き渡らせて——感じて。歌を』

 その波動を。

「っ!」

 海? いや、大地、地平線?
 青い、青い空……夕焼け?
 違う、朝焼け……青い、群青の空に、なんだ?
 時間がすごい速度で進んでる?
 俺は今どうなってるんだ!?

『驚いた。こんなに早く“ここ”に辿り着くなんてな』
『兄さんはずいぶんあなたを気に入ったんですね』
「!?」

 ハッとした。
 目の前には真っ白な空間。
 ど、どこだここ!?
 あたりを見回すと、一人の男が近づいてきた。
 群青色の髪と不適な笑みを浮かべた金の目の男。
 こいつ、知ってる。俺。
 いや、初対面といえば初対面なんだが、全身がゾワゾワと泡立つ。
 でも、もう一人女の子みたいな声がしなかったか?
 男以外を見ようにも、白光りしていて明確に姿を確認できたのはこの男だけ。

「こ、ここは、なんだ!? 俺はエアーフリートの中のイノセント・ゼロの中にいたはずなのに!」
『イノセント・ゼロ。やっぱりまた四号機か。あれだけなーんでおかしいんだろうなぁ? 設計スタンスは五機とも同じなんだけど』
『育った環境ではありませんか? 四号機はよい登録者に恵まれ、すぐに“歌い手”を得ましたから』
『そういうものか。だが、存外お前の考えた“歌い手”システムは上手くいっている。導入は正解だったな』
「……なんの、話をしている!? お前は誰だ!」

 先ほどの万能感を一瞬で取り上げられたのだ、警戒もする。
 それに、多分これ肉体ではない。
 これは、なんだ?
 精神体?
 本当にどこだよ、ここ!
 いくら俺が美人に弱いからって、今回ばかりは揺るがされたりしないぞ。

『そうそう、普通そういう質問をするんだよ! ここにこられるのは各機各登録者一回きりなんだからさ! それなのに二号機と五号機の登録者としたら、今忙しい、ってさっさと帰っていくんだから』
「っ」

 茶化されている?
 二号機と五号機って、シズフさんとラウト?
 今忙しいって帰っていくって、容易に想像がつくなぁ。

『ここはブレス・トワ・アース。現代を生きるあなたたちが、結晶大陸クリステル・アースと呼ぶ世界の中心部』
『そして俺様こそがギア・フィーネの創造主にしてブレス・トワ・アースで世界を“運営”する代理神の一人! 王苑寺ギアン様だ! 崇め奉れよ!』
「……」

 ああ……ああ……!
 なんかそんな気はしていたけど、やっぱりこの男が王苑寺ギアン!
 それにしても、どうしてこんなに吐き気が止まらないんだ。
 この男が、気持ち悪くて仕方ない!
 デュレオが人を殺したのを見た時以上の拒絶感。
 思わず口を押さえてしまう。

「どうして俺をここに……」
『どうして! それは違う! ギア・フィーネはギア4に上がった時点で登録者をココへ招くようプログラムしてあるんだ。登録者はわけもわからず選ばれて、世界の都合で戦わせられるだろう? でもそれは仕方ない! 愚かな為政者どもが、ギア・フィーネの真の価値を理解しないまま戦わせるのだから!』
「そんなことを聞いてるんじゃない! ここはいったいなんなんだ!? なんで俺はここに連れてこられてるんだよ!」
『ハハ! 頭の悪いガキだな。ここは、最初で最後の俺への謁見の場! 聞きたいことになんでも答えてやろう。たとえばどうしてギア・フィーネを作ったのか、とかな! みんな知りたいだろう?』

 テンション高っけ。
 それに、なぜか異様な嫌悪感を抱く。
 一刻もここから立ち去りたい。
 もしかして、シズフさんとラウトもこんな気持ちだったのかな。
 でも、それなら誰よりも早くここにきたであろう、三号機の登録者——ザード・コアブロシアと、さっきから名前の出ない四号機の登録者、アベルトさんはなにかを質問したのか?
 っていうか、なんだよ、ブレス・トワ・アースとか、惑星の中心部とか。

「聞きたいことは、山のようにある、けど……質問制限とかあるの?」
『ないぜ』
『でも、あなたの体はあまりギア4に耐えられていません。一つだけにした方がいいと思います。もしくは、このままなにも聞かずに戻るのを推奨します』
「っ」
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-

ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。 困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。 はい、ご注文は? 調味料、それとも武器ですか? カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。 村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。 いずれは世界へ通じる道を繋げるために。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

固有スキルガチャで最底辺からの大逆転だモ~モンスターのスキルを使えるようになった俺のお気楽ダンジョンライフ~

うみ
ファンタジー
 恵まれない固有スキルを持って生まれたクラウディオだったが、一人、ダンジョンの一階層で宝箱を漁ることで生計を立てていた。  いつものように一階層を探索していたところ、弱い癖に探索者を続けている彼の態度が気に入らない探索者によって深層に飛ばされてしまう。  モンスターに襲われ絶体絶命のピンチに機転を利かせて切り抜けるも、ただの雑魚モンスター一匹を倒したに過ぎなかった。  そこで、クラウディオは固有スキルを入れ替えるアイテムを手に入れ、大逆転。  モンスターの力を吸収できるようになった彼は深層から無事帰還することができた。  その後、彼と同じように深層に転移した探索者の手助けをしたり、彼を深層に飛ばした探索者にお灸をすえたり、と彼の生活が一変する。  稼いだ金で郊外で隠居生活を送ることを目標に今日もまたダンジョンに挑むクラウディオなのであった。 『箱を開けるモ』 「餌は待てと言ってるだろうに」  とあるイベントでくっついてくることになった生意気なマーモットと共に。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~

喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。 庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。 そして18年。 おっさんの実力が白日の下に。 FランクダンジョンはSSSランクだった。 最初のザコ敵はアイアンスライム。 特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。 追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。 そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。 世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!

IXA
ファンタジー
30年ほど前、地球に突如として現れたダンジョン。  無限に湧く資源、そしてレベルアップの圧倒的な恩恵に目をつけた人類は、日々ダンジョンの研究へ傾倒していた。  一方特にそれは関係なく、生きる金に困った私、結城フォリアはバイトをするため、最低限の体力を手に入れようとダンジョンへ乗り込んだ。  甘い考えで潜ったダンジョン、しかし笑顔で寄ってきた者達による裏切り、体のいい使い捨てが私を待っていた。  しかし深い絶望の果てに、私は最強のユニークスキルである《スキル累乗》を獲得する--  これは金も境遇も、何もかもが最底辺だった少女が泥臭く苦しみながらダンジョンを探索し、知恵とスキルを駆使し、地べたを這いずり回って頂点へと登り、世界の真実を紐解く話  複数箇所での保存のため、カクヨム様とハーメルン様でも投稿しています

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

処理中です...