上 下
167 / 577
第三章

60『ハンバーグ村での死闘?』

しおりを挟む
 常時展開の【防御】を破った!

 確かにその防御レベルは低いが、ヒトの一撃などは余裕で弾くはずの【防御】を破ってアンナリーナに傷をつけたのはおそらく【風魔法】系の衝撃波だろう。

 アンナリーナは【防御】を最高レベルまで上げ、結界をも纏う。
 そうしてから、ゆっくりと相手を観察した。

 ミノタウロス・ツァーリは今、得物の戦斧を軽々と振り回している。
 もしもアレが当たったとしても、結界にほころびはないだろうが用心に越したことはない。

「主人、俺が片づける」

 アンナリーナを庇うように立ち上がったセトがブレスを吐こうと口を開いた。

「待って! 出来るだけ無傷で手に入れたいの」

「無茶を言う。
 どうするつもりだ?」

「こうするつもりよっ!」


 ミノタウロス・ツァーリに率いられたオークナイトの戦斧やメイスが結界を叩く。
 そんな中、アンナリーナは結界を強化し、魔力を捏ねはじめた。

「もし、私が出来るだけやっても効果がなかったら、殺っちゃって!」

「了解! 主人も存分にやってくれ!」

「OK! いっくよー」


 結界内に膨大な魔力が充満していく。
 それだけでオークは立っていられず、次々と膝をついて、肩で息をし始める。
 ミノタウロス・ツァーリは初め、あたりを見回していたがその原因に気づいたのだろう、アンナリーナを睨みつけてくる。

「そんな顔、いつまでしてられるかしら……サファケイト!!」

 通常は、目に見えるものではない魔力の渦が、水色を纏って凄い勢いで収縮していく。
 限界まで張り詰めたそれが弾けた瞬間、ミノタウロス・ツァーリ以外はなぎ倒されるように、地に伏した。

 これでもまだ立っているのはさすがだったが、もう一波襲いかかった真空の渦にミノタウロス・ツァーリが咆哮をあげる。
 だが、吐き出し尽くした酸素を補給することはもう叶わずそのまま、まるで弁慶の立ち往生のように立ち尽くした。

「【血抜き】」

 念には念を入れて、生物として存在するためには欠かせない血液も奪い取って【鑑定】する。

 ミノタウロス・ツァーリ(王種) 死亡

「よっしゃ! やったー!!」

 結界を解き、ハンバーグ村に駆け込んだアンナリーナは、いつものように食材(オーク、ミノタウロス)とその得物を回収した。
 そして、仁王立ちしたままのミノタウロス・ツァーリの元にいき、うっとりと見上げる。



 ある意味機嫌よく、テオドールの部屋に戻ってきたアンナリーナは、狩りから帰ってきた彼らと鉢合わせした。

「あ、お帰り~」

 そんなアンナリーナを見つめて茫然していたテオドールが、その顔面に怒りを滲ませて近づいてくる。
 何を怒っているのかわからないアンナリーナ。
 ガッチリと脇を掴まれ、頬に優しく触れられる。

「どうしたんだ? これ」

 激情を胸に込めた、震える声。
 太い指が頬のある部分に触れると、ぬるりとする感触を感じる。

『あ、ヤバっ』

「おまえ、こんな怪我なんかして、一体っ!」

 興奮して言葉にならないテオドールが鬼神のような顔をしている。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。

星の国のマジシャン
ファンタジー
 引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。  そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。  本家VS分家の「決闘」や、卒業と命を懸け必死で戦い抜く「魔物サバイバル」、さらには40年の弱男人生で味わったことのない甘酸っぱい青春群像劇やモテ期も…。  この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

【完結】ちびっこ錬金術師は愛される

あろえ
ファンタジー
「もう大丈夫だから。もう、大丈夫だから……」 生死を彷徨い続けた子供のジルは、献身的に看病してくれた姉エリスと、エリクサーを譲ってくれた錬金術師アーニャのおかげで、苦しめられた呪いから解放される。 三年にわたって寝込み続けたジルは、その間に蘇った前世の記憶を夢だと勘違いした。朧げな記憶には、不器用な父親と料理を作った思い出しかないものの、料理と錬金術の作業が似ていることから、恩を返すために錬金術師を目指す。 しかし、錬金術ギルドで試験を受けていると、エリクサーにまつわる不思議な疑問が浮かび上がってきて……。 これは、『ありがとう』を形にしようと思うジルが、錬金術師アーニャにリードされ、無邪気な心でアイテムを作り始めるハートフルストーリー!

処理中です...