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第三章
59『アンナリーナの怒り』
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たしかに、アンナリーナが前世で読んでいたファンタジー小説ではヒーロー、ヒロインはやたら子供に対して親切だった。
だがここは現実の世界。
第一、アンナリーナは子供が嫌いだ。
彼女が魔法を使えない事が明らかになると、まず虐めにかかったのは子供たちだ。
ナタリアとアントンによって行われた虐めは、アンナリーナの心に今も深く傷を残している。
トラウマとなったそれは、憎しみとなって、現在も彼女は “ 子供 ”というものに向いている。
だからアンナリーナの “ 親切心 ”が子供に向く事は絶対にない。
販売を請われれば売る事を断る事はないだろうが、施しなどはあり得ないのだ。
ミルシュカと子供を無視してギルドを出て行こうとするアンナリーナの前を子供が立ち塞がる。
「買うんじゃないなら退いてくれる?
私は暇じゃないの」
アンナリーナの言い方も問題あるかもしれないが、子供の方もしつこすぎる。
「待って! ポーションがないとお母さんが死んじゃうの!お願い!!」
「だから~ ポーションでは病気は治らないって言ってるでしょう?」
この頃になると、騒ぎに気づいた冒険者が、野次馬として集まって来ていた。
ドミニクスも飛び出してくる。
「一体、何事ですか?」
アンナリーナが、お手上げだと言わんばかりに手を広げ、肩をすくめる。
「誰かに唆されたのかしら?」
チラリとカウンターの中に視線を送る。
「私が個人的に薬類を販売しない事を知らないのかしらね。
第一、元々この領都で営業している薬師の営業妨害するわけないでしょう?
あまつさえポーションをくれって……」
今度こそ、ギルドを出て行こうとするアンナリーナに縋り、少女がローブごと抱きつこうとしてきた。
そこで、以前ミルシュカにも発揮された【防御】が発動し少女が吹き飛ばされる。
これは対象がアンナリーナに対して害意があるかどうかで発動されるギフトなのだ。
吹き飛ばされた衝撃で床に転がったままの少女の右手首をアンナリーナは踏みつける。と、その手には小振りなナイフが握られていた。
「だから子供は嫌いだって言うのよ」
バキリと音を立てて少女の手首の骨が砕けた。
「ぎゃああぁっ」
痛みにのたうつ少女の手から離れたナイフを手の届かないところに蹴り飛ばす。
「自分は、子供だから優遇されて当たり前だと思ってる。そして、それが叶わないとなると……何これ? 逆ギレ?
私が、自分に何のメリットもないのにどうしてあなたにポーションやらなきゃなんないの?」
「だって、あの人が」
そう言った少女はカウンターの方を見て、顔をしかめた。
「相変わらず、物事をややこしくする天才のようね。
ドミニクスさん、あとはお任せします」
後味の悪いギルド訪問を終え、アンナリーナはクランに駆け戻った。
テオドールの部屋に駆け込み、テントに入ってツリーハウスへと向かう。
むしゃくしゃした時は狩りに限る。
セトを連れ、デラガルサダンジョンに飛んだアンナリーナは、ハンバーグ村への階段を駆け下りた。
【探索】して、他の冒険者の有無を確認し、村を結界で囲む。
そして【サファケイト】で終わりだ。
もはやルーティンになってしまったハンバーグ村の、倒れ臥す骸をひとつひとつ【血抜き】してインベントリに収めていく。
これを繰り返し、何度目か。
【探索】したその瞬間、警報音が鳴り衝撃波が襲う。
右頬に痛みを感じ、階段の上部に飛び退ったアンナリーナは、自分の頬に流れる血に触れて仰天する。
「なに……? これ」
『主人様っ、大丈夫ですか!?』
「主人様!!」
【回復】をかけながら目を凝らすと、ハンバーグ村の中央に仁王立ちしているミノタウロスはいつもより一回り大きく、金色している。
「【鑑定】」
ミノタウロス・ツァーリ(王種)
「げ……」
だがここは現実の世界。
第一、アンナリーナは子供が嫌いだ。
彼女が魔法を使えない事が明らかになると、まず虐めにかかったのは子供たちだ。
ナタリアとアントンによって行われた虐めは、アンナリーナの心に今も深く傷を残している。
トラウマとなったそれは、憎しみとなって、現在も彼女は “ 子供 ”というものに向いている。
だからアンナリーナの “ 親切心 ”が子供に向く事は絶対にない。
販売を請われれば売る事を断る事はないだろうが、施しなどはあり得ないのだ。
ミルシュカと子供を無視してギルドを出て行こうとするアンナリーナの前を子供が立ち塞がる。
「買うんじゃないなら退いてくれる?
私は暇じゃないの」
アンナリーナの言い方も問題あるかもしれないが、子供の方もしつこすぎる。
「待って! ポーションがないとお母さんが死んじゃうの!お願い!!」
「だから~ ポーションでは病気は治らないって言ってるでしょう?」
この頃になると、騒ぎに気づいた冒険者が、野次馬として集まって来ていた。
ドミニクスも飛び出してくる。
「一体、何事ですか?」
アンナリーナが、お手上げだと言わんばかりに手を広げ、肩をすくめる。
「誰かに唆されたのかしら?」
チラリとカウンターの中に視線を送る。
「私が個人的に薬類を販売しない事を知らないのかしらね。
第一、元々この領都で営業している薬師の営業妨害するわけないでしょう?
あまつさえポーションをくれって……」
今度こそ、ギルドを出て行こうとするアンナリーナに縋り、少女がローブごと抱きつこうとしてきた。
そこで、以前ミルシュカにも発揮された【防御】が発動し少女が吹き飛ばされる。
これは対象がアンナリーナに対して害意があるかどうかで発動されるギフトなのだ。
吹き飛ばされた衝撃で床に転がったままの少女の右手首をアンナリーナは踏みつける。と、その手には小振りなナイフが握られていた。
「だから子供は嫌いだって言うのよ」
バキリと音を立てて少女の手首の骨が砕けた。
「ぎゃああぁっ」
痛みにのたうつ少女の手から離れたナイフを手の届かないところに蹴り飛ばす。
「自分は、子供だから優遇されて当たり前だと思ってる。そして、それが叶わないとなると……何これ? 逆ギレ?
私が、自分に何のメリットもないのにどうしてあなたにポーションやらなきゃなんないの?」
「だって、あの人が」
そう言った少女はカウンターの方を見て、顔をしかめた。
「相変わらず、物事をややこしくする天才のようね。
ドミニクスさん、あとはお任せします」
後味の悪いギルド訪問を終え、アンナリーナはクランに駆け戻った。
テオドールの部屋に駆け込み、テントに入ってツリーハウスへと向かう。
むしゃくしゃした時は狩りに限る。
セトを連れ、デラガルサダンジョンに飛んだアンナリーナは、ハンバーグ村への階段を駆け下りた。
【探索】して、他の冒険者の有無を確認し、村を結界で囲む。
そして【サファケイト】で終わりだ。
もはやルーティンになってしまったハンバーグ村の、倒れ臥す骸をひとつひとつ【血抜き】してインベントリに収めていく。
これを繰り返し、何度目か。
【探索】したその瞬間、警報音が鳴り衝撃波が襲う。
右頬に痛みを感じ、階段の上部に飛び退ったアンナリーナは、自分の頬に流れる血に触れて仰天する。
「なに……? これ」
『主人様っ、大丈夫ですか!?』
「主人様!!」
【回復】をかけながら目を凝らすと、ハンバーグ村の中央に仁王立ちしているミノタウロスはいつもより一回り大きく、金色している。
「【鑑定】」
ミノタウロス・ツァーリ(王種)
「げ……」
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