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ep10.
ep10.『聖母と道化、その支配人』 蛋白質と骨の残骸
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俺の脳裏に別々の光景が交互に浮かび点滅する。
断末魔の恐ろしい形相を浮かべたまま死後硬直した老婆。
ありとあらゆる体液を垂れ流し天井からぶら下がる母親。
それから。
惨たらしく撲殺された数匹の子猫。
生まれたばかりの子猫の亡骸を抱えて泣きじゃくっているのは─────────花園リセだ。
そう、俺はこの光景を知ってる。
目の前で見たんだ。どうして今まで忘れていたんだろう。
そうだ。
そうだよ。
俺は知ってる。
俺の呪いの能力は“不完全”なんだ。
いつも同じ結末を迎えられる訳じゃないんだ。
どうしてこれを忘れていたんだろう?
突如として開いた記憶の扉に俺自身が戸惑っていた。
そう。俺は以前にも──────────命を失った存在を蘇らせようとしてたんだ。
花園リセと俺が飼っている猫。
マサムネという名であり、同時にヘレンと呼ばれる存在でもある。
その猫は─────────何処かの世界線では子を孕み、出産していたんだ。
そう、その世界線での出来事だ。
小さくて柔らかな────────生まれたばかりの子猫達。
だけど。
その子猫達が何者かに惨たらしく殺されていたんだ。
あの時、発見したのは花園リセだった。
金属バットでぐちゃぐちゃにされた肉塊。
ふわふわの細くしなやかな毛は血塗れの蛋白質の塊と混ざって原型を留めてはいなかった。
出かけた先で産気ずいてしまったのか、或いは───────────
俺の家に帰ろうとしていたんだろうか。
マサムネは公園で四匹の子猫を無事に出産し、その後子猫もろとも何者かに襲撃された。
ボロボロになったマサムネは折れた脚を引き摺って花園邸の近くまで行き、そこで力尽き掛けた。
買い出しに行く途中の花園家のお手伝いさんが偶然それを見つけ、花園リセに知らせて────────────
血の跡を辿った所で子猫達だった筈の残骸を見つけた花園リセは泣き崩れ、その後病院に担ぎ込まれた。
ショック過ぎたんだろうな。俺だってそうだ。
勿論、その顛末を聞いた俺は時間を戻ることを試みた。当然だろ?
だけど。
結果から言うと─────────それは不可能だったんだよ。
断末魔の恐ろしい形相を浮かべたまま死後硬直した老婆。
ありとあらゆる体液を垂れ流し天井からぶら下がる母親。
それから。
惨たらしく撲殺された数匹の子猫。
生まれたばかりの子猫の亡骸を抱えて泣きじゃくっているのは─────────花園リセだ。
そう、俺はこの光景を知ってる。
目の前で見たんだ。どうして今まで忘れていたんだろう。
そうだ。
そうだよ。
俺は知ってる。
俺の呪いの能力は“不完全”なんだ。
いつも同じ結末を迎えられる訳じゃないんだ。
どうしてこれを忘れていたんだろう?
突如として開いた記憶の扉に俺自身が戸惑っていた。
そう。俺は以前にも──────────命を失った存在を蘇らせようとしてたんだ。
花園リセと俺が飼っている猫。
マサムネという名であり、同時にヘレンと呼ばれる存在でもある。
その猫は─────────何処かの世界線では子を孕み、出産していたんだ。
そう、その世界線での出来事だ。
小さくて柔らかな────────生まれたばかりの子猫達。
だけど。
その子猫達が何者かに惨たらしく殺されていたんだ。
あの時、発見したのは花園リセだった。
金属バットでぐちゃぐちゃにされた肉塊。
ふわふわの細くしなやかな毛は血塗れの蛋白質の塊と混ざって原型を留めてはいなかった。
出かけた先で産気ずいてしまったのか、或いは───────────
俺の家に帰ろうとしていたんだろうか。
マサムネは公園で四匹の子猫を無事に出産し、その後子猫もろとも何者かに襲撃された。
ボロボロになったマサムネは折れた脚を引き摺って花園邸の近くまで行き、そこで力尽き掛けた。
買い出しに行く途中の花園家のお手伝いさんが偶然それを見つけ、花園リセに知らせて────────────
血の跡を辿った所で子猫達だった筈の残骸を見つけた花園リセは泣き崩れ、その後病院に担ぎ込まれた。
ショック過ぎたんだろうな。俺だってそうだ。
勿論、その顛末を聞いた俺は時間を戻ることを試みた。当然だろ?
だけど。
結果から言うと─────────それは不可能だったんだよ。
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