798 / 1,059
ep9
ep9『夢千夜』 “偽りの花嫁” 第十六夜
しおりを挟む
誰と誰が似てるって───────?
なんかよくわからないが、俺はとりあえず相槌を打ち、笑って誤魔化した。
「はは……そうなんですか?」
夕貴さんはカードの文字のスペルに視線を落としながらしみじみとした様子で呟いた。
カリグラフィーって言うんだろうか。
装飾の施された手書きの文字からは『丁寧なおもてなし』感がひしひしと伝わってくるようだ。
俺は単なる冷やかしの無料の見学客なのに─────────『お試し』ですらこんな細部まで凝っている“結婚式”という概念に改めて驚かされる。
「彼ね。生物の教員を目指してたの。理科準備室ではフラスコやビーカーでコーヒーを淹れたりなんかしちゃってて」
私もそこに押し掛けてよくご馳走になってたりしたわ、と夕貴さんは懐かしそうに笑った。
「へー。理科の先生だと理科準備室を私室化出来るんですね」
てか、教師ってのはやっぱ準備室をジャックしちまう傾向があるモンなのか?
理科準備室だとアルコールランプとか使えるのが強みなんだな。その点は美術準備室は負けてんな。
コーヒーだの紅茶だの飲めるのは利点だが──────ラーメンとかは作れるんだろうか?
アルコールランプで湯を沸かすとこかでは出来そうだしカップラーメンくらいは出来そうだな。
けど、袋ラーメンとかの調理は無理だろうな。
そしたらさ、各教科の準備室で使い勝手ナンバーワンの教室って何処だろ?
やっぱ家庭科室か?コンロも水道もあんの強いよな。
なんなら調理実習の食材保管用にデカい冷蔵庫もあるし。
けどさ、理科の教師がビーカーやフラスコでコーヒー淹れたりってよくやってそうなイメージだけど───────家庭科の教師ってヒステリックな真面目系な教師の率が高くね?(俺の偏見なんだけど)
家庭科の教師は流石に準備室で何か作って食ったりとかしなさそうだよな────────────
つい脱線してぼんやりとそんな事を考えていると、夕貴さんはまたクスクスと笑った。
「君って本当に面白い子ね。なんか応援したくなっちゃう」
どういう意味だろう。俺、なんか変な事を言っただろうか。
「ん?応援て……」
俺がそう言いかけた瞬間、俺達のテーブルに根本さんが近付いて来た。
「──────そうそう。言い忘れてた事がちょっとあって」
どうしたんだろう?
何かありましたか、と俺が尋ねると根本さんはレストランの出口を指差した。
「そこを出て廊下を真っ直ぐ行って……右手に曲がったとこの突き当たりに花嫁控室があるの」
根本さんは俺の耳元で小さくそう呟いた。
「……え?」
本来はこういう事は無しなんだけどね。今日だけ特別よ、と根本さんは周囲に聞こえないように小さく俺に告げる。
「それって……?」
ええ、と根本さんは頷いた。
「鏡花の花嫁姿、わざわざ見に来たんでしょ?ちょっとの時間なら見に行って来ていいわよ」
なんかよくわからないが、俺はとりあえず相槌を打ち、笑って誤魔化した。
「はは……そうなんですか?」
夕貴さんはカードの文字のスペルに視線を落としながらしみじみとした様子で呟いた。
カリグラフィーって言うんだろうか。
装飾の施された手書きの文字からは『丁寧なおもてなし』感がひしひしと伝わってくるようだ。
俺は単なる冷やかしの無料の見学客なのに─────────『お試し』ですらこんな細部まで凝っている“結婚式”という概念に改めて驚かされる。
「彼ね。生物の教員を目指してたの。理科準備室ではフラスコやビーカーでコーヒーを淹れたりなんかしちゃってて」
私もそこに押し掛けてよくご馳走になってたりしたわ、と夕貴さんは懐かしそうに笑った。
「へー。理科の先生だと理科準備室を私室化出来るんですね」
てか、教師ってのはやっぱ準備室をジャックしちまう傾向があるモンなのか?
理科準備室だとアルコールランプとか使えるのが強みなんだな。その点は美術準備室は負けてんな。
コーヒーだの紅茶だの飲めるのは利点だが──────ラーメンとかは作れるんだろうか?
アルコールランプで湯を沸かすとこかでは出来そうだしカップラーメンくらいは出来そうだな。
けど、袋ラーメンとかの調理は無理だろうな。
そしたらさ、各教科の準備室で使い勝手ナンバーワンの教室って何処だろ?
やっぱ家庭科室か?コンロも水道もあんの強いよな。
なんなら調理実習の食材保管用にデカい冷蔵庫もあるし。
けどさ、理科の教師がビーカーやフラスコでコーヒー淹れたりってよくやってそうなイメージだけど───────家庭科の教師ってヒステリックな真面目系な教師の率が高くね?(俺の偏見なんだけど)
家庭科の教師は流石に準備室で何か作って食ったりとかしなさそうだよな────────────
つい脱線してぼんやりとそんな事を考えていると、夕貴さんはまたクスクスと笑った。
「君って本当に面白い子ね。なんか応援したくなっちゃう」
どういう意味だろう。俺、なんか変な事を言っただろうか。
「ん?応援て……」
俺がそう言いかけた瞬間、俺達のテーブルに根本さんが近付いて来た。
「──────そうそう。言い忘れてた事がちょっとあって」
どうしたんだろう?
何かありましたか、と俺が尋ねると根本さんはレストランの出口を指差した。
「そこを出て廊下を真っ直ぐ行って……右手に曲がったとこの突き当たりに花嫁控室があるの」
根本さんは俺の耳元で小さくそう呟いた。
「……え?」
本来はこういう事は無しなんだけどね。今日だけ特別よ、と根本さんは周囲に聞こえないように小さく俺に告げる。
「それって……?」
ええ、と根本さんは頷いた。
「鏡花の花嫁姿、わざわざ見に来たんでしょ?ちょっとの時間なら見に行って来ていいわよ」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
60
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる