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ep.4.
ep4. 「暴かれた世界」 時に残酷な善意を回避する
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小泉は何も言わなかった。
ただ黙って俺の話を聞いていた。
婆さんちからの帰り道。
周囲はすっかり暗くなっていた。
帰り道にある公園のベンチに俺と小泉は座っていた。
自分でもなんでこんな話を小泉にしてしまったのか分からなかった。
こんなこと、誰にも言うつもりなんてなかったのに。
俺は自分で自分の感情が整理できなくなっていたのかもしれない。
俺自身が気まずさで消えてしまいそうだった。
俺の思考を読み取ったかのように小泉は口を開いた。
「人は誰でも自分の事を他者に理解してもらいたい、そんな生き物なんだろうと常々思う」
だがな、と小泉は続けた。
「自分は理解して貰いたがるのに他者への理解となるとそれは億劫なものなんだ」
自分は理解して貰いたいのに相手を理解する努力はしたくない、そういう人間が多いと思う、と小泉は小さく呟いた。
小泉は俺の顔を見ずに、そのままの視線を宙に向ける。
どういう意味だろう。
「私はお前の母親を知らないし事情も何も判らない。第三者である私にはどうこう言う権限は無いと思ってる」
次に小泉が口にしたのは意外な言葉だった。
「けどな、お前は立派によくやってると思う。そこは胸を張って誇っていいし卑屈になるべきなんかじゃないんだ」
俺は驚いて隣に座っている小泉の顔を見た。
小泉は視線を逸らさず真っ直ぐに真正面を向いている。
「佐藤、お前はまだ子どもなんだ。一人で何もかも背負い込まなくていい。誰かを頼ってもいいんだ」
そうだろう?と小泉は俺の顔を見た。
「お前が母親の事情や心情を理解できなかったとしても、母親がお前の苦しみや怒りや寂しさを理解しなかったとしてもだ」
俺は咄嗟に言葉が出ず、そのまま黙っていた。
「お前ほど懸命に生きてる奴はそう居ないだろうとすら思う。今のお前は生きているだけで100点じゃないか」
僅かな間、沈黙が流れる。
思ってもみない小泉の言葉に俺の理解が追いつかなかった。
本当に意外で唐突な言葉だった。
小泉にはいつも事あるごとに小突いたりされまくっていた。
てっきり俺は自分の事を疎ましく思っての事だと思い込んでいた。
でもそうじゃなかったのか?
俺のことをちゃんと見てくれていたっていうのか?
俺は地面に視線を落とした。
こういう場面でさ、ドラマやマンガだと『頭をポンポン』とかしたりするキャラが居たりするじゃん?
でもあれって時と場合によりけりだよな。
今の俺はそんなんされたら屈辱感と劣等感で頭がどうにかなりそうだったと思う。
でも、小泉はそうじゃなかった。
安易に『頭ポンポン』みたいな仕草や行為で俺をどうこうしようとはしなかった。
適度な距離を保ちつつ話をちゃんと聞いてくれた。
余計な深入りもせず、途中で話の腰を折るような真似もせず、ただ黙って聞いてくれた小泉の距離感が今は有難かった。
思えば、小泉はいつだって俺の内心までは踏み込んでは来なかった。
確かに、出現した謎の文庫本は読まれても居るしコンドームの残数チェックもされている。
しかしそういう形式的な確認めいた行動以外では俺のことは適度にほっといてくれてたと思う。
俺が誰が好きだとか、誰のことは好きじゃなかったけどヤッたとか、そういう種類の詮索はされなかった。
小泉がグイグイとお節介に人の心の中まで土足で上がり込むような人間だったら俺はとっくに精神崩壊してたかもしれない。
「そんなこと今まで誰からも言われたことなかったよ」
俺は小泉の顔を見ずにそう呟いた。
小泉だけだった。俺にそんな事を言ってくれたのは。
確かにそうだな。だって誰にも喋ったことなんかなかったんだから。
「お前は確かに人より重めのものを背負ってるのかもしれない」
まあ、今日は遅くなったしそろそろ帰らないとな、と小泉は腕時計で時間を見ながらため息混じりに言った。
「お前にはなんとしてでも呪いを解いてもらわないとこっちも困るんだからな」
ただ黙って俺の話を聞いていた。
婆さんちからの帰り道。
周囲はすっかり暗くなっていた。
帰り道にある公園のベンチに俺と小泉は座っていた。
自分でもなんでこんな話を小泉にしてしまったのか分からなかった。
こんなこと、誰にも言うつもりなんてなかったのに。
俺は自分で自分の感情が整理できなくなっていたのかもしれない。
俺自身が気まずさで消えてしまいそうだった。
俺の思考を読み取ったかのように小泉は口を開いた。
「人は誰でも自分の事を他者に理解してもらいたい、そんな生き物なんだろうと常々思う」
だがな、と小泉は続けた。
「自分は理解して貰いたがるのに他者への理解となるとそれは億劫なものなんだ」
自分は理解して貰いたいのに相手を理解する努力はしたくない、そういう人間が多いと思う、と小泉は小さく呟いた。
小泉は俺の顔を見ずに、そのままの視線を宙に向ける。
どういう意味だろう。
「私はお前の母親を知らないし事情も何も判らない。第三者である私にはどうこう言う権限は無いと思ってる」
次に小泉が口にしたのは意外な言葉だった。
「けどな、お前は立派によくやってると思う。そこは胸を張って誇っていいし卑屈になるべきなんかじゃないんだ」
俺は驚いて隣に座っている小泉の顔を見た。
小泉は視線を逸らさず真っ直ぐに真正面を向いている。
「佐藤、お前はまだ子どもなんだ。一人で何もかも背負い込まなくていい。誰かを頼ってもいいんだ」
そうだろう?と小泉は俺の顔を見た。
「お前が母親の事情や心情を理解できなかったとしても、母親がお前の苦しみや怒りや寂しさを理解しなかったとしてもだ」
俺は咄嗟に言葉が出ず、そのまま黙っていた。
「お前ほど懸命に生きてる奴はそう居ないだろうとすら思う。今のお前は生きているだけで100点じゃないか」
僅かな間、沈黙が流れる。
思ってもみない小泉の言葉に俺の理解が追いつかなかった。
本当に意外で唐突な言葉だった。
小泉にはいつも事あるごとに小突いたりされまくっていた。
てっきり俺は自分の事を疎ましく思っての事だと思い込んでいた。
でもそうじゃなかったのか?
俺のことをちゃんと見てくれていたっていうのか?
俺は地面に視線を落とした。
こういう場面でさ、ドラマやマンガだと『頭をポンポン』とかしたりするキャラが居たりするじゃん?
でもあれって時と場合によりけりだよな。
今の俺はそんなんされたら屈辱感と劣等感で頭がどうにかなりそうだったと思う。
でも、小泉はそうじゃなかった。
安易に『頭ポンポン』みたいな仕草や行為で俺をどうこうしようとはしなかった。
適度な距離を保ちつつ話をちゃんと聞いてくれた。
余計な深入りもせず、途中で話の腰を折るような真似もせず、ただ黙って聞いてくれた小泉の距離感が今は有難かった。
思えば、小泉はいつだって俺の内心までは踏み込んでは来なかった。
確かに、出現した謎の文庫本は読まれても居るしコンドームの残数チェックもされている。
しかしそういう形式的な確認めいた行動以外では俺のことは適度にほっといてくれてたと思う。
俺が誰が好きだとか、誰のことは好きじゃなかったけどヤッたとか、そういう種類の詮索はされなかった。
小泉がグイグイとお節介に人の心の中まで土足で上がり込むような人間だったら俺はとっくに精神崩壊してたかもしれない。
「そんなこと今まで誰からも言われたことなかったよ」
俺は小泉の顔を見ずにそう呟いた。
小泉だけだった。俺にそんな事を言ってくれたのは。
確かにそうだな。だって誰にも喋ったことなんかなかったんだから。
「お前は確かに人より重めのものを背負ってるのかもしれない」
まあ、今日は遅くなったしそろそろ帰らないとな、と小泉は腕時計で時間を見ながらため息混じりに言った。
「お前にはなんとしてでも呪いを解いてもらわないとこっちも困るんだからな」
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