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第2章 地球活動編
第78話 回想 ジャジャ
しおりを挟むジャジャは生まれてからこの方、負けたことなどない。あの超常的存在たる銀髪隻眼の吸血種から力を与えられるまでもなく、闇帝国最強であったからだ。
父たる皇帝は良くも悪くも伝統的な思想を持つ吸血種。
世は力こそが全て。弱き者は虐げられ強きものの糧となる。それが世の常であり、真理である。こんな極端ともいえる思想を持つ。
この思想故に、力のある吸血種には爵位と権限と財を与え、一般的な力を有するに過ぎない吸血種には平均の生活水準を保障した。そして何の力も無い者は無能者と称し徹底的に冷遇してきた。
国内に一定数の冷遇者を存在させることで、一般的な吸血種達の不満を和らげる。さらに逆らえば無能者へ落とされるかもしれないという危機感は国民の闇帝国に対する忠誠を強固なものにしてくれる。全体的にみれば実に効率的な国家運営だ。
それに生まれながらに隔絶した力を有するジャジャにとってこの闇帝国の弱肉強食の価値感は殊の外マッチしていた。
何より人間共の社会のような力を持たぬ無能な豚が幅を利かせている世界などよりはよほど健全だろうから。
確かに闇帝国では血統によって将来の全てが決せられる。
だが、それも純然たる生まれながらに有する力の差に基づくものだ。
貴族も無能者を含めたそれ以外の平民達も一応、吸血種にはカテゴライズされているが、平民達――吸血種と貴族達の高位吸血種では力の器が違う。高位吸血種は吸血種と比較し、運動能力、知力、外見、その他全てにおいて優れている。どれほど努力しようと、あがこうと、吸血種が高位吸血種に勝ることはない。
つまり、血統と言っても人間共の社会とは異なり、否定しようもない明確な根拠に基づく差異なのだ。よほど真面と言えるだろう。
もっとも、この数百年にも及ぶ伝統化した闇帝国の体制に不満が噴出しなかったわけではない。内乱の灯は意外なところから始まった。
ジャジャの姉、ルイズ・ヴァンピールが貴族制度の撤廃と人間との融和政策を掲げて、父たる皇帝に反旗を翻したのだ。
ルイズは皇女とは言え、ジャジャのような特殊な能力を有するわけでも世界序列上位の強さを持つわけでもない。加えて皇帝派には父たる皇帝と闇帝国最強のジャジャがいるのだ。当然のごとく、内乱は早期のうちに収束に向かうはずだった。
当初の予想に反し、反乱分子の中にはルイズを慕う闇帝国でも有数の高位貴族達が名を連ねていた。またルイズの異様な用心深さも相まって内乱は長期化する結果となる。
ルイズが採った戦略は非常にシンプル。正面から戦いを挑んでも勝てぬと理解していた奴は皇帝派の高位貴族への襲撃を執拗に実行した。この小賢しい戦略により、少なくない犠牲が皇帝派には生じていた。
父たる皇帝の我慢と怒りが頂点に達しようとしたとき、ある吸血種がジャジャ達の前に現れる。
それは銀髪隻眼の美しい青年。銀髪の偉大なお方は皇帝とジャジャを別次元の存在へと生まれ変わらせ、力を与えると忽然と姿を消す。
その力とは他者を眷属化し、使役する力。さらに父たる皇帝はジャジャの持つ《能力強奪》の能力の劣化版を銀髪の御方から賜った。
皇帝やジャジャは配下の貴族達を次々に眷属化し、他者から能力を強奪し力を得ていく。元々、天と地ほどあった戦力差。その上、ジャジャ達皇帝派は圧倒的力を得たのだ。解放軍の兵士共の抵抗空しく次々にレジスタンスの拠点は制圧される。
遂にレジスタンス最大の拠点を制圧し、首領のルイズを捕縛し、ジャジャ達は戦争に勝利する。
銀髪の御方の恩恵によりジャジャと父たる皇帝は吸血神祖に到達した。
文献にのみ記されている遥か昔、地獄界で吸血種が悪魔族以上に権勢をふるった時代、数多の吸血種達の祖であり、広大な地獄界の約三分の一を統一したとされる伝説の吸血種の帝王もこのクラスだったとされる。それ以来、吸血種という種族を統一するためには吸血神祖に至ることは最低条件とされている。
元より父たる皇帝はヴァンピール家こそが、四大王家の中でも色濃くこの帝王の血を受け継いでいると信じて疑わない。そんな吸血種だ。眷属化による魔術とスキルの譲渡の力と父たる皇帝とジャジャの強奪の力があれば、吸血種の統一は勿論、現在群雄割拠の状態である地獄界を統一できると考えた。
それから地球において人間を拉致し、スキルの獲得に精を出すことになる。人間に拉致対象者を絞ったのは父たる皇帝やジャジャが他の吸血種とは隔絶した力を得た事を他の勢力に知られないようにするためだ。
いくら強くなったと言ってもまだ審議会や五界と正面衝突できる程の力は闇帝国にはない。
この点、人間に拉致対象者を限定すれば仮にばれても食料として捕縛していると認識されるにすぎまい。幾分のペナルティーは覚悟しなければならないだろうが、部下の一柱が勝手に暴走したとして審議会と国連につき出せばあとは賠償金程度で済む話だ。13覇王の発動による一斉駆逐までの事態にはならない。
父たる皇帝の命でジャジャは世界各国から人間共の調達を一手に任されることとなる。最初は特殊能力を持つ人間を見分けるのに困難を極めた。
しかし、他者の有するスキルを識別する能力を得てから劇的に進むこととなる。特に都合が良い事に裏社会で生きる者達は表の人間達と比較してレアスキルを有することが多いことが判明した。それからは拉致対象を裏社会の者達へ限定することになる。
地球の世界各国の裏社会の者達でレアスキルを有する可能性があるものを片っ端から拉致し力を溜めて行った。
そんな時、銀髪隻眼の吸血種の使いと名乗るものから『日本にいる人間の希少種を食せれば超常的な力が得られる』との神託を得た。さらに希少種は日本の裏社会の家族らしい。
都合よく日本を狩場としていた血の吐息も名もない《妖精の森》などという魔術組織に《ナンバーズゲーム》で敗れ、日本から手を引いている。この絶好の狩場を利用しない手はない。
そこでジャジャ達はこの人々に忘れ去られた海底都市を一時的な本拠地として狩りを開始することにした。
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