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第2章 地球活動編
第33話 定例ギルド会議(1)
しおりを挟む2082年9月5日(土曜日) 午後10時
《裁きの塔》の6階層のセーフティエリアから地球の屋敷の僕の自室へと転移する。
自室には思金神が恭しくも僕に首を垂れていた。
「マスター、会議の御時間です」
(会議? …………そういや今日は……)
一瞬、何事かとも思ったがよく考えれば今日は土曜日。ギルド会議の日だ。
本来、《妖精の森》の幹部会議は平日であったが、夏休みが終了し僕が平日の昼間学校へ通わなければならないことを理由に土曜日に変更になったのだ。
ギルドのまとめ役、調整役には思金神とステラがいる。各部門にはその代表たる幹部達がいる。《妖精の森》は既に僕の手を離れた。
今や僕はギルドにとってお飾りのトップでしかない。僕抜きで決議にするように指示するが幹部全員の反対に合い強制参加となった。
それにしても今はもう午後10時だ。幹部達は非常に多忙の身。明日の日曜日すらちゃんと休んでくれるのかさえ定かではない。
特に幹部には喜美ちゃんやエル君と言った児童も混じっている。喜美ちゃん達にとって会議など眠たいだけの退屈な行事でしかない。こんな時間に開催するなど非効率的もよいところだ。
他の幹部達になら兎も角、僕の分身たる思金神には遠慮など無意味だ。
「喜美ちゃんとエル君は?」
「喜美、エルは勿論、アリス、弘美を初めとする18歳未満はこの度の会議には原則不参加といたしました」
相変わらず気色悪いくらいに気が利く奴だ。思金神は僕の現身。僕の思考パターンを把握するなど朝飯前なのだろうが、常に頭を覗かれているようで正直ぞっとしない。
思金神とグラムのギルドハウスのエレベーター前に転移するとステラが出迎えてくれた。
ステラは最近ずっと僕の屋敷で寝泊まりをしている。ステラにはエルフ国の故郷がある。幼馴染のリーさんを初めとするエルフの仲間がいる。
帝国との戦争が終結した今、ステラは故郷を取り戻しその目的を果たした。従って既に僕らと行動を共にする必要性はない。
もっとも責任感の強い彼女の事だ。サブマスターの地位を途中で投げ出すことなどできはしないだろう。
何より僕と同様ステラ自身も《妖精の森》の掛け替えのない仲間達と離れられなくなっている。
だから僕はステラとアリスに《妖精の森》を抜けてもよいとは伝えてはいない。
ただ僕らには転移がある。エルフ国ミューを生活の基盤としながら地球とグラムで活動を展開しても何ら不都合などないのだ。
この点につき以前それとなく伝えてみたことがあるが、なぜかステラの機嫌が地に落ちてしまった。あの氷の微笑を向けられるとヘビに睨まれたカエルのように一歩も動けなくなる。それ以来この話題はタブーとなりステラは僕の地球の屋敷で寝泊まりを続けている。
とは言えこれ以上リーさんとステラが離れて暮らすのは良くないように僕には思える。余計なお世話かも知れないが今後手を打つ必要がありそうだ。
そんなことを考えていると会議室の前まで到着する。
扉を開けて中へ入ると、ドーナツ型の円卓の各席に座る《妖精の森》幹部達が立ちあがり、右手を胸に当てて一礼をする。
この仰々しさいい加減止めて欲しいのだが……。
「皆、こんな時間まで待たせて御免ね」
「構わねぇよ。マスターも多忙なところわりぃな」
佐々木清十狼さんが席に腰を下ろしつつも僕に向けて右手を上げる。
他の地球やアリウスのメンバーも清十狼さんと基本は同じ軽いが親しみ深いノリだ。正反対なのは五界からの召喚者達。
吸血種の幹部ブラドさんとリヒトさんは極度の緊張でガチガチに体を硬直させ、ヘンゼルとグレーテルは顔を紅潮させる。天族のカリスは恍惚の表情を浮かべ、オベイロンなど『おお、何ともったいないお言葉』とか言って咽び泣き始めた。
どういう訳か五界の住人の僕への態度が日々、悪化して行くような気がする。端から人間扱いはあまりされてはいなかったが、今は信仰の対象として見られているようにすら思える。
まあこれも僕の隣に座る性悪な現身が無茶苦茶したせいだろうが……。
眼球だけを悪逆スキルに向けると実に満足そうに口端を上げていた。間違いない! こいつのせいだ!!
僕の心の悲鳴をよそに議長たるステラにより会議が開始される。
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